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モンスター夫婦のお宝

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モンスター夫婦のお宝

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その1 まず話し合い


「ずいぶん奥まで来ましたね、ファーニナル大尉」
「そうだな……」
 狭くて暗い洞窟の中、「雷龍の紋章」に所属する二人、カル・カルカー(かる・かるかー)トマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)は言葉を交わす。
「ツァンダの森の住人達を怖がらせてるモンスターがいるから、やっつける、んじゃなくって、事情聴取に行く、って。折角『龍雷連隊』の噂聞いて参加したのに、なんか地味な仕事ばっかりで腐りそうなんですけど」
「地味な仕事? うん、そうかもしれないけれど、人々の安全は、こういう華々しくはない、地道で目立たない仕事の上に構築されるものなんだよ。おろそかに考えちゃいけない」
「それはわかってるんですけどね」
 カル・カルカーはどこか不満げだ。心の奥ではどこか、傷跡がかっこよく残るような、斬った張ったがあるような戦闘を求めているらしい。
「しかし、妙であるな」
 二人の少し後ろ、カル・カルカーの契約者である、夏侯 惇(かこう・とん)が声を上げる。
「この洞窟……モンスター共がなんというか気が立っておる。それに、入口付近では襲ってきたが、進むにつれて周囲に気配があるというのに、様子を見ているだけとは」
「奥にいるのが、相当のモンだってことなんだろうな」
 その隣、同じくカル・カルカーの契約者である、ドリル・ホール(どりる・ほーる)がどことなく嬉しそうな声を上げた。
「噂通りの大物がいるって感じ、ワクワクするぜ。それに、無駄な殺生をしなくていいんだ、こっちにとっては都合がいいだろ?」
「それはそうだが……」
 ドリル・ホールの言葉に、夏侯惇が何かを言おうとするが、奥から突然現れた人影に言葉が途切れる。
「この先に開けた場所があります。そこで、こちらを待っているようです」
「そうか、すまないな、魯粛」
 少し先を歩いてた、ファーニナルの契約者、魯粛 子敬(ろしゅく・しけい)が戻ってきて、報告する。それを聞いて、ファーニナルは襟を整え、カル・カルカーたちに目配せしてから、歩き出した。

「よお、きやがったな」

 ――その先に、とても洞窟の中とは思えない、開けた空間があった。そこの中心、岩を削って作ったと思われる大きな椅子に、一人の巨漢の男が座っている。男の片足には、寄り添うにように座る一人の女性もいた。
「こんにちわ。ご近所からの要請があってお伺いしました、私、教導団のファーニナルと申します」
 ファーニナルが皆を代表し頭を下げる。
「ご近所ねえ。洞窟にご近所もクソもないとは思うが」
 男が立ち上がる。その身長は2メートルを悠々超える大きな体で、肩に乗せてある大きな石の斧と合わせ、凄まじい威圧感があった。
「俺は飛影(ひえい)だ。こいつは、俺の妻の美影(みかげ)」
「よろしくお願いしますわ、人間さん」
 男の隣に立つ、小柄な女性が優雅に挨拶する。胸元の開いた和服のような扇情的な服装が、男たちの目に焼き付いた。
「……半人ですか」
「そんなとこだ」
 魯粛の言葉に、飛影がうなずく。彼らは半分人間で、半分が魔物ーー半人のモンスターであった。
「少なくとも、あんたらは俺とやり合うために来たわけじゃなさそうだな?」
「ええ、まあ」
 鋭い目線でにらみつけるその威圧感をものともせず、ファーニナルは返す。
「いや、違うな!」
 が、ファーニナルの言葉をかき消し、後ろから大声を上げたものがいた。
「俺は……お前と、勝負しにきた!」
「おいおい!」
 腕を掲げて宣言したのはドリル・ホールだ。その隣の夏侯惇が止めに入る。
「ほお……」
「お前、相当強えんだってな。俺はな、楽しみにしてたんだよ、お前みたいな奴と勝負するのをな!」
「待て、なにを言って……」
 カルの制止をも聞かず、ドリル・ホールは言葉を続ける。
「さあ、勝負だ!」
 そして手をちょきの形にして、叫んだ。


「野球拳でな!」


「………………」
「………………」
「………………」
 全員の目が点になる。
「お前、すげえ強いんだろ? 今まで何人脱がせてきたのか知らねえが、今度は俺が相手になってやるぜ!」
「彼はなにを言っているんだ?」
「ええと、その、おそらく勘違いをしているのかと……」
 ファーニナルとカルカーが言葉を交わす。
「そこにいる奥さんだって、野球拳でモノにしたんだろ!?」
「それはいくら何でも失礼だ!」
 夏侯惇がドリル・ホールの口を押さえる。
「嫌ですわ、人間さんったら。野球拳なんてしなくても、わたくしはちゃんと裸に」
「こらこら」
 美影が言いかけた言葉を飛影が止める。
「ええと、あの……申し訳ない」
 カルが頭を下げた。
「かっかっかっか! なんか知らねえが、面白い奴だなあ! はは、いいぜ、野球拳だかなんだか知らねえが、相手になってやる!」
「なに、本当か!」
「おうよ、かかってこいや!」
「いよっしゃー!」
 ドリルは手のひらを組んで腕を内側に回し、手のひらの穴をのぞき込む。飛影も斧を左手に持ち変えた。
「……どうなってるんだ」
「聞かないでください」
 ファーニナルとカルカーは互いに頭を抱えている。
「ふふ、あの人は何かに夢中になったら、他のことが目に入りませんの。お暇でしょうから、ぜひとも隣の部屋へいらしてください」
 美影が扇で口元を隠しながら、カルカーたちの元へ近づいてきた。

「お見せしますわ……わたくしたちの宝を」

 噂に流れていた、幸福を運ぶという、宝。
 誰かがごくりとのどを鳴らした。美影は優しい笑みを浮かべながら振り返り、歩き出す。ファーニナルたちもその後に続いた。
「よっしゃ、まずは一枚だ!」
「かっかっか! 強いじゃないか、人間!」
 後ろからは大の男たちの面白そうな声が聞こえていた。


「こっちですわ。どうぞ」
 隣の部屋もそれなりの広さがあった部屋だが、左右に数人の、頭から黒いフードを被った、顔すらも確認できないモノたちが立っている。美影が近づくと、ひざをついた。
「部下かなにかですか?」
「侍女ですわ」
 フードの隙間から見える顔立ちは、確かに女性的なものだ。半人の使用人か何かだろうか。
 美影の向かう先……奥に大型のカプセルのような装置があった。美影がそのカプセルをなにやら操作すると、ゆっくりとふたが開く。
「こ、これは……」
 その、宝の姿を目の当たりにし、皆は言葉を失った。
「どうだ、三連勝だぜぇ!」
「くっそー! やっぱお前強いなー!」
 隣の部屋からは相変わらず、楽しそうな声が響いていた。