リアクション
第 7 章
「剣とティアラが揃いましたね、見たところ悪霊はだいぶ弱っているようですが……」
北都が昶と一緒に周囲を警戒しながら瘴気によってモンスター化した動植物を抑えようと浄化の札が張られたギリギリの範囲に位置を取り、エースが闇騎士と戦っていた人達へ『ホーリーブレス』をかける。
「待たせてしまったお詫びに、ね……俺とリリアが回復の援護をしよう」
「よーっし! 後ろを取ったわ、盗賊達が弱っちくて暴れ足りないし悪霊相手じゃあたしの美女っぷりがわからないでしょうしねぇ、全く」
「セレン、あなたの場合……美女かどうかより往来であろうとなかろうと『水着』でいる事の方が既に奇天烈なの。故買屋のご主人の反応を忘れた?」
魔砲リボルバーを構えて闇騎士に狙いを定めているセレンフィリティにセレアナのツッコミが一刀両断すると、ローズの『はいはい、そこまで』というお開きの合いの手が入った。
「さて、既にティアラは詩穂が持っているようだね……私が持っている剣だが誰か、我こそはという使い手はいないか?」
数秒の沈黙の後、ノートが一歩ローズの前に踏み出した。
「森の王の剣、代々戦士の家系であるわたくしに委ねていただけないかしら……必ず、封印してみせますわ」
北都、昶、ザカコが闇騎士の周辺に集まるモンスターの鎮圧にかかり、シリウスはサビクへ支援魔法を使い続け、精神力の持つ限りサビクは『無量光』を闇騎士へ浴びせ続ける。
「効率悪いけど、そんな事言っていられないからね……シリウス、キツいだろうけどキミの支援魔法が頼りだよ」
「平気平気、まだやれるって……! それに、ティアラのおかげか悪霊の動きも鈍くなってきてるしな」
「正面はシリウスとサビクに任せるとして……これで光輝属性の魔法を打ちこんでやるわ! 行くわよセレアナ!」
「了解、『女王の加護』!」
背後とはいえ、生身と違いどんな予測不可能な事をするかわからない悪霊にまず防御を固めた2人はそれぞれ銃を向けて発砲すると突き抜けていったものの打ちこまれた箇所は霧散し、元に戻るにも時間がかかっているように見えた。
「もしかしたら、もう神器を使っても大丈夫じゃないかしら……?」
悪霊の様子にセレアナが呟くと、近くでモンスターの相手をしていたザカコが思いついたように提案してみる。
「あの……これだけ、力の強い人が集まっているんです。もしかしたら、封印するよりあの悪霊を消滅させられる事も可能なのでは……?」
「そうねぇ、それならもう何時復活するか、今回みたいに神器を奪われて大騒ぎになる事もないわ……いい事言うわね」
朱鷺が悠々と歩いてくると、闇騎士へ視線を向けて言い放った。
「封印より消滅、彼の提案に朱鷺も賛成ですよ。神器を持つお嬢さん達はどうかしら……?」
ローズから渡された剣を持つノートと、ティアラを両手に持った詩穂は互いに顔を見合わせると決意したように同時に頷いた。
「望、あなたも王の剣にバニッシュを重ねていただけないかしら」
「――ええ、勿論ですお嬢様」
再びティアラを掲げた詩穂へ、闇騎士が狙いを定めるものの攻撃は全て貴仁に防がれていき、傷を負わせてもすぐにエースとリリアからの回復魔法が届く。
「いよいよクライマックスだねぇ、昶」
「てか、のんびり見物してないで気絶させた動物たちを瘴気の届かないとこまで運ぶの手伝えって」
昶が騒ぐ横で、北都は闇騎士消滅の瞬間を見ようと眺めてしまった。
「さっきみたいに、ティアラを介して攻撃すれば……『ライトブリンガー』!」
詩穂が闇騎士へぶつけたライトブリンガーは実体のない闇騎士を貫き、その動きを一時的に止めるとそれを見逃さず、先に望が剣へバニッシュの力を込める。
「お嬢様! 今です!」
「詩穂さんのライトブリンガーがかなり効いたようですわね、ならばわたくしもその技で眠らせて差し上げます……貴方も、騎士と呼ばれたモノならば、騎士らしく剣でケリをつけて差し上げますわ!」
望のバニッシュとノートのライトブリンガーの力が込められた王の剣は、真っ直ぐに闇騎士へ向かっていき、唯一攻撃が可能な武器である証明とでもいうように形を保てなくなったガスと化した闇騎士を貫いていった。
その瞬間、貫かれた闇騎士は低い咆哮を上げると剣の刀身に吸い込まれていく。
「剣が……崩れる!?」
ノートが手にしていた王の剣は形を崩し、慌てたノートに構わずあっという間に灰と化してしまった。
「あ、ティアラも!」
詩穂が掲げたティアラも崩れたと同時に風に乗って森へ溶け込んでいく。
「崩れてしまったという事は……闇騎士は剣に吸い込まれていって、それで……」
「つまり、封じるべき悪霊は消滅させたから神器として存在する必要もなくなった……という事か?」
ザカコが呆気に取られながら見ていた光景を繰り返し、ローズが冷静に状況を解説するものの、その疑問に明確な答えは見つからないままひとまず収まった事件に安堵の声が上がっていった。
「昶は子供達からもふられ足りなかっただろうからねぇ、住人の皆さんを村へ送っていく時には狼の姿で行くのもいいかもしれないかなぁ」
「いや、別にもふられたくて狼になるわけじゃないんだって! 毛皮のもふもふは癒しだろ、癒し!」
同じ事だと思うけどねぇ、と北都との漫才を繰り広げながら避難した住人を皆で迎えに行こうと、足取り軽く歩いていった。
初めまして。
改めてご挨拶いたします、小湊たまごです。
このたびは「森の王と森の王妃」にご参加下さり、ありがとうございました。
参加された皆様がご満足いただけた事を願いつつ初回作を無事終えた事に感謝致します。
リアクションの中で、神器である剣とティアラは闇騎士と共に消滅してしまいましたが、いずれ機会がありましたら新たな神器を創り出す事があるかもしれません。
その機会には、また皆様にお会い出来る事を願っています。