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はじめてのごしょうたい!

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はじめてのごしょうたい!

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■ はじめてのごしょうたい!(2) ■



「今日は招待ありがとう♪」
 玄関口での挨拶すると「ようこそ」の歓迎を受けるミーナ・リンドバーグ(みーな・りんどばーぐ)フランカ・マキャフリー(ふらんか・まきゃふりー)。時間よりだいぶ早く到着したお客様だからと案内されるも食堂の前を通り過ぎた時にミーナは前を歩く子供の肩を軽く叩いた。
「ミーナにも手伝わせてくれないかな?」
 手土産として持ってきた肉や魚の面倒も見たいし、食堂から見えるキッチンの様子は中々に慌ただしそうで、人手は多い方がいいだろう。
 食いしん坊で大食いチャレンジ最年少記録保持者でもあるフランカも、つまみ食いしたい自分を我慢して準備の手伝いに名乗りでた。
「がんばった後のご飯は美味しいんですよぅ」
 とフランカに言われれば料理をしたことのない子等はそれは本当かと真偽を問うた。
「包丁は危ないから気をつけてね」
 渡された揃いのエプロンを着用したミーナは包丁はこうやって持つのよと手本を見せる。
「そして、もう片方の手はこう」
「猫の手みたい!」
「そうだね。でもこうしないと指を切っちゃうんだよ」
「痛いのは嫌ー!」
「じゃぁ、猫の手ね? よし、お野菜から切ろうか」
 まな板の上に根野菜を乗せ、
「お野菜はごろごろしていてそのままだと転がって危ないからまずここをこうやって切って……こう、一口サイズにあとは乱切りするの」説明を交えつつ実演するミーナ。
 真剣な目の注目を浴びつつ、包丁を隣りの子に渡した。
「やってみよう」
「うん!」
 場所を交代して、ミーナは監督側へと回る。
 やや後方から子供の手元を覗きこみつつ、うんしょっと根野菜と格闘している子供の奮闘ぶりに内心「ちっちゃい子ががんばる姿ってかわいいよぉ♪」と保護欲を掻き立てられ一種の感動に胸を踊らせていた。
 フランカが切り終わった野菜を食堂へと運ぶ。


「おとーさん、ジブリール達が来てくれたわ!」
 呼び鈴に玄関に走っていったシェリーがうきうき顔で食堂の壁際で背景と化している破名にジブリール・ティラ(じぶりーる・てぃら)の来訪を告げた。
 招待状は沢山出したが都合が合わなかったり事情があったりで全員が全員来るようなことはなく、一人でも多くまたそれが友達なら尚更嬉しいのだろう。にこやかに案内するシェリーに、ジブリールは「お?」という顔をする。
「シェリー。おとうさんって呼ぶようにしたんだ?」
「うん」
「話、聞いたのか?」
 ジブリールの声が自然と低くなった。
「うん。全部というより、私……というか『系図』に関わる事柄だけって感じが強かったけど、話してもらったわ。最初は泣いちゃった。何を言っているのかよくわからなくて」
 人間理解できないと泣くか笑うか怒るか自己表現が単純になるのねとシェリーはしみじみとしている。
「大丈夫?」
「ええ、ありがとう。大丈夫よ。クロフォードは昔は独り言が多くて、思えば私あの人の愚痴をずっと聞いていたのね。そう考えたら逆におかしくなって思うほどショックを受けてない自分に気づいたの」
 平気よと言うシェリーにジブリールはそれならいいんだけどとその美しい顔を柔らかにさせた。
 ようこそとフレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)ベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)を歓迎する破名は一度目を瞬かせる。
「フレンディス、ベルク、後ろのは?」
 初見だなと結城 霞(ゆうき・かすみ)の紹介を促されてフレンディスは、霞を前に進めさせた。
 機晶姫は優美に一礼する。
「わたくしは霞と申します。以後お見知り置き下さいまし。
 本日は素敵な催し物が開催されるとジブリール様からお伺い致しまして、僭越ながらご同伴に預かりましたの。 こう見えましてもわたくし料理は得意ですので、よろしければ下拵のお手伝いをさせて頂きとうございます」
 白い着物に透き通る水色の長い髪。能力制御の為両目は長い鉢巻のような白い布で覆っており表情は読み取れないもののその仕草の一つ一つが洗練とされていて、美醜のわからない破名は葦原の雰囲気に似ているとフレンディスに視線を流し、霞に戻す。
「子等は遠慮がないから、絡んでも許してくれるとありがたい」
 その注意の意味は連れ回そうとジブリールに手を伸ばしているシェリーを見れば一目瞭然だった。
 交流が増えるにつれてわかったのが子供達の好奇心の強さと懐きやすさと遠慮の無さだった。半隔離状態にあった過去の経緯以上に祖先から受け継がれてきた素質がそうさせているようである。
 時間までかなりあるしゲストだから休んでいてと部屋に案内しようとするシェリーをジブリールは止めた。
「まずは、今日は招待ありがとな。
 人手多そうだから平気かな? って思ったけど……早めに来たし、せっかくだからオレ達も手伝うよ」
「手伝ってくれるの? というか、ジブリールは料理できるの? どんなのが得意なの、そういえば私全然ジブリールの事知らないわ!」
 実を言うとシェリーはジブリールの性別すら知らない。自分の事ばかりねと反省しつつもシェリーはどんな料理が作れるのとジブリールからレパートリーを聞き出そうという体勢に入る。
「本日は僭越ながら皆様方の準備のお手伝いを致したく早々に馳せ参じました。何なりとお申し付け下さいまし」
 いつもと変わらない真面目も真面目に丁寧な挨拶をするフレンディスに、ゲストとして呼んでいるのにと思いつつ、きっと言っても聞かないんだろうなと判断し破名はシェリーを呼ぶ。
「折角だ。作り方を教えてもらえよ。キリハを使いに出して、自力でやろうとしてたんだろ? フレンディス、シェリーを頼むな」
 言うだけの事は言ったし、と破名は一旦場を離れた。
 折角だと話を振られきょとんとしているフレンディスに、ジブリールやベルクの顔色を伺うシェリーは、そそと彼女の前に進み出て「そのね」と口を開いた。
「フレンディスが嫌じゃなかったら、その、『おにぎり』の作り方を教えて欲しいの」
 米とぎから。
 今回イベントのテーマは″美味しいものを親切にしてもらっている人に食べてもらおう″で、シェリーはどうしてもおにぎりを出したかった。網焼きで焼きおにぎりとかきっと美味しいと確信していた。キリハと相談して本や料理番組で事前勉強はしていても、実際に食に触れている人から教えてもらえるのならそれに越したことはない。
 米を炊くのに使えそうな鍋は用意したし、キリハが米を買って戻ってくればすぐに取りかかれるも、練習なしのぶっつけ本番は流石に緊張しているのだ。


「バーベキューにお招きありがとう」
 玄関で早い到着を告げるゲストに慌ててお迎えをする子供達はエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)エオリア・リュケイオン(えおりあ・りゅけいおん)が両手に下げる袋に気づいた。
「皆が来るなら食材は多いのがいいと思ってね。差し入れを持ってきたよ」
 中身は肉や魚とバーベキューには定番な食材ばかりだ。
「確か前のバーベキューに食べてた奴だよね?」
「うん! エースありがとう!」
「どういたしまして。
 それでね、準備の手伝いができればいいなと思うんだ。先ずはこれをどこに置けばいいのかな?」
 聞かれて子供達はエースを案内する為に食堂へと向かった。
 その途中気づき、そう言えば初めてだねとエオリアを紹介し、会場の準備が得意だし詳しいよとエースが言うとそれを聞きつけて人形の服を戻しに来たフェオルが反応した。
「えおーりあ? よろしくおねがいします?」
「はい。よろしくお願いします」
「おそとにあるのってえおりあがもってきたもの?」
 差し入れの他に必要と思えるものを持ってきてくれたようだ。
 大人数用として最初から設計設置されたバーベキューコンロは相応の大きさではあるが、余分に用意しておくことに越したことはない。携帯型のバーベキューセットや、アウトドア用のテーブルが外に置かれていることにフェオルは疑問に思っていたらしい。
「猫カフェで出店したりするのでああいう設備があるんです」
「ほー」
 誰の物かわかってフェオルは納得する。
 エオリアは真剣にふむふむと頷いているフェオルに首を傾げる。
「テーブルとかを設置したいんですが、どこがいいでしょうか?
 そいういう準備は僕慣れているんです。季節柄……特に夏から秋はそういうイベントが多いですからお手伝いさせてください」
 任せて下さいと胸を叩くエオリアにフェオルは「ちょっとまってて」と手にしていた服を片付けに一旦建物の奥へと消えていき、戻ってくると他に何があるのかと質問を重ねた。
「応接間を使っても構わないんだが?」
「いいのよ、玄関より勝手口の方が近いし……食堂って中庭が一望できるのね」
 流石の破名も気を使うのねとリリア・オーランソート(りりあ・おーらんそーと)がくすくすと笑う。
 その腕には小さな小さな赤子。9月末に産まれたメシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)との双子だ。もう一人は子供が過ごしやすいように場所を作っているメシエの代わりにエースが抱えお守りをしている。
「おめでとう。名前を聞いてもいいか?」
「明るい金髪で青い目が息子のフォルト。オレンジ色で髪がふわふわして金色の瞳が娘のレイリーアよ」
「フォルトにレイリーアか」
「ええ。ねぇ、破名。この子達いつもにこにこなの。楽しいことが待っているってわかっているのね。
 あのね。この子達にも色々な体験をさせてあげたいから連れて来ちゃったの。
 何かは心に残るわ。この頃の体験でもね」
「それは……同意見だ、が、あまり無理はさせないでくれよ。ここはただでさえ荒野だからな」
「そうね」
 スペースを確保しミルクなどが入った荷物を定置に置き準備の終わったメシエがエースから子供を受け取り、抱き直す。
 静かな子を眺めメシエは知らず安堵の吐息した。最初の頃はずいぶんと泣かれたもので、リリアに「安心させる抱き方ってあるのよね。ふふ」と抱き方一つから教えられ最近慣れてきた。メシエ自身は何もかもが初めての事で戸惑うよりも子供の成長の目まぐるしさについて行くのが大変であり、また、子供達に教えられる日々だ。
 と。メシエは衝立の向こうから顔を出す子供に気づいた。
「私よりここの子供達の方が赤ちゃんの事を解っていそうな気がする」
 目が合って系譜の子等は「赤ちゃんまたねー」と挨拶を残し「きゃー」と楽しそうに去っていく。
「あら、お腹すいたの?」
 ぐずり始めた子供に気づき、リリアはメシエにお願いと視線を送る。
 双子がミルクの時間と知り破名は窓のカーテンを締めた。
「邪魔になるな。終わったら声を掛けてくれ。誰か彼か応対するだろう」
「ごめんなさいね」
「赤子はそれが仕事だ」
 衝立の位置を変えて誰も中の様子を見られないようする。
 リリアがミルク上げ、メシエは飲んでいない子供を抱いてあやす。仕切りの向こう側で系譜の子等の声が響き、自分の子供達が育てばあのように楽しそうに日々を過ごすのだろうかとメシエは想像し小さく笑った。
 そうであれば良い。
「なんか緊張してる?」
 食堂から離れ、さてどうするかと周囲を見回す破名にエースは首を傾げた。
「赤子は思ったより小さいな」
「あれ? 初めて見たの?」
「あそこまで小さいのはな」
「そっか。
 あ。そうそう。俺デジタルビデオカメラ持ってきたんだ」
 疑問符を浮かべる破名にエースは動画を撮ろうと誘う。
「破名も手伝って」
「何を……」
「何って……先ずは一緒についてくる。ぼさっと立ってないで巡回しよう。ちゃんと出来てるか監督する事も保護者の役目だよ」
 それでついでに子等の姿を映像に収める。
 いつまでも子供達とこんな体験が出来る訳ではない。皆いつかは大人になる。ただこういう体験はその時にふとした瞬間懐かしく思い出されるものになる。
「それに準備している時の子供達の楽しそうな様子を見るのも良いものだよ?」
「そうか?」
「そうだよ」
 笑って、エースは破名を連れて手始めにエオリアとゴミ箱を作り外に持ちだしていくフェオルの後を追いかける。