校長室
光る妖精とガマ
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第3章 それはまるで光がふわふわ踊るよう カエル退治が終わり、死骸なども片付けた後、妖精たちの集落に無事を告げる学生がやって来た。 退治に乗り気がせず、昼の間妖精たちの集落に居たアイリス・零式(あいりす・ぜろしき)は、妖精たちが喜んで出向き始めると、一緒になってツィリルのせせらぎへと向かう。 せせらぎでは、アイリスのパートナーである霜月がカエルたちに移住を促し終えて、彼女のことを待っていた。 「来たな、帰るか」 「少しだけでいいから、妖精たちの様子を見たいのであります」 帰宅を促す霜月に、アイリスが頼み込むと、仕方ないと霜月は小川の傍まで歩き始めた。 アイリスより先に来ていた妖精たちは既に飛び始めており、小川の上を光が舞っている。 その光景を目にし、アイリスは昼間のうちに妖精たちから習っていた歌を歌い始めるのであった。 リアトリス・ウィリアムズ(りあとりす・うぃりあむず)とそのパートナー、パルマローザ・ローレンス(ぱるまろーざ・ろーれんす)はガマガエルが嫌いそうな香りのするオイルをせせらぎの周りの草花に付けた。 昼間のうちに他の学生たちが退治したり追い払ったりすることで、カエルたちは居なくなったようだが、念のためという言葉もある。 岸を2人で寄り添い、散歩する。 発光しながら飛び回る妖精たちの姿が小川にも映り、たくさんの光が舞っているようであった。 「これを雪に見せてやりたいと思ったからな……」 カエル退治を終え、葉山 龍壱(はやま・りゅういち)はパートナーの空菜 雪(そらな・ゆき)と共に、岸を歩いていた。 「こんなに綺麗な風景をご主人様と見ることができるなんて……」 雪は感動して、喜びの声を漏らす。 「ありがとうございます、ご主人様……」 光が舞う風景を目に、うっとりしながら雪は龍壱へと感謝の言葉を口にした。 「どうってことないぜ」 幸せそうな雪の様子に、頷きながら龍壱は答える。 暫くの間、風景を2人で眺めるのであった。 「こういうときは浴衣が一番ですわよね」 言葉どおり浴衣に身を包まれた飛鳥井 蘭(あすかい・らん)がぽつりと言う。 せせらぎの中でも良い場所をパートナーであるクロード・ディーヴァー(くろーど・でぃーう゛ぁー)が確保しているはずだ。 勿論、クロードは事が終わるであろう夕方ごろから、せせらぎに足を運んでおり、戦闘の後の処理を引き受けていた。 カエルの死骸などあろうものなら、蘭も嫌うであろうが、妖精たちだって飛び回りたくないだろうと思ったから、それも丁寧に埋めるなどして処理をして。 岸でも座りやすそうなところにシートを広げ、作業の間、小川の中で冷やしておいたスイカを切り分け、蘭の到着を待つ。 「お待ちしておりました、お嬢様」 「準備は万端ですわね!」 やって来るなり蘭はそう口にする。 スイカでもあれば、と思っていたけれど、クロードには直接告げていない。 なのに、シートの上に持ちやすいサイズに切り分けられたスイカが皿に盛り付けられているのを見ると、嬉しそうに微笑んだ。 「さすがクロですわ!」 シートの上に腰を下ろし、発光しながら飛び回る妖精たちの姿を眺める。 幻想的な風景に、うっとりとしながら、よく冷えたスイカを口に運ぶ蘭であった。 茶葉とティーセット、ポットなどを詰め込んだ大きなトランクを手にせせらぎにやって来たのは百鬼 那由多(なきり・なゆた)とそのパートナー、アティナ・テイワズ(あてぃな・ていわず)だ。 「妖精さん、小川からお水をいただきますね」 お湯は沸かしたての方が良いから、と辺りを飛び回っている妖精たちに声を掛けて、那由多はポットに水を入れる。 「あとはよろしくお願いします」 入れるまでして、残りの作業はアティナに任せた。 「私がですか?」 「私が淹れるよりアティナが淹れた方が美味しいですからね」 驚くアティナに、那由多はそう告げて。早々に視線は風景の方に向いてしまった。 アティナもそう言われては断るわけにもいかない。 お湯を沸かしている間に、焼いてきたスコーンなどを広げていく。 そしてお湯が沸けば、茶葉を用意して、ティーカップに注いでいった。 アティナが差し出すティーカップをソーサーごと受け取って、那由多は早速一口、飲む。美味しいと頷き、スコーンやクッキーも口に運びながら、ティータイムを楽しみ始めた。 暫くすると、紅茶と焼き菓子の匂いにつられて、妖精の1人がやってくる。 「おいしそうなお菓子だね」 鼻を引くつかせながら言う妖精に、アティナがクッキーを小さく割って差し出す。 「お食べになりますか? おいしいお水を分けていただいたお礼に……」 「いいの? ありがとー!」 妖精は差し出されたクッキーの欠片を受け取ると、嬉しそうに微笑んで感謝の言葉を告げる。 そして、欠片とはいえ、妖精にとっては抱えるほどあるクッキーに噛り付いた。 「ん……おいひいよ、おねーさん!」 クッキーを次々と頬張りながら言う。 他の妖精たちも集まってきて、そのたびにアティナと那由多はお菓子を小さく割ってやり、あげるのであった。 パートナーのアレクセイ・ヴァングライド(あれくせい・う゛ぁんぐらいど)に寄り添うようにしながら、六本木 優希(ろっぽんぎ・ゆうき)はせせらぎの傍を歩いていた。 明滅しながら飛び回る妖精たちの姿に、嬉しそうな顔をしている。 家柄の所為か友達の少ない優希にとって初めての友だちでもあるパートナーのアレクセイ。友だちとのコミュニケーションの取り方に不慣れで、日ごろから何をしてよいのか分からないのであるが、こういった風景を一緒に楽しむのもコミュニケーションの1つだと一緒に出かけてきたのだ。 今回のことで、少しでも近づけたら……と優希は思う。 一方で、アレクセイも風景を見て楽しそうに笑う優希の姿に、悪くないと感じていた。 「お2人さんはデートかなぁ?」 飛び回っていた妖精の1人が声を掛けてくる。 「デ、デデ、デート!?」 優希が驚いて声を上げた。 「だって、お似合いだもん。ねえ、そうなんでしょ?」 ねえねえとしつこく訊ねてくる妖精に、優希は気圧されてしまい、ついにはアレクセイの後ろへと隠れるように下がってしまった。 「俺様のパートナーに手を出すんじゃねえ!」 その様子に、アレクセイは優希を抱き寄せると、そう威嚇するように声を上げた。 「きゃん! そんなに怒らなくたっていいじゃなーい!」 妖精は頬を膨らませながらもまた明滅しながら、飛び回り始める。 「きれいだよね……」 「そうですが……治療が先です、こちらを向いてください!」 妖精たちの作り出す幻想的な風景に見入った美羽をベアトリーチェが一喝する。 昼間の戦闘で無茶をし、受けた傷を治しているというのに美羽が真面目にその治療を受けようとしないからだ。 「うー、ごめんなさい」 美羽は謝りながらベアトリーチェの方を向くと、頬に受けた掠り傷を癒してもらった。 ベアトリーチェの治療を受けてから、一息ついて、改めて周りの風景を2人並んで楽しむ。 勇は妖精たちが発光しながら飛び回る姿を写真に収めていた。 写真に妖精たちが写っていれば、それを公開して、『妖精さんの住処を守ろうキャンペーン』を立ち上げるつもりなのだ。 キャンペーンの詳細は、今後も妖精たちが安心して生活できる環境を学園の皆で行おうというものである。 「……妖精さんが写真に写らなかったらどうにもならないのですが」 呟きながらも写真に写っていることを願う勇であった。 「この光景を思い出として、更なる飛躍を目指しましょう」 妖精たちの姿を見て、翔が呟く。 真人やレイディス、遙遠、マリーなども光り舞い踊る妖精たちの姿を見て、自分たちが協力して取り戻した風景に満足そうにしている。 幸とガートナ、優菜とカナンなどパートナー同士で良い雰囲気を作り出している学生たちも居た。 「謝礼はこの風景、なんだな……」 解決すれば何かしらの謝礼がもらえるだろうかと期待していたファムタは、幻想的な風景を見せる以外に何もくれる気配のない妖精たちを見て残念に思う。 妖精たちのアプローチは夜遅くまで続く。 カエル退治から関わった学生たちも、ただ風景を楽しみに来ただけの学生たちも、十分に楽しんだ後、静かにツィリルのせせらぎを去っていった。 もちろん、ガマガエルの移住先で見張りをしていた有栖とミルフィなども見張りを終えてから、妖精たちが作り出す風景を楽しんだようだ。 終わり。
▼担当マスター
朝緋あきら
▼マスターコメント
朝緋あきらです。 参加者の皆さん、このたびは『光る妖精とガマ』へのご参加、ありがとうございました。 これだけのキャラクターを1つのシナリオに登場させるというのは初めてのことで、書き終えた今、満足していただけるだろうかとドキドキなのですが、どうだったでしょうか? お気に召していただければ、幸いです。
▼マスター個別コメント