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オークスバレー解放戦役

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オークスバレー解放戦役

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オークスバレー終章

 峡谷の戦いの傷跡を、雨と鎮魂歌とが洗い流した翌日。この日はとても晴天で、鎮魂歌の代わりに峡谷に響いていたのは、子ども達の唄だった。
 ひらにぷらをほろぼす 火のしょうじょ 死の灰がふりそそぎ
 ひらにぷらにもたらす 闇のしょうじょ 最後の夜をつかさどり
 ひらにぷらをのみこむ 蛇のしょうじょ すべてを無に帰し
 ひらにぷらをけしさる 夢のしょうじょ はじまりに戻る
 人の皇子、鬼の皇子、人と鬼の皇子 いしをきる術を知る

 子どもたちと一緒に歌っていたのは、神和綺人だった。


終章01 ちょっとした後日譚?

 とうとう、峡谷からオークたちの姿が見えなくなった頃、地元住民・教導団からそれぞれ代表が出て、地域復興に向けての話し合いがもたれるようになった。
 これに出席した教導団の生徒として、温泉開発責任者のプリモ、闇商人の佐野、鉱山所有者の娘メイベル(百合学)、パラミタ刑事シャンバラン、ユハラ(不明)らの名が、知られている。





 既出の同名教導団員との関わりは明らかになっていないが、丘陵帯に住む一種族の信仰に、シャンバラン神というものがあり、この一族が祭りのときに使用した仮面が現存する(峡谷郷土史博物館蔵)。





 猫の砦に迷いこむ魔法使いの女の子セレンスと、そのお供ウッドストークのお話は、この地で実際にあった出来事をもとに描かれている。このお話は、子どもたちに愛される童話として長く語り継がれてきたが、幾つかの異なる結末が存在する。





 オークスバレー解放戦役で活躍したとされる傭兵の一人が、見返りとして受けとった金銭のしょぼさを嘆いて、ここへ投げ捨てた、という言い伝えがある、カガチ池。それ以来、そこを通る旅人が小銭を投げ入れていく黄金の池として名所となった。が、第○師団がそれを回収している、との噂が立ってからは、ただの池に戻った。





 南の森の中心部に、雷神塚と風神塚があるが、由来は不明。





 峡谷北端に聳える山岳の頂上に、剣を持った男の石像と、美しいその花嫁の氷像がある。勇者ここに在り。と石像に彫られている。オークがあらぶる神をおさめるために祀った、とも言われているが、定かではない。





 堅城として知られたフォルク・レーテ要塞の近くに、かつてオークが峡谷を支配した時代、北の勇者として怖れられたバウバウ・ハウハウ親子の墓碑が存在する。そこにはオーク語でこう刻まれている。「オーク族の勇者、バウバウとハウハウ、この地に眠る。彼らは勇敢に戦い、名誉ある戦死を遂げた」と。これを建てたのは、バウバウと正々堂々の一騎打ちの末彼を破ったケーニッヒ・ファウスト将軍であると言われている。……(以上、『峡谷の伝承100選』(22××年/あーる華野文庫)より抜粋)
 ……
 ……

 ……
 ……
 ……指揮官として部下を纏め上げていくのは、どんな軍隊においても大変な事なのですね」
 クリストバル ヴァルナが、彼の横でそう言う。
 クレーメックも、彼女と同じく、その墓の前で静かに手を合わせた。
「行きましょうか」
「ああ。……マーゼン?」
「うむ。私もすぐに行く」
 クレーメックらが去った後、マーゼンも、ひそやかに手を合わせる。
 その横に並んで、アム。「貴方だけを憎まれ役にはしない。次からはわたしにも手伝わせて」思い切って、そう打ち明ける。
 マーゼンはしばらく、無言でそのまま手を合わせて後、「……馬鹿女め。勝手にしろ」。だけどアムは、普段は冷徹な彼の気持ちが垣間見えた気がしたので……少し嬉しそうにその後を付いていくのだった。



終章02 第四師団の立ち上げとまとまらなかった峡谷最終日の会議

 戦後諸々の処理に手間取り、オークスバレーの決戦から、一週間程が経った。
 すでに、本校での任務や、あるいはお祭りやらデートやら私的理由によりなどで、峡谷を出た者も多い。一方で、夏休み(オークスバレー解放戦役は2019年8月後半の出来事)の残りを峡谷で満喫しようと、残っている生徒もいる。佐野のように、まめに空京と行き来して、交易を行っている者もいる。
 今峡谷に滞在する士官候補生らや、募兵に応じた他校生らの一部は、騎凛からの言葉があるというので、砦に集まった。
「騎凛セイカです。ええ、もう帰ってしまった人もたくさんいますね……ごめんなさい。
 わたし、ちょっと戦のあと始末のために監禁されていて動けませんでした。
 それもようやく片がつき、わたし達、南西分団は、この戦いで、教導団の第四師団として、ちゃんと認められるらしいです。
 今までパルボンの私兵を入れても1,000強だったのが、オークスバレーの最初の戦で加わったのが、ユハラはじめとする南部豪族らシャンバラ人200、それにミャオレ族が500ぴきほどで、これでだいたい1,800。先日の、本巣を撃破して北部一帯を解放したことで、シャンバラ人更に200、それから朝霧さんたちが話をつけてくださったハーフオークども500ほどを加え、およそ2,500になりました。
 これで、実質としては半旅団というべきものになった……ということでいいでしょうか。間違いがあったらただしてくださいね。
 第三師団でさえ、実際には増強師団程度の戦力……と、仰っておりましたが、それにすら遥かに及ばない兵力ですね。半分近くが、ネコと半オークですし……
 これで師団を名乗っていいのかわかりませんが、金 鋭峰先輩は、大目に見放してくださった、と聞いております」
「ちょ、ちょっと騎凛教官、待ってくれるか? ハーフオークを兵士に加えるのなら、俺なら絶対反対するぞ」
 彼らと最初の交流を持った、朝霧。
「あ、ごめんなさい……戦のあとで、わたしまだあまり調子がもどっていないのです。
 ハーフオークさんは、実際には、開発とか農耕に力を貸していただくところから始まると思います。こちらも、彼らに協力するかたちで、ハーフオークさんたちには、もっと峡谷の表に出てきてもらおうと……いう考えなのですが、また、皆さんの知恵や力が必要になることも、あるかも知れません。今のところ策を講じているのは、アンテロウムとパルボンなので、わたしには、戦以外のことははっきりわからない面も多いのです。
 ともかく、軍の方については、この度の大幅な増員で、再構成することになります。
 その中で……わたし達は、引き続き辺境や森林・山岳での戦いが主眼となりますので、そこで騎狼部隊をとくに第四師団独自の戦力として、鍛えあげていきたく思っています。
 統轄は今のところ、私自身がするか、パルボンが引き継ぐか、……ユハラは参謀や面倒見なんかでしたら、してもいいと言っていますが。
 今のところまだ、戦いに使える騎狼の数は、100そこそこに過ぎないといったところです。
 実質、第四師団直属・専属となるのは、今のところこの騎狼部隊と、パルボンの私兵くらいなのです。ミャオレ族は、あくまで同盟という立場を要請してきますし、ハーフオークは先ほど言いましたように、直接の戦力にはできません」
「オークとの戦いは終了するわけですが、他の地域での騎狼の運用を実験するために、騎狼部隊参加者に一匹ずつ、騎狼を貸し出すことはできまいでしょうか?」人工生命体の、イレブンが発言した。
「おそらく、できまいと思います」
「あの部隊長は騎狼の世話などしたくないだろうし、他地域で騎狼が役に立てば、南西師団いえ第四師団の地位向上につながるはず。お金も落ちてくると思いますぜ、騎凛教官?」イレブンは、食い下がった。
「残念ながら、他地域での運用を提案できるほどにもわたしたち今の第四師団には地位も何もないのです。皆さんも兵として参戦されたことのあるヒラニプラ北方との戦いに比べても、わたしたちの戦いは、まだまだ小規模なものなのですね。ただ今回の解放戦については、よくもわるくも、ある程度示せるものがあったと思います。おそらくもっと大きな戦いで、というのは小規模なら小規模でもいいからこれという派手な戦いをもって、騎狼部隊の力をヒラニプラ全土に見せつけるしかないと思いますね。イレブンさん、どうしたらいいでしょうね……?」
「……考えるかどうか、考え中です……」
「それから、小規模なりに、今年は遭遇戦のような偶然戦も含め、いい戦いをしてきたと思います。
 今はこれだけ規模が小さかったからこそでもあるのですが、部隊としては、続けて活躍してくださった獅子小隊、ノイエ・シュテルンの二部隊は、とうぜんこんな辺境に常駐ではありませんが、第四師団では部隊として主戦力として認めたく思うのです」
 最初の戦いから加わってきた一人でもある各隊長のレオンハルト、クレーメックは顔を見合わせる。イリーナ、「レオン……」
「それから、同じくの理由ですが、特殊部隊の一として、黒炎」
「……光栄ですよ」匡、くすりと微笑みつつ、レイユウのほっぺつね。「ェ)……いい加減、この服をなんとか……」レイユウ、つねられ汗噴出。「貴殿が望むなら、剣となろう」クロード、某二人のやり取りに笑い噛殺しつつ。「二人がそういうやり取りしてるの見るの、僕、すごく好きだよ」笑いつつ、永久。
「他に最新の部隊としてはまだ今回できたての龍雷連隊。見守りたいところです」
「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁー!!!!」
「それに、もちろん、個人の武としてもレーヂエやナドセに代わる将校も必要になってきます。不在の軍師にしましても、これからの戦いでは、人材を求めていくことになると思いますし。
 これからどんな人が、部隊が、いらっしゃるか、楽しみにしています。

 それから最後になってしまいましたが、傭兵として、募兵に応じてくださった皆様もありがとうございました。さきの隊に、ベオウルフ隊も加えてもいいですね! 他校からは、蒼学の村雨さん、パラ実の国頭さん(わたしのもと生徒です)が二度に渡って傭兵を率先してくださいました。第四師団においては、今後もますます傭兵部隊や遊撃隊の存在が大きくなります」


 こうして、日が暮れたオークスバレー(この名前も今や改めねばならない)を、後にする生徒達。これで見納めになるかも知れないし、またちょっとしたくるかもわからない峡谷の夜景を胸にしまいこんだ。


 もう一人、最初から最後まで、オークと戦い続けた男がいた。

終章03 クルード・フォルスマイヤー伝説

 あくまで孤独に、オークの軍勢を相手に回し戦い続けた男がいた。
 オークスバレーの山岳の極みに立つ、その男はクルード・フォルスマイヤー。
 傍らには、ユニ・ウェスペリタティア。前回の戦いから引き続きクルードと強いオークを探し彷徨してきた。光条兵器を乱用し、彼女の服はとくに胸のあたりが破けた状態になっているが、ユニはまだまだ、元気だ。
「きっと皆さんも頑張ってますね。あ、クルードさん。焔さん達ですよ。後でご挨拶しないといけませんね。その為にも、生きて帰りましょうね?」
 かつてベオウルフ隊として共に戦った仲間達のことを思い出し、クルードはふ、と微笑する。
 雪がうちつけてくる、クルードのもとに、続々とオークの軍勢が登って来る。
「……始めるとするか……聞け!オーク共!俺は蒼空学園のクルード・フォルスマイヤー!死にたい奴から掛かって来い!……【弐式冥狼流】を見せてやる……弐式冥狼流奥義!【破狼爆炎陣・双牙】!」
 光条兵器の力で、爆炎波を強化させ、撃ち放つ。
 巨大な炎の狼の波動を左右の刀から一発ずつ放たれる。
 雪が、クルードの周囲にばっと舞い散る。
 白が、オークの血のどす黒さを含んだ朱に染まる。
「……次に死にたい奴はどいつだ……纏めて掛かって来い!」
「クルードさん。頑張ってください。私だって、守られてるだけじゃありません。全力で援護しますから」
「オーク四天王、水ノ ジャジャリネ!」
「同じく、炎ノ グレオドゴルネ!」
「風ノ シェルリマリモーネ!」
 一人はすでに討たれたが、残るオーク四天王三人の波状攻撃に、クルードの鎧が切り崩されていく。
「ハハハハハ」「ダハハハハ!」「シャシャシャシャ!」笑う四天王。
 くっ。最後はやはり、この技だ。
「冥狼流奥義!【銀狼連牙斬】!」
 ハァァァァ ダハァ シャアァァァァ
 どんっ ぶしゃっ ぼん!
「……一撃分余ったな……」
 びゅん、目の前の山を切りつけるクルード、ごうっ 雪崩が、オークの死骸をずっと遠く麓の方まで攫っていった。
「クルードさん」
「……ユニ、これでオークスバレーの戦いも終わりだな……」
 二人は優しく微笑んだ。