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都市伝説「メアリの家~追憶の契り」

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都市伝説「メアリの家~追憶の契り」

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第4章 アンデッド盗賊団討伐隊 
 
 ショウたちがメアリの家の元の持ち主と接触する前、光零の街で調査を行った者たちが、情報を持って再び青楽亭に戻ってきていた。譲葉も高崎に「死霊の指輪」の話をしようと思っていた
「……バイトしていたんですね」
「……ハハ……まあ……ね。本当にバチがあたっちゃった」
 驚いた譲葉の言葉に、テーブルを拭いていたレティシアは困った笑顔で曖昧な返事をする。モップで床を磨いている高崎は無言である。親の敵のような力の入れ方で床を磨いていた。
 みんなが調査から戻ってくる少し前、青楽亭ではコーヒー一杯で高崎とレティシアが居座っていた。青楽亭の主人は営業妨害で追い出そうか迷ったが、主人の不機嫌さを感じたレティシアは居た堪れなくなり、自分から手伝うと主人に切りだした。しかし、高崎はあくまでも自分達はお客だという態度を崩さず、レティシアと揉めた挙句、高崎はコーピーカップを床に落として割ってしまったのだ。 もちろん、割る瞬間を青楽亭の主人はバッチリ見ていた。
 結局、高崎とレティシアは二人揃って青楽亭の主人のエプロンを借り、仲良く後片付けと掃除をすることになった。
 譲葉たちが聞いた死霊の指輪、ヴィナたちが聞いた盗賊団のこと、城定たちが聞いたメアリのこと、そして、永夷が高瀬から聞いた青年の霊のこと。全ての情報は、メアリの家や青年の霊、盗賊団討伐に向かっている者たちに知らされた。
 ただし、「死霊の指輪」の話は、あくまでも噂。青年の探している指輪が、その指輪である可能性はないわけではないが。
 イブの店を手伝っていた斎藤と高瀬達は、一日手伝うと約束してしまったため、店が閉店するまで動けない。代わりに、永夷が情報を伝えるように頼んでいた。
 
 
 盗賊が出ると噂の森の中では、アンデッド盗賊団の討伐に、三つのグループに別れてあたっていた。
 禁猟区を使って先頭を歩いていたバトラーの清泉北都(いずみ・ほくと)は、異変を感じ足を止めた。傍にいるパートナーで守護天使のクナイ・アヤシ(くない・あやし)も足を止める。
「いよいよお出ましみたいだよ」
 清泉の言葉に一緒に来ていた者たちも、それぞれ臨戦態勢に入る。
「北都、パワーブレスを」
 クナイは北都にパワーブレスを掛け、自分はホーリーメイスを構える。北都はデリンジャーを構えるが、接近戦を強いられるため、なるべくクナイと離れないように近づく。
「この中の誰かが指輪を持っていればいいんだけど」
 北都はボソッと呟いた。
「来ましたねぇ〜。恋する乙女の想いを踏みにじったのは万死に値しますぅ〜」
「……もう死んでいるけどね。メイベル、気をつけて」
 プリーストのメイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)野言葉に、パートナーで剣の花嫁のセシリア・ライト(せしりあ・らいと)は冷静にツッコミを入れつつ、真剣な顔になる。メイベルも口調はのんびりしているが、真剣な表情で頷く。
「セシリア、打ち合わせ通りにあの魔法を」
「オーケー!」
 メイベルとセシリアは事前の打ち合わせ通り、アンデッドモンスターに最も効くと思われる呪文を唱え始める。
 メイベルたちが魔法を唱え始めたのを見て、セイバーの小鳥遊美羽(たかなし・みわ)はパートナーで剣の花嫁のベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)に言う。
「ベアトリーチェもバニッシュを唱えて……って、大丈夫?」
 しかし、ベアトリーチェはゾンビから視線を逸らしながらブツブツ呟いていた。
「本当にいたんですね。ああ、せめて腐って無ければ、多少は大丈夫なんですが……」
「ベアトリーチェ!」
 小鳥遊はベアトリーチェの腕を掴み、自分のほうを向かせる。小鳥遊はゆっくり言う。
「大丈夫! プリーストはアンデッド退治のプロッフェショナルなんだから!」
「うぅ、美羽さん……。すみません! ご迷惑を掛けてしまって、もう大丈夫です! やります!」
 ベアトリーチェが唱え始めたのに安心して、小鳥遊もカルスノウトを構える。
 その間も木々の間から骸骨になった者やゾンビとなった者が入り混じり、じりじりと近づいてくる。どれも剣や弓を持っている。
 ウィザードの高月芳樹(たかつき・よしき)は声を張り上げる。
「答えるかどうかわからないけど、君たちは青年から指輪を奪っていないか?」
 しかし、誰も答えず、ジリジリ近づいてくる。パートナーでヴァルキリーのアメリア・ストークス(あめりあ・すとーくす)が、高月の前へと庇うように立つ。カルスノウトを構えて高月に言う。
「答える脳が無いのか、口が無いのか知らないけど、お話する気はないようだわ」
「……あまり期待はしてなかったけど。どちらにしろ、死んでからも悪事を重ねようとする奴らなんて、滅ぼすしかないだろう」
 高月も魔法を唱え始める。
 セイバーの宮辺九郎(みやべ・くろう)はカルスノウトを構えながら舌打ちする。
「チッ、囲まれてんのかよ」
 アンデッドモンスターたちは背後からも近付いてきていた。その様子を見たウィザードのメニエス・レイン(めにえす・れいん)は、体格の良い宮辺の背後に、隠れるように回る。宮辺もメニエスに気づき、怪訝な顔で言う。
「なにをやってんだ? 怖いのか?」
 メニエスはニコッと笑い、答える。
「吸血鬼のあたしがアンデッドを怖がってどうするのよ。魔法を唱えるから、ちょっとの間、アレの盾になってもらおうかと思って」 メニエスが指差したのは、弓矢を構えているゾンビだった。まっすぐ宮辺を狙っている。
「よろしくね〜」
 メニエスはクスクス笑い、呪文を唱え始める。
「……呪文を唱えている間だけだぜ」
 宮辺はメニエスを睨みつけながらも、庇うように仁王立ちになった。
「囲むとは、脳みそ腐ってるわりには考えるじゃねえか!」
 ソルジャーのラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)は、アサルトカービンを手近なゾンビの頭に照準を合わせながら叫ぶ。パートナーでドラゴニュートのアイン・ディスガイス(あいん・でぃすがいす)は迷っていた。
「……指輪をもっている奴に、火術を叩き込んだらまずいんじゃねえか?」
「えっ?」
 火術を考えていた高月は、呪文を一時中断する。思わず高月とアインは顔を見合すが、クナイが首を傾げて言う。
「指輪の素材は存じ上げませんので、火術では危険かもしれませんが、骸骨でしたらどう見ても平気なように思いますが、いかがでしょう?」
 骸骨は剣などの武器を持っているだけで、指輪を持てるような格好ではない。ラルクもそれを見てアインに言う。
「おお! そうだぜ! ゾンビは俺らに任せて、骸骨を頼むぜ!」
「任せときな!」
 アインと高月は呪文を唱え始めた。
 

 同じ頃、森の中で違うアンデッド盗賊団とすでに交戦中のグループがあった。
 ナイトの遠野歌菜(とおの・かな)は飛んでくる矢をランスで薙ぎ払い、
「これで……成敗!」
 チェインスマイトを発動させ、弓を射った骸骨二体を続けざまに粉砕する。
 歌菜は横からも近づいてくるゾンビにランスを突き付けて叫ぶ。
「イルミンスール魔法学校所属、騎士の遠野歌菜が成敗します」
 遠野はビシッと決めるが、もちろんゾンビは聞いてないし、その間もどんどん近寄ってくる。
「カナ! 一人で前に出過ぎるな!」
 パートナーで守護天使のブラッドレイ・チェンバース(ぶらっどれい・ちぇんばーす)が、遠野の背後に襲いかかろうとしていたゾンビの首をホーリーメイスで殴りつける。ブラッドレイは遠野の背後を守りようにホーリメイスを構えるが、遠野はブラッドレイに言う。
「私は大丈夫だから、他の人たちをお願い!」
「他の者たちの心配をしている状況か! 少しは自分の心配をしろ! 右腕から血が出てるじゃないか!」
「うっ……それは……」
 ブラッドレイに叱咤され、遠野は口ごもる。遠野の右腕には、横からの剣を避けそこなった傷がある。
 二人で押し問答をしている間にも、矢が二人に向けて放たれる。
ヒュン! ボン!
 矢は一瞬で燃やされ、灰と化す。
「え?」
 遠野たちは初めて矢が向かってきていたことに気づく。プリーストの和原樹(なぎはら・いつき)が、続けざまにブッラドレイの傍にいた骸骨の頭蓋骨をホーリーメイスで粉砕した。和原の後ろには、パートナーで吸血鬼のフォルクス・カーネリア(ふぉるくす・かーねりあ)が、火術で飛んでくる矢を燃やしている。和原は呪文を唱えるフォルクスのために、周囲の敵を払いながら遠野たちに注意する。
「二人とも、散らばったら危ないよ」
「ご、ごめんなさい」
「申し訳ない」
 遠野とブラッドレイは謝り、再び戦いに集中する。
「だいぶ減ってきたぜ!」
 ソルジャーの国頭武尊(くにがみ・たける)は、アサルトカービンで正面のゾンビの頭を撃ち抜く。国頭の背後を守っていたパートナーで剣の花嫁のシーリル・ハーマン(しーりる・はーまん)も、ホーリーメイスで骸骨が繰り出す剣を弾きながら周りを見回す。
「蒼人!」
 ちょうどローグの葛稲蒼人(くずね・あおと)が光条兵器の刀を発動させていた。矢を受けたのか、左肩が血で汚れている。葛稲のパートナーで剣の花嫁の神楽冬桜(かぐら・かずさ)はそれを見て悲鳴を上げたらしい。ヒールを掛けたいようだが、敵の攻撃でその時間が取れないでいる。
「武尊さん!」
「あん? どうしたっ?」
 国頭はシーリルが指差したほうを見て、葛稲たちの様子に気づく。国頭は遠野たちに怒鳴る。
「おい! あっちに回ってくれ!」
 遠野たちは葛稲達の様子を見て頷く。フォルクスは遠野たちの為に雷術を使い、道を開けた。
 遠野達は葛稲たちを囲うように戦う。
「早く今のうちに!」
「ありがとう!」
 遠野に促され神楽は礼を言って、葛稲の左肩に手をかざしヒールを唱える。
 その後は順調にアンデッド盗賊団を倒していき、気がつけばいなくなっていた。
「さてと……ここから指輪を探さないとな」
 和原は嫌そうにゾンビを見下ろしながら呟く。
「そうですね。指輪があれば、青年の霊が静まってくれるかもしれないですし」
 葛稲は頷き、さっそく足元のゾンビの服の中を探っていたが、
「なあなあ」
 国頭が葛稲の肩を叩く。振り返ると、国頭は笑顔で訊いてくる。
「ローグだろ? 俺の予想だと盗賊団は近くに洞窟なんかあって、絶対そこにお宝を隠し持っているんだと思うんだよ。一緒に探しに行こうぜ」
 葛稲は困った顔で答える。
「……俺は青年の霊を鎮めるために、アンデッド盗賊団の討伐に参加しました。指輪を探すのが第一で、お宝が目当てではないです」「……そっか……仕方ねえか。シーリル、盗賊が装備してたもんでも売り払って、飯代にでもするか」
 国頭がしょぼんと肩を落として、アンデッドたちの装備品を剥がし始める。シーリルは葛稲たちに申し訳なさそうに一礼して、国頭の傍にしゃがむ。
「蒼人……ちょっと可哀想だね。すっごい楽しみにしてたみたい」
 神楽が国頭の小さくなった後姿を見て、葛稲に言う。葛稲は溜息を吐き、国頭に怒鳴った。
「国頭! ここで指輪が見つからなかったら、指輪を探しに一緒に行きましょう!」
「おお! おお!」
 国頭は嬉しそうに飛び跳ねながら頷いた。
 地面に座り込んだフォルクスは、その様子を感心したように見ている。
「あの戦いのあとに元気だな……樹」
 話しかけられた和原は、木の枝で器用にゾンビの鎧の内側を探っている。いつもだったら手伝わないフォルクスに怒り出す和原だが、今回は火術と雷術の乱発で、立つのもキツイ状態であることを知っているので、何も言わない。
「……樹はおかしいと思わないか?」
 和原は首を傾げてフォルクスを見る。
「まだ青年の霊が怪しいって思っているのか。どうして? 死んでからも指輪を探してるなんて、可哀そうじゃないか。俺は指輪を見つけたら、青年に届けてあげるよ」
 和原はきっぱり言って、また黙々と探し始める。フォルクスは溜息を吐き、和原には聞こえない声で呟いた。。
「……どうもこの街が関わると、全ての事柄に違和感を感じてしまうな。何か見えない影を感じると言うか。青年が同じ木の周囲をばかりを探しているというのもな。何故その木に拘っているのか……」
 
 アンデッド盗賊団とあったのは、バトラーの藤原優梨子(ふじわら・ゆりこ)とパートナーで吸血鬼の亡霊亡霊(ぼうれい・ぼうれい)だった。といっても、この二人はグループ行動には参加せず、偶然にアンデッドと聞いて森へやってきていた。
 藤原と亡霊は用意しておいた大鎌で、黙々と邪魔な木の枝や藪を刈って進んでいく。
 すると、藤原の視界の隅に何かがキラリと閃く。
ヒュンッ!
 二人の間を一本の矢が通り過ぎ、木に突き刺さる。
「やっと出会えたようです。亡霊さん」
 亡霊は無言で頷き構える。
ザザザザザ……
 藪の中から起き上がるように、剣や弓矢を持ったゾンビや骸骨たちが起き上がる。
「想像していたよりも大勢ですね。楽しめそうです……ね!」
 藤原は愉快そうに笑い、一番近くにいたゾンビに大鎌を投げつける。
ガン!
 ゾンビの顔面に当たり、のけぞった隙に接近してゾンビの腐り落ちた鼻にデリンジャーを押し当てる。
バシュ!
 ゾンビの頭が破裂し、藤原の白い頬や制服にかかる。
「あっ……!」
 ゾンビは崩れる直前に藤原の手首を掴む。身動きが取れなくなった藤原の背後に、違うゾンビの剣が振り下ろされるが、
ボン!
 ゾンビは亡霊の火術で燃え上がる。燃えたゾンビは少しよろめくが、動きを完全に止めることはない。
「優梨子!」
 再び剣が振りおろそうとされる。
「どいてください!」
 亡霊は背後から掛った声に、振り向かずに横に跳ぶ。
ヒュン! パンッ!
 亡霊の横に光が一閃し、ゾンビの頭部が破裂して崩れる。
 亡霊と藤原が振り向くと、光条兵器のスナイパーライフルを構えた高谷智矢がいた。
「すごい! すごい!」
 パートナーの白河童子が、興奮した様子で高谷の腰にしがみついている。
「へえ〜……あまり得意じゃないって言っていましたが、とてもお上手ではありませんか」
 荒巻さけも高谷を褒める。高谷は自分の腕前が信じられない様に、呆然と立っている。
「ぐ、偶然だと思うんですが……本当は気を引くために適当に撃ったんです……」
「……それはちょっと怖いね」
 カレン・クレスティアは少し引き気味に呟く。パートナーのジュレール・リーヴェンディも頷いた。
「まあ、結果的に良かったじゃないか。僕の近くでは絶対に使って欲しくないけどね」
 黒崎天音はのんびりと現れ、パートナーのブルーズ・アッシュワースは周囲のアンデッドを睨みつけている。
 藤原と亡霊は突然現れた荒巻たちに驚いた顔をしたが、すぐに藤原は笑顔で言う。
「助けて頂いたのは感謝しますが、私の楽しみをあまり奪わないで下さいね」
「楽しみって?」
 白河は首を傾げて高谷に訊くが、
『知らなくていい事です』
 高谷と荒巻は声を揃えて返事をした。
「おい! 敵が逃げて行くぞ」
 ブルーズの言葉に周りを見れば、どんどん奥へと消えていく。
「きっとアジトに向かったんだよ! この動きではっきりしたね! 指示を出している奴がいるってこと!」
 カレンはそう言いながら、走りだしている。
「待て! カレン!」
 パートナーのジュレールが慌てて呼び止めるが、カレンは意外に素早いアンデッドを追いかけるのに夢中で止まる気配はない。
 仕方なく、他の者たちも走り出した。
 
「なんだ! アンデッド盗賊団なんていないじゃないか!」
 森の奥深く、ウィザードのデズモンド・バロウズ(でずもんど・ばろうず)が甲高い声で叫ぶ。
「おかしいですねぇ。禁猟区にも反応がありませんし……」
 パートナーで守護天使のアルフレッド・スペンサー(あるふれっど・すぺんさー)はそう言って、肩に乗せたデズモンド型の小さい人形を見る。アルフレッドの禁猟区で、危険を察知すると猫みたいに可愛く鳴くようになっている。
「それに、ここはどこなんだっ?」
 デズモンドの叫びに、アルフレッドも首を傾げる。デズモンドがズカズカ歩いて行ってしまうせいで、正直に言って迷子になっていた。
 その時、争う音が前方からしてくる。
「みゃあ! みゃあ!」
 アルフレッドの肩の禁猟区も鳴き出す。アルフレッドは緊張した面持ちでホーリーメイスを構えようとするが、その前に小さい物体が争いの中に駆け出して行く。
「デズモンドさん! いけません!」
 アルフレッドはデズモンドの襟首を掴もうとするが、僅かに足りずにデズモンドは勢い良く駆け出して行ってしまう。デズモンドの前には洞窟があった。傍には倒されたアンデッドたちが転がっている。
「ココで俺様の出番だぁー! っどわ!」
 大声を上げながら洞窟に突入したデズモンドの前に、いきなり剣を振り上げたゾンビが立っていた。思わず悲鳴を上げたデズモンドだが、
「はあっ!」
 デズモンドの前髪が揺れ、見えない衝撃波がゾンビを弾き飛ばす。
「おや、こんにちは。迷子かい? 保護者はどこかな?」
 離れた場所に、黒崎が微笑を浮かべて立っている。他の者たちもゾンビや骸骨と戦っている。デズモンドは目を丸くして呟く。
「なんなんだ? 今の」
「ん? ドラゴンアーツの衝撃波。遠距離で服が返り血で汚れないのは便利だけど、さすがに汗はかくね」
 涼しい顔で微笑んでいる黒崎だが、額には汗が滲んでいた。
「デズモンドさん! 大丈夫ですか?」
 遅れてアルフレッドが現れ、デズモンドの無事を確かめるように抱き上げた。
ドォン!
 洞窟を揺るがす轟音と熱風が吹き、
「気をつけてください! このアンデッドは魔法を使います!」
 荒巻の鋭い声が奥から聞こえてくる。
 洞窟の奥では、荒巻とカレンとジュレールが、マジックローブをつけたミイラと戦っていた。
 カレンはミイラの指に指輪があるので、派手な呪文はできない。だからといって、大人しく火力セーブした火術を受けてくれるほどミイラは遅くもなかった。
 カレンは荒巻とジュレールに言う。
「ボクが氷術でミイラの足を止めるから、あとはさけとジュレお願い!」
 荒巻とジュレールは頷き、カルスノウトを構える。
「氷よ!」
 カレンの氷術でミイラの足元が凍りつく。動きを止めたミイラに、荒巻とジュレールは一気に間合いを詰め、ジュレールがミイラの持った杖を弾き、荒巻は指輪をはめた指を切り落とした。
「やった!」
 カレンは喜びの声を上げるが、背後からゾンビが襲おうとしていた。近くにいた高谷がデリンジャーで頭を撃ち抜いたが、他のアンデッドは動きを止める様子はない。高谷は呟く。
「どうやら、指輪を外してもアンデッドはやはりちゃんと滅ぼさなければいけないようですね」
 荒巻はミイラの干からびた指から指輪を外そうとするが、その前に指だけ灰となって落ちる。指輪には深緑色の美しい宝玉が埋め込まれていた。荒巻は一瞬、その深い緑の玉の中に吸い込まれるような感覚に襲われるが、慌てて指輪から視線を逸らす。魔力を持つと言うのは本当らしいと感じる。
「誰が青年の所に届けますか?」
 荒巻の問いかけている間も、ミイラは火術で自分の凍った足を溶かして、襲いかかろうとしている。
 荒巻は素早く見回すが、みんな交戦中で手が空いていない。そこへ、デズモンドを抱えて洞窟から出ようとしているアルフレッドと目が合う。
「青年の霊に届けてください!」
 荒巻はアルフレッドに指輪を投げた。
「え?」
 アルフレッドは戸惑い、抱えられていたデズモンドが指輪をキャッチする。それを見て、ブルーズはデズモンドたちに叫ぶ。
「洞窟を出て南に行け! 青年の霊が待っているはずだ! 我らはここの残党どもを片付けなければならん!」
「よし! 俺様に任せろ! 行くぞ! アル!」
 デズモンドは事情はまったく理解できていなかったが、何か重要な役回りが巡ってきたことだけはわかっていた。
 デズモンドが駆け出せば、アルフレッドも一緒に駆け出す。二人は洞窟を抜けだし、空飛ぶ箒で青年の霊の元へ飛んで行った。