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桜井静香の冒険~探険~

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桜井静香の冒険~探険~

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第5章 遺跡探検


 フェルナンが言っていた、古代シャンバラ王国時代の遺跡。現在では賭場として利用されているそこを、予定通り調査しようとする者達がいた。肝心のフェルナンは助けを求めてきた少女の方に行ってしまったが、簡単な装備品は既に用意されている。今更引き返す手もない。それに、困っている少女も自業自得だろうと、多くが考えてる。
 尤も、遺跡の方だって探索され尽くしている可能性はある。ウェイル・アクレイン(うぇいる・あくれいん)はサックを背負い、賭場の従業員に、その点を聞いてみる。従業員は、遺跡は小さいから、巡るだけならすぐ済むだろうと言った。
「観たいなら勝手に観てくればいいさ。だがよ、もう一度は探索されててロクなお宝は残ってないって話だぜ。それに罠もあるってよ」
 従業員が壁に取り付けられた、これは新しい扉の鍵を開ける。奥からひんやりと冷たい空気が流れてくる。
「行くならさっさと行ってくれ。何かあっても俺は知らんからな」
 賭場にとってはどうでもいいのだろうか、随分あっさりと通してくれる。
「新しいものが見付かるのは、望み薄ね」
 パートナーのフェリシア・レイフェリネ(ふぇりしあ・れいふぇりね)がウェイルに言う。
「お宝があろうがなかろうが、遺跡探検はロマンだからな。罠は……俺の場合かかって発見することになりそうだな」
「私はあなたの後ろを歩くわね。負傷したらヒールするわ」
「ほら、同じこと考えてる人いるわよ、大丈夫よ」
 小柄で子どもっぽくて妖艶なエミリア・レンコート(えみりあ・れんこーと)が、ウェイル達の会話に、同じく小柄な稲場 繭(いなば・まゆ)の肩を叩く。
「だって、罠だって怖いよ……やめようよ、エミリア」
「遺跡だよ? 遺跡があったら潜るのが冒険者ってものでしょう! それに、色々ありそうだもんねぇ、この遺跡」
「そりゃあ他にも人がいるかもしれないし……気にはなるんだけど……」
 怯える繭とは対照的に、ニヤリとエミリアは笑う。
「トラップなんて跳ね返すわ。かかるのはワタシ、繭は痛くないわよ」
「あっ」
 エミリアは繭の腕を引っ張ると、通路を歩いていった。こちらも繭はエミリアの後ろで回復役だ。
 扉が閉まると、周囲は暗闇に包まれた。と、同時に、カチッと音がして、前方の景色が楕円形に切り取られた。その楕円は次々に重なり、広がる。フェルナンが用意した懐中電灯のスイッチを、シルバ・フォード(しるば・ふぉーど)雨宮 夏希(あまみや・なつき)らが入れたのだった。
 薄暗い賭場から漏れる光よりも、こちらの方がずいぶんと明るい。
 改めて周囲を見回せば、中の材質は当然と言うべきか、先ほどと変わらない石材でできていた。周囲の壁には元々蝋燭を置くために造られたのであろう、小さな、獣の彫刻を施された燭台が所々張り出している。
「敵の気配はないわね」
 マリア・ペドロサ(まりあ・ぺどろさ)が、携えたランスの柄を握り直しながら、シルバに確認するように告げる。シルバは片手に懐中電灯を、もう片手で森で拾った木の棒で先を突きつつ、進み始める。罠への用心だ。
 しかし、フェルナンはこの遺跡を発見させて何をしたかったのだろう。フェルナン自身は探索をしていない。罠の存在をあらかじめ知っていたのだろうか? もし何かのお宝が見付かったとしても、おいそれと渡すわけにはいかない。彼の対応次第だ。
 その棒の先端と並んで、一人の男──従業員らしい男がふらふらと歩いている。
「罠……って言っても、レクリエーションだよぉ、そこまでしなくてもいいんじゃない?」
 清泉 北都(いずみ・ほくと)はパートナー・ソーマ・アルジェント(そーま・あるじぇんと)にそう言った。
 フェルナンがこの遺跡をあっさり発見し、しかも人の手が入っているのは、参加者を楽しませるためじゃないかと、北都は考えている。“遺跡探検ごっこ”を楽しむのに、“吸精幻夜”で従業員を幻惑する必要はないんじゃないかと思うのだ。
 ソーマの方はというと、これは北都へのアピールも含む。 彼に救われて契約をしたのはいいが、既に自分以外のパートナーがいたのだ。
 ──自分の方が役に立つって証明してやるぜ。
 少しばかりの嫉妬と独占欲が混じった視線を向けると、北都は脇に懐中電灯を挟みながら、通路をマッピング中だ。念のための“禁猟区”が、イヤでももう一人のパートナーの存在を意識させる。しかも自分の方が彼らよりまだまだ未熟ときている。
 ふらふら歩く従業員に道案内させるのが精一杯か──と、その従業員の身体が不自然に動いた。そしてひゅんと風を切る音。そして急に身体のバランスを崩して倒れたのだ。
 駆け寄ったソーマは、彼の足下の床が少しへこんでいるのに気付く。従業員の肩には矢が突き立っていた。
「これですね」
 夏希が矢が飛んできた方向の壁を照らすと、燭台の一つ、ライオンらしき獣の口の中──蝋燭を立てる部分──が空洞になっており、鏃がのぞいていた。奥の壁の向こうが空洞になっていて、床と連動して矢が発射される仕組みなのだろう。
 北都は“ヒール”で怪我の手当をし、ソーマが意識を取り戻しかける従業員を再び操る。しばらくして分かったのだが、残念なことに従業員は詳しく道を知らないようで、道案内としては役に立たなかったが、罠にかかってもらう役には立ったわけだ。

「こういう罠とか、どちらが奥らしいとか、分からないんですか? ガイドになりません」
「現地ガイドって、あたしが暮らしていたのは離宮の方じゃないのですが……島とかも詳しくありませんし。理不尽です」
 高務 野々(たかつかさ・のの)に、エルシア・リュシュベル(えるしあ・りゅしゅべる)は憮然とした表情になる。
「そんなこと言っても、エルシアがどうしてもと言うから来てあげたんですよ」
「言ってませんよ!? どちらかと言うと野々が連れて来たんですよ」
「何にしても、フィールドワークはこの世界や歴史を調べる上で重要なんです。分かるところだけでもガイドしてくださいね」
 野々は嘘つきだ。エルシアが嫌う、嘘をよくつく。
 だからこれも本音ではない。ここに来たのは、こうやってちょっとしたことで衝突したりしてしまうような、微妙な距離を少しでも縮めるため。エルシアのことをもっと良く知るため。彼女に対して、少しは素直になるためだった。そんな風にはちっとも見せないのだが。
「知ってることと言っても……遺跡はですね、当然元は遺跡と呼ばれるのではなく、使用するための建物ですから、使用目的によって構造も違うんです」
 普通の住居なら罠を仕掛ける必要もない。この遺跡は、地下に埋もれた風でもなく、始めから地下にあるのが前提のような造りになっていた。
「普通に考えれば、何か守るべきものがあったんでしょうか。大抵お宝とかですけども」
「探索されたならもうお宝……いわゆる金目のものはないかもだけど、」
 野々の知人、山田 晃代(やまだ・あきよ)が説明するエルシアに口を挟む。
「壁画とかそーいう面白いものがあったらいいね!」
 晃代としては見れるだけでもいいし、持って運べるようなものなら、フェルナンに渡したり、できるなら学園に持ち帰るつもりだ。
「……ああっ!」
 突然、声がして、フィル・アルジェント(ふぃる・あるじぇんと)が床に倒れ込んだ。どこも痛くはない。セラ・スアレス(せら・すあれす)がその身体を抱えて床に転がっているからだ。
「ちょっとシェリス、何してるのよ!」
 セラが非難の声を上げる。怒られたシェリス・クローネ(しぇりす・くろーね)は、セラより頭一つ二つは身長が低かったが、怯むこともなく、
「せっかくのチャンスなのじゃ」
「ナニがせっかくよ!」
 フィルが先ほどまで立っていた場所には、穴が開いている。懐中電灯で照らしても底が見えないような穴だ。セラがヴァルキリーでなかったら、フィルは串刺しだかスライスだか溶解だか、墜落死だかしていただろう。
 逆にシェリスは、壁に埋め込まれたボタンを押した格好のままである。時間に伴い、ゆっくりとボタンは戻り、床の石材もスライドして、元通りの通路になる。
「こんな面白そうなものを放っておけないのじゃ。研究のためなのじゃ」
「わ、罠には気を付けてって言ったじゃないですか」
 フィルはセラに抱きついたまま抗議するが、シェリスは聞いていないようだった。