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溜池キャンパスの困った先生達~害虫駆除編~

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溜池キャンパスの困った先生達~害虫駆除編~

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 一方、保健室……。
 白く清潔な室内に立つ起木保の前に、椅子に座ったリリィ・エルモア(りりぃ・えるもあ)、と腕を組んで立つ黒脛巾 にゃん丸(くろはばき・にゃんまる)がいた。
「起木先生、魔物の増加と木々の減少に、本当に心当たりはないですか?」
「僕は無実だ!」
 黒脛巾にゃん丸の問いに廊下まで響き渡るほどの大音量で叫ぶ起木保。その目前に、スプーンがずいっと突き付けられた。
「『僕は無実だ』って口で言ってもね〜先生」
「無実だから無実と言うしかないだろう! 大体、君はなぜ冷蔵庫に入れておいた僕のヨーグルトを食べているんだ!」
 指摘の通り、ヨーグルトのビンを空にしたリリィ・エルモアだったが、怯むことなくさらにスプーンを突き付けた。
「そんなことより、これ以上問題を起こすと鏖殺寺院のスパイとか言われちゃいますよ!」
「うっ……」
 言葉を失い、起木保はごくりと生唾を飲んだ。リリィ・エルモアは腰に手を当てる。
「私もめんどくさいのは大嫌いなんですから! ちゃっちゃと僕がやったって言ってください!」
「おい!」
「あーほら、先生には前科があるから……。また洞窟から何か持ってきたんじゃないすか?」
 止まることを知らない二人の言い合いに、黒脛巾にゃん丸が水を差した。
「……いや、変な疑いを持たれるのは嫌だし、最近は機械のパーツ探しは自粛しているよ……。僕は悪いことは何一つしていない。信じてくれないか」
 眼鏡の下の瞳を、まっすぐ黒脛巾にゃん丸へと向ける起木保。黒脛巾にゃん丸はしっかりと頷いた。
「前の事件も先生が良かれと思ってやったことだし……。無実を証明するのに協力します!」
「失礼します」
 保健室のドアが開き、ソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)に続いて緋桜 ケイ(ひおう・けい)鬼一 法眼(きいち・ほうげん)……【続・イルミンスール諜報部】の面々が入ってきた。
「起木先生、ちょっと話を聞かせてくれねぇか?」
「? なんだい?」
 起木保と共に、黒脛巾にゃん丸とリリィ・エルモアも振り返った。
「先客がいるようだな」
「ちょっと混ぜてもらっていいですか?」
 ソア・ウェンボリスが進み出る。先客二人は快く頷いた。
「では……先生、今回の事件のこと、本当に何も身に覚えがないんですね?」
「またそれか……」
 深く息をつく起木保。
「僕はそんなに信用されていないんだな……」
 しゃがんで、のの字を書き始めた起木保。ソア・ウェンボリスは慌てて手をぶんぶんと振った。
「あ、いえ、養護教諭さんのことは信じてますっ! ほんとーですよっ!」
「俺達も今それを聞いていたところだよ」
 黒脛巾にゃん丸は頷いた。そして腕を組み、起木保に向き直る。
「そうだな……例えば緒喫先生に頼まれて分煙装置作ったとか、羽田先生のために虫除け装置考えたとか……ないですか?」
「とくにないな」
「あ、日付先生が放火してるとか」
「さすがにそれはないだろう」
「ですよね」
 全員で笑う。と、緋桜ケイが手を上げた。
「俺が調査や魔物退治に行ってるメンバーから聞いたところによると、魔物は樹液を食べるために職員室を目指してるみたいだぜ」
 情報を書きとめたメモを取り出し、続けた。
「それと……『バッサイーン』とかいう変なロボットが……」
「バッサイーン! その子はどこにいたんだい?」
 起木保は緋桜ケイの肩を揺さぶった。
「え……この学校周辺にいて、今仲間が追ってるようですけど……」
 ソア・ウェンボリスが答えた。起木保は緋桜ケイを開放する。
「本当か? ずいぶん前から行方不明だったんだ……よかった、無事なのか」
「なんのロボットなのだ?」
 鬼一法眼の問いかけに、起木保が瞳を輝かせた。
「木の手入れのために頼まれて作った伐採用ロボットだ。木の発育を促すための伐採作業ができるもので、小さいが力持ちで……」
「もういいですっ!」
 長くなりそうな語りをリリィ・エルモアが一喝した。
「そうなると、今回の事件の犯人が『バッサイーン』を利用してる可能性もあるな」
「そうですね」
「バッサイーン……誘拐された上に利用されるなんて可哀想だ!」
 冷静に分析する緋桜ケイとソア・ウェンボリスの発言に、起木保が憤慨した。暴れ出しそうな勢いに鬼一法眼が彼を押さえた。
「……さて、起木先生から訊けることはこれくらいでしょうか」
 一息ついた後、ソア・ウェンボリスが質問を締めくくる。
「それじゃあ先生、行きましょう」
「え?」
 白衣の袖を引き、黒脛巾にゃん丸が進言した。
「真犯人を突き止めるのを手伝ってください。それにほら、学生だけじゃ入れない場所もあるでしょ?」
「……僕はただでさえ疑われているんだ。ヘタに行動したら余計に怪しまれる」
「そんなことないです!」
「何もしなければ疑われたままだぜ?」
「弱気はよくないな」
 ソア・ウェンボリスと緋桜ケイ、鬼一法眼も頷く。
「とにかく、先生も事件解決に協力してるところをアピールしなきゃ……本当にクビになっちゃいますよ」
「そうか……そうだよな」
 起木保はゆっくりと頷いた。
「私達も先生の無実を証明するためにご一緒します。いいですよね、ケイ?」
「あぁ」
「俺は護衛を務めよう。魔物が襲ってくるとも限らないからな」
「仕方ない、あたしも協力してあげるよ」
 全員の総意に、起木保はやや瞳を潤ませた。
「……ありがとう、君達」
「さあ、行きましょう」
 黒脛巾にゃん丸が先導し、保健室を出る。
 五人の生徒と、養護教諭は職員室までの道を進む。
「意外と離れてますね」
「メンドーだなぁ……」
「そうそう、だから僕はあまり職員室には行かないんだ」
「職員室に犯人がいるんでしょうか」
「そうなんじゃないか?」
 噛み合っているような、いないような会話が続く中、六人は半屋外の渡り廊下に差し掛かった。
「生前のようにとはいかないが、子供のおもりくらいは果たしたいものだな……!」
 鬼一法眼が【ディフェンスシフト】を展開。緋桜ケイとソア・ウェンボリスの前に立ち塞がり防御態勢をとる。
 瞬間、大ダンゴムシが跳びかかってきた。
「うわっ!」
 驚いた起木保が腰を抜かした。
「起木先生、大丈夫ですか?」
 黒脛巾にゃん丸が起木保を立ちあがらせる。鬼一法眼は大ダンゴムシを睨みつけた。大きなタイヤに似た敵は再び向かってこようとしている。
「ケイ、目眩ましを頼む」
「了解っ。行くぜ!」
 鬼一法眼の背後で緋桜ケイが【光術】を紡ぎ、放った。
「私も加勢しますっ!」
 ソア・ウェンボリスが【氷術】を使用。大ダンゴムシはその場に凍りついた。
「邪魔立てさせるわけにはいかないのでな」
 言い放って鬼一法眼が攻撃。大ダンゴムシは反撃の余地もなく倒れた。
「今のうちに、職員室へ行った方がいいな」
 鬼一法眼が促す。頷いて六人は職員室への道のりを急ぐ……。