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リアクション
一 開会式
午前九時。スポーツ番長が教導団に勝負を申し込んでから一日。
「おはよう、みんな。知っての通り、教導団とパラ実はチャリオット騎馬戦で勝負することになったわ。両校は今戦争状態にあるけれど、今日は気持ちよく戦いましょう」
改めて空京のスタジアムに集まった生徒たちに、李 梅琳(り・めいりん)が呼びかける。
「ここで紹介しておく人がいるわ。さああなた、どうぞ」
梅琳に促されて、彼女の隣から一人の生徒が歩み出る。
「みなさんおはようございます。私は一条 アリーセ(いちじょう・ありーせ)といいます。本日は運営委員として参加させていただくことになりました。何かあれば遠慮なく言ってください。私は教導団に所属していますが、勿論公平な判断を下します」
アリーセは恭しく頭を下げた。
「そういうこと。それじゃあ今から約一時間後、午前十時に競技を開始するわ。それまでは作戦を確認するなり準備運動するなり好きにしていて結構よ。十二時になったら一旦昼休憩。一時から競技再開ね。そのときまでに決着がついていなければの話だけれど」
梅琳とアリーセが壇上から降りる。すると、ガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)が真っ先に二人に歩み寄って話しかけた。
「ちょっといいですか」
「なんでしょう」
アリーセが答える。
「私はガートルード・ハーレックというD級四天王の者ですが、この競技は不公平だと思います」
「と言いますと?」
「まずパラ実側の人数が不利です。それに教導団側に四天王の称号をもつ生徒がいます。彼らがパラ実側につけば人数も合うでしょう」
「事前に説明しましたとおり、教導団側は一つのハチマキを取るにつき一ポイント、パラ実側は二ポイントとすることで調整しています」
「そういう問題ではありません。四天王制度はパラ実の中で唯一と言ってもいい決まり事なのです。例え他校の生徒であろうと、四天王の称号をもつ者はパラ実生に影響を及ぼします。四天王が相手では、パラ実生たちは全力で対峙することができません」
ガートルードは後ろを振り返ると、そうでしょう? とパラ実生に同意を求める。彼らは口ごもって困った顔をした。
「残念ながらご意向に沿うことはできません。今日行われるのはあくまでも競技です。割り切って戦ってください」
「だからそうはいかないって――!」
そのとき、低い声が辺りに響いた。
「なんだ? つまらんことで争ってるな」
「あなたはスポーツ番長! 聞いてください!」
「まあまあ、落ち着けって。話は聞いてたよ。これはスポーツなんだぜ。そんな大げさに考えることもあるまい。細かいことは気にしない、それが俺たちパラ実生だろ?」
スポーツ番長の言葉に、周りのパラ実生たちも賛同する。
「あなたまで……。いいでしょう、そこまで言うのなら好きにしてください。ただし、どうなっても知りませんよ」
ガートルードは早足でその場を去ろうとする。その背中にスポーツ番長が声をかけた。
「ありがとうな」
ガートルードが足を止める。
「何がですか?」
「俺たちのことを心配してくれたんだろ。大丈夫、絶対に勝つから安心してくれ」
「……」
ガートルードは再び歩き出すと、無言で姿を消した。
「スポーツ番長に梅琳少尉、ルールについて確認しておきたいことがあるのだが」
次に現れたのはレオンハルト・ルーヴェンドルフ(れおんはると・るーべんどるふ)だった。
「何かしら?」
「今回の競技、直接攻撃以外のスキルは使用可能なのだろうか」
「原則としてOK、だったよな」
「そうね。魔法やドラゴンアーツで直接相手の人間に攻撃を加えるのでなければ、基本的には使用して構わないわ。微妙な状況も出てくるかもしれないけれど、その場合はアリーセさんに判断を仰いで」
「了解した。ありがとう」
「あんまりセコいことしちゃダメよ」
続いて大神 愛(おおかみ・あい)と猫花 源次郎(ねこばな・げんじろう)が梅琳のところにやってくる。まずは源次郎が尋ねた。
「盾はもっていっていいのか」
「今回武具で使用が認められているのは、エアーの入った武器だけ。残念ながらそのジュラルミンシールドは使えないわね」
「ふむ、ならば仕方ないな」
「そちらのお嬢さんは?」
梅琳は愛に目を向ける。
「あの、今日使う馬の中で気性が大人しいのってどれですか?」
「そうね、あの馬なんかどうかしら」
梅琳が指さす先には、スタジアムの隅で静かに佇む一頭の馬がいた。
「ありがとうございます。あの馬使わせてもらいますね」
「どうぞ。馬の選択は自由よ」
愛は梅琳に教えてもらった馬とスキンシップを図ると、光条兵器を使って、光を見ても馬が驚かないようにゆっくり慣らしていく。その間、源次郎は博識のスキルでスタジアムの全容について把握しておいた。
張 コウ(ちょう こう)は、自分の愛馬をスタジアムに連れてきていた。
「すまないな。だが、お前の力が必要なのだ。頼む。あとでたっぷり林檎をやるからな」
?は愛馬を熱心にグルーミングする。荷物の袋には大量の林檎を用意していた。
「わ、張 コウさん自分の馬を連れてきちゃったんだ? いいのかな……」
「どうせバレやしませんよ」
辺りをきょろきょろと見回すウォーレン・アルベルタ(うぉーれん・あるべるた)に、ジュノ・シェンノート(じゅの・しぇんのーと)が答える。ジュノはウォーレンの手を借りて太めの縄を足が引っ掛けられる程度緩ませて車の前部分にまいた後、車の外側に縄を何重かグルグルに張り巡らせてしっかり固定した。
「車も改造しちゃったし。まあこれくらいは大丈夫か」
ウォーレンはチャリオットを点検して構造を確認すると、知り合いの姿を見つけてそちらへと歩いていった。
「俺たちの馬はこれか。ふむ、とりあえず不審な点はないようだな」
高崎 悠司(たかさき・ゆうじ)は、自分たちの馬とチャリオットに不正がなされていないかチェックする。悠司たちパラ実生にとって、教導団主催の今大会は言わばアウェイ。念を入れるに越したことはない。
「さて相手の馬はっと……」
自分たちの馬をチェックし終えると、悠司は教導団側の馬に目をやる。
「あの馬は足が良さそうだな。要警戒、と。あっちのは調子が悪そうだ。狙い目だな。それから……ん? あいつ何やってんだ?」
悠司の目に一人の男の姿がとまる。
「今日はお願いしますよ。頼りにしてますからね」
男の名はルース・メルヴィン(るーす・めるう゛ぃん)。彼は馬に話しかけながら餌をやり、せっせとブラッシングをしていた。
「真面目なやつもいるもんだな。俺には真似できないね」
それを見て悠司が言う。ちょうどそこで、集合を告げるアナウンスが流れた。
「もうそんな時間か。おい、そこのあんた」
悠司は近くのパラ実生に声をかける。
「あ、なんだ?」
「あそこの白毛の馬、顔色悪そうだぜ。狙ってみたらどうだ」
「なんでんなことが分かんだよ」
「え? あ、ほら、俺毎日馬の世話してるから分かるのさ。じゃあもう行くぜ」
悠司は適当にごまかすと、集合の列へと急いだ。
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