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闇世界…ドッペルゲンガーの森

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闇世界…ドッペルゲンガーの森

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第6章 過去を乱す者

 オメガを救出しようと広瀬 ファイリア(ひろせ・ふぁいりあ)たちもドッペルゲンガーの森を探し回っていた。
「むぅ、どこにいるんでしょうねオメガちゃん・・・」
「―・・・さて・・・・・・この森のどこかにオメガがいると言う事だが・・・・・・。やはりそう簡単には見つかりそうも無いか・・・」
 行動を共にしているクルード・フォルスマイヤー(くるーど・ふぉるすまいやー)は、木から木へと飛び移りながら探してる。
「ここに来てから2時間くらい経っていますね」
 アイリス・ゼロ(あいりす・ぜろ)は歩き疲れそうになっていた。
「あっ・・・今、何か聞こえませんでした〜?」
 ガサガサッと何かが草むらの中を移動する音を聞き、ウィノナ・ライプニッツ(うぃのな・らいぷにっつ)が足を止める。
「どこですか?」
「えっと・・・あっちの方です!」
 首を傾げて聞くウィルヘルミーナ・アイヴァンホー(うぃるへるみーな・あいばんほー)に、音が聞こえた方へ人差し指を向けて教える。
「もしかしたらオメガちゃんかもしれませんっ」
 彼女たちの声を聞き、駆けつけたファイリアが草むらの中に入っていく。
「ボクも行くです!」
 背の高い草をかきわけ、ウィノナはズンズンと進む。
「あぁっ、待ってください。誰かいたとしてもオメガさんかどうか・・・。って・・・聞いてませんね」
 オメガ捜索に燃えるファイリアとウィノナには、ウィルヘルミーナの声は届かなかった。
「待っててくださいオメガちゃん、今ファイたちが助けにいきますからねぇ〜!」
「―・・・あれ、ウィルヘルミーナ?さっき向こうにいたような」
 草むらの中にいたのはオメガではなくウィルヘルミーナだった。
「ウィルヘルミーナちゃん、オメガちゃん見つかりましたか〜?」
 ウィノナが声をかけてみるが、彼女は後ろを向いたまま返事をしない。
「聞こえてないんです?ねぇウィルヘルミーナちゃん・・・きゃわぁっ!?」
 彼女の肩へファイリアが手を伸ばすと、突然ブロードソードで斬りかかられた。
「早くそこから離れろ・・・ファイリア!」
 悲鳴を聞き駆けつけたクルードが声を上げる。
 ザクッ。
 とっさにウィノナがファイリアを庇い、そのまま地面へ転り倒れた。
 斬られた草がふわりと少女たちの目の前を舞い落ちる。
「何するんですかっ、危ないじゃないですかぁあ」
「ちょっとウィルヘルミーナ、ボクたちを殺す気なの!?」
「そうですっ、冗談にしてもやりすぎですよ!」
 抗議する彼女たちに向かって、ウィルヘルミーナは冷酷な笑みを浮かべ剣を振り下ろす。
 キィインッ。
 ぶつかりあう刃の音が空気を振動させて辺りに響く。
「こいつはファイリアたちが知っているヤツじゃない・・・・・・ドッペルゲンガーだ・・・」
 駆けつけたクルードが少女たちを庇う。
「だってどっからどう見てもウィルヘルミーナちゃんですよ!」
「いいえ・・・ファイリアさんたちが離れた時、ウィルヘルミーナさんは私たちと一緒にいました。ですからそこにいるのは、彼女のドッペルゲンガーです」
 アイリスは首を左右に振り、彼女たちが知っている存在ではないと言う。
「獲物が来たようですねぇ〜」
「なぁーんにもない森にいるのもう飽きちゃったのよね」
 早く本物と代わりたいファイリアとウィノナがやってきた。
「本当の両親に捨てられたと思った寂しさから、わざと明るく振舞って沢山の友達に囲まれることで自己満足してるですよねー?」
「―・・・そんなこと無い、そんなこと無いですっ!」
「なんで両親が会いに来てくれないか、その理由が分かります?」
「理由・・・」
 なぜ会いに来てくれないのか理由を聞かれ、ファイリアは黙ってしまう。
「そんなの決まっているじゃないですか」
「えっ・・・」
「いらないからですよ」
「そ・・・・・・そんなこと・・・そんなこと無い・・・、そんなこと無いですっ!!」
 精神的に追い詰めようとするドッペルゲンガーにファイリアは手で両耳を塞ぐ。
「ファイはそんなに弱くないですから、代わってあげますよ!」
 彼女の残りの人生を奪い取ろうと、薙刀で襲いかかる。
 動けないパートナーを助けるためウィノナがドッペルゲンガーのファイリアに雷術を放つ。
「あんなのに惑わされないでファイ。優しいファイを、ファイの両親が捨てるはずがないじゃないの」
「ウィノナちゃん・・・。よぉし、ファイ戦います!」
 涙を服の袖で拭き、立ち上がった少女は薙刀を構えた。
「ベタな友情劇ね。退屈というより、見てて腹立たしいわ」
「なんですって・・・?」
 退屈そうに欠伸をするドッペルゲンガーのウィノナに、本物のウィノナが怒りの眼差しを向ける。
「自分の力で大事故を起こしたことで、すごく大切なものを失ったわよね?」
「―・・・」
「それが悲しくて、怖くて・・・自分が許せなくて、どれもあまりに強かったから耐えられなくて・・・記憶を封じて逃げた」
 言い返さない少女に、ドッペルゲンガーは言葉を続ける。
「オメガを今の境遇から救いたいのも、そういう自分を重ねて見ていられないだけなんでしょ!」
「それ以上でたらめ言うなぁっ!!」
 記憶の奥底にしまいこんだ過去を言われ、ウィノナは相手に雷術を乱発する。
「でたらめ?本当のこと、真実よ。真実から目を背ける弱いやつが、この先まっとうに生きていけると思えないわっ」
 もう1人のウィノナの言葉に翻弄されてしまい、まったく術が当たらない。
「ウィノナさん、そんな言葉に惑わされては相手の思うツボです!」
「人の心配をしている場合ですか?」
 ブロードソードの切っ先をギラつかせ、もう1人のウィルヘルミーナが摺り足で徐々に間合いを詰めていく。
「ファイリアとウィノナともっと仲良くしたいのに。過去の自分に振り回されて、溶けこめないのでしょう?ボクなら過去なんかに振りまわされず溶け込めるから、ボクと交代しなさい」
「言いたいことはそれだけですか?・・・・・・ボクは溶け込めきれていないかもしれないけど、ボクなりに2人と仲良くなるよう近づくつもりですから」
 突き殺そうとする偽者に、居合いの一撃をくらわす。
「う・・・ぅっ」
「急所を外してあげましたから殺してはいません」
「ファイたちも倒しましたよっ」
 わざと急所を狙わず、ファイリアは動けなくする程度で倒した。
 ウィノナの方は怒りのあまり、相手を雷術で感電させ重症をくらわした。
「ファイリアさんの明るさは、みんなに元気をくれるんです!契約なんか関係なく、ボクはファイリアさんのことが好きですから!ボクは離れたりなんかしませんよ!」
「ありがとうウィルヘルミーナちゃん。ファイもウィルヘルミーナちゃんたちのこと大好きですよ」
 可愛らしく笑い、ファイリアは彼女へ微笑み返す。
「あなたも友達になって一緒に出ましょうですっ。それで、ファイの悪い所あったら教えてくださいです」
 ドッペルゲンガーたちに片手を差し出し、仲良くなろうとする。
「そうですね・・・・・・」
「離れてファイ!」
 握手しようと手を伸ばすもう1人のファイリアが、怪しく口元を笑わされたのを見たウィノナが止めた。
「もう少しだったんですけどね」
 砕かれた薙刀の刃の破片でファイリアを狙っていたのだった。
「オメガさんを探しに行きましょう。ドッペルゲンガーたちは、この状態ではもう襲ってこれないでしょうからほうっておきましょう」
「うん・・・そうですね・・・」
 可哀想に思いながらもファイリアはウィルヘルミーナに促され、再びオメガ捜索をしようと歩き出す。
「あそこにるのは・・・オメガか・・・?」
 大木の枝の上に座り、見下ろしているオメガの姿をクルードが見つけた。
「―・・・オメガちゃん?どうしたんですか・・・」
 怒りに満ちた瞳で睨みつけている魔女に、ファイリアはビクッとする。
「残念だが・・・本物じゃないようだ・・・・・・」
 枝から枝へ飛び降り、軽い身のこなしで木を降りた魔女へ剣を向けた。
「本物のオメガちゃんをどうしたんですか!」
「さぁ・・・どうしたかしら。ちょっと術を使ったら、怯えて森へ逃げていきましたわ。あんな惨めな人生に執着すなんて、わたくしには理解できませんわ」
 オメガがどこにいるか聞き出そうとファイリアはドッペルゲンガーに問いかける。
「惨め?元のオメガちゃんが?違うですっ!オメガちゃんは脅えてしまっていますけど、誰も傷つけたくないから一人になっただけの優しい人なのですっ!それが分からないあなたはオメガちゃんじゃないですっ!」
 反論する少女は怒りのあまり顔を真っ赤にして怒鳴った。
「この場で偽者を倒してしまえば、後々探しやすくなるだろう・・・・・・。―・・・本当はオメガ自身に倒させたかったんだがな・・・・・・」
「わたくしを倒す?・・・フフフ・・・・・・あなた方に出来るかしら」
「やってみないと分からないだろう!」
 奈落の鉄鎖により相手の周囲の重力に負荷をかけ、動きを封じようとする。
 片手平突きを刃をきらめかせ斬りかかるクルードに、ドッペルゲンガーはニヤリと不適な笑みを浮かべた。
 すぅっと片手を前に出し、手の平に魔力を集中させてサンダーブラストを放つ。
「フッ・・・・・・そんなものか?」
 術を軽々と避け、間合いを詰める。
「完璧にわたくしの術を避けたと思っているの?魔剣士さん・・・」
「強がりもその辺にしておいたらどうだ・・・この距離から妖刀の刃は避けきれまい・・・・・・」
「わざと近くにくるように仕掛けたんですわ」
「―・・・なんだと・・・・・・?」
 クスッと笑う魔女に顔を顰める。
 雷術でサンダーブラストを操り、クルードの周囲を囲う。
 パチンッと指を鳴らしたのと同時に、雷の球体がバチィイッと弾けた。
 彼の後方から援護射撃をするアイリスの銃弾は、もう片方の手で火術を放たれ防がれてしまう。
「フフフ、後何発耐えられるかしら?」
「これくらいで負けるわけには・・・」
「あらあら、ここにはゴーストたちが徘徊しているのに。放っておいて大丈夫かしらね?どっちにしろこの子たちを痛めつけた仕返しに、ここで倒してさしあげますわ」
「仕方がない・・・・・・皆、この場を離れるぞ!」
 一刻も早く危険な魔女から離れようと、クルードたちは木々の間を駆け抜けていった。



 オメガを探している途中で鬼崎 朔(きざき・さく)は、パートナーとも逸れてしまい1人森の中を彷徨い歩いていた。
 草陰から突然、何者かが光条兵器を手に襲いかかってきた。
「くそ、隠れ身で奇襲なんて・・・さすが自分と言ったところか」
「あぁ残念・・・仕留めそこねたか。まあいい、これからじっくり殺してやろう。どうせならその精神も、粉々に砕いてやろうか」
「しかし、よくしゃべる奴だな、もう一人の自分は」
「可愛い子を見ている外の世界の自分がこんなにもキモッとはな」
 朔の言葉を聞き流し、ドッペルゲンガーは喋り続ける。
「なっ、可愛い子を見てる姿がキモいだと!」
「実にキモイ・・・不気味すぎる」
「きれいなものを見るのは悪いことか!」
 クスクスと馬鹿にする相手に朔は頭から湯気を出し怒鳴る。
「自分は思ったままのことを言ったまでだ。嘘をついて良く言う必要がどこにある?」
「ふっ、いろいろ言っても、自分はお前の戯言など・・・」
「ほぉう・・・ならば、身体にあるその刺青も?」
「―・・・っ、なんでここで刺青のことに触れる!」
 他者に知られたくない部分をつつかれ、思わず刺青のある箇所を手で押させてしまう。
「やめろ!その過去はもう捨てたんだ!軍やスラム街でのことなんて・・・」
「思い出してみろ、自分が何をされたか・・・スラムでどんな目に遭わされたか・・・」
「・・・やだ、ぶたないで。男たちの相手もしたくないし、殺し合いなんてしたくない。痛いことも苦しいこともやめて。お願いだから、もう刺青を入れないで。私で遊ばないで!これ以上私を汚くしないで・・・」
 過去の出来事が記憶から引き出されてしまい目の前に流れる。
 朔は両手で頭を抱え、地面に膝をついてしまった。
 ドッペルゲンガーはニヤリと笑い、ゆっくり歩み寄っていく。
 一方、パートナーたちは朔の危機を知らず、逸れてしまった彼女を探し回っていた。
「ん・・・里也?―・・・じゃないな。近くにいるし」
 ブラッドクロス・カリン(ぶらっどくろす・かりん)は両手にはめた鉄甲で、尼崎 里也(あまがさき・りや)の偽者に殴りかかり一瞬で殴り殺した。
「なんかちょっと悲しいですな・・・」
 自分とそっくりの人物の亡骸を見下ろし、その無残に殴られまくった状態に悲しみを覚える。
「ふっー、とりあえず掃討完了。さっさと朔ッチを探しに行こう!」
 歩き始めたカリンたちの前に、またもや見知った姿が道を阻む。
 スカサハ・オイフェウス(すかさは・おいふぇうす)のドッペルゲンガーが里也に襲いかかる。
 薙刀でガードしようとするが力量の差で押し負けてしまう。
 里也の頭を踏み台にしてカリンが殴り飛ばす。
 スカサハはロングボウの弦を引き、ターゲットの頭部へ矢を放つ。
「排除完了であります!朔様の捜索を始めるのであります!」
「・・・ハァハァ、これ興奮してるんじゃないよ、HP残り少ないんだけど」
 盾にされた里也の体力はほとんど残っていなかった。
「むっ、次はボクのドッペルゲンガーか!」
 カリンは里也の襟首を掴み、もう1人の自分へ放り投げた。
 彼女を盾にし偽者を躊躇なく殴り殺す。
「―・・・ハァハァ・・・・・・本当に死にそうなんだけど・・・」
 盾用に放り投げられた里也は、ベシャァアッと地面に落ち、瀕死だと呻き声を上げて限界のアピールをする。
「いましたよっ」
 スカサハが朔の姿を見つけ、カリンと里也を呼び寄せる。
「大丈夫でありますか!朔様!!!」
「おっ、朔見っけ」
「おい、おまえ!何朔ッチ泣かせてるんだ!」
 精神をボロボロにされた朔の傍にいる、もう1人の朔に向かってカリンが怒鳴り散らす。
「朔ッチと同じ姿してるからって容赦しねーぞ、おら!!!鉄甲の錆にしてくれる!!!」
「・・・みんな、私を助けてくれたのか。聞いていただろ、私の過去を・・・」
 周囲に聞こえるようドッペルゲンガーに過去を大声で喋られてしまい、朔の心はすでにズタズタだった。
「は?過去?」
 パートナーの3人は口を揃えて言う。
「そんなの気にしないよ!私は今の朔ッチが好きなんだし!今がいいならそれでいいじゃん!」
「・・・スカサハは難しいことは言えないのですが、今の朔様が好きであります!だから、昔のことなど気にし過ぎてはいけないとスカサハは考えるであります!」
「何か知らんけど、あまり過去に囚われるのは感心しないですな。何、私たちは気にしないさ。今のそなたしか知りませんしな」
「―・・・気にしないだと。・・・ありがとう」
 ありのままの朔を友と呼ぶ彼女たちに、少女は涙を流す。
「とりあえず・・・こいつを何発か殴っておかないと気がすまないな!やぁあああっ!!」
 パートナーを泣かせた罪を償わせようと、カリンが殴りかかる。
「無事だった、朔ッチ?」
 傷を負わされていないか朔の方へ駆け寄っていく。
「あぁなんとか・・・」
 身体的な傷はないが心の傷を負わされ、口では大丈夫だと言っても作り笑いしか出来なかった。
「止めはどうするかな・・・」
「それより、今はオメガ様の救出が最優先であります!急ぎましょうであります!!!」
「んーそうだな」
 ドッペルゲンガーを倒したカリンたちは、オメガ捜索へ戻った。