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ホワイトデー…言葉に出来ない思いを伝えたい

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ホワイトデー…言葉に出来ない思いを伝えたい

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第5章 心の叫び・・・パートナーを大切にして!

「凄い大きな木だな・・・」
 黄泉 功平(よみ・こうへい)は世界樹を見上げ、樹齢は何年くらいだろうかと考える。
「―・・・おい」
「やっぱり葉には薬効があるのだろうか?」
 傍で睨む娑婆 こより(しゃば・こより)の視線に気づかずに夢中で観察する。
「おいっ・・・どうしてここなんだ?」
「やけに校舎内が騒がしいが、今日はいったい何のお祭りをやっているんだ?」
 どんなイベントがやっているのか、転がっている飴玉を見下ろして首を傾げた。
「―・・・聞けよっ」
 話しかけているにも関わらず、イルミンスールの校舎内を見て回る功平に対して、だんだんと苛つく。
「なぁ、この落ちている飴。いったい何なんだ?」
 こよりは殺気立ってアーデルハイトを探している望に声をかける。
「今日はイルミンスールのホワイトデーイベントをやっているんです。飴に思い人に伝えたい文字を書いて、この飴玉銃で撃つんですよ」
「へぇー。ホワイトデーにこんなイベントが組まれていたのか」
 望の話しを聞いた功平は、変わった伝え方もあるもんだと頷く。
「これだと身も心も甘くなっちゃいますね」
 千堂 ちひろ(せんどう・ちひろ)はベッコウ飴のように、べったりと床に張り付いた飴を見る。
「では、私はこれで」
 アーデルハイトを探そうと、望は廊下を走っていった。
「そうか・・・」
 いいことを聞いたと、こよりはニヤリと笑い、パチンコ玉を
「おい、功平。たまにはどこかに連れてけといったが、まさかここへ連れてくるとはな」
 Y字のパチンコ形の光条兵器で功平を狙う。
「お・ま・え・あ・た・ま・わ・い・て・る・の・か・?」
「やめろ、ちゃんと外へ出かけたじゃないか。何が不満なんだ!?」
「出かけるつったら、普通は空京とかだろうが!」
「そんなこと言われても、思いつかなかったんだ!」
 当たったら天に召されると思い、功平は教室内へ逃げ込む。
「怒・髪・天・衝」
「うわわっ、やめてくれ!」
「(騒がしいな・・・どわ!?)」
 悠が隠れているダンボールを、床に兆弾したパチンコ玉が貫通する。
「自・業・自・得。因・果・応・報。思い知れ〜!!」
「簡便してくれっ」
「断る!」
 こよりは椅子を盾にする功平に玉を撃ち続ける。
「(こよりちゃんの怒りが収まるまで隠れているか)」
「待ちやがれぇえっ」
 教室から逃げ出す功平の後を追い、こよりも廊下へ出た。



「2人とも、どこかへ行ってしまいましたから。図書館で大人しく本でも読んで待っていましょう」
 功平たちが戻ってくるまで時間を潰そうと、ちひろは図書館へ行く。
「何か面白い本でもあるといいんですけど」
 どれにしようかと本棚に並んでいる本を選ぶ。
「簡単に作れる魔法薬・・・これにしましょう」
 テーブルの方へ本を持っていこうとすると、聞きなれた声が近づいてくる。
「助けてくれぇええっ」
「逃げるんなぁああーー!!」
 功平とこよりの2人が、ぎゃぁぎゃぁと騒ぎながら図書室へ入ってきた。
「静かに本を読んでいる人もいるんですから騒がないでください」
 注意をまったく聞かず、2人はバタバタと走り回る。
「―・・・〜。静かにしてください・・・」
 我慢できずちひろは、とうとう怒りを爆発させてしまった。
「図・書・館・で・は・お・静・か・に・!」
 眉を吊り上げ、廊下に落ちていた飴玉銃を2人に向けて飴を放つ。
「待て、やめろっ!ぁあぁあっ!!」
 まともにくらった功平は、ボロ雑巾のようにぐったりと倒れた。
「はぁ・・・手のかかる人ですね」
 疲れたようにため息をついたちひろは、仕方なく倒れた功平を引きずり、保健室へ連れて行った。
 保健室に運んだ彼女は、功平をベッドの上へ寝かせてやった。
「(ちょっと構って欲しかっただけなんだけどな)」
 構って欲しいことくらいは伝わっただろうかと、こよりは彼の額を指でツンッと突っついた。
「こより・・・」
「ど、どうした!?」
「イルミンスールの校舎に見学へ行こう・・・」
「この、まだ言うかっ」
 彼の寝言に腹を立てたこよりがパチンコ玉をぶつけようとする。
「あっ、何するんだ!」
 忍び寄ってきた覆面を被っている男子生徒に、功平をベッドから引きずり降ろされ、怒りのあまりずかずかと突然現れた男子に近づく。
「この人を返して欲しくば、この残念なチェリーパイを食べてみろ」
 ヘリウムガスを吸い声色を変えている男子は、こよりに向かって功平を返して欲しければ、チェリーパイを食べるように言う。
「よくも功平さんを、あっ!?」
「フッフフフ・・・」
 謎のチェリーパイ忍者は、撃たれないように忍び寄り、ちひろの飴玉銃をすでに奪っていた。
「さぁ、どうする?」
「返さないというのなら、こいつをくらわせてやろうか」
 こよりがパチンコ形の光条兵器を向ける。
「そんな攻撃、先の先を読んで回避してくれる」
「―・・・っ」
「さぁ、食べるのか食べないのか?」
「不味いと分かっていて、誰が食べるかっ」
「そうか、この人がどうなってもいいのだな?」
「くぅっ・・・功平のためだ、仕方がない」
 忍者の格好をした彼からチェリーパイを受け取り、いっきに食べきった。
「うげ、何だこの味!」
 ブルーチーズのような香りが、こよりの口の中に広がる。
「食べきったな。ならこっちをやろう」
「そんな不味いの誰がいるかっ」
「安心しろ、こっちのは美味しいチェリーパイだ」
 受け取ったこよりは恐る恐る一口食べる。
「うっ、美味い!」
 さっきの激不味のパイとはまったく違う味に、驚き美味しそうに食べる。
「残りは功平が目を覚ましたら一緒に食べるか」
「その気持ち、忘れるな」
 彼はバニラの香りを残して立ち去ろうとする。
「沈むですぅ!」
「ふべっ!?」
 保健室を出ようとすると、室中へ飛び込んできたメイベルに男子が撲殺される。
「いい雰囲気を邪魔しようとした罰ですぅ」
「そ・・・そういうつもりじゃ・・・」
「まだ懲りないんですか〜?それじゃ、その身をもって体験してください♪」
「ただチェリーパイを・・・」
「フフフ♪」
 フライパンで殴られた彼は絶叫し、血の海に沈められた。
「あ、1人やったの?僕たちが来るまで、止めは待ってよ」
 セシリアが保健室のドアを開けて残念そうな顔をする。
「そうですわよ!」
 フィリッパも一緒に抗議の声を上げる。
「ごめんなさい、今度は気をつけます」
 倒れている彼を放置し、メイベルたちは保健室から出て行った。
「(このポジションを選んでよかったのか、悪かったのか・・・)」
 薄れゆく意識の中で佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)の脳内には、憂いと後悔のシーンが同時に流れている。
「さすがに凶器は、借りた羽子板でも防ぎきれるかどうか」
 こっそり柱の影から見守っていた熊谷 直実(くまがや・なおざね)が、床に倒れている彼を抱える。
「よく、頑張った。動けそうか?」
 声をかけてみるがすでに声すら出せず無言の状態だ。
「近くにいた女子に聞いたホワイトデーとだいぶちがうようだな」
 他校から来た2人の生徒を中をとりもったというのに、酷い仕打ちをされた弥十郎を見て、ホワイトデーというものが分からなくなってしまった。
「家まで運ぶとしよう」
「ありがとうチェリーパイ忍者。犠牲を覚悟で来てくれたんだな」
 こよりは一言そう声をかけると、彼がいる方へ戻っていく。
 直実に抱えられながら、こよりのその言葉はチェリーパイ忍者、弥十郎の心中にずっと響いていた。
 ありがとう・・・ありがとう・・・ありがとう・・・。



「ホワイトデー・・・。バレンタインデーに誰からも、もらえていないボクにとっては悲しい日です」
 廊下の長椅子に座り、皆川 陽(みなかわ・よう)はガックリと項垂れる。
「どうしたのさ?そんな沈んだ顔をして」
 傍にやってきたテディ・アルタヴィスタ(てでぃ・あるたう゛ぃすた)が彼を見下ろす。
 パートナーを見上げたとたんに陽は、泣き出しそうになる。
 薔薇学的美少年のパートナー、テディはきっとチョコレートを山ほどもらったに違いないと思い目に涙を溜める。
「いったいどれだけもらったんでしょうか。考えるだけでもう・・・ぐやじい!!」
 沢山もらえたんだ、そうに決まってるそうなんだろうと、椅子の上でじたばたと暴れだす。
「ど、どうしたんだよ!」
 いきなり暴れだした陽を見て、暴れている理由の分からないテディはただオロオロとするばかりだ。
「―・・・。(こうなったら、ここへ来る途中に貸してもらった飴玉銃で!)」
 何か思いついたのか、暴れるのをやめてピタと大人しくなる。
「ボク、今から隠れます。10秒たったら目を開けてください」
「かくれんぼをするのかい?」
「いえ・・・ずっとそこにいてください」
 テディが目を閉じた瞬間、すぐさま陽は柱の陰に隠れた。
「(友情という名の贈り物をくれてやります)」
 飴玉に“死”と書き、テディに銃口を向ける。
「(隠れるなんてきっと照れてるんだなぁ。まったく可愛いなぁ)」
 そんなことを心中で考えながらテディはニコニコと笑う。
「(どうせ美少年なんかに、ボクの気持ちが分からないんだ。いや、分かってたまるかぁあ!!)」
 陽は心中で叫びながら凶器の飴を放つ。
「これはっ!死がふたりを分かつまで、ということだね!!」
 こめかみを撃ち抜かれたテディは、床に転がる飴を見て嬉しそうに微笑む。
「ホワイトデー・・・それは愛する人に飴などの贈り物を贈る。それをくれるっていうことは僕を愛している証拠!?」
 全身で受け取った彼は、陽からの激しい愛と思った。
「飴がもったいないーっ」
 床に落ちる前に拾おうと透乃は鍋を構え、テディの身体を貫通する飴を受け止める。
「どれだけ拾う気ですか」
 重くなってきた鍋を抱えて陽子は、彼女の後を必死に追いかけている。
「後、10000個は欲しいっ」
「そんなに!?」
 透乃の胃袋は銀河並なのかと、驚きのあまり目を丸くする。
「まだまだこんなものじゃ、ボクの悔しさは晴れない!」
 隠れ身の術で物陰に隠れながら、陽はテディを撃ちまくる。
「撃たれれば撃たれるほど、僕への愛が伝わってくる気がするよ。あっははは♪」
 廊下に立ったまま微笑んでいる彼の原型は、もうすぐなくなってしまいそうだ。
「鍋の中が飴というより、血液でいっぱいですよ」
「よし、これくらいでいいかな」
 飴と鮮血の入った鍋を抱えて、透乃は陽子と共に階段を降りていった。
「その辺りも美少年だ、まだその足も、手も・・・!」
「(こんなに愛されているなんて知らなかったよっ)」
 陽は彼女たちが去った後もテディを撃ち続け、撃たれた彼の身体は飴玉が余裕で通り抜けられそうな穴が出来た。
 その後、思い違いしているラブパワーのおかげで、半日後に復活した。