リアクション
〜ウシナワレタモノ〜
「まったく、手荒なまねするのね」
「そうでもしないと、逃げ出すんだろ?」
早川 呼雪の言葉に、ニフレディルはため息をついた。その後ろでは、銃を構えたフィル・アルジェントが銃口を彼女の背中に突きつけながら歩いていた。川をそこそこ上ったところで、丁度良くユニコルノ・ディセッテが現れた。その後ろには、ルーノ・アレエとエメ・シェンノートもいた。赤髪の機晶姫は、その赤い瞳をまん丸に見開いて呟いた。
「……え、エレアノール……?」
「もう、だから私はエレアノールじゃなく、ニフレディルよ。赤毛のお嬢さん」
「本当に、聞き覚えはないのか?」
「ないわ」
きっぱりと言い放つ青髪の女性に、今度は早川 呼雪がため息をついた。ルーノ・アレエはニフレディルにおもむろに抱きついた。だが、彼女の表情はピクリとも変わらなかった。涙を流しそうになったルーノ・アレエの背中を、エメ・シェンノートが優しくなでた。
「……岩戸へ行きませんか? 役者がそろったなら、扉が開くかもしれません」
「なるほど」
「エレアノールさんの歌声なら、開くかもしれませんね」
そうこうしているうちに、ロザリンド・セリナから通信が入った。エメ・シェンノートは携帯を開いた。
「はい、どうかしましたか?」
『す、すぐに戻ってきてください! いろんな情報がわかってなんて説明したらいいのか……っ』
かなり興奮した様子の彼女に、ただならぬ雰囲気を感じ取ってエメ・シェンノートたちは川上にある岩戸を目指して走り出した。
岩戸は淡い光を放っており、なにやら魔法的な力を感じられる。ニフレディルの姿を見てそこにいた一同は驚いたが、それよりも、とあわてた様子のロザリンド・セリナがルーノ・アレエの手をとって口を開いた。
「大変なんです。明子さん達が攫われたらしいんです」
「攫われたって、誰にですか?」
「それが……ランドネア・アルディーン……今はアルディーン・アルザスと名乗っている、イシュベルタさんのお姉さんだそうです」
ロザリンド・セリナの言葉に、誰もが驚きを隠せなかった。ルーノ・アレエ自身も信じられないといった表情で立っていた。それを聞いていたニフレディルも、肩をすくめるだけで全く興味がなさそうだった。
「彼女の次の狙いは、ニーフェさんとルーノさんだそうです。早く銀の機晶石を回収して、学院に戻りましょう」
ルーノ・アレエは頷くと、ゆっくりと岩戸に進み出て歌を口ずさんだ。
歌を知るものは口々に歌い始める。そして、それを聞いていたニフレディルはメロディだけを口ずさみ始めたのを、早川 呼雪は耳にした。フィル・アルジェントはニフレディルにそっと耳打ちをした。
「もしかして、この歌を知っているんですか?」
「わからない……でも、とても懐かしいわ。もしかしたら、故郷の歌なのかもね」
歌が終わる頃、岩戸は音を立てて開き始めた。やはり通路になっており、その奥に足を踏み入れるため、視線で背後にいるものたちに許可を取った。誰も彼女の歩みを止めようとするものはおらず、シルヴェスター・ウィッカーを先頭に、岩戸の中へと入っていった。
ロートラウト・エッカートも武器を構えてその横に立ち、小柄ながらも大きな武器を構えて警戒を続ける。
「先程のと、つながっているといいな」
「大丈夫であります。霜月たちが行ったことでありますから、信じているであります」
エヴァルト・マルトリッツは、アイリス・零式を励ましながら、光源を確保して歩みを進める。ここからの入り口は明かりが弱すぎて一歩間違えれば躓いてしまいそうだった。しばらく歩みを進めていると、道中で如月 佑也やルカルカ・ルー、ニーフェ・アレエたちと合流した。ようやくつながったことに歓喜の声を上げるも、ひとまずはもう一つ封印された扉がないか調べてみる。
壁に触れながら歩いていると、違和感のある壁を見つける。ロートラウト・エッカートは嬉々とした声を上げてその壁をつつく。
「わぁ! 何か色が違うよっおもしろそー!」
「おい、何でもかんでも触って押すなよ」
「うんっ!」
「って、葵ちゃん!?」
エヴァルト・マルトリッツが忠告して間もなく、秋月 葵がその壁を押し、エレンディラ・ノイマンが身を挺して壁から離れさせる。だがとラップの類ではなったようで、その壁が開き、封印されたシャンバラ文字の書かれた岩戸だとわかる。その文字はもう光を帯びており、迷うことなくルーノ・アレエは歌を口ずさんだ。開いた扉の向こうは、かなり開けておりどうやら天井がないようで日の光が差し込んでいた。
そこにあるのは、アリア・セレスティたちが説明していた大きな杯に酷似したものがおかれていた。そこには、銀色に光を放つ機晶石が置かれており、ルーノ・アレエは恐る恐る手を伸ばした。
「はっ! こんな手の込んだところに隠すとはな。面倒な連中だ」
凛とした女性の声が響き渡る。聞き覚えのある声に、ルーノ・アレエは空を仰いだ。そこにいたのは、きっちりと髪を結い上げたランドネア・アルディーン……いや、アルディーン・アルザスの姿だった。
彼女が手をかざすと、岩戸の周りにいたものたちの足元に、黒いスライムが影から生まれて足を絡めとっていく。シルヴェスター・ウィッカーはルーノ・アレエをかばうようにして立ち、足元のスライムに攻撃を仕掛ける。ガートルード・ハーレックもそれに続いた。
ミューレリア・ラングウェイもすばやい動きでルーノ・アレエめがけてくるスライムを蹴散らしていく。乳白金のポニーテールが、見事なその動きの軌跡を描いている。
だが相手の目的は銀の機晶石とニフレディルのみらしく、スライムを使って銀の機晶石を自らの手の中に収め、ニフレディルを脇に抱えた。
「……バカだな。容器はこいつがいればいくらでも作れる。肝心なのは中身だ。人質は預かっておく。返してほしかったら、その身の金の機晶石を私に捧げることだ」
高笑いが遺跡内に響き渡ると、アルディーン・アルザスはニフレディルともども姿を消した。
悔しさで声を上げているものたちがいる中、ニーフェ・アレエがついに倒れてしまった。
お疲れ様です。
足りなかった部分の情報は、集められましたでしょうか?
今回は、ほとんどの方が情報収集に当てられていたので、次回は其の情報を生かして、『ルーノ・アレエを作った鏖殺寺院』と戦ってくださいませ。
集まった情報としては、
・ルーノ・アレエ、ニーフェ・アレエの機晶石交換は、ヒラニプラ家では行うことが出来ない。
・エレアノール=アンナ・ネモ=ニフレディル。元は優秀なアーティフィサーであった。
今は記憶を相当いじられ、過去の記憶はほとんど覚えていないようだ。
・エレアノールはディフィア村の出身で、村に伝わる子守歌を知っている。
その子守唄はディフィア村の遺跡の封印を解くのに使われる。
・イシュベルタ・アルザスはエレアノールの元で、ルーノ、ニーフェに限り見よう見まねで機晶石交換の技術を行うことが出来る。
ただし、それが確実に出来る人材はエレアノールのみである。
・ディフィア村の金葡萄は、地中で精製された機晶エネルギーが皮の表面に作用したため、金色に光っている。人体に影響はない。
・ランドネア・アルディーン=アルディーン・アルザス、彼女はイシュベルタの姉で、冷徹極まりない吸血鬼。
そして、エレアノールに技術を教えた本人らしい。
このような感じです。
クラスはあくまでも『参考程度』であって、実際に『機晶石交換の技術などは彼らがシャンバラ崩壊以前に身につけたもの』です。
プレイヤーの皆様がそのクラスにクラスチェンジをしても習得できる技術ではありません。どうぞ、ご了承ください。
攫われたPLの方は、この【金の機晶姫、銀の機晶姫】シナリオにおいてのみ、ですので他のシナリオは普通に遊ぶことができます。
どうぞご了承くださいませ。
今回初参加の皆様も、ありがとうございました。前回までのシナリオを読んでくださった方々が多く、大変うれしく思っております。
次回のご参加お待ちしております。
後編ですが、私事で5月にシナリオガイド発表という形にさせてくださいませ。
少し間が空きますが、お付き合いいただければ幸いです。