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リアクション
第11章 騒館と決意
「ゴーレムだったのねぇ、これ。じゃ管轄外よね。コックピット無いし」
「うぇぇ! それどころじゃないよ〜!」
不満そうな月実の声に、リズリットの悲鳴が糸を引いた。
にょっきりと手足を生やし動き出した鳴動館。
地響きを立て地面を陥没させ、周囲の木々達をなぎ倒しながら、その姿はゆっくりと空京の街へ向かって前進を始めていく。
「ぎゃあ!」「いやぁ!」「なぁぁぁぁぁぁ!」と館内にいた生徒達が次々に放り出されていく中。
「いっくわよっ!」
春美の声に、
「うん」
「はいっ!」
「まかせときなってっ!」
ディオネアの、みらびの、煌星の書の声が続く。
『せーのっ! デッドリーカルテットー!』
空中に投げ出された無理な体勢から。
それぞれによって放たれた氷術が、バニッシュが、火術が雷術が、あるいは鳴動館ゴーレムを怯ませ、あるいはその巨体を僅かに揺らした。
しかし鳴動館ゴーレムの足は鈍らない。
「くっそっ! どうすりゃいいっ!」
皇彼方はその様子に舌打ちをもらし、次の一手のために必死で頭を回す。
「記憶に思考……人の頭は便利な物ですが、アクシデントには意外と脆い物です」
アシャンテ・グルームエッジ(あしゃんて・ぐるーむえっじ)は小銃型の光条兵器『スィメア』から銃弾をばら撒きながら静かな声で彼方に呟いた。
「頭が追いつかないならば……とりあえずは行動することです。体に刻み込まれた経験は、自分を裏切りません」
ズゴンッ!
窓枠付近から伸びた腕が地面に向かって一撃。
巻き上がる土埃はとりあえずあっさり避けて、今度は剣を構えたアシャンテとやっと戦闘準備を整えた彼方が、そのたくましい煉瓦の腕に向かって斬撃を加える。
ゴォン。
重苦しい音と共に空気が濁まく。
うるさい小虫を振り払うように、鳴動館ゴーレムの腕が木片やらガラス片やらをまき散らした。
「なんとまあ……タフな話ですが……取り敢えずは止まってもらわねば。中心街に被害を出すわけにもいきません」
「そんなことはわかってるっ! だったら足止めどころの騒ぎじゃないっ! なんとしたってこいつを黙らせなきゃ解決しないだろうがっ!」
「落ち着きなさい彼方っ!」
突如。
短いスカートから伸びた足が彼方の脳天を直撃した。
「なっ――何すんだぁ!!」
「そんなのこっちのセリフだもんねっ! アシャンテちんに八つ当たりしてる場合じゃないでしょ!」
頭のてっぺんを押さえて振り向いた彼方に、小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)はむしろ食ってかかった。
「いーい? 熱いのと熱すぎるのじゃ意味が違うんだからね?」
「ああん? 俺は熱すぎたりしてないぞっ!」
「じゃあ冷えてる?」
「……」
「冴えてる?」
「……極端すぎるだろっ!」
「いーいから。あのでっかいの黙らせたいなら――」
言ってブライトマシンガンを構えた美羽は、その小柄な体躯とは対照的に、重厚な連弾攻撃を、鳴動館ゴーレムに向かって叩き込んだ。
「今は一手でも数多く! あいつにぶち当てなきゃ!」
美羽の言葉に、そしてふらりと巨体をふらつかせたゴーレムを見て、ピクリと彼方がその眉を動かした。
「お、おい! 今の、まだ撃てるよな? 足を狙って――」
スッと、焦りでも怒りでもない、真剣な眼差しでゴーレムを睨む彼方を見て、美羽が満足そうな表情を浮かべる。
「できるよっ!」
「なら集中だ。弾を集めてくれちょっと影になってるけど館の下の辺り」
「そーそ。上等上等っ!」
腰だめにブライトマシンガンを構え直すと、美羽は引き金を引き絞った。
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「こいつ自身が生きていたとはね――陽子ちゃん、よかったね。予想、大当たりだっ!」
拳を、引き絞って、振りかぶって、叩きつける。
「どこ殴っても当たるってのは気が楽だけど……どこ殴っても効いてるのかどうかわからないってのは……なーんか張り合いってもんがないなぁっ!」
勢いよく鳴動館ゴーレムの壁に穴を開け、霧雨 透乃(きりさめ・とうの)は不適な笑みを浮かべた。
「ちっ、ちっとも嬉しくありませんっ! でしたら、はやく逃げましょうっ!」
透乃に追いすがって足を動かしながら、緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)は必死の形相で訴える。
「なーに言ってんの、こんな面白そうなもの、放っておいてどうすんの?」
ずりずり、ずりずりと移動していく鳴動館の姿に、むしろ舌なめずりまでして、透乃は拳を固め、さらに振りかぶった。
「た、戦うんですか? むちゃくちゃですぅ!?」
「だーいじょうぶ、陽子ちゃんは、下がって歌っててよ」
「こ、こんな大きな相手ではあまり効果がありません〜」
「じゃあ、いいから普通に下がって見ててくれればいいよ。私が――打ち砕くからっ」
「う〜」
陽子は唇を曲げ、ひとつ呻いた後何かを決意するようにその拳に光条兵器を展開させた。
「放置は――お役に立てないのはもっと嫌です」
陽子のその言葉に、透乃は勝ち誇ったような表情を浮かべた。
「なんだかんだ可愛いねぇ、陽子ちゃん」
「う〜」
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はた迷惑に重厚なその一歩を踏み出す度に、その腕を振り回す度に。
鳴動館ゴーレムは自身の欠片を、館の建築素材をそのまま破片としてまき散らす。
「彼方君っ! 右っ!」
後の先の効果を頼りに彼方を誘導したアリア・セレスティ(ありあ・せれすてぃ)は、さらに頭上に向かってブライトグラディウスを打ち振るう。
一抱えはありそうな木柱が切断され、宙に木っ端編をばら撒いた。
「やる気になったのは良いけれど、後ろにも気をつけてよね」
アリアは警戒の表情をそのままに、背中合わせに彼方の背後に立った。
チラリとだけ視線を投げ、アリアの姿を確認した彼方は、すぐに鳴動館ゴーレムの足に向かって剣を振るった。
その関節部分を狙って。
動きを合わせてアリアが雷術を展開。
石片と煉瓦片が散る。
うるさそうに震える鳴動館ゴーレムから一端距離を取り、体勢を構え直す彼方。
「悪いっ! 助かるっ!」
額に汗を浮かべた彼方がアリアに礼の言葉を放った。
「礼には及ばないわ。クイーン・ヴァンガードは、二人行動が基本だもの」
アリアは淡々と、事実を言葉にする。
再び、風圧と衝撃の気配。
彼方は大幅にバックステップを踏み、それに合わせたアリアも、彼方の死角をフォローするように回り込む。
「……だからさ。助かる」
彼方は苦々しそうな表情を浮かべた。
「なるほど。でも、背中を預けるのが私では、本当は少々味気ないですよね?」
「はっ――?」
「彼方っ!」
何やら含みのあるアリアの言葉に怪訝そうに振り向きかけた彼方は、直後頭上から降った声に、首の動きを急停止。
ほとんどギョッとしたように頭上を仰いだ。
空飛ぶ箒から飛び降りたテティスが逆手に持った剣を鳴動館ゴーレムに突き刺し、そのまま一気に急降下。
壁土と石片、火花までも派手に散らして一本線を描きながら、地上へと着地してみせた。
「テティス!?」
信じられないという響きで、彼方が叫び声を上げた。
「うん。来たよ」
「来たよ、じぇねえよおまえ――」
自分の装備などその蒼空学園の制服のみで。
借り物だらけのテティスの姿。
その意味に気がついて、一瞬だけ、彼方が言葉を詰まらせる。
「あ、危ねぇからついてくんなって言ったのになんでかんでこんなこんな一番危ねぇとこ来てるなよ!?」
「危ないっていうから来たんじゃない」
「いいから下がってろって。大体おまえ、牢の中にいるはずの奴がフラフラしてていいわけないだろ」
クルリと背を向けた彼方に、怒鳴り返そうとして、しかし急に何かを思いついたようにテティスが表情を変える。
「へ〜。彼方の側って、そーんなに安全じゃないんだ?」
ピタリと彼方の動きが止まる。
「クイーン・ヴァンガードの皇彼方なーんて威張ったって、全然大したことないのね」
「なんだとっ!」
振り返った彼方の視線を、テティスは真っ正面から受け止めた。
ごく柔らかな、微笑みを浮かべて。
「もう決めたんだもん。そんな顔したって、引き下がってなんかあげないんだから」
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