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ホレグスリと魂の輪舞曲

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ホレグスリと魂の輪舞曲

リアクション

 その頃、蒼空学園。
「今日は、ボコられるような事は何もしてないぞ」
 訪問してきたケイラ・ジェシータ(けいら・じぇしーた)を迎えたラス・リージュン(らす・りーじゅん)は、ケイラの持つフェイスフルメイスにちらりと目を遣ると、努めて冷静な態度で言った。
 いや本当は、ただの私怨でとある人物に間接攻撃を仕掛けている最中なわけだが。ピッキングとか使って校長室に忍び込んで写真をパクったりもしたわけだが。
 まあ相手はホレグスリとかいう如何わしい物を作っているわけだし、写真を持って行ったピノは、つるぺたの1人としてイルミンスールに溶け込むだろうからその所業がバレることもないだろう。今頃はエリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)との接触を果たしているはずだ。
 バレたとしても自分は何も悪くない。ホレグスリで儲けるなど言語道断だ。
「だ、第一、お前にここ数日間3食クリームパンの俺の気持ちが分かるのか? ピノに食費が全部取られてんだ! 何故か同じパンばっかり買ってくるから……!」
 正当化の言葉を連ねながらも、しかし及び腰になるのは避けられない。
「なに言ってるの! そのピノさんが攫われたんだよ!」
「は?」
 突然出てきた物騒な言葉に、ラスは驚いて言い訳を止めた。
「聞いた話だと、むきプリさんがピノさんを人質にして空京に逃げたって! 元々は、蒼空学園に直接来るつもりだったみたいだけど……助けに行かなきゃ……! 討ち入りだよ!」
 ケイラは、イルミンスール青少年健全育成委員会の布告についてと、それでむきプリ君が拠点を変えようとしたこと。その途中でピノが写真を持っているのを見て、予定を変更したらしいことを一生懸命に話した。それはもう、一緒に来た御薗井 響子(みそのい・きょうこ)がいつの間にか消えていることにも気付かないくらいに。こう見えて、結構パニクっている。
 一方、響子はケイラの『討ち入り』言葉を聞いて、ラスの部屋に入って出陣準備をしていた。まずは、持っている武器を確認する。                      
「えっと……綾刀、忍びの短刀……後は……何かあったかな……」
 室内をきょろきょろと見回す。とりあえず武器を探してみよう、と響子は棚をぱかっと開けた。
「…………」
 その頃。
「ピノさんの危機だよ! パートナーであるラスさんが助けに行かなくてどうするの!」
 直接、ピノを助けに行こうかと迷ったが、普段ぶっきらぼうでも、彼はパートナーの事を大事にしているような気がしたので迎えに来た。実際、その考えは当たっていたようだ。話をしているうちに、彼の表情が次第に真面目なものへと変わっていく。
「ピノさんも、やっぱりパートナーのラスさんに助けに来てもらいたいと思ってるよ!」
 そこで、着信音が鳴り響く。電話に出たラスは、相手の話を聞いて顔を顰めた。
「ああ……知ってる。今、聞いた。まだむきプリとやらからは連絡は来てないんだな? ……分かった」
「……校長先生?」
 ケイラの問いには答えず、ラスは室内に戻っていく。そして程なく聞こえてきた声は――
「あっ、何やって……! わーーーーーーっ!」
 悲鳴じみた声だった。
「?」
 不思議に思って中に入ると、そこでは、響子が雑誌の束を抱えて冷蔵庫の前でプリンを食べていた。クリームパンの袋と、プリンの空き容器がいくつか床に転がっている。
「そのプリン……注文してから届くのに何日かかると思ってんだ!」
 変な所に金をかけているようだ。
「腹が減っては戦は出来ぬ……かと」
 もくもくとプリンを食べ続ける響子。
「ピノに怒られる…………いや、百歩譲ってプリンはいい! とにかくその雑誌を返してくれ!」
 響子が脇に挟んでいる雑誌は、まあぶっちゃけ、エロ本だった。
「本も投げる事で武器になるかもしれませんし……雑誌といえど侮ってはいけない……かと」
「そんなもん投げられてたまるかーーーーー!」
 ラスは何とかエロ本だけ取り返すと、準備をして廊下に出た。
「ねえ、自分も同行させてくれないかな? むきプリさんには少なからず縁があるし、メイスで…………あ、えっと、うん、微力ながら力になれると思うし」
 メイスでぼっこぼこにしたということは誤魔化して、ケイラは言った。
「? ……あたりまえだろ」
 そう答えると、ラスはさっさと先へ進む。
「ところでそれ……、とりあえず今は要らなくないか? すっげー気になるんだけど……」
「え、何? どれのこと?」
「メイスだよメイス……」
 ケイラは、フェイスフルメイス構えっぱなしということにも気がついていなかった。
「あ、これか」
 そうは言うものの、仕舞う気配は微塵も無い。
「そういえば、怪我はもう大丈夫?」
「へ? ああ……もう治ったけど……」
 外に出て、いざ空京へ――というところで、3人の横から飛び出てくる影があった。
「ざ・マナカ☆くらっしゅ!」
「おわっ!」
 春夏秋冬 真菜華(ひととせ・まなか)の体当たりを食らって、ラスは1メートル程ふっとんだ。
「やぁやぁラス様ご機嫌うるわしゅう? この度はごしゅーしょーさまですねっ☆」
 倒れたラスの上に乗ったまま、真菜華は言う。
「お前、何しに……! ま、まさか、わざわざそれを言いに来たのかっ? というか何で毎回体当たりしてくんだよ! 技名違うし!」
 『マナカ☆アタック』から始まって『マナカ☆アタック(改)』になり、『ざ・マナカ☆くらっしゅ』……そのネーミングセンスがうらやましいです。
「ふっふっふ、こんな美味しい状況、このマナカ様が逃すと思いますかぁ?」
 にやぁ、と笑うと、真菜華は立ち上がって拳を振り上げた。
「というわけで、舎弟より早くピノちゃんを見つけるよーーーー!!! ケイラも一緒に行くのだぁ!!!」
 スタンバイOKの小型飛空挺に乗って、真菜華はばびゅんっと飛んでいく。
「何だあいつ……」
 3人はしばしぽかんとし――最初に我に返ったのはケイラだった。
「自分達も行くよ!」
「舎弟……なんですね、ラス様は……」

 風の噂でホレグスリの危機を知った風間 光太郎(かざま・こうたろう)幻 奘(げん・じょう)ノヴァ・ノヴータ(のう゛ぁ・のう゛ーた)は、ツァンダの街中で会議をしていた。
「ホレグスリの……使徒参号のピンチ、アル! すぐに空京に向かうアルよ!」
「拙者としてもホレグスリは存続させたいでござるが……環菜校長がむきプリ君の要求をのむとは思えないでござるよ」
 力説する幻奘に、光太郎が言う。彼等の中央には鞄が1つ。この中には、遊園地でトラックに積み込んだホレグスリの一部が入っている。
「これだけでは愛の国の建国には足りないアル! 何とかして研究所設立を成功させるでアルよ!」
 光太郎はしばし考えるようにしてから、ぽんと手を打った。
「では、環菜校長の前で小芝居をするのはどうでござる?」
「小芝居?」
 ノヴァが首を傾げると、光太郎は説明した。
「お師匠様はむきプリ君達のフォローに行き、拙者は環菜校長に付いて要求の交渉をするでござるよ。拙者が間に入り、情を交えて環菜校長を説得して潤滑役となれば、うまく誘導も出来るかもしれないでござる」
「スパイ作戦アルな! わかったアル」
「ちょっと、僕が入ってないよ!」
「ノヴァ殿にはむきプリ君の護衛を頼むでござる。このホレグスリを使って、敵をホレグスリの虜にするでござるよ」
 そう言われて、ノヴァは俄然やる気を出して鞄を持った。
「よし! ホレグスリには非モテ男達の夢と希望が詰まっているんだ。ホレグスリを守るためなら僕は今日の昼寝とおやつを我慢して戦い抜くよ!」
「では、使徒壱号、行くアル!」
 鞄を持ったノヴァが、幻奘の後を付いていく。きちんとチャックがされていない鞄からホレグスリの瓶が落ちるが、それに気付くこともない。
「待ってよー! 幻奘様ー!」
 光太郎はバイクで、早速蒼空学園に向かった。

 ポテポテと道に迷っていた鏡 氷雨(かがみ・ひさめ)は、走るノヴァ達を見送ってきょとんとした。
「なんだろう? ……ってあれ? なにコレ?」
 落ちている小瓶を拾い上げる。とりあえず両手を挙げてぶんぶん降りながら、2人に向けて叫んでみた。
「落し物? おーい、落し物ー!」
 しかし、ネズミの着ぐるみも横に大きい少年も遠去かっていて、気付く気配は全くなかった。
「どうしよう……」
 とりあえず、持ったまま歩き続けることにした。
「えっと……ここ、どこだろう?」

 イルミンスールの森。南西。
「やだやだ離してよー! 痛い! 痛いってば!」
 むきプリ君は、ピノを拘束したまま世界樹からの脱出を果たしていた。そして、ピノは――彼が生徒達を蹴散らす際に結果的に盾になったことと、どさくさに紛れてわざとピノにぶつかってみようという輩がいたことによって、結構本気で怒っていた。お気に入りの服は乱れるし、この筋肉男はやけに馬鹿力だし、身体のあちこちが痛いし。
「ムッキー! せめて、持ち方を変えてあげなよ! それはさ、あまりにも何というか、かわいそうっていうか……というか、持ちづらくない?」
 両肩に大きな鞄を提げているむきプリ君は、あろうことかピノを『羽交い絞め』にしたまま運んでいた。両脇から持ち上げられがっちり固定され、むきプリ君にぶらさがっている格好だ。
「仕方ないだろう! 荷物があるからこうでもしないと運べないのだ!」
「いや、1個は持つし……」
「やだやだーっ! て……もうわかった」
 ぼそりと言うと、ピノはばたばたするのを止めて全身から力を抜いた。左脚を振り上げると、思いっきりむきプリ君のスネに蹴りを入れる。
「ぬぅをっ!!」
 ピノを離して、スネを押さえて転がるむきプリ君。肩からずり落ちた鞄に飛びついて、ピノは中身を漁る。
「で? で? ホレグスリって言ってたよね? どれ? これ?」
「ぶふぅおぉっ!」
 その時、後ろから悲痛な声が聞こえた。見ると、明日香がむきプリ君の鳩尾に素手で突きを入れている。一見しただけでは分からないが、使用スキルは疾風突きである。手加減なしである。筋肉の壁なんてなんのその。
「あーあ……」
 そう呟くものの、ぷりりー君にヒールをかけるつもりは毛頭ない。明日香も、悶絶するむきプリ君にはそれ以上構わず、さっさとピノに近付いた。
「あ、明日香ちゃん!」
 鞄をひっかきまわす作業を中断して、ピノが嬉しそうに手招きする。
「ピノちゃん、私が来たからには人質になってても大丈夫ですよ〜?」
「ホレグスリって、どっちか知ってる? ピンクのと水色のがあって、わかんないよー!」
「あ、それはピンクの方ですよ〜。効能はね……」
 そうして、ホレグスリの効果を明日香はつぶさに教えていく。
「ちょ、ちょっと待て……お前達……!」
「へえ! 面白そう! 試しに、あの人に飲ませてみよっかなー!」
「待って待って! そのままじゃつまんないよ!」
 ピノがむきプリ君を振り返ったところで、煌星の書が追いついてきた。
「もう! 調合・薬・実験ときてなんでボクを呼ばないんだよ!」
「いや、呼ぶも何も、初対面だよね……? 薬作れるの?」
 ぷりりー君が訊く。
「薬剤師だからね! 薬学については詳しいよ!」
「じゃあせっかくだから、新ホレグスリを作りましょうか〜。ピノちゃん、行きましょ〜。むきプリ君、この荷物ちゃんと運んでくださいね〜」
 明日香はホレグスリを3本取り出して、ピノと煌星の書に1本ずつ渡した。ちらりとむきプリ君にそれを見せて、森を進む。
「何だ……逃げないのか?」
 自分でヒールをかけたむきプリ君は、四つん這いの姿勢でぼけっとした。何だこの展開は。
「ぴのちゃんがひとじちにとられてしまったからむきぷりくんにしたがわなきゃー」
(棒読みだよ! 明日香ちゃん!)
(棒読みだね!)
(なんか、すごい棒読みなんだけど……)