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温室の一日

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温室の一日

リアクション



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(触手は陽子ちゃんに引き付けておいてもらえば良いと思っていたけど……)
 目の前にいるタネ子の近くからは、何も感じられない。
(……陽子ちゃん、口では嫌がるけど触手に犯されて嬉しそうだったよね。芽美ちゃんも私の近くにいたら、ちょっと攻撃して触手に放り込んでみようと思ったのに…)
 透乃は諦めがつかずに周囲を見回した。
(芽美ちゃんは間違いなくSだけど、自分がやられる側になったらどういう反応するか気になるんだよね〜)
 思わず透乃の頬がだらしなく緩む。
「……歌を歌えば私の方へ来るでしょうから、囮にとして触手を引きつけようと考えていたのですが……その必要は皆無でしたね……」
 陽子が寂しそうに呟いた。
「今回は残念だったね」
「はい……あ、いえいえいえいえ! 残念じゃないです!」
 慌てて否定する陽子に、透乃は苦笑した。
「えー、私は残念だったよ? タネ子ちゃんの触手、なかなか使えそうだから持ち帰るつもりだったし」
「持ち帰る…?」
「うん」
「何に使うんですか?」
「……ヒ・ミ・ツ♪」
 何かを企んでいるような笑顔の芽美。
 陽子は一歩後ずさった。
 一体何をすると言うのだろうか?

「──ケルベロスの餌って言えば、やっぱアレだよなぁ…」
 タネ子を見上げながら、悠が呟いた。
 触手が綺麗に無くなっているため楽に近づけるかと思いきや、やはりタネ子ヘッドに狙われては元も子もない。
 少し距離をおいて様子見していた。
「悠、射撃訓練を行います。タネ子の頭の根元を撃ち落としますので前衛担当願います。囮になって下さい」
 真理奈はそう言うと、スナイパーライフルを構えた。
「え? ちょっ……!」
「ほらっ、早く行ってください!」
 悠はタネ子の前に放り出された。
 銃弾を撃ち込まれても傷一つつかないタネ子。自分にわずかばかりでも衝撃を与えている要因を調べようと、タネ子はものすごい勢いで近寄ってきた。
「…う、うわ、うわわあわわわーーーー!!」
 悠の情けない声が響いた。
 足が……足が動かない!
 タネ子の口が大きく開き、まさに飲み込まれようとしたその時──
 丸が立ちふさがった! 触手怪獣合戦勃発だ!!
「い、いいぞ! 丸!」
 だが。
 悠の代わりに頭にかぶりつかれ、丸は身体ジタバタさせていた。
(あ、あれ? これはひょっとして……)
「危険……ですね」
 真理奈が、丸を助けようとライフルを間近でぶっ放したが、タネ子の表皮の固さは並じゃい。
 しかし。
 タネ子は丸を放した。
……どうやら丸が重すぎて持ち上げられなかったらしい。
 ほっと息を吐きかけた矢先──
 
 悠は食われてしまった。

「………」
 悠を飲み込み、天高く帰っていくタネ子の姿を、真理奈は驚くでもなく、ただ見つめていた。
「悠は……犠牲となったのだ」
 ノウマンが呟いた。
「あーぁ、行っちゃった……あれ取らないとご相伴に預かれないんだよね…」
 遥か遠くなったタネ子を見ながら、ノウマンの肩に乗った真由歌は命令を開始する。
「ふふん。このボクが手伝ってあげるんだ、光栄に思いなよ。──ノウマン、タネ子の頭を取って!」
「高い……遠い…無理…」
「………」
 真由歌は少しだけ手を伸ばしてみたが、そんなことをして届くわけもなく。
 小さくため息をついて、温室に差し込んでくる日の光に目を細めた。

 小夜子は悩んでいた。
 なんだか温室奥から黄色い声が聞こえてくる。
(もしかして……触手ではないのでしょうか?)
 だったらそっちに行きたい!
 ケルベロスの食料なんてここにいる人達に任せて、あの触手の世界に飛び込みたい!
 小夜子は、どうやってこの場から立ち去ろうかと頭をひねらせていた。
「ん? どうした? 何かあったのか?」
 イーオンが唸っている小夜子を見かねて、声をかけてきた。
「い、いえ! べ、別に……」
「そうか? ここは危ないから、俺の傍から離れない方が良いぞ」
「はぁ……」
 ますます移動出来なくなってしまった。
「イオ!」
 アルゲオが、少し頬を膨らませながらイーオンに詰め寄った。
「な、なんだ?」
「………なんでもありませんっ!」
 ぷいと横を向く。
 どうやらイーオンが小夜子に優しく接していることに、腹を立ててしまったらしい。
「ジェラシージェラシー♪」
 フィーネがアルゲオをからかった。アルゲオは更に頬を膨らませた。
(困りましたわ…動くことが出来ないですわ……無理、ですね…)
 小夜子はがっくりと肩を落とした。

 ヴァーナーは、タネ子の太い茎を登っていた。
 動きに反応することを考えて、ゆっくりとイモムシのように登っている。これでタネ子に襲われる心配は無い。
(あわてずに、ゆっくりです)
 汚れても大丈夫なようにスクールジャージを着たヴァーナー。
 もひもひと動いている姿は、まさにイモムシだ。
(あわてずあわて……)
「ぅひっ!?」
 自分の頭、数センチ上の茎に突然の穴が開き、中から汁が溢れ出した。
 ヴァーナーは何が起こったのか分からず、視線を泳がせた。
「あー! ごめ〜ん!」
 下で樹が叫んでいた。
 手にしている銃の狙いが、こちらに定まっている。
「だ…だいじょうぶですぅ〜」
 弱々しい返事をするヴァーナー。
 ヴァーナーの返事に気を良くした樹は、再び、久々に使えるようになった【シャープシューター】をぶっ放し始めた。
「首もとめがけて、撃つべし、撃つべし、撃つべし!!!」
「ひっ、ひぃっ、ひょっ!」
 そのたびにヴァーナーは首を縮めた。
「う? けろけろすしゃん、あたま、たべうんら〜。う? う?! こたも、あたま、たべられうの? …う!! こたもたべたいれす」
 くりくりの目が樹の顔を覗き込む。
「……分かった! 今取ってやるからな」
 触手に捕まる心配も無いし、あとはタネ子を落とすだけだ。食わせてやるぞ、コタロー!
「うらああぁああああぁぁ!」
 夢中でシューターを撃ちまくる樹を、コタローが
「かっこいいれす……」
 と、うっとり見つめていた。
 だが。
 ヴァーナーはその時、生死の境をさ迷っていた。

「──あれがタネ子ね! 不思議な食べ物ですって!? フフフ、全部あたし達が頂くわ!」
 雅が叫んだ。
「さあ行くわよ、タンタン!」
「ふわぁ……省エネのために動きたくないのですが…」
「ぐだぐだ言わない!」
「ワタシは分解出来る機晶姫なのですが、外せるようになっている間接の隙間に大きな隙間があるので湿気やアシッドミスト等に弱いのです。この温室の湿気はワタシにとって…」
「いっけええぇえぇぇぇえええ!!!!」
「え?」
 いきなり首をつかまれ、タネ子に向かって投げつけられた。
 周りの景色がゆっくり見える。
(まるで走馬灯のようです……)
 ぼんやりとそんなことを思いながら、どんどん近づいてくるタネ子に……

 ぱくっ

 案の定、食われてしまった。
「あ……」
 雅は頭をかいた。
 横には、首のない機晶姫の体が寂しく転がっていた……

「触手が無いから楽だな」
 紗月は十二星華プロファイルに言った。
「私自身、触手なんて振り回しているものにあまり近寄りたくないですし……少し離れた位置から氷術で援護させていただくつもりでしわ。捌ききれない分は、わたくしの方で凍らせてしまうつもりで」
「ちょっと残念だけど、まぁ本来の目的は別だしな。うっし、んじゃ気合入れて食前の運動といこうかー!」
「その言葉を待っていました、紗月さん」
 ルイが突然、真剣な眼差しで呟いた。
「……へ? 何を言っているんだ、ダディ」
「囮が必要無くなった今、リアと一緒にタネ子さんに登って頭を落として来て下さい。星華さんは私が見ていますから」
 有無を言わさない鋭い眼光。
「僕はブラックコートを羽織って気配を殺し、加速ブースターを全力噴射を行いタネ子さんの首根っこに移動しようと考えていたのだ。でも紗月君と一緒なら、ゆっくりと登って行ったほうがいいな」
「か、勝手が分からないから、よろしく頼むぜ」
 紗月がそう言うと、リアは早速タネ子によじ登り始めた。慌てて紗月も追いかける。

「……た、高い……」
 タネ子の茎に登った紗月は、改めて思った。
 めちゃくちゃ高い。
「皆、よくこんな所登るよなぁ……」
 もう二つの頭の茎の部分にも、何人かの人影が見える。
──突然。
 激しい振動と揺れ。 
「うわわわわ……タネ子が暴れたのだよ〜…!」
「やめろこらー!」
 リアと紗月は、振り落とされないよう必死にしがみついた。
「なんだよ、これ!?」
「……もしかして、こんなに大勢に登られたことがないから、くすぐったがっているんじゃないのだろうか? もしくは寄生虫と勘違いして振りほどこうとしているとか!?」
 パニック状態に陥ったその時。
「お〜〜〜〜い」
「え?」
 はるか下からルイの声。
「今からこれで根を傷つけますからぁ、耳を塞いどいて下さいねー!」
 持ち上げた斧の切っ先が日の光で輝く。

「……マジで?」

 慌てて耳を押さえようと茎から手を離した──