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【十二の星の華】籠の中での狂歌演舞

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【十二の星の華】籠の中での狂歌演舞
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第二章 動き初める

 重い扉は獄扉のようで。
「教えて欲しいんだ」
 元々が地下倉庫である故に、扉の上部にある小窓、そしてそれよりも小さい通気口が下部にあるだけであるが。辛うじて眉から上唇までが見える程しかない小窓から、匿名 某(とくな・なにがし)は中を覗き訊いた。
「ティセラの連絡先を教えてくれないか、誰か、誰か知ってるんだろ?」
 壁に弾けるの言葉が消えても、室内から声が発せられる事はなかった。
「ティセラに、パッフェルが捕まったって事を知らせてやりたいんだ。だから−−−」
「そんな事、知らせてどうするのです?」
 暗い室内に、その声を探した。声の主はシャーロット・モリアーティ(しゃーろっと・もりあーてぃ)であった。
「こちらから何の連絡をしなくとも、ティセラは気付くと思いますし、それに、彼女の組織を馬鹿にしない方が良いと思いますよ」
「あいつ等の手の者が、いろんな所に潜んでいるんだろ? それは何となく分かる、でもな、もし今も知らなかったとしたら… こんなに悲しい事はないだろう?」
「ですから、そんな事は−−−」
ティセラパッフェルは親友同士なんだろ? だったら−−−」
「頼む!!」
 の足元で、扉の前で。パートナーの大谷地 康之(おおやち・やすゆき)が土下座をしていた。
「頼む!! 確かにもう知ってるかもしれねぇし、知らなかったとしても、ダチ捕まったって聞いたらティセラは悲しむかも知れねえ…… けどな、それを知らねえまんま、
何にも出来なかったってなる方がもっと悲しいじゃねえかよ! だから…… 頼む! 協力してくれ!」
 叫ぶ声は通気口からも室内に侵入したし、姿は見えない通気口にも、土下座する康之の影は見えていた。その必死さが、まっすぐな所が伝わり伝い、それが宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)の口を開かせた。
「知らないのよ、私たちも」
「知らない? そんな馬鹿な」
「嘘じゃないわ。ティセラ様どころか、パッフェルのだって知らないわ」
「そんな、それじゃあ今までどうやって」
「君たちが勝手に嗅ぎ付けて群がっていた、という事かぃ?」
「ノーム……」
 いつの間にかに姿を現したノーム教諭が笑み寄り来ていた。
「もし、そうだとしたら、君たち、パッフェルに都合良く使われたんじゃないのかぃ?」
「貴様っ!」
「そんな事ない!!」
 教諭にぶつけるように騎沙良 詩穂(きさら・しほ)が扉を叩きつけた。小窓越しに見下ろす目を正面から睨み上げていた。
「パッフェルちゃんは、詩穂たちをそんな風に見てなんかない!」
「そうかぃ? まぁ、パッフェル自体がティセラの操り人形みたいな所があるからねぇ、人形は人間を使ったり出来ないか…」
「黙れ! パッフェルちゃんは人形なんかじゃない!!」
 血で滲む詩穂の拳を、シャーロットの手が包み止めた。
「幾ら挑発されても、私たちは何も話しませんよ」
「パートナーたちの水晶化を解いてあげよう、と言ってもかぃ?」
「…… パッフェルが、目を覚ましたのですね?」
「そうなのかっ!!」
「さぁ? どうだろうねぇ?」
 笑みを増す教諭が瞳に映り、シャーロットは嘆息を吐いた。
「今学園に居て、青龍鱗の力で水晶化を解けるのはパッフェルだけのはずです。この場でそんな交渉を持ちかける事自体、パッフェルが目覚めたからに他ならないはずです」
「青龍鱗を使わずに解除する方法を私が見つけた、または青龍鱗の真の力を引き出せる者が間もなく到着する、それから、パッフェルが目覚めたと仮定して君たちに取り引きを持ちかけている。色々と、くっくっくっ、考えられるねぇ」
「ああ゛ぁ〜 うるせぇうるせぇ」
 硬い床に横たわったまま、トライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)が声を荒げた。
「何を言われても俺たちは何も話さねぇよ。さっさと帰りな」
「パートナーたちが固まったままでも良いのかぃ?」
「お生憎様、あいつらだって、取り引きの材料にされる位なら、固まったままの状態を選ぶはずだぜ」
「美しいねぇ、実に美しい友情、いや信頼かねぇ……………… しばらくそこに居たまえよ」
「へっ、望むところだ」
 あっさりと背を向けて教諭は去っていった。康之も教諭に引き連れ出されてしまった。
 地下倉庫には、牢獄のように不気味な静けさが再びに漂い始めたようだった。


 階段をのぼり来るノーム教諭を、清泉 北都(いずみ・ほくと)クナイ・アヤシ(くない・あやし)が出迎えた。
「どうだったのかなぁ?」
「ん〜? みんな善い子たちだったよ、全員私のモルモットにしたい位だ、くっくっくっ」
「モルモットって……」
 これを真剣に言ってるからなぁ、この人は…。北都に並んで、クナイが教諭の背に言った。
「やはり、水晶化していないのは」
「あぁ、地球人は皆ピンピンしてたよ、憎らしいくらいにねぇ」
「そうですか… やはり地球人は水晶化できないという事でしょうか」
「ちょっとクナイ! 勝手に話を進めないでよぅ」
 小さく口を尖らせる北都に、クナイは水晶化を成すパッフェルの「赤い光」についての推測を論じた。
「初めは剣の花嫁だけ、次はヴァルキリー、そして最後はこれまで効果の無かった機晶姫まで水晶化しています。水晶化の光には、レベルや程度があると断定しても良いという事です」
「当然、彼女は使い分けていたんだろうねぇ、初めは剣の花嫁だけを敢えて狙っていたという事になる」
「という事は… 機晶姫を水晶化した光が一番強力… って事だよね?」
 機晶姫をも水晶化した「赤い光」は、発狂に近い状態で放たれた、しかも大砲のように巨大なものだったとも報告されている。
「で… 教諭はどうするつもりなの? 水晶化の解除方法が分かったって、嘘だったんでしょう?」
「そうなんだよねぇ、どうしようか、ねぇ?」
「試しにっ、教諭が青龍鱗でユイードさんの水晶化を『愛の力』で解除出来るかやってみたらどうかな」
「……………… 却下だな」
「えっ! ちょっ、教諭っ!」
 歩む速度が格段に上がった。小走りをして北都はようやくに追いつく事が出来た。
「ちょっ、教諭?」
「愛の力は別にして、青龍鱗は私も使ってはみたんだよ、以前にねぇ。でも、何も起こらなかった、当然、彼女にも変化は無い」
 振り切られても困る。北都は小走りながらにハンカチを教諭に手渡した。禁猟区が施してあるから、何かあってもこれで… だって、はぐれちゃいそうなんだもん。
「ふぅむ、やっぱりパッフェルに使わせるしかないかねぇ。くっくっくっ、骨が折れそうだ」
 いつもの声が余計に不気味に感じた。背筋を伸ばした教諭が、颯爽と歩き過ぎてゆくのだった。