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リアクション
第4章
洋館の近く、少し隆起して高くなっている場所に皆は居た。
「はわ……4体もいるよ」
エリシュカ・ルツィア・ニーナ・ハシェコヴァ(えりしゅかるつぃあ・にーなはしぇこう゛ぁ)は小型飛行艇を使い、洋館そばの上空に来ていた。
隠れ身で姿を隠しながら、双眼鏡を覗きこむと、そこには薬屋のおやじシャガと、リュシエンヌ、そして4体のキメラが入口を固めているのが見えた。
そっと、皆のところへと戻って行く。
地面にゆっくりと降り立った。
「あぅ……入口にはキメラが4体、それと薬屋のおやじって言われてる人と、もう1人女の子がいたよ」
状況説明が終わると、エリシュカはローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)の隣へと移動した。
「お疲れ様」
そんなエリシュカをローザマリアが労う。
「私はここから射撃で援護させてもらうわ。キメラ達に攻撃する人が派手に囮になって洋館への突入が良いと思うのだけれど、どう?」
ローザマリアの提案は皆が考えていたようだ。
黙って頷く。
役割分担もすぐに決まり、突撃となった。
■□■□■□■□■
「ホイップを返してもらいにきたよ!」
そう同時に言って、シャガ達の前に最初に出たのはリアトリス・ウィリアムズ(りあとりす・うぃりあむず)とベアトリス・ウィリアムズ(べあとりす・うぃりあむず)だ。
他のみんなも後ろにいる。
「やっときたか……ティセラ様に良いところを見せる為に死んでもらう」
「ティセラに良いところを見せるのはルーシーよ!」
どうやらシャガとリュシエンヌの間で火花が散っているようだ。
2人ともティセラを想うあまりの行動だ。
「とにかくっ!」
2人の声がハモるとまた互いの視線からバチバチと火花が出る。
「ここから先は行かせん!」
おやじはすぐさま、キメラ達に突撃の指示を出した。
リスに蛇の尻尾、猪にサソリの巨大ハサミ、鹿にコウモリの羽のキメラが動きだす。
さらにシャガはお手製爆弾の準備も万端だ。
リュシエンヌもシャガから借りたキメラとともに攻撃に出た。
黄金の鉄の塊で作られたゴーレムが動いた。
「まだ石化されているかもしれない……お姫様に目覚めのキスでもしてこい」
スプリングロンド・ヨシュア(すぷりんぐろんど・よしゅあ)がそうエルに伝えると、エルはしっかりと頷いた。
「GOネッ!」
ブライアン・ヴェルモンド(ぶらいあん・べるもんど)が叫ぶと一斉にキメラと戦う人達が行く手を阻み、洋館への突入をシャガ達は許してしまった。
戦闘が開始された。
■□■□■□■□■
リアトリス、ベアトリス、スプリングロンド、ブライアン、栗の前に立ちはだかったのはリスに蛇の尻尾のついた小柄なキメラだ。
小柄とはいえ、普通のリスよりはだいぶ大きい。
中型犬くらいの大きさはあるだろう。
蛇の尻尾は生きているらしく、にょろりにょろりと動いて、顔を5人の方に向けて舌を出す。
「まずは私が……」
(向かわなきゃいけない感覚があったのは……この子達がいたからですね)
栗は心の中で呟くとキメラ達を優しく見つめると、息を吸い込んだ。
栗の口から優しく流れてきたのは悲しみの歌だ。
辺りに響き渡り、対峙しているキメラ以外にも効果はあったようで、意気消沈し動きが鈍くなっているのが分かる。
「余計なことをするなー!」
シャガは叫びながら栗へと爆弾を投げつける。
爆弾は宙で弧を描き、栗のそばへと落下してくる。
悲しみの歌をまだ歌っている途中で、身動きが取りづらい。
リアトリスとベアトリスが走り出し、2人ともブライトシャムシールを構える。
お互いに考えていることは同じのようだ。
しかし、もう少し届かない――
瞬間、銃声が轟いた。
爆弾が空中の一番高いところにある時に、銃弾に当たり爆発を起こした。
それは遠くからの援護射撃だった。
ローザマリアが撃ち、エリシュカがその隣で双眼鏡をのぞき込み観測手をしていた。
リアトリスとベアトリスはローザマリア達の方へと向くと親指を立てて、サインを出した。
「くぉの〜! これでも食らってろ! それと……早く攻撃してこい!」
シャガは爆弾を10個いっぺんに投げつけ、キメラのお尻を叩いて、攻撃を促した。
今度は間に合う。
リアトリスはフラメンコを踊りながらブライトシャムシールを構えると破邪の刃を発動させた。
ブライトシャムシールから光が放たれ、爆弾に当たっては爆発させていく。
ベアトリスもフラメンコを踊りながら、火術で作った剣を投擲して爆弾に当てていく。
全ての爆弾が爆風で起こした土煙を残し消えた。
すると、その土煙をかき分け、リスと蛇の尻尾のキメラがブライアンに突っ込んできた。
動きが鈍くなっているとはいえ、素早い。
「KIKENネ!」
禁猟区を使用していたブライアンは叫ぶと同時に後ろへと飛び退いた。
今までブライアンがいた場所に蛇が噛みついてきていた。
その歯からは紫の煙がうっすらと上がっていた。
噛みつかれていたら毒に侵されてしまっていただろう。
「大人しくしてもらおう」
スプリングロンドは攻撃が決まらなかったキメラの背後を取った。
「だ、ダメ……殺さないで!」
その様子を見た栗が思わず叫んだ。
栗の声が届いたのか、急所の喉元を噛み切ろうとしていたスプリングロンドは、厄介そうな蛇の尻尾の根元を食いちぎった。
キメラは悲痛な叫び声を上げると、どこかへと走り去ってしまった。
「私、追います!」
「危ないよ!」
リアトリスとベアトリスの言葉は聞こえていないのか、栗は走って行ってしまった。
(あんなに苦しそうな子を放っておけないです)
栗は走りながら自分の胸を押さえた。
■□■□■□■□■
ルイ・フリード(るい・ふりーど)、リア・リム(りあ・りむ)、シュリュズベリィ著・セラエノ断章(しゅりゅずべりぃちょ・せらえのだんしょう)、晃月 蒼(あきつき・あお)の前にいるのは猪にサソリの巨大ハサミを持ったキメラだ。
(ワタシは……そばにいたにも関わらず、ホイップさんを助けることができませんでした……。今回は一人の武人として戦わせてもらいます)
「イルミンスール所属ルイ・フリード……いざ参ります!」
ルイはいつも絶やすことのない笑顔が消えている。
なかなか見ることが出来ない真面目な表情だ。
その顔にセラエノ断章は一瞬驚いていたようだ。
「温泉には連れて行ってもらえず……迷宮ではルイのゴブリンソングを聞かされて……ついにはホイップが石化されて誘拐とか……もういい加減ストレスで爆発しそうだよ! 八つ当たり、行くよ!」
リアはキメラは眼中にないようで、シャガの元へと一直線に向かって行った。
シャガは気が付いて、すぐにキメラをけしかけさせる。
キメラは猪のスピードで突進をかましてきた。
「防御は任せてね!」
蒼はルイ達の前に出ると紋章の盾を構え、光精の指輪を使用した。
指輪から出た人口精霊がキメラの目の前で点滅した。
驚いたキメラは足が遅くなる。
威力が弱まった突進を紋章の盾で抑える。
「なんか気持ち悪い姿だけど、見たことなくて面白いかも」
そんなことを言いながらセラエノ断章は動きの止まったキメラに火術と雷術を撃ちこみ、それから足元を氷術で凍らせた。
キメラは突進が出来ないことを悟ると、自分の背中についている巨大なサソリのハサミを前に突き出し、蒼の持つ紋章の盾の内側に直接攻撃を仕掛けてきた。
「危ないなぁ〜」
攻撃が当たりそうになり、後ろに飛び退いた。
洋館入口付近ではシャガに食ってかかっているリアの姿が見える。
「ストレス入りの弾丸を全て受け止めろ!」
機晶レールガンをぶっ放し、シャガに当てようとする。
しかし、シャガが乱れ投げてくる爆弾が邪魔でなかなか当てられない。
爆弾も処理しなければ自分が危ないからだ。
まだまだ決着がつく様子はない。
キメラが未だ氷で足止めされているのを確認して、ルイが走ってキメラに近づく。
そのまま、拳を構え――腹に打ち込んだ。
鈍い音が当たりに響く。
その拳を止める事なく、2撃、3撃と加えていく。
10撃程、与えたところでキメラの氷が解けてきた。
「ルイ! 離れて!」
セラエノ断章が言うと、すぐさま離れた。
キメラは前足で地面を何度も蹴り、突進しようとする。
だが、それは叶わなかった。
「魔力全開一発大きいの行くよ」
セラエノ断章の手からサンダーブラストが放たれた。
キメラは胴体ごと地面に落ちた。
それでもまだハサミを使って攻撃をしてこようとする。
「合成獣……これまでにどれだけの命が失われたかは知りません……背負った命をこの手で奪う事になるのでしたらワタシが貴方の命を背負いましょう」
ルイはそう言うと、頭蓋に重たい一撃を食らわせた。
キメラは永遠に沈黙することになった。
「ルイ、頑張ったからご褒美に一日頭を撫でる権を頂戴!」
セラエノ断章の瞳はキラキラと輝いていた。
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