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カーネ大量発生!

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カーネ大量発生!

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終章 カーネの庭


 カーネ騒動が鎮静化すると、カーネに食べられていたお金は持ち主の手元へと戻っていった。 その原理がどういったものかというのは定かではないが、イルミンスールの魔法薬となれば、それ相応の魔法によるものなのだろう、と納得せざる得なかった。いずれにしても、カーネたちは消え去り、蒼空学園に平穏が戻ったのである。
 カーネを可愛がっていたミルディアたちは、それぞれがカーネの消失に落ち込んでいる。しかし、もしかしたら彼女たちは、心のどこかでカーネが消えることを予期していたのかもしれない。
「消えてしまいましたわね……」
「うん。そんなんじゃないかな? って思ってたけど、ちょっとショックだな……」
 真奈の悄然とした声に、ミルディアは答えた。その顔は、消えてしまったカーネを思い、悲しげである。いつだって、ペットがいなくなってしまうのは悲しい。それでも、優しいからこそ、彼女たちはそれを悲しむ心を持っている。そして、沈んでいるだけでは、いなくなったペットに顔向けできないということも、知っているのだった。
「ボクのフーモちゃんが~、こんどはきっとずっといっしょなんです~」
 しくしくと泣きながら、フーモのお墓を作るヴァーナーであっても、きっと、それは分かっているはずだ。
 ヴァーナーはひとしきり泣ききった後で、フーモの残した硬貨を抱きしめた。
そして、ここにも悲しむ者がもう一人。
座り込む千種の前には、それまでもぐもぐと百合が食べていた硬貨が落ちていた。その顔は、いつも通りの無表情のようであったが、傍にいる郁乃には、沈んだように落ち込んでいることが分かっていた。
「あの子もきっと、別れるその時まで、幸せで楽しく過ごせてたよ」
 そっと、千種の肩に触れて、郁乃は言った。その声は、まるで母親のように穏やかで、千種の心を少しだけ楽にしてくれる。
「そう、ですね」
 千種は笑みを浮かべた。
まだ、ぎこちない微笑みだったが、それが自分の中の悲しみを癒してくれるような気がした。


「無事にお金が戻ってきてよかったよねー」
「いや、まぁ、そうなんだけどな」
 エヴァルトは楽観的に言うローロラウトに、くたびれた返事をした。
というのも、確かにお金は戻ってきたが、一歩間違えれば、今頃、あの綾乃とかいう女にお金が奪われていたかもしれないからだった。問い詰めようとも思ったが、いつの間にかいなくなっているし、残されていたのは「志方ないね」と書かれたメモのみ。うーむ、なんて素早い奴。
「とりあえずはお金が無事だったのだ。それで良しとしようではないか」
「……そうだな」
 エヴァルトはデーゲンハルトの言葉に頷く。
あ、でもよくよく考えたら、今回の騒動でロートラウトの修理費がまたかかるんじゃ……。恐る恐る振り返ると、ロートラウトの足は走り回りすぎて傷つき、ブースターも消耗しているようだ。
結局、こうなるのか。エヴァルトはがっくりとうなだれながら、蒼空学園を後にした


さて、お気づきの方もいらっしゃるかもしれないが、夢安の奪ってきた「カーネのなる木のもと」はどこにいったのか。それはきっと闇の底――というわけでもなく、ドサクサに紛れて手に入れている者たちもいるのだった。
「ようやく手に入れられたねぇ」
「上手く作れればいいんですが……」
 佐々木と斉民要術は「カーネのなる木」と書かれたビンを見ながら、感慨深げに呟いた。二人の目的はもちろんカーネのなる木を作り、機晶石を好むカーネを作ることであった。
さぁ、レッツラ薬学! 佐々木はビンの蓋を取った。
「あれ?」
 ――しかし、ビンの中には何もなく、ただ一滴だけ、僅かに残っていたものがポチャンと落ちただけだった。
「えーと、あねさん、どういうことで……」
「……つまり、カーネがあれだけ発生したのは、ビンを全部使い切るぐらいの量を調合したのが理由……?」
 斉民要術が、思い至る推理を述べた。
なるほど、それなら、あの騒動の根本的な原因も分からなくはない。
「はあああぁぁ……」
 ビンの中身は全てなくなり、後に残されたのは、佐々木と斉民要術の溜め息だけだった。


「このやろうー! ここから離せー! こらー、離せってのこの。……すみません、離してください。おねがいします。一生の願いなんです。プリーズ、ねぇねぇ、ちょっと。ヘルプミー!」
 起こったり泣いたり叫んだりと忙しい男、夢安京太郎は縛られていた。
「まったく、五月蝿い男」
 それを見上げる御神楽 環菜(みかぐら・かんな)は、彼の愚行に呆れ果ててため息をこぼした。
今回はなんとか落ち着きを取り戻したものの、解放したら、いつまた何をしでかすか分かったものではない。十分に反省するまでは、しばらく放置するつもりであった。
「はい、お疲れ様です……」
「あら、ありがとう」
 そんな環菜に近づいてきた刀真が、紅茶を入れたティーカップを差し出す。その傍らには、月夜も一緒だ。
二人の淹れてくれたお茶を校庭の隅で優雅に飲みながら、環菜は夢安が縛りあげられている樹木を見上げた。
 ――それは、頬にキズを持ったカーネが、枝とぶつかりあって生まれた木。決して、消えることがなかった『カーネのなる木』であった。
 校庭の隅で生え広がったカーネのなる木は、一匹のカーネを生み出した。それは、何の変哲もないカーネであり、恐らくは、本来のカーネのなる木が生み出すはずだった存在。
「まったく、調合を間違えるんだったら、最初から盗まなければよかったものを……」
 いまだにギャーギャーとわめき散らす夢安を見て、環菜は呟いた。
「環菜、報告書とか作った方が良い?」
 月夜は環菜に近づいて、首を傾げながら言った。
「その必要はないわ。今回、皆がよくやってくれたことは分かってる。それだけで十分よ。それに、うちの生徒が起こしたこんな失態、文書に纏めるなんて絶対嫌だもの」
「環菜嬉しい? 喜んでくれる?」
「ええ、もちろん」
 環菜は、彼女にしては珍しいであろう、優しそうな微笑を浮かべた。
「今回ばかりは、色々と皆に働いてもらって、感謝してるわ。本郷くんは無事にいろんな人に根回してくれてたみたいだし、真田さんは、ああ見えて頭が切れるのね。……ああ、あと、あの、名前はよく覚えてないけど、最後に屋上で木の枝を回収してくれてた子――」
「ああ、影野君ですね」
「あの子がいなかったら、このカーネも消えていたわけだしね……」
 環菜は、傍らで鳴いているカーネの顎を撫でた。
「刀真たちにも感謝しているわ。いつも、ありがとうね」
「……校長としての命令じゃなくて、環菜自身のお願いなら、俺たちは何でも聞きますよ」
 刀真は決然とした微笑を浮かべた。
環菜は口を開かなかったが、微笑でそれに答えた。そう、こんな、自分を自分として見てくれる彼らだからこそ、私はこうして、笑うことが出来る。
「そういえば、このカーネはどうするんですか?」
「それはもちろん、木も含めて、うちで管理するわ。幸いにも校庭の隅で育ってくれたし、邪魔にはならないでしょう。それに、イルミンスールの魔法薬がこっちで成果を上げたなんて、愉快じゃない?」
 こうして、カーネのなる木は学園で管理されることとなった。お金がかかりそうな気がしないではないが、カーネは一匹であるし、学園は金持ちである。きっと、心配はないだろう。


これからきっと、居眠りするカーネがいる校庭の樹木は、学園の憩いの場となるだろう。カーネも、生徒たちと幸せな時を過ごしていくはずである。
なに、心配はいらない。管理するのは蒼空学園であり、環菜様だ。彼女に逆らおうなど、地獄へのキップを買うのと同じなのだから。
「カァ~♪」
「たすけてええぇぇ……」
 そして、放置されたまま忘れ去られた誰かの声が、夜の校庭に木霊していた。
 

担当マスターより

▼担当マスター

夜光ヤナギ

▼マスターコメント

シナリオにご参加くださった皆さま、お疲れ様でした。夜光ヤナギです。
今作はコミカルに仕上げることを目的として執筆しましたが、いかがでしたでしょうか?

もともとは、カーネのなる木を消滅させて終わりの予定でしたが、前回同様、アクションの秀逸さにやられて、エンディングを変更するということに……。
これもそれも奇抜なアクションを送っていただける皆さまのおかげです。
本当にありがとうございます。

蒼空学園の校庭で管理されることとなったカーネとカーネのなる木。
いずれまた、どこかのシナリオで出てくるかも……、しれませんね。
では、また機会がありましたらお会いしましょう。
ご参加ありがとうございました。