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【2020授業風景】萌え萌え語呂合わせ日本の歴史

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【2020授業風景】萌え萌え語呂合わせ日本の歴史

リアクション

 
 
『魔法少女隊スノーファイブ、只今参上!!』

 五人の声が轟き、数千の軍勢に立ちはだかった五人の武士、もとい魔法少女が姿を現す。
 赤色の爆煙を背負った、スノーファイブのリーダー、『白魔将軍』朔。
 青色の爆煙を背負った、スノーファイブの『氷結砲手』、リア。
 緑色の爆煙を背負った、スノーファイブの『雷電操手』、セラ。
 黄色の爆煙を背負った、スノーファイブの『最速の金色獣』、スカサハ。
 そして、桃色の爆煙を背負った、スノーファイブの『紅一点』、ルイ。
 
「何で? どうして? どこでワタシがこんなことになったのですか!?」
 向かってくる兵士を鍛え上げた筋肉を躍動させて殴り倒しながら、ルイが慟哭の嘆きを漏らす。
(ルイ……強く生きろ。これもきっと戦の掟なんだ……)
 ルイの背中をリアが見つめ、ふっ、と視線を外す。次に向けた視線の先には、なお果敢に向かってくる東軍の兵士の姿。
「アイスカートリッジ、装填!」
 宣言したリアの両肩に、氷結属性の魔力を秘めた弾が、ミサイルポッドのように装填されていく。
(やるからには派手に行く! 家康の鼻を明かして、雪だるま王国の名を天下に知らしめる!)
 全ての弾が装填し終わったことを感じ取ったリアが、迫り来る兵士へ身体を向け、発射姿勢を取る。
「いけーっ!!」
 片方から6発ずつ、計12発の弾が発射され、それらは弓なりの軌道を描いて炸裂し、辺りを氷結の世界へと変貌させる。直撃を受けた兵士は見事な氷像と化し、直撃を免れても極低温の空気と凍り付いた地面に行動を阻害され、進撃など到底ままならない。
「こうなったら、一刻でも早く、とにかく早く、全力で終わらせなければ!!」
 一人ルイだけがその氷雪の中を駆け抜け、隊の長らしき武士へ鉄拳を浴びせる。長を討ち取られた隊は総崩れとなり、散り散りになっていく。
「ルイ、可愛いからもう少しそのままでいたらどうかな? さ、セラも今日が魔法少女デビューだよ! 戦場を雷のように駆け抜けてやるんだ!」
「スカサハは朔様が戦うのなら、ご一緒に戦うまでであります!」
 リアの砲撃が飛び交い、混乱の極みにある軍勢の中を、箒に跨ったセラとブースターを点火させたスカサハが駆け抜けていく。二人の姿を目の当たりにして、逃れる術はなかった。人間が落雷に対して無力であるように、彼らもまた雷と化した彼女たちには無力であった。
「あはははは、サンダーブラスト放射〜!」
「やっふぅ〜!! 最速と必殺のドリル魔法を食らうであります!」
 セラが電撃を集団に放射し、無数の兵士を痺れさせる。電撃を免れても、スカサハの電撃を纏ったドリルの一撃で吹き飛ばされ、戦闘不能に陥らされる。
 未だ被害皆無の雪だるま王国に対して、東軍の被害は増すばかり。殴り倒され、凍らされ、痺れさせられドリられ、その数は千や二千に留まらず、一万の壁を突破しそうな勢いであった。

(な、何ということだ……このままでは……)
 到底起こりえないはずの事態に、家康は今すぐ逃げ出したい衝動に駆られる。だがここで逃げては、既に西軍の本陣が崩れているにも関わらず逃げたとして語り継がれるはずであり、それは天下統一を悲願とする家康にとって絶対に避けたいものであった。
「申し上げます! 敵の武士が、我が方に一騎討ちを申し出ております!」
「何、一騎討ちであると……?」
 報告によれば、魔法少女の一人が軍を飛び出し、軍を代表するものとして一騎討ちを望んでいるとのことであった。
(敵の戦力や計り知れぬが……ここで討ち取ること叶えば、被害も抑えられようか)
 このまま指を加えて成り行きを見守っているよりは益がある、そう踏んだ家康は配下の本多忠勝を向かわせる。馬を駆り戦場へ繰り出す忠勝を迎えるは、やはり馬に跨り、槍を携えた朔。
「全ては、護るべき王国と女王陛下のために……!」
 兜の奥から覗く瞳は、真っ直ぐに敵の猛将、忠勝を見据える。
(見かけは女……否、彼者もまた、背負う物の為に武を振るう武士……なれば手加減など無用)
 忠勝も動じることなく、幾多の戦場を共に駆けた蜻蛉切を構え、相対する。
 関ヶ原に一時の静寂が訪れ、山から吹き降ろす風が二人の立つ草原を撫でる。
 お互い頷くでもなく、手綱を引き、嘶く馬を走らせる。それぞれの得物が空を切り、思わず身を引っ込めたくなるほどの音を奏でる。そのまま二撃、三撃と得物が振るわれ、その度に激しくそして勇壮な音色を響かせる。
「あの忠勝様と互角にわたりおっておる……何と剛の者よ」
「飛び出していったと思えばこのような……朔さん、無理はしないでください……でござる」
 東軍の兵士、そして雪だるま王国の者たちが固唾を飲んで見守る中、四撃目までが交わされ、双方無傷に終わる。
「はああぁぁ!」「おおおぉぉ!」
 二人の背中にオーラが漂い、そして二人の五撃目が同時に放たれる。一際大きな衝撃音が響いた後、忠勝の得物を握っていた方の篭手の紐が切れ、草原に落ちた。本人は傷を負っていなかったが、それを見た忠勝は静かに得物を下ろす。
「女王陛下」
「あ、はい……でござる」
 決着がついたことを悟った朔が美央を呼び、自らの馬に乗せ一路、家康のいる本陣を目指す。
「あなたが家康さんです……でござるか」
「いかにも。して、おぬしは何を望んでここまで参った。おぬしも天下を望むというのか」
 家康の問いに、美央はしばらく逡巡した後、首を横に振る。
「一時はそれも考えましたが……今は国の安寧と、そして臣下と共に国に帰ることだけを望みます。多くの兵士さんを傷つけてしまったことはごめんなさいです」
 ぺこり、と頭を下げる美央。その様子を見届けて、家康がふっ、と相好を崩す。
「わしは天下を取らねばならぬ。おぬしらをこのまま見逃したとなれば、それもままならぬ。易々と帰れはせぬぞ」
「大丈夫です。私には頼れる臣下がついていますから。……では、赤羽美央、これで失礼します……するでござる!」
 もう一度頭を下げて、美央が朔の馬に揺られてその場を後にする。
(国を思い、民を思う心……わしも見習わねばならぬよの)
 敵が伊勢街道を南下し始めたという報告を耳にし、家康は気を切り替え、戦意を喪失した本多忠勝を本陣の守りにつけると共に、井伊直政と松平忠吉に追撃を命じたのであった。

 ひたすら逃げる雪だるま王国軍を、甲冑を着込んだ井伊直政を総大将とした追撃隊が追う。僅か14騎の武士に対して6500の兵を差し向けた意味は、この戦においては皆無であっても今後のことを考えれば当然のことと言えよう。
「まだなのかクロセル、敵はすぐそこまで迫っておるぞ」
「もう少しお待ち下さいマナさん、これで……よし! 完了しました」
 マナが急かす中、クロセルはマナの使役するアンデッドのスケルトンに氷術で細かな氷塊を纏わせ、『動く雪だるま兵』を作り上げる。
「皆の者、一気呵成に畳みかけるのだっ!」
 マナの号令を受けて、雪だるま兵がゆっくりとした動きで追撃隊の前に立ち塞がる。動きは鈍いものの防御に優れ、やられたところで元々死体なので問題なく、まさに『捨て奸』戦法に相応しい兵といえよう。
「うわっ、な、何だこいつ!?」
「くっ、来るな、来るなー!」
 その上、見かけは雪だるまのようにファンシーなのに対し、攻撃を受けて氷塊が剥がれた所からは白骨が覗き、兵士に恐怖を与えてもいた。まさに『死兵』たる彼らに対し、馬を持たぬ大部分の兵は突破に難戦し、徐々に雪だるま王国軍との距離を離されていく。
「ええい、これでは追いつけぬ……やむを得ん、馬を持つ兵を分断して迂回させる他あるまい」
 業を煮やした井伊直政は、松平忠吉に徒歩兵の指揮を任せ、自らは騎馬兵を率いて道を外れ、森の中を進む。
「クロセル、このままでは回り込まれるぞ」
「流石に馬の相手は厳しいですねえ……雪だるま兵の機動力では止めることは出来ないでしょうし……」
 頭の上のマナが喚くのを聞き流しつつ、クロセルが対応策を検討していると、その馬兵の隊列が乱れていくのが視界に映った。
「♪〜♪〜♪〜」
 枝葉に潜んだ由宇の紡ぐ歌声が、人間はもとより馬にも恐れや悲しみの感情を引き起こし、急に止まったり暴れ出し始める。乗っていた兵士は投げ出されて地面にたたきつけられ意識を失い、あるいは狂した馬に踏み砕かれて戦闘不能に陥る。
(うまく注意を引き付けられているのかなぁ? だったらこのまま……)
 自分のしていることが本当に効果があるのか不安に思いつつ、由宇の歌声が紡がれていく。一旦突撃力を失った騎馬兵を再び立ち直らせるのは容易ではない。騎馬兵を指揮していた井伊直政も、乗っていた馬が暴れて落馬し、右肩を踏み砕かれてしまったとなればなおのことであり、既にこれ以上の追撃を行うことは不可能であった。
「報告します! 本陣より撤退せよとのことです」
 やがて、家康より追撃中止の命が下される。武士を討ち取ることは叶わなかったものの兵は倒しており、追撃を行ったという事実は保たれている。執拗な追撃にあっても逃げおおせた雪だるま王国軍の名は知れ渡ることになるだろうが、それはやむを得ないことである。

「もー! 皆さんムチャし過ぎですー。もしここで皆さんが捕まったりしたら、私の責任になっちゃうんですよー!」
 安全なところまで逃げおおせた雪だるま王国軍へ、姿を現した豊美ちゃんがぷんぷん、と頬をふくらませて一行にお説教をしていた。
「あの、やはりお仕置き、なのでしょうか?」
 美央が発したお仕置き、という言葉に、由宇の傍にいたルンルンがびくっ、と身体を震わせて反応する。
(お仕置き……! どんなお仕置きなんだろう……や、やっぱり痛いことされちゃうのかな? 痛いのはいやだけど、でも、ちょっとだけなら……)
「? ルンルンくん、どうしましたかぁ?」
 どこか恍惚とした表情のルンルン、その心中を由宇は理解していないようで、首をかしげて頭に疑問符を浮かべていた。
「……私も目を離していた責任がありますし、こうして皆さん無事に戻ってきてくれました。他の方たちも歴史を大きく弄っちゃうようなことはしませんでしたし、今回は許します。甘い、って怒られちゃうかもしれませんけど、それは私が負うことにしましょう」
 豊美ちゃんの言葉に、一行に安堵の溜息が漏れる。一人ルンルンだけは、ちょっと残念そうな表情を見せていたが。
「それにしても、朔ちゃんとえっと、忠勝さんだっけ? あの一騎討ちはカッコよかったなぁ〜。あたしも戦国武将さんと一騎討ちしてみたかったな〜。あたしは真田信繁さんがいいなぁ〜」
「葵さんっ、それはいくら私の世界だからっていってもムチャが過ぎますー。信繁さんはこの時、上田城にいて関ヶ原にはいなかったんですよー? 本来いない人を出すにしても、何でここにいたのか、って目的がないと色々と大変なんですよー。生徒の皆さんが演じる分には何とかなりますけどー」
「そういえば、魔法少女な秀吉くん? もいなかったねぇ」
 由宇が思い出したように呟く。
「葵〜イングリットもうお腹減って動けないよー? 早く帰って焼肉食べ放題行こうよ〜」
 ここに来るまで散々暴れたのもあって、イングリットはすっかりだれた様子で葵を促していた。
「……分かりました。家康さんも必要だからこそ皆さんを追撃しました。私もやはり、ムチャをした皆さんにお仕置きをする必要があるのでしょう」
 すっ、と豊美ちゃんが『ヒノ』を構える。キラキラと瞳を輝かせるルンルンを除いて、一行に緊張が走る――。

「私が、一騎討ちを務めましょう。皆さん、どうぞ好きに向かってきてください」

 次に放たれた言葉に、一様に驚きのため息やら呟きやらが漏らされる。お仕置きを食らう、あるいは抵抗する覚悟はあっても、まさか面と向かって一騎討ちを挑まれるとは、思ってもみなかっただろう。
「じゃ、じゃあ、あたし行きます! 無茶言ったのあたしだし、それに、あたしの全力全開が豊美ちゃんに通用するのか、試してみたいんだっ!」
「……私も、葵さんと戦えること、光栄に思いますよー。魔法少女としての葵さんの姿を、見せていただければと思いますー」
 周囲が距離をとって離れ、彼らの視線を受けて葵と豊美ちゃん、二人の魔法少女が相対する。
「は〜、仕方ない、落っこちてたこれ、食べられるよね? ……うわ、かたっ。うーん、水につけてみれば柔らかくなるかな?」
 兵士の非常食でお腹を満たそうとするイングリットが見守る中、葵が水色のドレスのあちこちについたフリルとリボンをなびかせながら、同じようにリボンを風に吹かせる豊美ちゃんを真っ直ぐに見つめ、携えた杖――輝く剣――に魔力を込める。
 これが、あたしの全力全開……!
「豊美ちゃん、行くよー! アイストルネード!
 極低温の冷気が地面に氷柱を生やしながら、豊美ちゃんへ迫る。『ヒノ』を構えたままの豊美ちゃんは避けるでもなく、そして冷気の奔流が豊美ちゃんを包み込んだ。
(えっ!? うそ、直撃!?)
 いくら自分の全力全開とはいえ、豊美ちゃんに攻撃が通用するとは思っていなかったであろう葵が面食らっていると――。
 
「全力の、陽乃光一貫!!」

 閃光が生じ、そして自らを加速させながら豊美ちゃんが、『ヒノ』の先端に魔力で生み出した衝角でもって氷を砕いて突撃を見舞う。
 砕かれ跳ね上がった氷が、沈みかけた夕日に照らされて橙色に染まる中、目前に迫った豊美ちゃんの『ヒノ』が葵の杖を打ち、大きく宙を舞った杖はとす、と地面に突き刺さった。
「……勝負あり、ですかねー」
 相好を崩した豊美ちゃんが、『ヒノ』を元の姿に戻して微笑む。
「……もう、他にはいませんね? では皆さん、次の時代に行きますよー」
「ね、ねえ豊美ちゃん! どうして攻撃を避けなかったの? あの加速ならあたしの攻撃を避けることだって出来たんじゃ……」
 葵の問いに、豊美ちゃんは笑ったまま答える。
 
「私、避けるのヘタなんですよー。運動神経悪いですしねー」
 
 くるりと振り返って、豊美ちゃんが『ヒノ』を掲げ、そして一行は関ヶ原を後にした――。