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【2020授業風景】カオスクッキング

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【2020授業風景】カオスクッキング

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第3章 無法者どもが夢の跡


「折角だから、俺はこのそばにしてみるぜ」
 エリザベートに出された料理のうち、緋桜 ケイ(ひおう・けい)はアウとろろーそばを食べることにした。
「うーん、迷います」
 ケイの幼馴染みソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)は、3種類の料理に目移りしている。
「欧米出身の生徒が多いイルミンスールでそばを、それもあのエリザベートが作ったものを食べられるなんて、この機会を除いて他にはないと思うぜ」
「そうですね。私もケイと同じのにしますっ」
 ケイに勧められ、ソアもそばに決めた。
「わらわはこのサラダを食べるとしよう。野菜は美容や健康にもよいゆえな」
「俺様もそれでいいや」
 ケイのパートナー悠久ノ カナタ(とわの・かなた)とソアのパートナー雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)は、いやらシーザーサラダを選んだ。
「いただきます」
 四人は一斉に料理に手をつけた。
「……俺様はあまり変わった感じがしないが……どうだ?」
 ベアがケイに尋ねる。
「俺もだ。まぁ元々俺はラフな感じだし、こんなそばを食べたところで、大した変化はないってことだろう」
 ケイはクールに答えた。一方ソアは、
「なんだか料理とか面倒になってきたわね。ベア、あんた作っときなさい。豪華なやつよ。私は適当に見物してるから」
 こんな調子になっていた。
「お、おいケイ、ご主人が超わがままに!?」
 ベアは慌ててケイを振り返ったが、彼の言葉はケイに届いていなかった。
「なんだか、無性に火術を使いたくなってきたぜ……火を激しく使う料理がしてェ……。ここは、手っ取り早く中華料理しかねぇーなァー! ヒャッハー!! 汚物は消毒だーッ!」
 ケイは火術を激しく操りながら、中華鍋を振るってチャーハンを作り始めた。
「ベア、何サボってんのよ! あんたもさっさと料理しなさい!」
「えっ、なんで俺様が……」
「ペットの分際で、私に口答えをする気?」
「い、いえ、ただちにやらせて頂きます!」
 ソアにけしかけられ、ベアはインスタントラーメンにお湯を注ぐ。それを見たソアは、怒りをあらわにした。
「インスタントラーメン? あなたふざけてるの!? お仕置きが必要なようね」
 ソアはベアを跪かせると、足で踏みつけた。
「あんたなんか、白熊より白豚の方がお似合いよっ!」
「あの優しかったご主人が、こんな冷たい目で俺様を見るなんて……うっうっ……
うおぉん、最高に快感だぜぇッ!!」
 恍惚に浸るベア。そこにカナタも加わった。
「フフ……わらわもなにやら気分が昂ぶってきおったぞ……! 姫様と呼ぶがよい!この変熊! 白髪熊野郎!」
 家庭科室の一画は、SMクラブと化した。

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

「イルミンで調理実習があるというから、魔法薬のレシピなんかが手に入らないかと思って来たのですが……この状況ですか。まぁ、楽しそうなのでいいですけれど」
 緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)は、無難そうなそばを選んで食べると、面倒臭いので料理は煮物で済ませることにした。
「といっても、何の煮物にしましょうか? なにか判断力が奪われている気がするので、変なものを入れてしまいそうです……そうだ、他の生徒に食材を分けてもらいましょう! それならそうそうおかしなものはできないはずです」
 遙遠は、名付けて『お弁当を忘れた小学生作戦』にでることにした。
「いいよー、この蜂蜜もってって!」
 遙遠のお願いに、立川 るる(たちかわ・るる)は快く応じた。るるはみんなに分けられるよう、蜂蜜を多めにもってきたのだ。他にも持参していた塗り箸でそばを食べるなど、気合いが入っている。
「校長先生はまだ8歳だし、好きなものはお菓子類で、苦手なものはお野菜かな?
 だったら、お野菜のお菓子を作れば色々とイイ感じだよね! お菓子作りって難しそうだけど……とりあえず甘ければいっか!」
 るるはニンジンやピーマンといった野菜類に、手当たり次第蜂蜜をかけていった。
「よし、完成」
 んな馬鹿な。確かに、これなら料理が下手なるるにでもできるが……果たして料理と呼べるのだろうか。余談だが、るる本人は家庭が4から5に上がって喜んでいる。どうかそっとしておいてあげてほしい。
「お野菜って基本的に生で食べられるけど、お芋とかは火を通した方がいいのかな?
でもお鍋とか用意するのも面倒だし……これでいいや。スーパーノヴァ!」
 るるのファイアストームで、芋に火が通った。ついでに、近くの机にも火が通った。
「危ないよ!」
 それに気付いたズィーベン・ズューデン(ずぃーべん・ずゅーでん)が、氷術で炎を消す。
「なかなかやりよるね」
 るるは意味不明な受け答えをし、料理を続けた。
「そうだ、スイートコーンを作ろう。この『モロコシくん人形』に蜂蜜をかければオッケーだよね!」
 最早、料理ですらなかった。
「ねーナナ、褒めて褒めてー。ボク、火事を未然に防いだんだよ」
 サラダのせいで幼稚化したズィーベンは、ナナ・ノルデン(なな・のるでん) にべたべたした。しかし、ナナは料理に夢中である。賢いことに、ナナはそばを食べる前に、予め分量分けした材料を用意していた。
「バッキバキにしてやります!」
 ナナは野菜を空中に放り投げると、ドラゴンアーツで粉々にして寸胴鍋にぶち込む。
「この鶏ヤロウ! いい艶してやがるじゃないですか!!」
 次いで則天去私で柔らかくした鶏肉を切り裂き、調味料とともに、
「アタタタタッ!」
 と鍋に放り込んだ。
「あとは火術と氷術で火加減を調整すれば、シチューの完成です。……ん、あなた食材が欲しいのですか? では、これを差し上げましょう。料理とは、愛情とアクティヴさが求められるもの! 豪快にいくですよ!」
 遙遠は、ナナにブロッコリーをもらった。
「あれだけ派手に動いたのに、乳揺れ一つしないなんて! 残念、実に残念だよ……」
 ズィーベンは、ナナの体を触りながら呟いた。
 カグヤ・フツノ(かぐや・ふつの)も、ズィーベンに負けず劣らずパートナーの鹿島 斎(かしま・いつき)とイチャイチャしていた。小さなカグヤは木にとまったセミのように斎に抱きついている。猛烈アタックをいつも完全無視されている斎にとっては、一生忘れない幸せ時間だ。いやらシーザーサラダ万歳!
「……あー、普段わらわの為に働いている御褒美じゃ。何も聞かず何も考えず、料理に集中するがよい」 
 カグヤの言葉に、斎はなんとか理性を保ちながら料理に取り組む。作るのは、子供が好きそうなオムライスだ。
「料理とは五感で楽しむもの! 味は勿論のこと、目で見て楽しみ、香りに酔いしれ、食感に喜びを見出し、そして、えーと……とにかくそんな感じなのだ!」
 斎は一人で話をまとめ、砂糖の袋を空けた。
「味覚とは舌への刺激! 中途半端な味付けにはせず、徹底的に甘くしよう」
「ぺろぺろ」
 カグヤは斎のほっぺを舐める。
「よい香りは食欲を増進させる! 甘みと酸味のバランスがいい桃は、是非入れるべきだな」
「くんくん」
 今度は斎の首筋の匂いをかぐカグヤ。
「面白い食感は大切だ! ナタデココのくにくに感は面白いな」
「かみかみ」
 お次は耳を甘噛みだ。
「そして、見て楽しませる為、オムライスには絵を描こう! 食用着色料で、今の季節にぴったりの紫陽花と虹を雅に豪華に表現だ」
 斎の体を、カグヤの指が這う。
 こうしてできあがったオムライスはデザートのような代物だったが、斎がそれに気がつくことはなかった。
 遙遠は、ちゃっかりナタデココをいただいていた。
「甘いものを作るなんて信じられまセーン」
 アーサーは、市販のカレールーでカレーライスを作っていた。
「クックック、今回我輩は、カレーの為にプライドを捨てたのデース」
 普段ならルーを作るところから始めるアーサーである。この調理実習では、むしろとんでもカレーが完成する可能性が減ったと言えよう。具もルーの箱裏表示材料に従っている。エリザベートが嫌いそうな野菜は入れずにおいた。
「このカレーが嫌いなお子様は存在しまセーン! 近代日本が産み出した最強の魔法の食べ物なのデース!」
 そう自身を見せるアーサーの手には、『カレーの幼女さま』と書かれた箱が握られていた。
 遙遠、お子様向けカレールーをゲット。
「蜂蜜にブロッコリーにナタデココ、そしてカレールーですか……どうしましょう」
 遙遠は、分けてもらった食材を見て頭を悩ませる。そこに、エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)が声をかけた。
「これも持ってけよ」
 エヴァルトが遙遠に渡したのは、油揚げだった。
「俺はきつねうどんでも作るぜ」
 エヴァルトは、ぶっきらぼうに叩いた生地をいい加減に切り分けていく。麺の太さはバラバラだった。
「どーせ料理は得意じゃない。こんなもんでいいだろう」