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【2020授業風景】サバイバル調理実習!?

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【2020授業風景】サバイバル調理実習!?

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第2章 急流の主に挑め

 二日後、調理実習の当日になった。
 夜明けと共に、材料の調達を担当する生徒たちは本校を出て、森や川に向かう。学校に残る生徒も居るが、調理を担当する生徒も、つけあわせなどの材料を本校の周囲に探しに行く者が多かった。
 そんな中、
 「何ですと、芋がないー!?」
 一人パニックに陥っていたのが、4班のセオボルト・フィッツジェラルド(せおぼると・ふぃっつじぇらるど)だった。
 「いや、ジャガイモならあるんだけどね。ヨーロッパ系の生徒は主食がジャガイモって子も結構いるし。でもサツマイモは……」
 「サツマイモも立派な主食ですぞ!(セオボルト的には。) それ以上に、サツマイモは我が心の友、ソウルメイツなのです!」
 「いや、そう言われてもない袖は振れないから」
 悲鳴を上げて迫るセオボルトに、陳は困り顔で言う。
 「うう、かくなる上は、根性で捜すしか……!」
 涙目で走り去って行くセオボルトを、
 「せいぜい頑張るのじゃぞ〜」
 と見送ると、セオボルトのパートナーの英霊ヴラド・ツェペシュ(ぶらど・つぇぺしゅ)は、背後にいるローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)を振り返った。
 「さて、我々はジャガイモを貰いに行くことにしようか。……それにしても、そなた、本当にあの男が恋人で良いのか? すべてに打ち勝ってこそ愛とは思うが、パートナーから見ても、あのような姿はどうかと思わぬでもないのだが」
 「……ええ……まあ」
 ローザマリアは言葉少なにうなずいた。


 1班の月島 悠(つきしま・ゆう)、2班のイリーナ・セルベリア(いりーな・せるべりあ)、3班のルース・メルヴィン(るーす・めるう゛ぃん)ナナ・マキャフリー(なな・まきゃふりー)のパートナー音羽 逢(おとわ・あい)、9班の黒乃 音子(くろの・ねこ)宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)クロス・クロノス(くろす・くろのす)、11班のクレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)と、12班の蒼空学園から来た芦原 郁乃(あはら・いくの)とパートナーの魔法書蒼天の書 マビノギオン(そうてんのしょ・まびのぎおん)、13班の神代 正義(かみしろ・まさよし)は、本校の近くの川に向かった。
 川の手前まで来ると、音子は着ていた制服を思い切り良くぽんぽんと脱ぎ始めた。
 「ちょ、おま、なっ……」
 正義がおたおたと右往左往する。だが、
 「……何?」
 制服の中に着込んでいたスクール水着姿になった音子は不思議そうに首をかしげると、今度は浮き輪を取り出して膨らまし始めた。
 「音子、まさかと思うけど……」
 同じ班の祥子が眉を寄せる。
 「ん? もっちろん、この銛でノボリゴイを突くに決まってるでしょ」
 フィット性の少々良すぎる水着の足の付け根のあたりを気にしながら、音子は答えた。
 「水に入って? いやー、幾ら何でもここの川でそれは無理じゃないですか?」
 音子と同じように、制服の下に学校指定の水着を着て来たルースが言う。
 「へ、何で?……あれ……?」
 川に近付いた音子は言葉を飲み込んだ。本校に比較的近い、つまり標高が高いこのあたりは川の流れが急で、水深が浅い。おまけに、岩場を流れているのであちこちで小さく滝になっている。はっきり言って、潜って銛で突くという状況ではない。
 「陳教官の説明、聞いてたでしょう? うんと下流の麓の方へ行けば、この川も潜れるような大きさになるけど、そんな場所まで行っていたら調理する時間がなくなってしまうし」
 呆然とする音子に言って、祥子は川を覗き込む。
 「登竜門なんて故事があるけど、まさかノボリゴイがドラゴンになるってことはないわよね?」
 「鯉だろうがドラゴンだろうが、倒してみせるぜ!」
 先ほどの動揺から復帰した正義がシャンバランの決めポーズを取る。
 「私は、これでもうちょっと上流に行ってみようと思ってるんだけど、音子はどうする?」
 担いで来た『空飛ぶ箒』を示して、祥子は音子に尋ねた。
 「うん……もうちょっと下流に行ってみるよ。大きな滝の下とか、深くなってる場所もあるかも知れないし」
 音子はざっと制服を着直すと、片手に銛を持ち、片手にふくらませた浮き輪をかけて、下流に向かって歩き出す。
 「私ももう少し流れが緩い場所がいいから、下流に行こう」
 幻槍モノケロスでノボリゴイを突くつもりのイリーナも、音子の後を追った。
 「オレは、もうちょっと上流で狙うかな。行きましょう、逢」
 ルースは逢に声をかけて、祥子の後を追うように川の流れを遡る。
 「私は、ここでいい。うちの班の料理は下ごしらえに時間がかかるらしくて、ポイントを探している時間はあまりないんだ」
 悠は川から少し離れた場所で取ってきた太い枝に釣り糸をつけ始めた。餌はごく普通の練り餌だ。
 「私も、このあたりにさせてもらおう」
 クレアも、持って来た釣具の準備を始める。一方、郁乃とマビノギオンは、釣りの準備を始めるのではなく、川岸の石の影や、木立ちの木の下をごそごそと探し始めた。
 「何やってるんだ?」
 正義が尋ねる。
 「こういう場所に、『星光茸(ホシノヒカリダケ)』って言うちょっと変わった美味しい茸が生えるらしいの」
 「……あ、サワガニが居ました! これも採って帰りましょう。ダシくらいにはなりますよね」
 マビノギオンが、岩陰から蟹をつまみ上げる。
 そして、木立ちの方ではクロスが、
 「これ、大丈夫なのかしら。うーん、毒かそうでないかの判別も、案外難しいものですね……」
 などと呟きながら、ポケット図鑑と周囲に生えている野草を見比べている。一応、出発前に図鑑に目を通し、紛らわしい植物をリストアップしたり、図鑑に赤線を引いたりしておいたのだが、良く見ないと判らない細かい違いもあるので、どうしても判断は慎重になる。
 「これは、負けてられないな」
 その様子を見た正義はブライトグラディウスを構え、水面から跳ねたノボリゴイを目にも止まらぬ早さで突いた。だが、突かれたノボリゴイはブライトグラディウスの輝く刃からするりと抜けると、そのまま水面に落下した。
 「ああっ!?」
 正義は慌てて、仕留めたノボリゴイを手元に引き寄せるすべを探したが、タモ網などは用意して来ていない。ノボリゴイは腹を上にしてプカプカと流れ、ちょうどクレアが岩陰に仕掛けていた定置網に引っかかった。
 「あー……」
 「いいよ、あれはあなたが持って帰りたまえ」
 残念そうな声を上げる正義に、クレアがため息をついて言った。
 「いいのか?」
 「自分が仕留めたのではない獲物を釣果にするのは気が引けるんでな。ただ、あの仕掛けは帰るまであのままにさせてもらうが」
 大物釣り用の竿で針を垂らしながら、クレアは答える。
 「助かったぜ……」
 正義は安堵の息をついた。その時、
 「引いているぞ」
 悠がクレアに言った。クレアは慌てて竿を立て、リールを巻いたが、餌のついていない針が上がって来ただけだった。
 「遅かったか……」
 クレアの「本命」は岩陰の仕掛けの方だが、餌を取られて逃げられるのはやはり悔しい。クレアは真剣な表情で餌を付け直し、ノボリゴイが居そうなポイントに投げ込む。
 しばらくすると、今度は悠の竿に当たりが来た。
 「くッ……!」
 ただ木の枝に仕掛けをつけただけの竿では、糸を出して泳がせてから上げるようなことが出来ないので、どうしても力任せになる。ドラゴンアーツも使って何とか上げようとするが、さすがはノボリゴイ。激しく暴れる上に急な水の流れもあるので、なかなか上がらない。
 (大物用の仕掛けを一式持って来たのは正解だったな……だが、糸がもつかな?)
 悠は釣り糸に細いワイヤーを使っているが、それがギリギリときしむように鳴るのを聞いて、クレアは心の中で呟いた。