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リアクション
「ほれ」
「あ、ありがとう…… でも、これ」
リース・アルフィン(りーす・あるふぃん)は受け取ったクレープと篠宮 悠(しのみや・ゆう)の顔を交互に見移した。悠は、いつもよりも柔い顔をしているように見えたが。
…… クレープ……見透かされてた?
「クレープ、で良いの?」
「食いたかったんだろ? 食え」
「あ、うん。あっ、お金−−−」
「黙って食え」
…… 悠さんもクレープを食べてる。バニラアイスの乗ったやつ。ソースにまみれたモノが食べたいって言ってたのに。
「…… おいしい」
「あぁ、悪くないな」
『そうでしょう? 美味しいんですよね!ジーナは性格に難はあるんですが、料理は上手いんですよ』
『ねーねー、悠、あっちにテキ屋的な屋台があるみたいだよー』
と、2人に言おうと寄ろうとした緒方 章(おがた・あきら)とクラリッサ・シンジェロルツ(くらりっさ・しんじぇろるつ)は、林田 樹(はやしだ・いつき)と真理奈・スターチス(まりな・すたーちす)に「邪魔しない!」と言われ引かれて退場させられた。
章は、フリルたっぷりのコス風ナース服を着た樹に「樹ちゃんイイ!」と言ってキュンキュンしながらに。クラリッサは「えー、どうしてー」と言いながらも、真理奈に首根っこを捉まれてはどうにも出来ずに、だったようだ。
リースが出したシャーベットシュークリームを、言葉は少なくとも2人は並んで、フォークでツツいて食べていた。
とっぷりと陽が落ちたなら、砂浜地帯にも人の姿は見えてはきたが。波打ちの際を訪れる者は少ないはずに−−−
「どうしてこんな所にまでゴミがあるんだぃ」
腰を屈めて、桐生 円(きりゅう・まどか)はボトルを拾った。今やどこの遊地にも顔を出すまでに出世したボトルに賛辞を与えようと言い渡そうと。
「ゴミ拾い…… 地味だなぁ。目立たない方が貢献してるみたいだから良いのかな…… あれ? でもこれだと当初の目的に反する?」
自問しながらに波打ちに手を伸ばした時、少し先の海面がバサッと盛り上がった。
黒い影… 人の形をした影だと気付いた時には、すぐ横を駆け抜けて行った。
「…… 何だぃ、あれは……」
円の横を抜けた黒影は屋台の並びまで一直線に駆け抜けた。すれ違った浴衣女子にベトベトな粘液をふりまきながら。
「樹さんっ!」
呼ばれ振り向いた樹は、たこ焼きを口に頬張っていて。上半身裸でベトベトの佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)の姿に、瞬きが止まった。
「はぁ、はぁ、はぁ、ごめんね、遅くなって」
「あ、いえ。それよりも、その格好…」
「そう! そこなんだ、本当は着替えてビシッとキメようと思ってたんだけど、遅くなっちゃったから−−−」
「あっ」
飛びつき寄り添う樹に、弥十郎は疲労で痙攣した腕で。
「服、汚れちゃうから」
「構いませんよ。魔物よけの薬なのでしょう、独特な匂いがします」
「樹さんは、良い匂い」
樹の腕に額をもたれて。赤らめ寄る頬に弥十郎はキスをした。
「ごめんね。待たせちゃって」
「いいえ。待つことも愛の形です」
背筋に纏った気丈さを解いて、頬にキスのお返しをした。
夜空にあがった大きな花火、2人の頬を淡く照らした。
「花火なんて、『それらしい音』と『それらしい光り』があれば『それらしく見える』ものだよね」
雰囲気ぶち壊しの事を言っていた。
実行委員会の本部の裏手側。立ち並ぶ砲台を前にして、騎沙良 詩穂(きさら・しほ)は星輝銃を夜空に構えた。
光輝属性の弾が、夜空を駆け昇る花火に添い昇ってゆく。弾ける花火に撃ち込めば補輝の役割を果たして彩りが増す。詩穂は火薬の花火に星輝銃の演出を加えた打ち上げを取り仕切っていた。
宙で儚く消えるように。出力を抑えた拡散波動弾を撃つパッフェルを見上げ見惚れて詩穂は見つめて。きめ細かな頬に吸われるように吸うように手を伸ばし−−−
「パッフェル」
伸ばした手を止めた。グレン・アディール(ぐれん・あでぃーる)に視線をぶつけたのに、何事も無かったかのように続けていた。
「ここはもう良い、屋台でも見て来たらどうだ?」
「ちょっと! もう良いってどういう事? パッフェルちゃんを追い出す気?」
「そんな訳あるか。彼女の花火は俺たちが代行する、と言ってるんだ」
視線で示した先で、ソニア・アディール(そにあ・あでぃーる)がメモリープロジェクターを抱え笑んでいた。記録した拡散波動弾を投影して代用するらしい… 確かにそれなら…。
「じゃあ、じゃあ詩穂も一緒に−−−」
「騎沙良の仕事は花火の打ち上げだろう? 彼女の仕事は終わってるんだ」
「ううー」
「…… 詩穂…… 私も残る−−−」
「いいよっ」
切れ長サングラスを取って、詩穂はパッフェルの肩を押し出した。
「シューティング・スコーピオンは、お終い。楽しんできて」
「………… うん。ありがとう」
メイド服は赤いままだけど−−− そうだ、そうだ、メイド服っと。みんなの思い出を残そうと回していたデジタルビデオカメラを、急いで引き寄せてパッフェルに向けた。小さく走る彼女の後ろ姿をじっと、レンズと一緒に見つめていた。
会場の盛り上がりと同じくらいに、ステージ裏も慌ただしい。ステージが始まったとしても、ちっとも休まらない現場に新鮮さを覚えながら、ミネルバ・ヴァーリイ(みねるば・う゛ぁーりい)は資料に瞳を向けた。
「えっと、次はこれ… で合ってるよね…」
ぽちっ、と押されてライトが輝く。照らされたステージの中央で咲夜 由宇(さくや・ゆう)がギターをかき鳴らした。マイクの前の赤城 花音(あかぎ・かのん)に瞳で伝えて。
「花音くん」
「オッケー、行くよっ!」
何時か出会える恋心。七夕の夜の奇跡を願って。
「曲は、『僕らのラブ・ストーリー』!」
♪
真っ白な想いを胸に 君に会いに行くよ
舞い降りた妖精 旅立ちの時
誰にも眠る 心のメロディー
いつか出会う恋の歌 探しに出掛けよう
胸の鼓動が高鳴る はにかむ笑顔が赤く染まる
星に願いを託して 眠れない夜を過ごす
僕のキモチ 恋の始まり?
真っ直ぐな想いを 君に受け止めてよ
翼を広げ奏でる歌 七色に輝く
一筋の欠片 紡ぎ合う絆
共に歩き始める未来 僕らのラブ・ストーリー
みんな、ありがとう!
♪
「あの、これ」
淡い蒼色の浴衣姿。
広場のベンチに腰掛ける御神楽 環菜(みかぐら・かんな)に、影野 陽太(かげの・ようた)はオルゴールを手渡した。
雑踏の中、ステージ上も見える。「よく聞こえないわ」と環菜は、オルゴールを耳に当てた。
瞳を閉じる環菜の隣に腰掛けて、陽太も静かに耳をすませた。
「オルゴールなんて貰ってるですぅよ」
「えっ、うん、そうだね」
あれ、オルゴールなんだぁ…。神代 明日香(かみしろ・あすか)は、歯軋りが聞こえてきそうな程に顔を強ばらせるエリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)に感心した。確かにテントの中から2人の姿を見ることは出来るが、手元は暗くて小さい。小さな箱だという事は分かったのだが。
「生意気ですぅ! あの雰囲気もブチ壊してやるですぅ」
「ちょっ、エリザベートちゃん?」
ピョンと椅子から降りて、テントの奥へ走り出すと、花火玉を搬送した木箱の中を漁り始めた。そこには予備の花火玉しか入っていないはず…。
「これですぅ!」
「やっぱり… 花火玉…?」
「ふっふっふっ〜、この中には大量のシーワームちゃんを封じ込めてあるですぅ、これを打ち上げれば、空から大量のシーワームちゃんが降り注ぐのですぅ!」
「……………………」
「これが最後の、これこそが最後の愛の障害なの−−−」
「だめ、だよ」
後ろから、そっと抱きしめる。花火玉を掲げるエリザベートを明日香が、そっと抱きしめた。
「そんな事しちゃ、だめ。みんな、海を渡るのに必死で、一生懸命だった」
傷つく姿も、倒れゆく姿も見てきた、目の前で見た。だから。
「この景色だけは、一緒に見させてあげて」
上げた手を挙げたままに、エリザベートは視線を歩かせた。
花火を見上げたままのエレンディラ・ノイマン(えれんでぃら・のいまん)に、秋月 葵(あきづき・あおい)がキスをしている。閉じてと言われたのか、自然とそうしたのか、目を閉じるエレンディラも葵も顔を真っ赤に灯らせていた。
「………… わかったですぅ」
口は尖らせたまま、エリザベートは腕を下ろして力を抜いた。明日香はスッと頬を緩めるも、生まれし安堵は瞬きの間のものだった。
「そ、れ、な、ら、治療を再開するわよ」
「あっ…」
冷や汗を流し始める明日香を、オリヴィアが冷笑を浮かべて見下ろしていた。
「逃げ出したと思ったら、一周まわって戻って来てるなんて、いい度胸ねぇ」
「えっ、あの、だって……」
「さぁ、いらっしゃい」
「いや〜、エリザベートちゃんと一緒に居るの〜」
必死に抱きついて離れようとしない様だけを見れば、治療なんて要らないのではと思えるのだが。治療の途中で抜け出したなら、それは連れ戻されますよね。
花火が始まっても、やはりに騒がしいステージ付近とは変わり、島の外れの野原地帯は静かに花火を見上げるのにピッタリの場所だった。
「せっかくのお花が、よく見えないね」
じっと空を見上げていた霧雨 透乃(きりさめ・とうの)が、足下に咲いている花を一輪だけ摘んだ。きっとに黄色い? 花なのだろう。
「でも。ほら、花火に照らされるお花も綺麗じゃない?」
緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)が、そっと手を添えて透乃の一輪に花火を映した。薄黄の下地に、色とりどりの泡が弾けて見えた。
「キレイ…」
「えぇ」
2人で笑みを交わしてから透乃は自作のお酒入りチョコを、陽子はにんじんクッキーを手渡した。
それぞれの可愛い包み紙にも、花火の泡を映し見て、2人は静かに寄り添った。
「花火、か……」
赤花を胸に刺したまま花火を見上げていて、葉月 ショウ(はづき・しょう)は、ふと思い出した。
「そういえば、ノーム教諭と始めて会った時も花火大会だったなぁ。その時は… はっ!」
振り向く事も恐ろしい、そう、いや、ただ思い出さないでくれる事を、覚えていない事を願うばかりだったが。
「花火大会と言えばねー、せっかく誘ってくれたのに急用がとか言ってドタキャンした人が居てねー、私一人で寂しかったんだよー」
覚えてた………、アクアは頬を膨らせているし、聞いた小夜は「そんなヒドい事をする人が居るなんて、信じられないです」とノッかっていた。そのノリ方は既に知ってやがったな…。
「だから悪かったって。別で散々おごっただろう?」
「別に何も言ってないですよー、ねぇ小夜?」
「あっちに美味しそうな屋台がたくさんありましたわ」
………………くっ、やはりその流れか……。
って! 何で2人ともバラバラに行くんだ! ちょっと待てって。
尻に敷かれた男が追い駆ける中、人波の外れで遠野 歌菜(とおの・かな)は両手をいっぱいに向けていた。
「羽純くん……、これっ」
「ん?」
包みの中身は『リストレスト』だという。黄島で待っていた間にイベントの主旨も趣旨も理解していたが、月崎 羽純(つきざき・はすみ)は、あくまでクールに訊ねた。
「どうして俺に? 誕生日でも何でもないが…」
「ああ、うん、あのね、実はね」
歌菜は、照れながらもサマーバレンタインの主旨を説明した。『愛を伝える』ではなく『感謝の気持ち』を伝える、と慌てて言い直して。
「あの、そのだから… 羽純くん、私とパートナー契約してくれて… ありがとう」
… そんなに瞳を潤ませられたら、下手に… からかえないじゃないか。
「礼を言うなら俺からだろう。歌菜が目覚めさせてくれたんだからな」
微笑みながらに。
「これからもよろしくお願いします」
「ああ、よろしく。これから… ずっと、な」
照れながらに。互いの瞳を、じっと見つめた。
面に目はあれど、視線は無い。いや、見つめられていると思えば、そこに視線は生まれ、交わすことは出来る。
言ったのは屋台の主か? 神代 正義(かみしろ・まさよし)なのか? いぃや、ここはきっと… 違うのだろう。
赤いメイド服を着た少女が、お面をじっと見つめていた。買ってやろうかという誘いを断り、今にも「これ…」と指さしてお買い上げ、頭に斜め被りをしそうな危険な匂いがして……
ベルナデット・アンティーククール(べるなでっと・あんてぃーくくーる)は思わず声をかけた。
「トライブに、会ってはくれんか?」
視線が合って、そのままに。
「無理強いはしないが、もし少しでもトライブを気に掛けてくれるのなら、会いに行ってくれんかの?」
屋台の場所を耳にいれてから、パッフェルは歩幅を小さく歩みを始めた。
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