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【DD】『死にゆくものの眼差し』

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【DD】『死にゆくものの眼差し』

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第一九章 夢果てる時


 世界に亀裂が入った。
 曇天、大地、眼に見える景色のあちこちにヒビが入り、ボロボロと崩れていく。
 崩れた先には、虚無の闇が広がっていた。
(全員撤退!)
 突入組全員の心に、『現実側』の椎名真の声が響いた直後、彼らの姿は夢の中から消えていた。


 居残り組も次々に頬をつねり、姿を消していく中で、豊美は気にすることなく絵を描き続けていた。
「豊美さん、マジでやべぇ、帰ろうぜ!」
 久の声に、豊美が耳を貸す気配はない。
「ヤベえって! 無理矢理にでも連れて帰るからな!」
 頬をつねろうと伸ばされた手を、「邪魔をするな」と豊美は払いのける。
「世界の崩壊なんて、そうそう簡単に見られるものでもないだろう? 得難いチャンスだ、しっかり見届けなければな!」
「いや、崩壊した世界ン中に豊美さんがいたら、一緒に崩壊するじゃねえか!」
「――放っておきましょう、久さん」
 アスカが涼しい顔で言った。
「……おい、あんた! 言っていい事と悪い事が……!」
「仕方ないでしょう、本人がここにいたい、っていうのなら」
「ふむ。絵描きの心は絵描きにしか分からないようだな」
「いいえ? ちっとも分かりません」
「? 何が言いたいのだ?」
「別に? ただ、あなたは眼に見えるものしか描けないんだなぁ、って」
「……なんだと?」
 豊美がスケッチブックから眼を逸らし、涼しい顔で笑っているアスカを睨み付けた。
「私の画力にケチをつけるのか!?」
「いいえ? ただ、シュールレアリスムや幻想画は、自分の心に浮かんだものをいかに描くか、というメソッドかと思います。それを、眼に見えるものを描く、というのは……」
 くすっ、とアスカは笑った。
「……言ったな、貴様! 覚えていろ!」
 そう言い捨てて、佐野豊美は頬をつねった。
「……大丈夫か、あんた?」
「何がです?」
「豊美さんにあんな口きいて……あの人怒ると怖いんだぜ?」
「まぁ、そのことは後で考えましょう」
 久もアスカも頬をつねり、姿を消した。

 悪夢の世界に囚われていた者達は、全員「帰還」を果たした。

 そして、作品「死にゆくものの眼差し」の瞳から、人の顔は消えた。