空京大学へ

天御柱学院

校長室

蒼空学園へ

【学校紹介】新校長、赴任

リアクション公開中!

【学校紹介】新校長、赴任

リアクション


・イコン部隊、出撃


「C―14、調整完了。これで基本的な調整は全て終了ですね」
 真琴がハンガーの中に並ぶ機体を見渡した。
 細かい部分は教官達のような整備主任が行い、それからパイロットが実際にコックピットに搭乗して確認を行う。
 基本的にイコンの操縦が出来るのはパイロット科所属の者だけだからだ。整備科とパイロット科を兼任している者も中にはいるが、実機動作での最終確認が出来るものはごくわずかだ。だからこそ、実際の出撃時間よりも早めに集まり、一度搭乗者が自ら機体を確認する必要がある。
「E―14、これが俺達の搭乗する機体だ、理緒」
 不破 修夜(ふわ・しゅうや)がパートナーの神村 理緒(かみむら・りお)を機体へと案内する。彼も整備班の一員として、自分とパートナーの乗る機体を整備していたのだ。
「実機となると、やっぱりシミュレーターとは違うわね」
 理緒がコックピット内の計器類をチェックしていく。まだイコンでの勝手が分からず戸惑うことも多いが、今の自分に出来る範囲で一つ一つ確かめる。
 イコンのコックピットは複座であり、一方が主に攻撃を、もう一方がその他のサポートを行うように計器が割り振られている。この二人のように、メインパイロットがパイロット科に所属し、サブパイロットが機体を把握するため整備科に属しているというのは、現在の学院内においては珍しい事ではない。
「どう、アルマ?」
「うん、大丈夫よ。実機の訓練の時と変わらないわ」
 天王寺 沙耶(てんのうじ・さや)アルマ・オルソン(あるま・おるそん)もそのような組み合わせの生徒の一組だ。沙耶が整備科、アルマがパイロット科に属し、日頃から訓練を行っている。
 沙耶が調整した部分を、アルマに説明していく。契約者と二人でなければ100%の力を発揮出来ない人型兵器にとっては、このように常日頃からのパートナーとの連携が重要となってくるのだ。
 
(お、ちゃんと調整されてるね。よかった)
(訓練のときと同じ設定になってるわね。普段と同じように動かせば大丈夫そうよ)
 E―10に搭乗する霧積 ナギサ(きりづみ・なぎさ)常磐城 静留(ときわぎ・しずる)は、精神感応で意思疎通を行いながら確認を行っていた。
(アンジェラさんと玉風さんも今確認を行ってるみたいだ)
 精神感応が出来る者同士は、近くにいれば互いを感知することが出来るようだ。ただ、意思疎通はパートナーが限界のようである。
「操作の方は、いつも通りで大丈夫そうですわね。設定もちゃんとわたくしに合わせてありますし」
「こっちも大丈夫です。無線にレーダーに、いつも通りいけばなんとかなりそうです」
 アンジェラ・アーベントロート(あんじぇら・あーべんとろーと)グラナート・アーベントロート(ぐらなーと・あーべんとろーと)の二人も、コックピットで各種機器の確認を行う。
「ナギサさん、やませさん達は終わったようですわね」
 チームを組んでいる他の者が機体から離れていくのを感じ取る。彼女もまた、終わったところで合流しに行く。
「精神感応で話せるのはパートナーだけみたいですね〜。でも、近くにいればすぐに分かるので大丈夫です〜」
 のんびりとした口調で話すのは、玉風 やませ(たまかぜ・やませ)だ。チームを組もうと示し合わせた三機のパイロット達が集う。
「いよいよ初任務ですね〜。皆で力を合わせて頑張りましょう〜……あっ! アンパン食べますか〜?」
 荷物の中から、彼女がアンパンを取り出した。
「まあ、腹が減ったらなんとやら、ですわ。教官の説明の前に、頂くとしますわね」
 全パイロットが確認を終え次第、おそらく集合がかかることだろう。出撃前の事前説明があるはずだ。

            * * *

 任務に参加するパイロットの生徒達が一通り機体チェックを終えると、ハンガー内で集合がかけられた。
 教官による、作戦の概要説明が始まるためだ。
「タンカーはまもなく太平洋の日本領海へと入る。ロシア軍からの情報では、現在までに特に異常はないそうだが……あくまでも地球の技術での話だ。安心はしない方がいい」
 古王国時代の技術によって造られた兵器。現在の地球の科学力を上回るそれを、果たして地球産のレーダーが捉えられるものだろうか。
 ――答えは、否だ。先日海京に現れた漆黒の機体はレーダーに映ってはいない。可能性としては、敵の機体が全てステルス機というのも考えられなくはないのだ。
「とはいえ、我々のイコンならばある程度は敵機を捕捉出来るはずだ。パラミタの技術、という点ではこちらも同じだ」
 少なくとも地球の技術よりはマシ、といったところだ。
「イコン部隊はロシア軍からの警護引継ぎ後、それぞれ右舷と左舷に分かれて警戒を行ってもらう。訓練データを見た限りでは、今回の作戦に合わせて自分達で部隊を組んでいた者達もいるようだ。E―02からE―11、C―02からC―05は右舷、その他の機体は左舷で警戒にあたれ。それから、辻永、山葉」
 教官に名を呼ばれ、翔と聡が教官と目を合わせる。
「お前達はタンカー上空から全体を常に把握出来るようにしておけ。戦況に応じて、お前達にはフォローをしてもらう」
「了解しました」
 E―01、C―01の二機は戦況を把握出来る位置にて待機が基本となる。また、タンカーを取り囲むイコン部隊にしても、距離には注意する必要があった。タンカーの近くで交戦状態になれば、艦が被弾しかねないからだ。
「教官、敵機を発見した場合の連絡はどうするッスか?」
 質問をしたのは狭霧 和眞(さぎり・かずま)だ。彼は今回右舷側にて索敵を行うことになっている。
「発見した際は、全機に報告だ。出来る限り、こちらからの交戦は避けろ。あくまでも今回の最重要事項は、タンカーを守ることだ」
 敵の掃討ではなく、あくまでも退けることが目的だ。
「敵機に交戦の意思がある場合、速やかに包囲網を張れ――1時間だ」
 教官が伝える。
「海京到着の1時間前まで持ちこたえればいい。私達も出撃準備を整えておく。敵も一隻を沈めるためだけに、海京の全戦力を相手にするような真似はしないだろう。前の戦いを考えても、敵は分の悪い戦いを避けるだけの器量はあるようだからな」
 天御柱学院製イコンの最大稼動時間はおよそ10時間。しかし、戦闘や全速力での移動を行った場合は1時間程度にまで落ちる。
 教官が守りに徹せよ、という理由がこれだ。持久戦を考慮すれば、無闇やたらに戦うべきではない。
「今回が西シャンバラ建国後の、イコン部隊の本格的な出撃となる。だが、気負う必要はない。これまでの訓練でやってきたように行動すればいい」
 最後に、教官が全員の気を落ち着かせようとする。緊張をほぐすのも、上官の大切な仕事の一つだ。
「では、各機出撃準備に入れ。以上だ」

            * * *

「いよいよだな。お前、機体の調子はどうだった?」
 聡は翔と話しながら、自らが搭乗するE―01の機体へと向かっていた。
「特に問題はないな。最高の状態だ」
「それはそうだろう。初の実戦ともなれば、整備も今まで以上に気合が入るというものだ」
 アリサが口を開く。
 シャンバラ復活をかけた旧王都での戦いに一度イコン部隊は出撃しているものの、その時動員されたのはパイロット科の教官達を中心としてであった。
「前のときは、本当に突然だったからな。今回は全員がベストな状態でいけるわけか」
「今日のために状況に合わせた訓練も行っている。シミュレーターと実機で勝手は違うが、各々の準備も万全のはずだろう」
 だからこそ、訓練のデータで編隊を組んでいた者達がいるのだ。今回の作戦に合わせた訓練プログラムを通し、連携の強化を図ったということだろう。
「まあ、敵が現われないに越したことはないな」
 無事に海京まで送り届けるのであれば、それが最良だ。
「出てきたところで、この数だ。今度は負けねえぜ」
「聡、さっきの教官の話聞いてなかったのか? 重要なのは勝つことじゃない」
「だけどよ、倒せるんなら倒した方がいいだろ?」
「まあな。が、無理は禁物だ。もし敵が狙ってくるにしても、どのくらいの戦力でくるか分からないんだぜ?」
 それに、例え数で勝っていたとしても、敵の方が練度は上だ。ここは教官の言う通り、あくまでタンカーへの攻撃を防ぐことに専念した方がよさそうだ。
「翔、聡!」
 背後から、彼を呼ぶ者がいた。ウォーレン・クルセイド(うぉーれん・くるせいど)だ。ちょうど搭乗前に姿を見つけたので、声をかけたのである。
「おまえら、奴らと刃交えただろ? 報告以外のことも聞いておきたいんだけどな」
 爽やかに、にやりと微笑む。
「おっと、それ、景勝ちゃんも聞いておきたいって思ってたとこだぜぇ」
 その様子を見た桐生 景勝(きりゅう・かげかつ)も、敵の情報を聞くためにやってくる。
「機銃は厄介だが、それをどうにかすればなんとかなる。射程じゃコームラント、機動力ならイーグリットの方が敵よりは上だからな」
「問題は、海京に来た黒いヤツだ。シャンバラでも戦ってきたから分かるが、アレは別格だぜ」
 歯を噛み締める聡。翔やアリサの顔も苦々しい。
「なあ、その黒いのってのはそんなに強いのか?」
 彼らの会話に入ってきたのは、和泉 直哉(いずみ・なおや)だ。彼らが敵わなかったという相手に、かなり興味があるようだ。
「悔しいが、パイロットもかなりの腕だ。その上、イコンで蹴りを繰り出すなんていう無茶なこともしてきたしな。状況に対応する能力はかなり高そうだ」
「そうか。ま、もしまた現れたら、俺も戦ってみたいもんだな!」
 それほどの相手なら、一度手合わせしたいものだと思う直哉。が、翔達はあまり愉快な顔はしていない。これは実戦を経験したものとそうでないものの差だろう。
「じゃ、後でな」
 自分の機体に乗るため、直哉が分かれる。
「なるほどな、ありがとよ。なに、そんな顔すんなって。今度はリベンジしてやりゃいいんだ」
「サンキュー、まあ、頑張ってこうぜぇ」
 言葉を交わした後は他の面々も、自らの搭乗する機体へと乗り込む。
「よし、準備完了っと」
 コックピットに座り、ウォーレンはパートナーの水城 綾(みずき・あや)を見遣る。
「お嬢、悪いな。危ないことに付き合わせて」
「大丈夫。ウォーレンのこと、信じてるから……」
 サブパイロットとして、綾はレーダーや無線を作動させる。
「一応、禁猟区は使用しておけよ。万が一のことがあれば、そいつが守ってくれるはずだから」
「はい……」
 二人の乗るE―19の機体の出撃準備は整った。あとは、順次発進するのみだ。
「さーて、いっちょ気合入れていくかぁ!」
 景勝もまた、パートナーのリンドセイ・ニーバー(りんどせい・にーばー)と共に乗り込む。
「行きましょう、聡さん」
 サクラに促され、コームラントへと乗り込む聡。
「じゃあ、後でな」
「ああ」
 聡と翔はそれぞれの機体に搭乗するため、そこで別れた。

「一応、調整した部分を話しとくぜ」
 アレクセイは、索敵用に調整したE―03に乗り込むオリガ・カラーシュニコフ(おりが・からーしゅにこふ)に対して、説明を始める。
「レーダーは遠距離まで把握出来るようになってるが、更新速度が遅いから注意しな。無線の方も、長距離用の信号が送受信出来るようになってる。ただ、いささか聞き取りにくいかもしれんが、そこは我慢してくれ」
「いえいえ、十分ですわ。ありがとうございます」
 オリガが会釈をし、機体を見渡す。
「あとは、見つかっちゃ仕方ないだろ。この通り、洋上塗装をしておいぜ。俺の趣味でスプリッター迷彩になってるがな」
 迷彩塗装により、海上でも目立ちにくくなっている。
「あとは、武装はここで外していった方がよさそうね」
 オリガのパートナー、エカチェリーナ・アレクセーエヴナ(えかちぇりーな・あれくせーえうな)が口を開く。索敵のための偵察機には、武器は邪魔だという判断からだ。
「じゃ、今外すぜ」
 武器を他の機体に譲渡出来れば一番いいのだが、どうやら機体の性能上、難しいらしい。仮にパイロットが二刀流や二丁拳銃スキルを持っていたとしても、勝手の違うイコンでは運用出来ないからだ。それとともに、武装を追加するためのアタッチメントはまだ開発中である。
「これで完了だ。おっと、そうだ……」
 アレクセイが、タチアナの方へ一度駆けていく。
「はい。あの子達に渡してきなさいな」
 パートナーから受け取ったのは、禁猟区の施されたお守りだ。
「ほらよっ! お守りだ。持っていきな」
 搭乗する二人に、お守りを手渡すアレクセイ。
「ありがたく頂戴いたしますわ。では」
 コックピットに乗り込み、ハッチを閉じる。
 他の機体も、出撃準備が整ったようだ。

『サロゲート・エイコーン、E―01、出撃する!』
『サロゲート・エイコーン、C―01、出撃するぜ!』
 出撃準備が完了した二機が合図を送る。
『了解。E−01、C―01の作戦行動を許可する』
 ハンガーのゲートが開き、イーグリットとコームラントがそれぞれ発進する。
「翔、聡! やられんじゃねーぞ!」
 送り出す時、誠一が二機に乗る者達に声を飛ばした。
 その後も、順に海上へと発進していく機体を、整備科の者達が送り出していく。

            * * *

「ふう、今ので全部だな」
 学院に待機する機体を除き、今作戦でタンカーの護衛につく機体は全て出撃した。
「お疲れさん。休める時に休んどきな」
 整備科の人間は、イコンの帰投までの間、しばしの休憩だ。
「さすがに今回は疲れたぜ。真奈美……ってどこ行った?」
 誠一は姿が見えないパートナーを探しにハンガーの中を歩く。すると、物陰でこっそりと休憩に入っている真奈美の姿を発見した。
「っ! 誠一さん」
「お、ここにいたのか。整備お疲れ。よくやってくれたから助かったぜ」
「あ、ありがとうございます。は、初めての実戦になるかもしれませんから、このくらいは……」
 誠一に褒められ、顔を赤らめる真奈美。
「っと、まあそんなわけで疲れたから膝貸してくれ」
「ちょっと、誠一さん!?」
 整備で疲れた彼は、真奈美に膝枕をさせて、そのまま仮眠……といいつつ、熟睡してしまった。
「……お疲れ様です」

 人手不足も相まって、整備班には疲れの色が見え隠れしている。
「さて、帰ってきたらすぐにオーバーホール出来るように、少しは準備しておきませんとね」
 それでも、真琴は帰投後に備えて機材を準備し始める。休憩はそれが終わってからにするようだ。
「あとでやることの方が多いんだ。あんま無茶すんなよ」
 アレクセイがそのようなことを言うが、彼自身も手を動かしている。
「それはアリョーシャも、でしょ」
 と、タチアナが彼を横目に見る。
「なに、これでもキャリアは長いつもりだ。こんくらい、疲れのうちに入らんぜ」
 作業をしつつ、彼らはハンガーの外の海、そして空を眺める。
「ちゃんと生きて帰って来いよ」
「皆さん、無事に帰って来てくださいね」