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リアクション
夜も更け、それぞれ就寝の準備に入ろうとしていた。
ホテルの受付があるロビーでは相変わらず、大佐が人間観察を続けていたが……。
1505号室スイートルーム。
「あっ……そこ……」
ベッドに横たわる優希の口から気持ち良さそうな声が漏れる。
「ここ……でしょうか?」
ルイ・フリード(るい・ふりーど)の額に微かに汗がにじんできた。
優希が気持ち良さそうなところを念入りにやっていく。
その様子を横でホイップがビデオカメラを回して、一部始終を録画している。
「この筋肉マッサージ……凄い気持ち良いですね。そこです〜」
「ハッハッハ! ありがとうございます。気に入ってくれたようでなによりです」
そう、マッサージの体験レポートをしていたのだ。
「マッサージは基本、部屋に来てもらえるんですよね?」
「はい、宿泊客でない方には、マッサージ用の部屋をご用意させていただきます」
優希の質問にホイップが答える。
「なるほど……くぅ……!」
マッサージの最中でも記者として質問を忘れていない。
「どこか痛む場所などありますか?」
「今のところないです……あっ……」
ルイの手が肩に来ると、更に気持ち良さそうな声を出した。
「凝っていますねぇ……普段、パソコン等のデスクワークが多いのでは?」
「そうなんですよ……ああ、良いです」
20分間のマッサージが終了すると、優希の顔色はかなりよくなっていた。
良い感じに録画も出来ていたようで、ホイップとルイは部屋を出た。
「ホイップさん、あなたもどうです? ずっと働き通しで疲れてらっしゃるでしょう?」
「えっ? 大丈夫だよ!? なんだか、体も軽いし」
それは詩穂のマッサージのおかげだろう。
「そうですか。ですが、無理は禁物ですよ!」
「うん、ありがとう!」
ルイはそのまま、呼ばれた部屋へと向かっていったのだった。
■□■□■□■□■
1510号室スイートルーム。
部屋の中ではシーツは真っ白に洗い上げられ、お部屋も高級ハタキを使ってハウスキーパーで綺麗になっていた。
乾いているシーツでベッドメイクが完了したその時、部屋の扉をノックする音が聞こえてきた。
「ホイップさん、いらっしゃい!! 入って、入って!」
「えっ!? えっ!?」
ホイップを部屋へと引き入れたのは朝野 未沙(あさの・みさ)だ。
「お部屋のお掃除……って、綺麗になってる?」
「うん、そうそう! さっ、ベッドに横になって!」
「ええっ!?」
未沙はホイップの腕を掴んで、ベッドへと誘う。
「きゃっ」
ホイップは簡単に押し倒され、うつ伏せの状態に。
未沙はそのホイップに跨った体勢だ。
「色々とやってて疲れてるでしょ? マッサージしてあげるね」
「えっ!? わ、悪いよ!」
「ダーメっ!」
ホイップは起きあがろうとしたが、押しとどめられてしまった。
そのまま、無理矢理マッサージに入る。
背骨に沿って指を滑らせ、肩甲骨も同様にマッサージしていく。
ついでに、ホイップに気づかれないようにメイド服のファスナーも降ろしておく。
「えぅっ」
中心から脇にいき、手がそのまま胸へと到達。
思わず、ホイップから声が漏れた。
「べ、別にそこはマッサージしなくても……」
「ダメ、ダメ! あ、こっちの方がマッサージしやすいよね」
そう言うと、未沙はホイップをうつ伏せの状態から仰向けへと変えてしまった。
「ええっと……」
「やっぱりホイップさんの胸って、柔らかくって……張りがあって……」
「きゃぅ……」
かなりがっつりと胸を揉まれているのだが、ホイップ自身どう対処して良いのか分からず、防げないでいる。
「直接触った方がマッサージ効果が高くなるよね!」
「ええっ! ちょっ……ええっ!?」
ホイップの肩に手を置くとするりと上半身を脱がせてしまった。
淡いピンクのブラが現れる。
「ひゃっ!」
「すべすべ〜」
直接、胸に触ってその感触を楽しんでいる。
「唇も――」
「そこまでですっ!」
扉を開けて入ってきたのは真奈だ。
「にははっ、そこまではダメだよ〜!」
リーズも一緒だ。
その後ろには陣もいるのだが、男性が直視できる状態にはなさそうだったので、部屋の外で待機している。
「あたしとホイップさんのらぶらぶを邪魔しようだなんて……そんなことさせないんだからっ!」
未沙は2人を追い出そうと立ち上がったが、すぐにグルグル巻きにされてしまったのだった。
ホイップは無事救出され、未沙はホテルをチェックアウトするまでそのままになってしまった。
■□■□■□■□■
1503号室スイートルーム。
窓の側の椅子に腰かける京子の横に真が立っていて、夜景を楽しんでいるようだ。
「それじゃあ、そろそろ自分の部屋に……」
「ま、待って」
行こうとする真の裾を掴んで止める。
「その……寝入るまで傍にいて」
顔を少し赤くし、俯いたまま、やっとそれだけ伝える。
「う、うん……」
結局そのまましばらく夜景を眺めて、京子はベッドへ入った。
「ちゃんと傍にいてね」
京子の言葉に真はこくりと頷く。
安心したのか京子はしばらくすると眠ってしまった。
寝たのを確認すると、真は電話のある場所まで移動し、ルームサービスを頼む。
電話を切ると、京子のもとへと戻り、寝顔を眺める。
(京子ちゃんの寝顔、ちゃんと見るの初めてかも……ずっと見ていたいな)
そんな事を思いながら、もう少し近くで見ようと乗りだした、その時コンコンと、静かにドアをノックする音が聞こえて来た。
無警戒だったため、かなりビクッとなってしまっていた。
「きゃっ」
「オハヨウゴザイマス……」
物音に気が付いて、京子が目覚めてしまった。
真の顔が近くにあったことに驚いて慌てて飛び起きようとしていまう。
「あいたっ」
「ま、真くん大丈夫!?」
京子が真の鼻の下に頭突きをかます形となってしまったのだ。
「ああ、こりゃ……お楽しみのところ申し訳ありません」
ジャスミンティーを片手ににやにやしながら立っていたのは陣だった。
2人はなんとか言い訳をしようとわたわたするのだが……言葉にならず。
「ご注文のジャスミンティーはこちらに置いておきますので、どうぞごゆっくり」
そういうと、陣はすぐに立ち去って行った。
「…………」
2人は顔を見合わせ、少し無言になってしまっていたが、笑いがこみ上げてきたようで、そのままもう少しおしゃべりをすることにした。
■□■□■□■□■
1509号室スイートルーム。
この部屋の中ではチェス盤を挟んで織機 誠(おりはた・まこと)とホイップが対決をしていた。
「実はジャタ松茸を取りに行くとき、ご一緒したのですが……覚えてないですよね?」
誠は一手打つとそう問いかけた。
「覚えてるよ! あのときは確か、創作料理を作られてましたよね?」
「ええ! そうです! っと、なかなかホイップさんもお強いですね」
「そんなことないですよ」
気を抜くとすぐに勝ってしまいそうになるのをホイップは必死に接待に努めていた。
誠はチェス盤は自前だし、戦う前に『一瞬で終わりますよ。私は強いですよ〜』と言っていたのだ。
「しかし……あの時より綺麗になりましたよねぇ……私は半年くらい休学してましたから……エルさんと良い感じになられたとか……」
「へぅっ」
その言葉に動揺して、ホイップは変な所へと駒を進めてしまった。
「おやおや。やはり恋というのは偉大ですねぇ」
ホイップは赤くなり、俯いてしまった。
「チェックメイトです」
「あ……お強いですね」
「そうでしょ〜?」
ホイップは自滅した形となってしまったが、勝利を誠へと渡すことが出来て満足のようだ。
「お疲れ様でした。相手をしてくださってありがとうございます。楽しかったですよ」
ホイップにチップを渡そうとしたのだが、それをホイップはやんわりと断ったのだった。
■□■□■□■□■
1612号室スイートルーム。
レジーナ・アラトリウス(れじーな・あらとりうす)が上機嫌で入浴にいっている間に金住 健勝(かなずみ・けんしょう)が電話でマッサージを頼んでいた。
健勝はドアをノックする音に気が付いて、足取り軽くドアを開けに行った。
「ホイップ殿、宜しくであります!」
ドアを開け、ホイップを寝室まで案内すると、さっそくうつ伏せになり、マッサージをお願いした。
「痛いところがあったら言って下さいね」
「了解であります! あ、肩や腰を中心にお願いするでありますよ」
ホイップはタオルを掛けると、肩からマッサージを始めた。
「最近は色々大変でありましたから凝ってしまいまして。自分もホイップ殿が女王器関係で大変な時に手伝えなくて申し訳なかったであります。だからせめてこっち方面のお手伝いを、と……」
「ううん……気にしないで。その気持ちだけで嬉しいよ」
マッサージの手を止めることなく、会話が進んでいく。
そのまましばらく、肩のマッサージ。
次に腰へと移っていく。
「あー、少し強いであります。もう少し力を抑えて……そうそう。そこが気持ちいいであります」
「ここですか?」
「そうであります」
時間も忘れて、気持ちの良いマッサージに夢中になっていた。
「健勝さん? なーにやってるんですかぁ?」
いつの間にかお風呂からレジーナが出て来ていたのだ。
顔は笑っているのに、目からは殺気が放たれている。
「気持ち良さそうな声が聞こえてきましたよ?」
「はっ!? ご、誤解であります! これはただのルームサービスで……。それにホイップ殿の借金返済の一助を……」
慌てて弁明をするが、聞き流される。
「ホイップさん忙しいんでしょう? 後は私がやっておきますから、ね?」
レジーナは有無を言わさず、ホイップにやんわり退室してもらった。
「そんなに凝ってたのに全然気が付かなかったなんて、私パートナー失格ですねー」
くるりと振りかえると、先ほどよりも殺気が増しているように見える。
「さてと、どこが凝ってるんでしたっけ? ここですか?」
「ぎゃーーーーーっ!!!」
「……あら、間違えました?」
「も、もう……許して欲しいであります……」
「何言ってるんですか? 私はマッサージをして差し上げてるだけですよ?」
「あんぎゃーーーーーっ!!!」
その後、この部屋からはしばらく健勝の悲鳴とボキボキいう音が響いてきたとか。
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1607号室スイートルーム。
「へぇ、ルームサービスも充実してるんですね」
ルームサービス用のメニューをぱらぱらめくりながらセシル・グランド(せしる・ぐらんど)が呟いた。
「あ、すみません。温かいレモネードを1つお願いします」
注文が終わり、後ろを振り向くと、さっきまでベッドでトランポリンをしていた一ツ橋 森次(ひとつばし・もりつぐ)が枕を構えて、セシルに照準を合わせていた。
「え? 何で枕なんて構えてるんですか? って、エヴィもですか!!」
森次を見て、エヴィエス・リーピア(ー・ー)も枕を構えていた。
エヴィエスは枕を構えやすそうだったので、いつの間にか人型になっている。
「だって、森次が構えてるから」
「そんな理由で!?」
エヴィエスの理由にセシルは口をあんぐりと開けて間抜けな面になっている。
「先手必勝!」
森次の投げた枕はセシルの顔面に直撃した。
「僕も〜」
「うごっ!」
エヴィエスの投げた枕も見事に顔面直撃となった。
「や、やめてください!」
「ええ? だって楽しいじゃん、ボクが」
「僕も」
セシルの願いは聞き入れられなかった。
「そんな……ぶっ!」
2人を説得しようとするが、その前に顔や腹に枕が当たって会話にならない。
そんな枕が飛び交う中、ドアがノックされた。
「は〜い」
エヴィエスが出ると、レモネードを持ったホイップがそこにはいた。
「えっと……レモネードをお持ちしました」
「ありがとうござい――へぶっ!」
セシルはお礼を言おうとしたが、森次の投げた枕に邪魔された。
「ここに置いておきますね」
ホイップは苦笑いしながら、テーブルへとレモネードを置いて、そそくさと退散したのだった。
「何でメイドさんがいるの?」
「あれは給仕さんですよ――って、説明してる間は枕やめてくださいっ!」
「やだ」
エヴィエスの質問にセシルが答えたのだが、またも森次に邪魔されている。
「へぇ、給仕さんって言うのか。執事の修行として、今度じっくり観察させてもらおう」
「おぶっ!」
そんな事を呟きながら、器用に枕をセシルへと命中させたのだった。
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