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リアクション
第5章
時は少し戻り、オープンする前。
厨房では他の見習いに混じって働く佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)と真名美・西園寺(まなみ・さいおんじ)の姿があった。
弥十郎は山と積まれていたタマネギの皮むきが終わると、ジャガイモの皮むきに移った。
「くっそ……なんであいつ一番若くて経験が浅いはずなのに、あんなに早いんだよ」
「まったくだ……。あっちにいるあいつの連れも早いしな……」
コック見習いの2人の先にはカットフルーツを黙々と作っている真名美が居た。
2人は負けてられないと精を出し始めた。
弥十郎がキャベツの千切りも終わり、レタスを氷水につけてパリっとさせたら、コック達が厨房の中へと入ってきた。
鍋の準備等も全て済ませてある。
真名美の方はプラムの種を取る作業に入っている。
弥十郎も黙ってサラダ用のドレッシングを作る準備に入った。
「よく働いてるやつがいるじゃねぇか」
料理長が2人の働きを見て、そう呟いた。
そして夕方、厨房は夕ご飯前で戦場となっていた。
弥十郎と真名美は無駄口を一切叩かず、料理長の味を忠実に再現し、手を抜く事はなかった。
「お前ら、今日のまかないを任せる」
ようやく一段落すると、料理長より厨房で働く人のまかないを頼まれたのだった。
弥十郎はレタス炒飯、真名美は海老のニンニク炒めを本気で作り始めた。
レタス炒飯は卵を中華鍋で半熟にしたあと、ご飯、生姜、ネギ、最後にレタスの順に入れ、日本酒でふっくらとさせると、醤油で香りを付け完成となった。
海老のニンニク炒めはニンニクと油をフライパンに入れ、弱火で香りを出したあと、下処理を施したプリプリの海老とシャキシャキのクワイをフライパンで炒め、塩で味を付けたあと、水溶き片栗粉でまとめた。
厨房での作業が終わった皆がテーブルに着くと、さっそく料理を出す。
「こ、これは……これ以上足すと余計、しかしこれ以上引くと物足りない……そんな味に仕上がっている! お前ら、一体……!?」
料理長の言葉には答えず、ただ黙って自分達は厨房を後にしたのだった。
「これで、少しはホイップに返せたかな」
「あの……美食家さんのお仕事の時のこと、まだ引きずっていたんですもんね」
真名美の言葉に弥十郎はこくりと頷いた。
「大丈夫です」
「そう……だね。借金を増やした借りはこれで少し返せたよね」
「はい」
2人はホイップに見つかる前にホテルを後にしたのだった。
■□■□■□■□■
時間は元に戻りまして、こちら夕飯時のレストラン。
レストランに予約を入れていた人達が次々と席に付き、思い思いの料理を堪能している。
30階にあるので、見晴らしがよく、展望レンストランとして今後売っていく予定のようだ。
「お待たせしました! 特大バースデーケーキになります」
ホイップは小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)、ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)、コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)の3人がいる席にケーキを運んだ。
そのサイズは特大と言うだけあって、5段重ねになっており、デコレーションは向日葵や黄色いリボン、それから羽がモチーフになっている。
ケーキの上には火の点いたろうそくが16本。
「ホイップさん、チョコペンで名前を入れてもらっても良いですか?」
「はい、勿論っ!」
ベアトリーチェが言うと、ホイップはチョコペンとチョコのプレートを厨房から貰ってきた。
ベアトリーチェの指示の下、チョコのプレートに美羽とコハクの名前がローマ字で入った。
それをケーキの最上段中央に飾り付け、完成となった。
「ありがとう! ホイムゥ! じゃあ、始めようか!」
美羽がお礼を言うと、ホイップは手で合図を出し、レストランの明りを一時的に暗くしてもらう。
「ハッピバースデートゥーユー♪ ハッピバースデートゥーユー♪ ハッピバースデー、ディア美羽とコハクー♪ ハッピバースデートゥーユー♪」
ベアトリーチェとホイップが歌を歌い終ると美羽とコハクがロウソクの火を吹き消した。
レストランにいた他のお客さんからも拍手が起こった。
それと同時に明りが元に戻る。
「美羽さん、コハクさん、おめでとうございますっ!」
ホイップとベアトリーチェが口をそろえてお祝いの言葉を言った。
「ありがとう!」
「ありがとうございます」
美羽とコハクはそれぞれ、お礼を言う。
見計らって、料理が次々にテーブルの上に並べられていく。
「あの、ホイップさん。よかったら僕とも仲良くしてくださいね」
「うん、もちろんだよ!」
コハクが言うと、ホイップはいつもの口調で返事をした。
「これで私も、ホイムゥの年齢に一歩近づいたよ♪ これからも宜しくね!」
「うん!」
美羽に言われると、ホイップは嬉しそうに笑顔で返した。
料理とケーキを心行くまで楽しみ、誕生日パーティーは幕を閉じたのだった。
「どれ頼もうか凄く悩む!」
天心 芹菜(てんしん・せりな)がメニューを開きながら頭を抱えていた。
「確かに……どうせ高い金を出すのなら美味しいものが食べたいしな」
ルビー・ジュエル(るびー・じゅえる)が同意を示す。
「うんうん! 豪華なホテルと言えば、一流の料理! ああ〜、どれにしよう……パラミタエスカルゴのシャンバラ風も気になるし……海京海老の白ワインソースも……うーん……もういいや! すみませーん!」
給仕の仕事に戻ったホイップはすぐに声を掛けられた。
「はーい!」
「フルコース二人前お願いします!」
「かしこまりました。メインはどちらになさいますか?」
「お肉で!」
「では、魚で」
芹菜が言うと、ルビーもすぐに答える。
「お飲み物はいかがなさいますか?」
「あたしは炭酸水で」
「自分はせっかくだし、このシャンバラワインの赤をいただくとしますかな」
芹菜もルビーもそれほど悩まず飲み物は決定した。
「かしこまりました」
注文をとると、ホイップは引っ込み、しばらくして飲み物と前菜が運ばれてきた。
「わーすごーい……はむっ」
前菜が運ばれてくると見た目をあまり気にせず、芹菜は口へと運んだ。
「……美味しい! この水菜の使い方が絶妙!」
芹菜はぱくぱくと食べ進んでいく。
「食器の選び方……盛り付け、色合い……流石だな」
ルビーの方は、味よりもまず見た目が気に入ったようだ。
メインのお肉料理は『シャンバラ牛のたたき、ジャタ松茸を添えて』と自家製パン。
お魚は『パラミタスズキのムニエル、オレンジソースがけ』というパスタになっていた。
どの料理も2人ともかなり満足し、デザートまでペロリと平らげた。
「もうお腹いっぱい……」
「ああ、自分もだ」
2人は自分達の部屋へと笑顔で戻って行ったのだった。
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