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灰色の涙

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灰色の涙

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第四章


・第一層


「この先が魔力炉ですね」
 戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)が通路の先を見据えた。
 第三層と第二層の分岐点までは固まって移動していたのを、彼は確認している。
「しかし、機甲化兵は避けられませんか」
 眼前には機甲化兵・改が立ち塞がっている。
「ここを突破しなければいけませんね」
 上杉 菊(うえすぎ・きく)が機甲化兵・改に向けてサンダーブラストを放つ。それが敵に命中するや否や、グロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)が即天去私を敵に撃ち込む。
「此処で徒にかかずらう訳にはいかないのよ――GoGoGoGo!」
 ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)がその隙に機甲化兵・改の間を抜けて突破していく。
 それに続き、他の者達も進んでいく。
 さらに、ライザとエリシュカ・ルツィア・ニーナ・ハシェコヴァ(えりしゅかるつぃあ・にーなはしぇこう゛ぁ)の二人は機甲化兵・改の足止めのために、トラッパーで罠を施す。簡易型の電流装置だ。
 最上層を目指している者達が通り過ぎたのを確認すると、菊が氷術で通路の前後を塞いだ。
 これで、敵を足止めしておく事が出来る。
 通路は途中で分岐になっていた。そのため、魔力炉を目指す者達は二手に分かれて進む事にする。
 
 片方の通路は非常に静かだった。強固な装甲を持つ無機質な機械の兵士の姿は、そこにはない。
「小次郎さん、この先にとても強い殺意を放つ者がいます!」
 リース・バーロット(りーす・ばーろっと)が小次郎に報告する。殺気看破で、通路の先にいる敵の存在を感じ取った。
 殺気を放つという事は、機甲化兵ではない何かだ。
「……ッ!!」
 殺気に紛れて、風――否、かまいたちが来る。咄嗟に伏せ、何とかかわすが、一瞬でも遅かったら上半身と下半身が真っ二つになっていてもおかしくはなかった。
 扉の前に立ち塞がっているのは、禍々しい気を放つ男だった。もはや復讐心に取り付かれ、それのみに固執し修羅道に入ったかのようなその人物に、前の若い青年の面影はない。
――新撰組八番隊組長、藤堂 平助がそこに立っていた。
「なんて殺気なの……!」
 リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)が思わず声を漏らした。
「師匠、なんかヤバイっスよ」
 アレックス・キャッツアイ(あれっくす・きゃっつあい)が言う。機甲化兵相手でもびびっていたくらいだ。それよりも明らかに危険な相手を前に、怯えないでいる方が難しい。
「あの刀……あれが魔法と科学を融合した末に生み出されたものなの?」
 黒い光を放つ刀を見て、サンドラ・キャッツアイ(さんどら・きゃっつあい)が呟く。ワーズワースの遺産が魔法と科学を融合した技術である事は、ここに来る前に知った。だが、それはこんなにもおぞましいものだろうか?
「ォォォオオオオオオオ!!!!!」
 平助が雄叫びを上げ、刀型の魔力融合型デバイスを一閃する。それをリカインがラスターエスクードで受け止めようとするが、
「――嘘ッ!?」
 その威力は、盾ごと彼女を切断するほどだった。瞬間的に床を転がり、何とか難を逃れたが、まともにやりあえる相手ではない。
「こんなの……まともじゃない」
 これまでにも彼女は規格外の相手と戦ってきた。だが、目の前の男は、それすらも凌駕している。
 狂気に取り付かれ、我を見失っているであろう敵の姿を見て、彼女は苦い経験を思い出した。
(何かに憑かれてまで力を手に入れても、身を滅ぼすだけだというのに)
 以前、パートナーのキュー・ディスティン(きゅー・でぃすてぃん)が正気を失ってしまい、それを何とか覚ませた事がある。
 ならば、と彼女は勝負に出る。
 アレックスが投げ刃で援護している間に、何とか形を止めたラスターエスクードを構え直し、詠唱を始めるリカイン。
 投げ刃は、平助の刀によって防がれるどころか、刀を一振りしただけで形も残らず消滅した。
「光は闇に、闇は光に……善悪聖邪を超え巡りし力、その境界たる刹那をここに現せ!」
 手には闇の輝石が握られている。そして――

「コールニュートラル!」

 光と闇、二つの相反する属性がぶつかり合う事によって生じた波動が、平助を貫かんとした。
 だが、
「ェ゛ァアアアア!」
 その波動が咆哮でかき消される。彼の深い憎悪の念が、彼女の魔法を上回っていたのだ。
「殺……ス」
 次の瞬間には、リカインの眼前に平助の刃があった。もはや避けられる距離ではない。
 だが、その間合いに飛び込み、平助に一太刀浴びせんとする者が現れた。
「見つけましたよ、平助さん」
 藤原 優梨子(ふじわら・ゆりこ)だ。用意は整っておりますで準備は出来ていた。黒壇の砂時計を起動し、そのまま突っ込んできたのである。
 プリンスオブセイバーで一閃しようとする。だが、平助の一撃はそれを容易くへし折るほどの威力がある。
 かわされるや否や、優梨子はすぐに飛び退いた。
 今の平助は、前とは比べ物にならないほどに強い。だが、完全な狂戦士と化した今の彼には、相手を殺す以外の思考はかけている。
 だが、平助は優梨子を見て、さらに殺意が沸き始めたようだ。鋭い眼力で優梨子の事を睨んでいる。
「ァァァァアアアア!!!!」
 全力で振り下ろされた魔力融合型デバイスは、もはや空間そのものを切り裂かんばかりの勢いで彼女に迫る。
「……っ!!」
 刃で受け止めようものなら、剣が消滅する。彼女のすぐ脇を風が通り抜ける。パラパラと、かすった髪の毛が地面に落ちていく。
 しかし、そこで彼女は怯まなかった。
「それだけの威力なら、自分の間合いでは打てませんよね?」
 接近すれば、同じような事は出来ない。自分も巻き添えを食うからだ。一撃が致命傷になるなら、本能がブレーキをかけるはずである。
 優梨子は自分から剣を敵の刀に打ちつけた。そして、瞬時に懐から奪魂のカーマインを抜き放つ。
 ほとんどゼロ距離に近い状態では、いくら平助でも防げない。
 と、思われたが――
「ラァアア!!」
 強引に握った刀を振るい、弾丸を消し飛ばす。力で優梨子が押し負けたのだ。彼女はそのまま弾き飛ばされる。
 そして、バランスを崩したところに平助の刃が振り下ろされる。
「!!」
 が、そこへ銃撃が来る。その目標は、平助だ。
「随分とけったいな姿になったねぇ」
 銃撃の主は佐々良 縁(ささら・よすが)だった。そして、彼女の後ろから平助に真正面から立ち向かおうとする者がいた。
「藤堂さん……!」