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リアクション
第7章 闘いを続ける者、止める者
「危なかったですね、藤堂さん」
迷彩塗装で身を隠していたサイファス・ロークライド(さいふぁす・ろーくらいど)が、倒れてナイフを突きつけられたところを、誰かの流れ弾のおかげで救われた藤堂裄人(とうどう・ゆきと)に声をかける。
「ああ。あとちょっとでやられると思ったよ」
藤堂は冷や汗を拭いながら、起き上がる。
自分にとどめを刺そうとした相手が、流れ弾を警戒して立ち去ったおかげで、命拾いをした。
流れ弾と思われたのは、サイファスと同様に身を隠していたエイミー・サンダースによる威嚇射撃だったのだが、藤堂たちはそのことに気づかない。
「僕もリベットガンで援護しようと思っていたところだったんで、ちょうどよかったです」
サイファスはすっかり安堵していた。
「そうか? 俺と2人で降伏しようなんて考えてなかったか?」
「まさか!」
藤堂の問いに、抵抗してもダメだったときの考えを見透かされたように感じて、サイファスは苦笑いする。
「それにしても、かなりの激戦だな。みんな、狂ったようになっている。オレたちと同じ考えの奴はいないのかな?」
藤堂は首をかしげた。
藤堂たちは、コリマ校長の真意は、バトルロイヤルといっても相手を殺すのではなく、「相手の戦意をなくすようにしろ」ということではないかと考え、できるだけ死傷者を出さない仕方で戦闘を進めていた。
自分と同じような考えの仲間がいたら協力したいと思ったが、なかなか出会わない。
むしろ、狂ったように殺意にとりつかれた参加者ばかりである。
「何だか勢いで負けているような気がするな。オレだって、真剣に闘っているんだが」
藤堂は難しい顔で考え込む。
「さっきもそうだったけど、僕のサポートが足りないんですよ。申し訳ないです」
サイファスは頭を下げるが、藤堂は無言だ。
無論、サイファスのせいだと考えているわけではない。
考えながら、藤堂が足を進めようとしたとき。
「危ない!」
サイファスが叫んで、リベットガンを藤堂の頭上に向けて撃ち放つ。
グワーン!
藤堂を押し潰す勢いで落下してきた巨大な岩が、弾丸をくらって砕け散る。
「なに!? また、襲撃か」
藤堂は慌ててものかげに隠れる。
精神感応で超能力者の存在を探りながら進んでいたはずだが、察知できなかった。
だが、そのことは逆に、相手が少し離れたところにいることを示していた。
「また、岩だ!」
サイファスが叫んで、リベットガンを再び撃つ。
岩が何個か飛んできた後は、木の根っこや、山頂からどこかに吹き出したばかりのマグマなどが飛んでくる。
「くっ! 相手は2人だな!」
サイコキネシスによる多種多様な投げつけ攻撃をみて、藤堂は敵の数を推測した。
「どうします?」
「回避を続けよう。痺れをきらした相手が、接近戦を仕掛けてくるだろう」
サイファスに、藤堂が指示を出す。
藤堂の狙いはあたり、2人の超能力者が近づいてくる気配が感じられた。
「そこだ!」
藤堂は、気配の感じられる岩陰を狙って、サイコキネシスを仕掛けた。
同時に、相手もサイコキネシスで藤堂の身体を束縛しようとする。
「ボクは移動を優先したいんだよね。君たちは回避中心みたいだし、おとなしく道を譲るなら見逃すよ?」
霧積ナギサ(きりづみ・なぎさ)が藤堂の前に姿を現し、念を込めながらいう。
「オレも、勝利者を目指している。道を譲れという要求に、従うことはできない」
藤堂は、霧積を圧倒しようと念を強くした。
藤堂と霧積。
2人はサイコキネシスで互いの動きを封じ、身動きがとれなくなった。
すると。
霧積の側に、常磐城静留(ときわぎ・しずる)が現れた。
「知ってる? 私たちは、常に2人で仕掛けるのよ」
常磐城は、霧積に加勢して、藤堂にサイコキネシスを仕掛ける。
「うっ、2対1か!」
均衡が崩れ、藤堂の身体が2人の敵のサイコキネシスによって、宙に浮き上がる。
「藤堂さん!」
サイファスがリベットガンを霧積たちに向けて撃つ。
「うわっ、危ないな」
弾丸を避けて、霧積たちはさらに強く念じた。
宙に浮いた藤堂の身体が、ものすごい勢いでサイファスに叩きつけられる。
「うわー!」
「あー!」
ぶつかり合った藤堂とサイファスは、互いに頭をくらくらさせて、倒れ込む。
「さて、行こうか。あっ!」
霧積が山道を進もうとしたとき、その身体が宙に浮き上がった。
「誰!? あっ!」
常磐城の身体も、宙に浮き上がる。
誰にサイコキネシスを仕掛けられたかわからないまま、霧積たちは山道の遥か下方に身体を投げ飛ばされていった。
「これでいい。しばらくしたらまた登ってくるだろうが、彼らの方が若干好戦的だった。牽制を行った方がいいと判断した」
遠距離から闘いを見守っていた、クレア・シュミットがいった。
「あなたの考え、私は本当に賛成だわ。上層部と敵対しない程度に対立するには、このぐらいがちょうどいいもの」
クレアとともに霧積たちにサイコキネシスを仕掛けていた、真里亜・ドレイクがいう。
「倒れた2人は、どうしようかしら?」
「凶暴性は感じられない。通しておいて問題はないだろう」
先に起き上がったサイファスが藤堂を助け起こし、2人で歩き出す姿を見守りながら、クレアがいった。
クレアたちの行動は、少しずつ成果を出していった。
山道を、一人の少女が登っている。
「はあはあ。あともう少し、もう少しだから」
額の汗を拭いながら、自分で自分に言い聞かせるように呟いて、少女は重い足を運んでいく。
だが。
パラ実生の群がる恐怖の森を一人で駆け抜け、山道のあちこちで起こる激戦から身を避けるようにして慎重に進んできた少女の疲労は、限界に達しようとしていた。
もともと慎重な性格をしていた少女は、ここに到達するまでの過程で、気をつかいすぎでいたのだ。
もはや、レビテートで身体を浮かせる力も残ってはいなかった。
「みえてきたわ。あの岩棚の向こうに、海人さんが……」
海人とその周囲の生徒たちが集まっている岩棚を目にして、精神感応で目的地がそこであると気づいた少女は、歩みを早めようとするが、とがった岩に足をひっかけてしまった。
「あっ!」
ばたっ
転倒した少女は、疲労が急速に全身にまわるのを感じながら、意識を失ってしまう。
「ここは……?」
気がつくと、和泉結奈(いずみ・ゆいな)は岩棚の上に横たわっていて、周囲の生徒たちが心配そうに顔を覗き込んでいた。
「気がついたか?」
西城陽が声をかける。
「私は……さっき、倒れて……」
「そうだ。この近くで気を失っていたおまえの身体が、浮き上がって、ここまで移動してきたんだ。俺たちはびっくりしたぜ」
西城はうなずいて、結奈に状況を説明した。
「身体が浮き上がって? どういうこと?」
結奈は驚いた顔をみせながら、起き上がる。
「ふふふ。彼がやってくれたみたいだね」
横島沙羅がニヤリと笑って、車椅子に乗った海人を示す。
「海人さん!」
結奈は会いたかった人を目にして、ふらふらと歩み寄った。
「大丈夫か?」
西城が結奈の肩を支えようとするのを、横島がなぜか睨んでいる。
「海人さん! お願い! 兄さんを止めて!」
結奈は車椅子の海人の顔を覗き込んで、哀願するような口調で訴える。
海人は、相変わらず茫然とした表情で、虚空をみつめている。
「兄さん、って?」
「私の兄さんが、バトルロイヤルに参加してるの。生きている実感を得たいといって。いまも、殺し合いをしてるの! だから、私は……」
言葉の途中で、結奈の目から涙があふれてきた。
「何で、海人に頼もうと思ったんだ?」
「兄さんは、海人さんと会ったことがあるの。私の話もしたんだって。兄さんは、海人さんがバトルロイヤル参加を決めたことを、気にしていた。だから……」
結奈は言葉を切り、涙を拭う。
「なるほど。じゃ、おまえの兄さんをみんなで止めなきゃ。海人も、まあ、聞いてるだろうし」
西城は、反応がない海人をちらっとみた。
「でも、その兄さん、どこにいるんだろうな?」
「ふふふ。心配いらないよ。もう近づいてるよ」
横島が笑いながらいったとき。
「うわー!」
「ぎゃー!」
バトルロイヤル参加者たちの悲鳴があがり、一同は振り返った。
どさっ
サイコキネシスで身体を放り投げられた参加者たちが、海人たちの近くに落下する。
「ひ、ひー。勘弁してくれ!」
全身傷だらけの参加者たちは、彼らに近づいてきた男をみて、這い逃げようとする。
「どうした、もう終わりか? 命がけで闘う勝負じゃなかったのか」
目をギラギラとさせた和泉直哉(いずみ・なおや)が、闘いの相手に問いかける。
「兄さん!」
「うん、結奈! なぜここに? それに……海人も!」
結奈の声に、直哉は我に返ったような口調になった。
海人の姿をみたことで、直哉の驚きはさらに増していた。
「兄さんが何をしようとしているかはわかったから。でも、もうやめて!」
結奈はよろめきながらも、直哉に近づこうとする。
「お前が口出しすることじゃない。ここは危ない。すぐに帰るんだ。そうか、俺の後ろに隠れていろ」
「どっちも嫌よ! 兄さんが闘うのをやめない限り!」
「俺は真剣に闘っているんだぞ!」
直哉はイライラした口調で、結奈に手を伸ばす。
だが、結奈は首を振り、訴えるような目を兄に向ける。
そのとき。
(和泉直哉。闘いをやめるんだ。心が狂気に染まる前に)
直哉の脳裏に、理性的な男性の声が響く。
「海人! 久しぶりだな。だが、おまえは、俺と感応をしたあのときに、みたはずだ。俺の心の闇をな!」
直哉は叫んだ。
(その闇を、さらに濃いものにしているのは君自身だ。闘いは、人を狂わせる。現に君は、勝敗が決したにも関わらず、逃げる相手にとどめを刺そうとさえ考えていた)
海人の指摘に、直哉は思わず両手で顔を覆った。
決して認めたくはないが、海人のいったことは、事実だった。
だが。
「うるさい、うるさい! 俺は両親に捨てられたんだ! 結奈も一緒にな! 俺たちが超能力に目覚めたことが、なぜ人生を狂わせるんだ? 俺たちはどこに向かっている? その答えを得なきゃいけないんだ。闘いの場でこそ自分を高められるといった、校長の考えは正しい!」
叫んで、直哉は両手を下ろした。
海人をにらみつけ、歩み寄っていく。
「兄さん!」
結奈が悲痛な叫びをあげる。
「どうしても俺を止めたいか? なら、力ずくで来い、海人!」
(君の闘いは、妹の哀しみを深くするだけだ)
海人の言葉に、直哉は逆上した。
「バカ野郎! 結奈のことを持ち出すのは、卑怯なんだよ!」
直哉のサイコキネシスが、車椅子もろとも、海人の身体を浮かせようとする。
だが、海人も車椅子も、微動だにしない。
「うっ、動かせない! なぜだ? 本気でやってるのに! うっ!」
直哉は、自分の身体も動かなくなっていることに気がついた。
みえない力が、身体の動きを封じているのだ。
「す、すごい力だ! これはおまえがやっているのか、海人! こ、この感じは何だ?」
直哉の目が、驚愕に見開かれる。
これまで出会ったどの相手よりも強い力が自分をとらえていた。
それだけではない。
心が奥底から揺さぶられるような、激しい「圧力」が直哉を襲っていた。
学院の研究スタッフなら、この現象について、海人の恐るべき力に触れたことで、同じ超能力者である直哉の心にプレッシャーが生じたのだと説明できるだろう。
闘いの中で自信を得ていたはずの直哉は、生まれてはじめて感じるそのプレッシャーに、畏怖の念を覚えた。
「面白い。本気を出せ、海人。強い相手と闘って散るなら、本望だ!」
直哉は海人を燃えるような視線で睨みつける。
直哉と海人。
2人のみえない力は、しばらく均衡を保ち、お互い動けない状態が続くかに思えた。
「ふふふ。直哉くん、少し調子に乗ってないかな? そろそろ締めなきゃね」
横島が怖い笑いを浮かべながら、全身から汗を噴き出した状態で硬直している直哉に歩み寄る。
「沙羅、怒っているのか? やめろ!」
西城が横島を止めようとした、そのとき。
「剣魂一擲! 向かってくる敵は成敗いたす!」
近くで斬り合いの音が響き、参加者の悲鳴があがる。
ガガ山に入って何度目かの闘いに勝利した綺雲菜織(あやくも・なおり)が、海人たちの前に現れた。
「次の相手はお前たちか?」
綺雲はいった。
「邪魔をするな! ちっ、海人、お前との勝負は後だ」
直哉はイライラした口調でいうと、海人とのサイコキネシス勝負をうちきって、綺雲の方を向く。
「ずいぶん派手に暴れてるようだな」
直哉は綺雲にいった。
「私は殺し合いも辞さない。戦士として戦い抜き、和を願う者達の礎として生き抜くのが私の目的。自身の命より、全体の命を優先する。そのためにこそ、強くなりたいのだ」
綺雲は刀を構えて、直哉ににじり寄る。
「たいした志じゃないか。でも、ここで俺に負けるようだったら、意味はないぜ」
「いったな。勝負だ」
直哉に向かって駆けようとする綺雲に、直哉はサイコキネシスを仕掛け、動きを封じようとした。
「こっちに来るな。結奈がいるんだ」
直哉の呟きを聞いた結奈が、はっとしたような顔をする。
「それなりの力量を持った超能力者とお見受けする。手加減はせぬぞ」
綺雲は自身の身体をサイコキネシスで浮かせて、直哉のサイコキネシスに抗って、突入をかけようとした。
「その程度では俺の力は破れないぞ! うん、1人じゃないのか!?」
直哉の顔に緊張が走る。
「菜織様、いまです!」
綺雲の背後の有栖川美幸(ありすがわ・みゆき)が、合図をする。
綺雲と有栖川。
2人のサイコキネシスが、綺雲の身体を前へ押し出す方向に作用する。
「行くぞ! 私の剣の一撃をくらうがいい!」
直哉のサイコキネシスを打ち破り、刀を振り上げた綺雲が、ものすごい勢いで直哉に特攻をかけてきた。
「う、うわあ!」
綺雲の刀が振り下ろされ、直哉は刀の輝きに目を細めながら、死を覚悟した。
そのとき。
「兄さーん!」
和泉結奈もまた、サイコキネシスで自らの身体を押し出し、綺雲の刀の前に猛スピードで自身の身体をさらしていたのだ!
その場の誰もが、予想していなかった行動だった。
ズバアッ!
綺雲の刀の一撃をくらった結奈が、倒れる。
「ゆ、結奈!」
直哉の顔が蒼白になり、倒れた結奈を抱え起こす。
刀は結奈を直撃したはずだが、みると、打撲傷のようなものですんだようだ。
斬りつけられたときの衝撃で、結奈は失神していた。
「む? おかしい。私が倒したかったのはその者ではないが、私の刀をくらって打撲で済むはずはないのだ。いったい、何が起きたのだ?」
綺雲は首をかしげる。
「貴様! 許さん!」
和泉直哉は結奈の身体を離れた場所に横たえると、怒りに燃える瞳を綺雲に向ける。
「まだ勝負は続いている。かかってこい」
綺雲はいった。
「いわれなくても!」
直哉は、空高く跳躍した。
怒りが、直哉のサイコキネシスの力を高め、その限界を突破させていた。
「た、高い!」
綺雲は、直哉の跳躍の高度が予想を越えていたため、戦慄を覚えた。
「くらえ!」
ガガ山を覆う結界ぎりぎりの高さまで跳躍すると、直哉は綺雲に急降下で迫っていく。
サイコキネシスに重力があわさり、降下速度は恐るべきものだった。
「とあー!」
急降下してきた直哉が拳を振るうのと、綺雲の剣が振り下ろされるのと、どちらが早かったかは、みる者にはわからない。
だが、直哉は、器用に身をくねらせ、綺雲の剣を避けると、その拳を見事に決めようとしたのだ!
「うん!?」
拳が対象に炸裂した瞬間、直哉は驚きに目を見開いた。
直哉の拳は、綺雲の前に超高速で身を投げ出した、有栖川の胸を打っていたのだ!
「み、美幸!」
綺雲の顔が蒼白になった。
「い、一瞬のうちに!? なぜ……」
直哉は、信じられないといった顔で、倒れた有栖川をうかがう。
有栖川の動きが早かったのは、レビテートによる浮遊を利用したことに秘密がありそうだった。
綺雲は、抱え起こした有栖川が失神しているだけとわかり、ホッと胸を撫でおろす。
「お互い、1人ではなかったということだな。だが、これで1対1になった」
「そうだな」
綺雲の言葉に、直哉はうなずく。
直哉は、本気で放った拳が有栖川を失神させるだけだったことに内心疑問だったが、同時に、どこかでホッとしていた。
「これは、バトルロイヤルだ。お互い恨みっこなしでいこう」
「ああ」
2人はうなずきあい、1対1の真剣勝負に向けて心をとがらせる。
だが、このバトルロイヤルは、人数が人数なので、どうしても混戦気味なのである。
このときも、最悪の乱入が2人を襲うことになった。
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