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闇世界…村人が鬼へ変貌する日早田村

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闇世界…村人が鬼へ変貌する日早田村

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第1章 鬼じゃないだよっ!村人を殺そうとする旅人・・・未遂なるか

 館の主オメガ・ヤーウェ(おめが・やーうぇ)が眠っている深夜、アヤカシの少女と女が2人そっと館の窓へ忍び寄る。
「ねぇ〜エリ。面白い悪戯が出来るって聞いたけどここなの?」
「そうよぉ。この館にオメガっていう魔女がいるんだけどね、そいつが悪夢を見そうな言葉を耳元で言ってきて♪」
「えぇ〜っ、でもぼっくん悪夢を見せる能力なんてないよー」
「あの手の子はそれだけで見やすいと思うの♪あぁ〜あまったく。姉が死んで泣いてる女と、相棒が殺されて戦意があるか分からないヤツが使えないから、私までこんなお仕事しなきゃいけないなんていやんなっちゃう。さっさと行って来てちょうだい!」
 フードつきのコートを被った風使いの女の悪友は、怒り顔で文句を言いながら妖怪鎌鼬に命じる。
「ふっふふ♪よく眠っているみたい、どんな嫌なこと言おうかなぁ〜。あっそうだ、この子が最も嫌がることを言っちゃおうと!ねぇねぇ〜・・・お前に関わったせいで多くの者が傷ついちゃってるよねぇ?」
 鎌鼬は身体を風に変化させて侵入し、妖怪は眠っている彼女の傍へ行き、耳元でぶつぶつと囁き始める。
「それにさぁ妖精まで封神台に飛ばされたしぃ?もうこの世にいない方が皆のためなんだよ?お前なんかさっさと消えちゃえ〜」
「わたくしは・・・いらない存在?―・・・消え・・・たほうが・・・いい・・・?」
「うーん・・・どうしたの?うなされているみたいだけど・・・・・・オメガちゃん!?」
 彼女の苦しそうな声に目を覚ましたミニミニは驚きのあまり大声を上げる。
「どっ、どういうこと!?オメガちゃんの身体から魂が抜けちゃうなんて・・・!!」
 眠っているオメガの身体から魂が半分抜け出し、それを目にしたミニミニがケースの中でぐるぐると飛び回る。
「何あれ・・・霧?凄く嫌な感じがするよぉ・・・。あぁっ、そっちに行っちゃいけないよ!行かないでオメガちゃぁあんーーーっ!!」
 突然室内に闇の霧が現れ、ミニミニはそこへ行こうとする彼女に呼びかけるものの、その魂は霧の中に見えた村ごと黒い霧と共に消えてしまった。
「うわぁんっ。やだよぉ、帰ってきてぇえっ!早く誰かに知らせなきゃー!」
 ドンドンとケースにぶつかり中から抜け出したミニミニは、急いで手紙を書き館の外へ飛ばす。



「都市部で薬草を買うと、旅費より高くなっちゃうからね。安く買える村がたしかこの辺にあるはずなんだけど・・・」
 薬草の買い付けにやってきた佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)は、地図を見ながらそれを売っている村を探す。
「あれ?何やってるのかな」
「何やら喧嘩しているようにみえるが・・・?」
 彼と一緒に熊谷 直実(くまがや・なおざね)も入り口の塀の傍から、旅人と村の住人が喧嘩している様子を見る。
 しかしそれは一方的に旅人の方から村人へ罵声を浴びせられ、言われている方は見に覚えのないことを言われて、何が何だか分からないという様子だ。
「何ゆうてるだ。オラ、鬼になんぞなってねぇだよ!」
「んや!お前が鬼なったところを、この目でちゃーんと見たっぺよっ」
「鬼・・・?どういうことかな」
 旅人の言葉に弥十郎は疑問符を浮かべたような表情で首を傾げる。
「誰か村の方に来るぞ。服装からしてここの住人じゃないように見えるが・・・」
 直実が彼の肩を指でつっつく。
「騒ぎ声を聞いて来たのかな?」
 弥十郎はパートナーの視線の先に目を移すと、10代くらいの若い少女と彼女よりも年下に見える少年の姿がある。
「魔女さんの魂が彷徨っている村ってここかな?」
 葦原島に遊びに来たウェリスはミニミニの手紙を拾い、そこに書かれている魔女の魂を探しにパートナーの礼海と日早田村にやってきた。
「まったく・・・お嬢さんは厄介ごとが好きでやんすねぇ」
 なんでもかんでもすぐに首をつっこみたがるウェリスに思わず嘆息する。
「事情は良く分からないけど落ち着いて」
 今にも旅人が村人に斬りかかりそうな状況をなんとかしようと、弥十郎は彼らの間に入り彼を落ち着かせようと声をかける。
「あんたなんだべ!?」
 やんわりと声をかける弥十郎に、怒りが納まらない旅人がギロッと彼の方へ振り返る。
「ねぇ、まずは何があったか教えてくれないかな?」
「あの村人が鬼になって、クワでオラを斬ったんだぁ!」
「そったらことしてねぇだよぉお!」
「この鬼め、嘘言うでねぇえ!退治してやんべっ」
 必死に殺してなんかいないと言う相手の言葉を嘘だと言い放ち鞘からナイフを抜く。
「何あれ・・・もしかしてナイフ!?やめてぇえ!」
「ちょっ、何やってるんや!」
 村人に斬りかかろうとする旅人を止めようと、ウェリスの悲鳴を聞いて走ってきた七枷 陣(ななかせ・じん)が彼の腕を掴む。
「女の人の悲鳴・・・?どうして村の人が襲われてるの!?」
 日早田村へ通りがかった神和 綺人(かんなぎ・あやと)が、サイコキネシスで凶器を地面へ落とそうとする。
「なっ何だぁあ!?ナイフが引っ張られるっ。これがなきゃ鬼を退治出来ないだ、絶対離さないっぺ!」
「アヤ、もっと強く念じてください!」
 クリス・ローゼン(くりす・ろーぜん)は旅人の手からナイフを落とさせるため、綺人に強く念じるように言う。
「やってるんだけどね、なかなか離してくれないんだよ・・・っ」
「そこのいかにもウィッチですよーな格好の姉ちゃんに、琵琶っぽいの持ってる人!手伝ってや!」
 陣はナイフを持つ手と腕を押さえながら、一緒に彼を止めてくれと2人に言う。
「やめてっ、あの人は何もしてないって言ってるじゃないの!」
「旅人の旦那は頭に血が昇っているせいで、まったく人の話しを聞く状態じゃないようでやすな。あのナイフを取り上げやせんと・・・」
 ウェリスと礼海は怯える村人に近づかせまいと旅人の身体を押して止めようとする。
「まあ、落ち着けって」
 通りがかったレアル・アランダスター(れある・あらんだすたー)が旅人の背後からナイフを奪い取る。
「あんた何するだ!ナイフを返せっ」
「村の連中がアンタを殺すつもりがあったなら、何でアンタ今ピンピンしてんだよ?」
 ナイフを取り戻そうとする彼の手を掴み、落ち着かせようとする。
「そったらこと分かんねぇ。ただ運がよかっただけかもしれねぇだよ。そんで夜になったらあいつが突然鬼になって、クワで襲ってきたんだっぺ!」
「何々、夜になったら村人が鬼になって襲いかかってきた、ですか・・・。で、クワで斬られたと・・・でも、怪我はないんですよね。夢・・・じゃないですよね?」
 状況を把握しようと黙って聞いていた弥十郎が旅人に問う。
「んだ!あんの痛みは夢じゃねぇだよっ。何の恨みや目的があったかは知らねぇけんど!」
「財布とかはどうだよ?盗まれたりしてないんじゃねーのか?」
 レアルは物取り目的じゃないことを確認するように騒ぐ相手に聞く。
「なーんも取られてねぇだけんど、オラを殺してきっと喰らおうとしたに違いねぇだよぉお」
「落ち着いて状況を整理しようぜ?アンタ、その化け物に殺されて、次目覚めたのは何時どこだったんだ?」
「村の外だっぺ」
「どこも傷を負ってないんだろ?」
「あんのおそっろしぃ鬼の姿を見てねぇから分かんねぇだよ」
「いやいやっ、どう見ても普通の村人さんやって!鬼に変わって闇世界の生物になるのは夜になってからで、それもその人たちの意思に関係なくなんや!」
 陣は鬼と呼ぶ相手に向かっていこうとする旅人の肩を掴み止める。
「今ちょっとこの村でおかしなことが起きているのはたしかですけどね。でもそれは村人さんが悪いんじゃないんです」
「コイツも何かの影響で鬼になっちまっただけだしな。悪気があってやったわけじゃないんだ」
 弥十郎に続けてレアルが誤解を解こうと言う。
「―・・・そ、そうなんだべか?」
「まぁそういうことだ。これはアンタが持っていろ」
 彼は旅人から陣に視線を移し、奪い取ったナイフを陣に投げ渡す。
「おっと、俺はちょっと用事があるからじゃあな」
 そう言うと1人で村の入り口へ行ってしまった。
「えーと、あなたたちはどうしてこの村へ?」
 ウェリスの方へ顔を向け、綺人は何か目的があって来たような彼女に問う。
「この村の近くで手紙を拾って、魔女さんの魂を連れ戻して欲しいって書いてあったの」
「あ、初めましてだね。僕は蒼空学園の神和綺人、こっちは僕のパートナーのクリス。以後お見知りおきを」
 綺人は自分とクリスの自己紹介をする。
「オレも名前くらい名乗っておかないとな。オレは七枷陣、傍にいるのが小尾田真奈や」
「ウェリス・クォッロークよ、よろしくね。隣の彼は私のパートナーの礼海くんよ」
「礼海さんってことは・・・。礼青さんっていう人の、血縁者?むしろ、兄弟だったりする?」
「ほぉ、アホな兄貴をご存知で?」
「うん。最初に会ったのは闇世界の廃校舎だけど。本当の名前を知ったのはつい最近だよ」
 髪や目の色が偶然、同じだっていうわけでなく、2人は兄弟なんだと分かった。
「ねぇ魔女って、オメガさんのこと?」
「そうよ、ここにそう書かれているわ」
 ウェリスが拾った手紙を綺人に見せる。
「―・・・オメガさんにそんなことするのって、やっぱり十天君なのかな?」
「十天君?」
 ぽつりと呟く彼の言葉に少女は首を傾げる。
「そういえば、ウェリスさんや礼海さんは、十天君っていう人たちをご存知ですか?」
「うーん・・・私はよく知らないんだけど、たまに礼青さんとパートナーの人が、悪さをしようとしている女がいるからって、出かけているのは見かけたかな」
 クリス・ローゼン(くりす・ろーぜん)の問いかけにウェリスが答える。
「それっていつ頃ですか?」
「たしか去年の秋頃くらいからだったかしら?何度か出かけるところを見たわ」
「(秋・・・?私たちが最初に闇世界に行ったのは9月ですから、その後でしょうか)」
 過去の出来事を思い出しながら考えるように心の中で呟く。
「礼海さんはそのことを知っていますか?十天君が・・・その、4人に・・・過去に会ったように言ってましたけど」
 直球で聞くと気分を悪くしてしまうかと思い、乱暴者4人集と彼女たちが呼んでいたのは伏せて言う。
「まぁ昔ちょいとありやしてね、懲らしめてやったことはありやすな」
「(懲らしめる?どんな方法か想像つきませんね・・・2人とも凶暴そうに見えませんし)」
 穏やかな外見からは想像つかないと、クリスは眉を潜める。
「何か知っていることがあれば、教えていただけませんか?」
「あのお嬢さんたちは、自分たちが気に入るような世界を作ろうとしているようでやんすな」
「目的のためなら何でも利用する集団・・・ということですか」
 死体を使ってゴースト兵器を作り、魔力を奪ってウィルスを作ろうとしたりした彼女たちの悪事を思いだし、今回の事件もオメガを何かに利用しているのだと確認した。
「やっぱり十天君が関わっていそうだね」
 クリスたちの会話を聞いて綺人はなるほどと頷く。
「このあたりでウェリスおねえちゃんの声が聞こえたですけど・・・。あっ、いたです!」
 葦原島に遊びに来ているヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)は、ウェリスの騒ぎ声を聞き走り寄る。
「何かあったんです?」
「ヴァーナーちゃん・・・この手紙を見て来たんだけどね・・・」
「これはミニ台風ちゃんからの手紙です?―・・・魔女って・・・もしかしてオメガちゃんの魂がこの村にいるんですか!?あわわ大変ですっ、ボクも探すです!むむ〜っ、夜にならないと探せないみたいです」
 日早田村にオメガの魂が彷徨っていること知った彼女は、闇世界に変貌した村の中で探そうと、夜になるのを待つことにした。
「人形が減った・・・。でもまた増えた」
 隠れ身の術で物陰に隠れている斎藤 ハツネ(さいとう・はつね)が、旅人から離れていくレアルの姿を見る。
「まだ何人かいるな。ちっ、邪魔臭いやつらだ」
 大石 鍬次郎(おおいし・くわじろう)は眉間に皺を寄せて不快そうな顔をする。
 生徒たちが旅人を説得しようとする前、鎌鼬と出会い目的を遂行させるため殺す隙を窺っている。
「(本当にこんなことをしてしまっていいんでしょうか・・・)」
 2人に協力している天神山 葛葉(てんじんやま・くずは)は、罪悪感のあまり沈んだ顔をしている。
「村の入り口の方に誰かきましたね・・・」
 天城 一輝(あまぎ・いっき)の姿を見つけて、小さな声音で呟く。
「ここが住人たちが鬼になるという村か。ああゆう高台の付近は狙撃されやすいから、なるべく死角になる場所を進んだ方がいい」
 入り口にある高台を見上げた後、一輝はオメガの魂を探す生徒たちの方へ顔を向ける。
「そうですね。なんとしてでも即死だけは、避けなければいけませんから」
 村にやってきたメイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)がこくりと頷く。
「集合場所とか決めておきませんか?」
「せっかく情報を集めても合流出来ないと困りますからね、どこにしましょうか?」
 集まる場所を決めようという影野 陽太(かげの・ようた)にメイベルが聞き返す。
「さっきよさそうな場所を探してみたんですけど、3つの湖に囲まれた辺りはどうでしょう」
「それじゃあ泥濘が近すぎて、いざという時に逃げ切れそうにないです。寺子屋の傍にある倉庫とかどうです?」
「分かりました、そこにしましょう」
 朱宮 満夜(あけみや・まよ)の提案に頷き、集合場所を決める。
「あっ・・・、増えた」
 メイベルたちのところにやってきた師王 アスカ(しおう・あすか)ルーツ・アトマイス(るーつ・あとまいす)をじっと見つめ、ハツネはぽつりと小さな声音で呟く。
「はいは〜い、皆注目〜!闇世界に変わっちゃうと、携帯だとかが使えなくなって伝達が不便でしょー?実はねぇ、皆にいいものを渡そうと思って来たのよぉ♪」
 アスカはルーツと一緒に作った護符を彼らに見せる。
「へぇーどんな効果があるのかな?」
 綺人が興味深々に彼女が持つ護符を見る。
「この護符にはアンサズ、つまり情報・伝達という意味をもったルーン文字が書かれてるの。ルーツの近代西洋儀式魔術を応用して、護符を使って声を召喚出来るようにしてもらったのよぉ」
「何人かもう来てるんだね。それは何・・・?」
「かわいいですね!」
「じゃあもう1回言うからよく聞いててね」
 椎名 真(しいな・まこと)とヴァーナーたちがアスカに声をかけ、彼女はもう1度説明する。
「どうやって使うんですか?むずかしそうです」
「ううん簡単よぉ。こうやって護符に口元を近づけて、アンサズって唱えたら会話したい相手の名前を言えばいいの」
 首を傾げるヴァーナーにアスカが教える。
「そうすれば護符に描かれたルーンと、召喚用魔方陣が働いて相手に自分の声を伝えることが可能よ〜!もちろん相手の護符も連結して会話できるわぁ。これがあれば離れた相手と情報交換も出来るし、携帯電話の代わりになるでしょ?はい、どうぞ」
 簡単に説明を終えると、目を輝かせて聞いている少女の手に渡す。
「ありがとうございます!」
「ただ、護符を作った術者が死んでしまうと使えなくなっちゃうけどね。私たち2人はどこかの倉庫か、その辺に隠れてるから後はお願いね。もし鬼に襲われたりして危なくなったら、手近にあるものを適当に投げて逃げるから心配はいらないわよぉ♪」
「では念のため注意点を説明しておく。名前といっても姓や名の片方だけだと、護符の力がうまく働いてくれないんだ。必ず相手の名前をフルネームで唱えてくれ。複数の仲間と同時に会話したいと思うかもしれないが、一番最初の名前にしか反応しないからそこは了承して欲しい」
 ルーツがアスカの説明につけ加えるように言う。
「護符が破けたりすると、ただの紙切れになってしまうから、その扱いも気をつけてくれ。その代わりこの護符は、水や火に強いから濡れる心配も焼かれる心配もしなくていい」
「分かった、気をつけるよ」
 彼の言葉に頷き、真はアスカから護符を受け取り、生徒たちはオメガの魂の行く先を調べ始めた。



 一方、弥十郎は旅人を村の中にいさせるのは危険だと思い、外に一泊出来るような簡易宿泊所を作ろうとする。
 直実は宿泊所を作るという彼の話しを聞き、村人たちと交渉する。
「宿代とかは村に入れるし、数日むしろなどを貸してくれるだけで構わん。もちろん、米や野菜は買わせてもらうし。どうだろうか」
「んだなぁ。どうするだ?」
「オラは別に構わねぇが」
 彼の言葉に村人たちがどうするべかと話し合う。
「―・・・えぇだよ。あんたたちなら信用できそうだ」
「不安だろうが数日の間だけだ」
 屋根などに使えそうな木を拾いながら、直実は彼らに辛抱してもらうように言う。
「壁は木で代用するしかないな。眠りやすいように葉だけじゃなく、やっぱり畳がいいか」
 林で切った木で壁を作り、土で畳が汚れないように枯葉を地面に敷き詰めてその上に置く。
「屋根は大きな葉を集めて乗せておこう。ドアまでは難しいな・・・目の細かい網で代用するか」
 木を使って作った屋根の上に葉をバサバサッと乗せ、左右の壁用の木に網をひっかけて虫などが入ってこないようにする。
「火縄からでる弾というものは、距離が近いなら物凄い威力だが、距離がある場合は適当な重さのあるこう言うのを吊るしておくと弾除けになるようだぞ。気休めだが、矢もささるしな」
 宿泊施設を完成させた直実は村に面している部分に、4畳ほどの重い頑丈なむしろを吊るして弾除けにする。
「本当は落ち着いた後に、渡して話しを聞こうと思ったけど。渡せるような状況じゃなかったからね。おやつ代わりに食べていてもらおうかな」
 弥十郎は水筒に入れてきたカモミールティをコップに注ぎ、茶菓子用の塩せんべいを旅人に差し出す。
「すまねぇだ」
「―・・・少し落ち着きましたか?」
「あぁ、なんとか・・・」
「(鬼のことは今は話さないほうがいいかな。不安にさせてしまうかもしれないし・・・)」
 コップを握りほっと息をつく彼を見て、なぜこんなことが起きてしまったのか話すのをやめてこうと心の中で呟く。
「くそっ、あいつら・・・旅人から離れねぇ!」
 まだ生徒が旅人の傍から離れる時を窺っている鍬次郎は面白くなさそうに、ターゲットから離れない弥十郎たちを睨む。
「仕方ねぇ、とりあえず待つか」
 早く人形遊びをしたそうな顔をしているハツネを横目で見て、じっと襲う機会を待つ。