リアクション
● 蔓といえばムチ。蔓といえば植物。蔓といえば――官能的である。 「ヘ、えへへ……」 「透乃ちゃん?」 「ハッ……あ、あはは。な、なんでもないよ〜」 いやらしい笑みを浮かべながら、淫らな想像をしていた霧雨 透乃(きりさめ・とうの)は、怪訝そうに声をかけた緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)に慌てて言いつくろった。 あぶないあぶない。ついトリップしかけてしまうところであった。 透乃は心の中で自分に言い聞かせて、今はまだ陽子に感づかれては面白くないと己を叱咤した。というのも、彼女がこの豆の木の遊園地へとやって来たのは、『蔓=縛ってあんなことやこんなことをする』という脳内変換が起こった末のことだからである。人気のないところで行う痴情を考えていると、今のようについつい妄想だけが先走りしてしまうことも仕方ないことだ。 「ええーと、陽子ちゃん、ちょっとこの辺で待っといてもらってもいい?」 「……? 透乃ちゃんがそう言うんでしたら……」 透乃の言うことに素直に従う陽子を置いて、彼女はまず目的の蔓を探しに向かった。 と言っても、この広場自体、蔓で出来ているようなものだ。ちょっと見渡せばそこら中に生えているもので――問題はそれをどう従えるか、にある。 「ま、そりゃあもちろん……力づくってやつよね」 人気のないところの蔓へと近づいた透乃は、愉快そうに笑みを浮かべた。 話によると、この豆の木は夢安京太郎を主人として捉えているらしい。とすれば、もちろん意思はあるはずであり、『恐怖』や『畏怖』という感情もそれなりには備わっているだろうと思われる。 透乃が近づいたことで、ぐにゃ、と僅かに動いた蔓に、彼女はゴッ――と、燃え盛った炎を纏わせた拳を見せつけた。植物ゆえか……蔓は炎にビクっと震える。 「燃えたくなかったら、よろしくね?」 コクコクコク。慌てて、蔓の首っぽい先端が上下に揺れた。 植物に炎を使って脅すとは、ハゲを隠している人にカツラを吹き飛ばすぞと脅すようなものである。むごい。 ともかく――蔓を舎弟さながらに従えた透乃は、準備万端を期して陽子を呼んだ。 「陽子ちゃーん」 「あ、透乃ちゃん!」 こいこい、と手を振る透乃のもとへ、陽子が駆け寄ってくる。 すると―― 「へ……きゃあああぁぁ!」 可愛らしい悲鳴とともに、陽子は無数に群がった蔓に吊り上げられた。一瞬逆さまになったかと思えば、続けざまに巻きついた蔓が彼女を縛り、床へと投げ出される。 拘束された少女の一丁上がりである。ところどころ捲れた服の裾が、なんとも艶めかしい。 「うふふ……」 床に転がる陽子に、舐めるような目をした透乃が肌を近づけた。すると、拘束と透乃の目にぞくぞくと興奮が湧き上がってきたのか、陽子が次第に瞳を潤ませる。 ああ、透乃ちゃんに縛られて、自由を奪われて……! 透乃は、何も言わなかった。無言のまま、まずは彼女の肌に唇を近づける。足、手、首……徐々に体の上のほうへと、キスが何度も繰り返される。だが、それは肝心のところまで届くことはない。そして、キスがはたと止まると、透乃は陽子を眺めるだけだった。 「と、透乃ちゃん……」 陽子の困惑と懇願の声が漏れた。 興奮が冷めやらず、透乃の蠱惑の目に晒されて焦らされ、これ以上の興奮はなかろうか。 「メスブタが喋ってるんじゃないわよ……」 透乃が口を開けば、体の神経が全て撫でられたかのようにぞくっとする。恍惚の世界へと、二人は突入し――と。 これ以上は自主規制に留めることが賢明である。 「ああ、透乃ちゃあぁん……!」 広場で起きている巨人騒動などどこ吹く風か。艶やかな透乃と恍惚な陽子の声が、人気のない遊園地の隅で静かに消えた。 ● |
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