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リアクション
05:オーディション セッション式だと 知ってたら(その2)
再びオーディション会場。
アポロンがマイクを持って司会を行う。
「はい。では次は女性ヴォーカル部門アズミラ・フォースター(あずみら・ふぉーすたー)」
ステージ袖でアズミラが緊張している。それをパートナーの弥涼 総司(いすず・そうじ)は
「さあ、オマエの歌を聴かせてやろうぜ!」
と言って微笑んで送り出した。
「歌で世界が変えられるとか、そんな大層な事は考えてないけど……ってアイドル失格ね。まぁ、歌う事が好きって気持ちが皆に届けばって思ってるわ……」
「はい。ではドラム部門、鷹村 真一郎(たかむら・しんいちろう)」
教導団制服のズボンに上半身裸、タンクトップにバンダナ装備程度で筋肉と傷をアピール、いかにもなドラム型だと思われる。
「アニキー、がんばれー」
そう客席から応援するのは鷹村 弧狼丸(たかむら・ころうまる)。両手には出店せの食べ物をたくさんかかえている。
「鷹村さんー! ぬげーー!! 新婚さんいらっしゃーー!」
カオルが警備を抜けだして応援に来たりしていたりする。
「では、ベース部門、富永 佐那!」
「ヒューヒュー! お嬢、がんばれー!」
イゴール・イリイッチ・メドヴェンコ(いごーるいりいっち・めどう゛ぇんこ)が呼んだ応援のロシアンマフィアと共に佐那を応援する。
「ウラァ! タヴァーリシチ・シャーナ!」(佐那のこと)
と連発しつつロシア国旗を振るのはピョートル・バグラチオン(ぴょーとる・ばぐらちおん)。
仲間と共にウォッカを飲みつつすでに出来上がっている。
イゴールは表向きは天御柱学院の食堂で働く料理長だが、裏の顔はロシアンマフィアの大物。同じくロシアンマフィアの大幹部の一人でソヴィエト軍時代から世話になって何かと頭の上がらない佐那の祖父に請われて天御柱に調理人としてやって来た。学院に於ける佐那の護衛役である。
対してピョートルはイゴールの同僚で良くも悪くもライバル関係にある。
「はいそこー、賑やかなのはいいけど演奏の妨害にならないように演奏中は静かにしてくださいねー」
アポロンが注意する。
「みなさーん! 天御柱学院パイロット科の富永佐那でーす! TACネームはクレーツェト、好きな物はボルシチとピロシキでっす☆ 私のベースで皆さんを強烈バックアップしちゃいまーす! みんなヨロシクっ!」
オーディション向けに眼鏡を外し、髪型も変えた上でスキル<自前衣装>で作った休日の朝にTVで子供達に大人気の格闘系変身ヒロインの真紅のコスチュームを着てアピールする。
「そして、ギター部門は北郷 鬱姫(きたごう・うつき)と穂波 妙子(ほなみ・たえこ)でお送りしますー」
鬱姫はゴスパンクにネコミミと猫しっぽという出で立ちである。
「えっと……ギターの腕はまだまだ未熟ですが、あの……その……沢山練習してきたので精一杯頑張ります」
一方鬱姫のパートナータルト・タタン(たると・たたん)は内心じっとりと冷や汗をかきながら
(うむむ……主を参加させてみたものの……あれは、まずいんじゃなかろうか……緊張しすぎて同じ手と足がでておる……しかし、わらわは見守るしかないか……)
と考えていた。
妙子は紫色がベースで胸がスケスケで強調されたオリジナルのパイロットスーツである。はっきり言ってエロさ爆発である。
パートナーの朱点童子 鬼姫(しゅてんどうじ・おにひめ)は
(それにしても妙子のやつ、あのパイロットスーツを来てオーディションを受けるとは度胸があるのー。透け透けで恥ずかしくないんじゃろうか。まぁ、男うけはするじゃろうし本人が気にならないならいいじゃろう)
などと考えつつ目の端に入ったリンゴ飴の屋台に向かって駆けて行った。
そのころリンダ・ウッズ(りんだ・うっず)は、
「美少女にハアハアしているそこいらの光る棒もった若人のしょくん! どれがええんなら!? お? お?」
とおっさん臭いことを抜かしていた。そして妙子に声援を送っている。
「それでは、曲はアズミラ・フォースターさんによる、『Dear partner』です。どうぞ!」
君と出会って 君を信じて
一緒に未来を掴むの
隣で寄り添う 私に出来るのは
歌い続ける事だけ
一人では立てなかったスタートラインに
辿り着く事ができた
真一郎が盛り上がってドラムを激しく叩く。
妙子が客席を煽り盛り上げる。
「もりあがってるー?」
「Yeaaaaaaaaa!!!」
観客のテンションも最高潮だった。
不思議ね心が熱くなってる
今にもバクハツしそうだわ
伝えたいこの想い歌にかえて
これからも共に歩んでいく君へ
かけがえのない君へ
I believe in you
演奏が終了すると、突然
「はーっはっは!何が歌だ! そんなもので世界は救えん! 世界を救うのは――悟りだ! 即ち救世主とは坊主の事! ほら、主って漢字が一緒じゃないか! ということで、私の御経を聞け〜!」
佐那のパートナー今川 義元(いまがわ・よしもと)がBGMとともに乱入する。頭をツルツルに剃って袈裟を悪の幹部風に改造してある。
「甘いわね、坊サンダー! 私の重低音を聞きなさい!」
佐那がベースをイキイキと爪弾きパフォーマンス。
「くっくっく! 喰らえ、ツルピカライトニング!」
と言っても剃った頭を太陽に反射させてるだけだが……
「くっ! みんな、音楽の力で反撃よ!?」
「え?」
「えええ!?」
皆驚くが佐那がベースの演奏を始めると真一郎がドラムでリズムをとりはじめる。
「OK! Let’s JAM」
即興の演奏だった。
フレイが叫んで歌い始める
狂ったエゴがはじけ飛ぶ世界で
虚ろな 幻想にすがって 生きる
やんなっちゃうよこんなの
もっと、もっと、弾け飛びたい!
Going my way
ひとりきりでも
明日へ羽ばたくよ
腐った夢がネジを巻く世界で
いろんな しがらみに縛られ 生きる
やんなっちゃうよこんなの
もっと、もっと、高く飛びたい
Going my way
ふたりいっしょに
希望へ羽ばたくよ
「くっ! やるな! ここはひとまず退散だ。わはははははは!」
坊サンダーは捨て台詞を吐くと退場した。
なんだったんだ一体……
それは会場にいる皆が思ったことだった。だがまあ、場がもり上がったのでよしとしよう。
舞台袖。遠野 歌菜(とおの・かな)と恋人でパートナーの月崎 羽純(つきざき・はすみ)が待って二人の世界を作っていた。
「ホラ、歌菜。背筋を伸ばせ。縮こまるのはお前らしくない」
背中を軽く叩く。
「う、うん」
びっくりした様子でうなづく。
「いつも通りの元気な笑顔で、明るい歌を聴かせてくれ」
「わかった」
「行って来い」
「いってきます」
「はい! それじゃあ、ヴォーカル以外は一巡したということで、これからは順番にやってもらいます。それでは女性ヴォーカル部門次の出場者は遠野 歌菜です。歌は、『勇気のトリガー』」
さぁ、目を開いて
耳を澄ませて 心を研ぎ澄ませて
Go!ahead!
空を指差す
君はもう気付いている筈
君のココロの中の そのトリガー
引き金を引くのは今!
空を指差していた手を下ろして、BANGポーズ。<変身>で魔法少女コスチュームにチェンジする。
愛なのかな?
難しいことは分からない
でも一つだけ知ってる
君と私が 笑える世界(今)が好き
だから 今
とびっきりの勇気 そのトリガーを引くよ
BANGポーズ
傷付いて 涙流れるときは
私がその涙を拭ってあげるから!
手を大きく差し伸べる
演奏終了。
拍手。
「さーて、ずいぶんと凝っていましたが、これは審査に響くんでしょうか? 歌菜さん、歌い終えられて気分はいかがですか?」
「最高です! 落ちても悔いのない位完全燃焼しています!」
「おー、最高ですね。それでは、楽屋で続きをお待ちください」
「はい」
退場。
リンダが光る棒と土方の服きてどや顔で酒臭い息させて応援する。
「くそー、最前列ならぱんちら見放題なのにのー。このキモヲタどもが−!!」
そんな場外の騒ぎはあえて触れずアポロンが進行する。
「それでは次のヴォーカル部門はミューレリア・ラングウェイ(みゅーれりあ・らんぐうぇい)さんです。【歌って踊れて空も飛ぶアイドル志望】ということですので期待値は高いです」
「私の名前はミューレリア。ポニテがトレードマークの【歌って踊れて空も飛ぶアイドル志望】だぜ! 『元気な歌』や『楽しくなる歌』が得意だぜ。歌も踊りも、元気で楽しく。これに加えて、戦闘時は皆に勇気をあげられるよう頑張るぜ」
「はい、がんばってください」
ミューレリアは魔法少女衣装型魔鎧リリウム・ホワイト(りりうむ・ほわいと)をまとうと歌い始めた。
<リリカルソング>で盛り上げる。
そして途中から<空飛ぶ魔法↑↑>で浮かびだして<光術>で光の軌跡を描き出す。
地面に降りると所々で<ミラージュ>による演出をいれる。
分身し、あわせ鏡のようにダンスを踊るとまた一つになる。
そしてまた空に戻り<光術>で決める!
拍手。
「いやー、ファンシーなステージでしたねー。小鳥遊さんどうでしたー?」
アポロンが美羽に振る。
「いやー、良かったと思うよ? ほんとだよ? 誰が合格してもおかしくないよねー」
「そうですねえ。皆甲乙つけがたしって感じですからね誰が選ばれることやら、ハラハラです」
「それじゃあ、次のセッション行くぜ! 十音・円(とおね・まどか)、カモン」
しかしなかなかでてこない。スタッフによるとメイクアップに手間取っていることである。
「しょうがないですねえ。では、これより10分間の休憩に入ります。なお、一部の出店を除いてすべて100均、ボリュームも少なめとなっております。いろいろな料理をお楽しみ下さいませー」
ということで一時休憩となった。
サクラコ・カーディ(さくらこ・かーでぃ)は秋葉四十八華星である。
したがって、「一通りちやほやもされましたし、大体飽きたかなって思いますねっ。あんまり有名になりすぎると趣味にも差し障りそうですし、歌って踊るより格闘技やってるほーが性には合ってるってもんです」
というのが今回のイベントに対する見解だった。それよりも出店を覗いて回るのだが、パートナーの白砂 司(しらすな・つかさ)に食事を買い与えられてはおとなしくする。
が、サクラコの方では司の意図など見ぬいておりそれを逆に利用して食べ物にありついている始末だった。
「黙ってキョロキョロしてるだけでおいしいもの持ってきてくれるんですから、これはこれで役得ってもんですよねっ」
などと宣う。
「まあ、いい。出店といえば、こういった普段は食べないようなメニューだ」
たこ焼きやらクレープやら綿菓子やらリンゴ飴やらを次々に食べまくる。
たしかにボリュームが少なめな分、いろいろな食べ物を食べることができた。
「一つよこせー。どうせ100Gじゃろ。警備台じゃあと思うておとなしく食わせてんかー」
リンダはそう言って食べ物をせびる。が、正式に警備の許可を受けた連中がやってきてつまみ出されてしまった。
一方ルカルカはこの休憩を歓迎していなかった。
休憩の終わりとともに、いつ不審者がステージ中枢部に近づくか分かったものではないからである。
とは言え始まってい待った以上、ルカルカは舞台と客席に近づくものを<記憶術>を駆使しながら見極めていた。
ダリルも銃型HCにメモリーされた人相と照合する作業をしている。
リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)は警備を厳重にしていた。出店などに爆弾が仕込まれていたら洒落にならない。したがって出店の裏側を一軒一軒調査する形で警備は進んでいった。
「爆弾は……ない、か」
「おいおい、てっきり四十八星華として殴りこみのひとつもすんのかと思ってたのに参加してんのかよ
リカインも四十八星華の一人であった。
「興味ないわ……アイドルも、イコンも」
「そうか。もったいねーなー」
アストライト・グロリアフル(あすとらいと・ぐろりあふる)がそう言うと
「意外とミーハーなんだな。君も」
とからかわれてしまった。
「っだ、誰がミーハーだ!」
「あんたに決まってるでしょう、あんたに」
そう言われるとアストライトはふてくされたように。
「ミーハーじゃないわい、このバカ女」
と言って押し黙ってしまった。
「それより不審物と不審人物を探しなさいよ。HCに鏖殺寺院のスパイ名簿は入っているんだから、細かく照合していきなさい」
「へいへい……」
「ルカルカ……」
「真一郎さん」
真一郎がジュースを三本持ってルカルカのところにやってきた。
「ルカルカ、どうだった?」
オーディションの演奏のことだろう。
「残念ながら警備に忙しくて見に行けなかったけど、無線で聞いていたわよ。良かったわ、真一郎さん」
「そうか……」
まあ、警備の差し入れだ。ダリルも一緒に飲めよ。
88 そう言ってジュースを渡す。
「ありがとう」
「ありがとうございます」
「いやー、音楽は楽しいね。久しぶりにプレイしてみてそれが身に染みたよ」
「そうですか。だったらいいんですけど。皆さんが安全に楽しくステージに集中できるようにするのが私の仕事だから」
「そっか。がんばってくれ。それじゃあ、そろそろ休憩時間も終わりそうだし俺はまたステージに戻るぜ」
「うん。頑張ってね」
「ああ」
真一郎は振り向かずに右手を上げてステージへと歩いて行った。
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