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モグラと洞窟と焼き芋と

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モグラと洞窟と焼き芋と

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第一章:進め! 地下の救助隊!!

 晴天に恵まれ秋の心地良い風が拭く地上からおよそ十数メーター下、花音・アームルート(かのん・あーむるーと)達が落ちた地下空洞には、ほんのり冷ややかな冷気を含む風が吹いている。
 そんな中を熱く燃えてガンガン足を前に出して行進していくのは、救助に向かった第一部隊員のヴァルキリーでパラディンであるセルファ・オルドリン(せるふぁ・おるどりん)であった。

「私の焼き芋が! モグラめ許さないわよ!」
 
狭い洞窟内に反響する元気なセルファの声に、彼女の後ろを歩いていたメイガスの御凪 真人(みなぎ・まこと)が眉をしかめる。

「とりあえず、モグラとの戦闘は避ける方向で進みますよ? いいですね?」

 そう念入りに確認する真人が光術で照らす明かりにセルファが眩しそうに振り返る。

「無茶をしたら危ないのは理解してるわよ」

「……そうでしょうか?」

「でも、戦う時はライトニングランスで素早く相手を倒すわよ」

「洞窟が崩れやすくなっている事を、忘れないで下さいね」

 そう言った真人の言葉は、テンション高く行進するセルファの鼻歌に消されてしまった。

「しかし、普段からモグラが居る場所が崩れやすいと言うのも変ですね。普通、何往復もされたりすれば地盤が固くなり崩れにくくなるはずです。と言うことはこのモグラは最近になってここに住み着いたという事ですか……」

 真人の呟きにセルファが再び振り返り、

「真人、ちょっと五月蝿いわよ?」

「……」

 恐らくセルファは、大暴れしてすっきりしたいけど洞窟が崩れて私達や遭難中の人達が生き埋めになるのは不味いわよね。く〜。凄く悔しい!! という気持ちなのだろうと真人は長年の付き合いから彼女の心情を読んでいた。そして実際、それは当たっていた。

「冷静に行きましょう、セルファ。焼き芋をたくさん食べたいという気持ちはわかりますが……」

 真人の言葉に瞬間湯沸かし器のような素早さで顔を真っ赤にしたセルファがバタバタと手を振る。

「べ、別に焼き芋のドカ食いなんかしないわよ。ちょっと食べるだけよ!」

「それに、ダイエット中ではなかったのですか?」

「ダイエット? ……い、一応この日の為に準備はしてたわよ。多分、大丈夫よ!」

 女性には第三の腹、通称、別腹というものが存在するという記述を以前何かの本で読んだことをふと思い出しながら、真人はセルファの抗議を軽く聞き流した。

「それにしても、モグラが急にここに住み着くのには何か原因でも有るのでしょうか? 天敵がいるとか……?」

 再度考えながら歩いていた真人が、セルファにドンとぶつかる。

「セルファ、急に立ち止まらないでく……」

「ねぇ? 何か聞こえない?」

「え?」

 真人が耳をそばだてると、遠くから「きゅう、きゅう!」という声がかすかに聞こえる。

「モグラの鳴き声ですね」

「……こっちに近づいてきてる?」

 恐る恐る顔を見合わせる二人。心なしかセルファの顔がひきつっているのを見て、真人が光術を洞窟の奥に向けて少し強めに照らす。




「わははは、アニア、しっかり走れよ〜!」

 そう後方に叫びながら楽しそうに全力疾走するのはソルジャーの神城 乾(かみしろ・けん)である。
 彼の後方を走るウィザードのアニア・バーンスタイン(あにあ・ばーんすたいん)が、慣れない全力疾走をしながら溜息を周囲にまき散らす。

「ワタシ、絶対不幸の星の下に生まれたのよね〜」

「そんな事はないぜ? やっぱオレの予想通り面白い事になってるんだし!」

「乾! モグラを刺激せずスルーしようって言ってたじゃない!? どうしてあんな事するのよ!!」

 抗議の声をあげるアニアの後ろを、パラミタオオモグラが全力で追いかけてくる。
よく見るとそのヒゲがご丁寧に蝶チョ結びされている。

 そもそも、乾と共に地上で農作物の収穫を行っていたアニアは、救助なんかにあの乾が興味を示すとは考えていなかったのであるが……。

「穴に人が落ちたって? こんなおもしれぇ展開黙って見てちゃいられないぜ!」

 収穫していた農作物を放り出して穴に駆け出す乾の後を、ジト目のアニアがのっそりと付いて行ったのが事の発端であった。

「まーたいつものがはじまったよ……こうなると誰も止めらないのよね」

 乾の悪戯が暴走しすぎないようにと、アニアも洞窟に潜る事になったのだが、未だかつて乾の暴走をアニアが止められた試しがあまり無い事を彼女はすっかり忘れていた。

 そして、乾は洞窟で出会ったスヤスヤと眠るモグラに、何か悪戯しなくてはという悪の囁きに勝てず、アニアが洞窟内部を光精の指輪で照らして状況を確認している隙に見事悪戯を成功させ、当然のごとく、現在の状況に陥ったのである。


「ワタシ、焼き芋食べたかっただけなのに〜」

「勿論、全てが終わったら秋の食材を美味しく頂くんだぜ!」

「そのための運動だって言う気?」

「おい、見ろ、向こうに光が見える! 合流するぜ!!」

「……この場合、迷惑かける、って言う方が正しいんじゃない?」

「気をつけろよ! 噛まれたら石化するぜ?」

「ワタシは何も悪いことしてないじゃないー!!」

「きゅう! きゅう!」



 全力疾走で洞窟内を駆ける二人と一匹の前にいたのは、真人とセルファであった。

「こっちに来るわ! 誰かが追われてる!」

 サッと戦闘の体勢を取るセルファを真人が制する。
「待ってください! 今ここで戦うのは……」

「ここは一本道だし、逃げ場はないわ。石にされてもいいって言うの?」


 その時であった。セルファと真人の前に銀髪のツインテールを揺らしながらドルイドの咲夜 由宇(さくや・ゆう)が踊り出る。

「真人くん達、下がっていて下さいですぅ」

 そう言うと由宇は目を閉じて歌を歌いだす。

「そうか! 音波か!」

 由宇の歌に乾とアニアを追い、突進していたモグラが徐々にスピードを落としはじめ、丁度、由宇の前で停止する。

「助かったぜ、由宇!」

「ありがとう!」

 ぜぇぜぇと膝に手をつき、息を整える乾とアニアにニッコリと微笑んだ由宇は、モグラに手をかざし超感覚を使用する。

「どうして暴れてるんですぅ? 理由を話すでぅ〜?」

 大人しくなったモグラはツブラな瞳で由宇を見つめる。

「なるほど〜。ありがとうですぅ」

「何か分かりましたか?」

「元々住んでいた洞窟にヘビが出たから、ここまで逃げてきたそうですぅ」

「ヘビ? パラミタオオヘビの事か?」

「乾? 知ってるの?」

「昔、冬眠中のヤツに悪戯して大変な目にあった事があるからな」

「……あっそ」

 乾とアニアの会話を聞きながら、頷く真人が言う。

「由宇さん、モグラにとってヘビは天敵です」

「私達でヘビをやっつけたら、解決しないのかなぁ?」

「自然の生態系に人間が手を入れて解決する事は、あまり良くはありません。ですが、何故乾さん達をこのモグラは追いかけていたのでしょうか? 聞いてみてもらえませんか?」

「わかりました〜! あれ? おヒゲが蝶チョ結びされてますねぇ?」

 由宇が首を傾げる横で、この場から逃げ出そうとしていた乾はアニアにその首根っこを掴まれていたのであった。