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救助隊出動! ~子供達を救え~

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救助隊出動! ~子供達を救え~

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第5章「暗雲」
 
 
 篁透矢達からもアリア・セレスティ達からも離れた場所、ならず者達を率いるリーダーの男は少数の手下と共にいた。その顔には傍目にも分かるほどの苛立ちが浮かんでいる。
「ちっ……オメェら、本当に呼んできたヤツらはすぐに来るんだろうな?」
「も、もちろんでさぁ」
「ったく、先に行かせたヤツらも戻ってこねぇし、どうなってやがる……」
 既に透矢達やラルク・クローディス、ヘイリー・ウェイク達に倒されているとも知らず、なおも苛立ちをつのらせる。その苛立ちを助長させる声が真上から聞こえた。
「よぉ団体さん。探し物の手伝いでもしてやろうか?」
「あぁ?」
 見ると、木の枝に一人の男が座っていた。その男、白津 竜造(しらつ・りゅうぞう)はどこか小ばかにした感じでならず者達を見下ろしている。
「てめぇ……パラ実の地球人か。ガキには用はねぇ。ケガしねぇうちに帰るんだな」
 頭上のハエを追い払うかのようにあしらうリーダー。だが、竜造は顔をニヤつかせながら続ける。
「そのガキどもにやられてちゃ世話ねぇよなぁ。先に行ったあんたのお仲間、全滅だぜ」
「……んだと?」
「あんたら、馬車のガキどもを捜してるんだろ? ガキどもを助けに蒼空の奴らが出張ってきたって話だぜ。んでもってあんたらのお仲間はそいつらと戦って――こうだ」
 いわゆるでこピンの仕草をする。つまりはあっさりと返り討ちに遭った――そう言いたいのだろう。
 この得体の知れない男の言う事を鵜呑みにする必要は無い。――無いのだが、今をもって誰一人として帰って来ない事実がその信憑性を裏付けていた。
「てめぇ、何のつもりだ? どうしてわざわざそんな事を教えにきやがる」
 竜造の真意を図りかね、男が尋ねる。
「教える理由? 集まった契約者全員が正義の味方サマじゃねえってこった」
 そう言って竜造が不敵な笑みを見せた。スっと木から飛び降りた後、逆に男に尋ねる。
「ところであんたらの追ってる奴ら、聞いた限りじゃ辺鄙な村のガキと小娘じゃねえか。わざわざ手下かき集めて追う理由なんてあるのか?」
「けっ。理由なんざあるか。俺達は奪い、邪魔をするヤツはぶっ飛ばすだけだ」
 理由とも言えぬ理由。そしてある意味一番シンプルな理由を聞き、竜造がククっと笑う。
「へっ、くだらねぇ。……くだらねぇが、分かりやすい理由だ。だったらとっととガキどもさらって売っぱらっちまえ。で、余った奴らは皆殺し。証拠隠滅にもなって一石二鳥だ」
「てめぇに言われるまでもねぇ。俺達にたてついたヤツらには後悔させてやるだけだ」
 その時、大人数がこちらに向かってくる音がした。手下が呼んでおいた増援がようやく到着したのだ。
「頭、お待たせしやした!」
「おせぇぞ! どれだけ待たせやがる!」
「すいやせん! でも頭、ちゃんと言われた通りのヤツを連れてきやしたぜ」
 そう言って増援の男達が道を開ける。そこには6歳前後だろうか。1mあるかないかといった小さな女の子が立っていた。どう見てもこの場には不似合いなのだが、少女の眼は外見からは想像出来ないほどの落ち着きを見せていた。
「しかし頭、連れてきてなんですが……こんなガキ、役に立つんですかい?」
 手下の一人が言う。その瞬間、前にいたはずの少女の姿が掻き消えた。
「……え?」
「フンッ」
「――ガッ!?」
 気がついた時には既に男に一撃が加えられた後だった。崩れ落ちる男を、背後に立った少女が冷たく見下ろす。
「次、わらわの力を図りかねた時は……死ぬ事になるぞ」
 その雰囲気に周囲の男達が戦慄する。例外として竜造は少女を興味深く見つめ、リーダーの男は感心したように笑みを浮かべていた。
「さすがは辿楼院 刹那(てんろういん・せつな)だな。噂以上の実力のようだ」
「お前がこやつらの頭か。依頼を受けたからここまで来たが……下僕のしつけはきちんとしておいて欲しいものじゃな」
「へっ、そいつは悪かったな。……よし、後はガキどもを捜し出すだけだ」
 リーダーの男が笑みを浮かべたまま森の奥を見る。そこに竜造が口を挟んだ。
「捜すのはいいけどよ、アテはあんのかい?」
「アテなんざ知ったこっちゃねぇ。山狩りしてでも捜し出すだけだ」
「……けっ、戦う理由が考え無しなら捜し方まで考え無しか」
 竜造が鼻で笑う。そんな彼をリーダーの男が睨みつけたが、竜造は構わずに上を見上げた。
「見ろよ」
「あん?」
 言われて男も上を見る。そこには木々と、その先にある空だけが見えていた。――いや、それだけでは無い。
「あの光は……箒か?」
 ポータラカで作られたという、飛行時に光に包まれる事によって通常の箒よりも速度を出せる『光る箒』。その光がいくつか、空を飛び回っているのが見えた。
「あれをよーく見てな」
 複数の光は辺りを飛び交っていた。北に、東に、西に。それぞれの方向に飛んで行ったかと思うと、しばらくして戻ってくる。そして南の空へと光が飛んで行き――そのまま見えなくなった。
「分かったか?」
「……なるほどな。あれはてめぇが言ってたガキどもを助けに来たってやつらの仲間か」
「そういうこった。んで、飛んでったまま戻ってこねぇって事は――」
 男達が不敵な笑みを浮かべる。そしてリーダーの男が進路を南へと変えた。
「てめぇら! 今度こそあいつらを見つけ出して、ぶっ飛ばすぞ!」
「おおっ!!」
 こうして、男達は再び森の中を進み始めていった。竜造と刹那という、子供達への更なる脅威を抱えながら――