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クリスマス…雪景色の町で過ごすひととき…

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第30章 アヤカシと悪魔の契約

「鍬次郎・・・遅いの・・・・・・。退屈っ」
 斎藤 ハツネ(さいとう・はつね)は独りぼっちでつまらなそうに、大石 鍬次郎(おおいし・くわじろう)に買ってもらったクマのぬいぐるみで人形遊びをしている。
 2人の邪魔にならないようにぽつんとベンチに座っている。
「ここでいい子で待ってなきゃ・・・。でも、つまらないの。早くお話終わらないかな」
 くいくいっと引っ張っていた人形の手足を手にしている刃でブチィッと千切る。
 その頃、鍬次郎はある女を探して町中をうろついている。
「見つからねぇな、この辺りにいるはずなんだが・・・。―・・・もしかしてあいつか?」
 腰まで伸びたパープルストレートヘアーの女を見つけ、ショップのウィンドウへゆっくりと近づく。
「くくく・・・てめぇが趙天君かい?」
「そうですけど、あなた・・・誰ですかぁ〜。ナンパなら他をあたってください、今は誘いに乗る気分じゃないんですよぉ・・・」
 姉を封神されて憔悴している趙天君はプイッとそっぽを向く。
「ははっちげぇよ。鍬次郎だ、俺たちのことは秦天君辺りから聞いてるだろ?」
「鍬次郎・・・?―・・・あぁ、秦天君さんからもらったメールに書いてあった人ですか〜」
「今回、俺がてめぇに接触したのは他でもねぇ。・・・正式に十天君、てめぇらと“契約”を交わしてぇからだよ」
「契約って・・・」
 彼の言葉に趙天君は眉を潜めて首を傾げる。
「いや、パートナー契約ってことじゃない。十天君も今や6人、人手が足りないくて困ってるんじゃないか?ってことだ」
「それはそうですけど」
「ここじゃ人通りが多すぎるな。路地裏へ行こうぜ」
 そう言うと鍬次郎はあまり人目のつかなそうなところへ趙天君を連れて行く。
「この辺りならいいか。それじゃあ話の続きをするぞ」
 キョロキョロと注意深く周囲を見回し、小さな声音で話し始める。
「だからさ、俺らがてめぇらの協力者として、裏切らず、協力し続ける“契約”をしてやるよ?どうだ?張天君の仇は討ちたくねぇか?」
「お姉ちゃんを封神台に送ったやつらに仕返ししてやりたいですけどね。どうしてあなたたちが、あたいたちに協力してくれるんですか」
「くくく・・・俺は悪人だ。斬れれば正直、誰でもいい。心底の人斬りさ。だがな・・・俺でも護ってる“信条”ってのがある・・・」
「なんですか、それは」
「“悪・即・斬”くくく・・・お前が言うなって顔してるな?」
 訝しげに見つめる彼女を見て笑い、言葉を続ける。
「確かに俺はよう、無辜の民も斬り捨てる“正義”もねぇ外道さ。だが・・・それ以上に・・・裏切り者、人斬り、外道、そして・・・偽善者面した“悪人”が斬りてぇ」
 まだ何のことか分からないかと可笑しそうに笑う。
「“新撰組”の頃から見てきた、“正義”のためならどんな悪行でもする悪意まみれの人間共よォ!外道悪人の俺が閻魔の所に送りてぇンだよ!」
「もしかしてあの人たちをですか〜?」
「だってそうだろ?あの学生どもは俺が見ただけでも袁天君、柏天君の2人を“正義”や“友情”とかのために、一瞬の死ではなく、わざわざ嬲り殺しにする連中だぜ?どうせ斬るなら・・・そういう“悪人”が大量にいる側の方がいいだろ?」
「あたいたちの側につくことの意味、分かってます〜?どんなハイリスクを負うのか・・・」
 途中で鍬次郎たちが逃げ出したりしないか、じっと見据える。
「あぁ、悪人紹介からイルミンスールの森で起きたことの辺りから、今までのことくらいは知っているからな」
「それを知ったうえでこちら側につくということですか」
「出来れば十天君たちのリーダーを紹介して欲しいんだが」
「―・・・分かりました。今連絡を取ってあげます」
 彼の話に趙天君はしばらく考え込むと、携帯のメールでリーダーに連絡を取る。
「許可が降りました、いいですよ。ただし、5つ条件があります」
「条件?5つってなんだか多いな」
「はい。まずは1つ目、あたいたちを裏切ることがなければ紹介いたします。2つ目は、紹介する前にあなた方についてデータを取られていただくこととです」
「いいぜ、それくらい」
 軽く頷くと鍬次郎は自分たちのことを話して聞かせる。
「ありがとうございます」
 それをさらさらっとカルテのようなものでデータをとる。
「そんなものとってどうするんだ」
「相手の性格などが分かれば、行動パターンが分かりますからね。まぁ、裏切らなければいいことです」
「他のやつのもあるのか?」
「えぇ、もちろん。相手を知ることで、相手の弱いところ突きやすくなるんですよ」
 つんとデータを書き込んだものを突っつき、ニヤッと悪女らしい笑みを浮かべる。
「へぇ〜おっかないねぇこと考えるな。んなこと知ったらびびって顔出せねぇのがいそうだ」
「ふふっ、あの妖精のようにまた誰かみせしめに葬ってやるのも楽しそうですねぇ♪あたいたちに歯向かった者がどうなることになるか・・・」
「で、後は何だ?」
「3つ目は協力者以外に、あたいたちの目的や行動を話さないことです。4つ目・・・今日のところは何もことを起こさず、このまま帰ってください。データによるとハツネちゃんはお人形遊びが好きなようですから、ここでことを起こされると、私がこの町に来ていることがあいつらに知られて面倒なことになってしまいます」
「そうだな、結構来ているみたいだから騒ぎになったら厄介だ。それで最後は?」
「もし、あたいたちを裏切ったら・・・それ相応のお仕置きを受けていただきます♪」
 趙天君はそう言うとパシィイッと地面へ鞭を叩きつける。
「毒虫の群れでもいいんですよぉ?」
「ははっ、どっちもごめんだな。裏切ったりしないから安心しろ」
「そうですか、ではそれの言葉を信じましょう」
 鞭を握ったままニッコリと微笑む。
「噂以上におっかねぇ性格だな・・・」
「何か言いましたか?」
「いや、別に。それじゃあ俺はそろそろハツネのところへ戻るぜ。あまり放っておくと町の人間を殺しかねないからな」
「分かりました。寒いですから、お風邪などをひかないようにお気をつけてくださいね」
 片手をふりふりと振ると趙天君は消えるように雪景色の向こうへ去っていく。
 ハツネのところへ戻ると今にも人形遊びを始めそうなほど苛立っている。
「(ギリギリ間に合った感じだな)」
 彼女の足元を見ると買ってやったぬいぐるみがばらばらになって落ちている。
「帰るぞハツネ」
「ねぇ、ご褒美ちょうだい。人形遊びしたいの」
「今日は自粛しろ。騒ぎを起こさないと約束してきたばかりだかな」
 裾をひっぱるハツネに対して首を左右に振る。
「むぅ〜〜っ」
「そんな顔するな。またどこかで人形遊びが出来るかもしれないぜ」
 膨れっ面をするハツネが暴れださないように手を引き、町の外へ出て行った。