First Previous |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
12 |
13 |
14 |
15 |
16 |
17 |
Next Last
リアクション
第13章 空京の雪だるま
空京大学のレン・オズワルド(れん・おずわるど)は、生活の拠点である空京でパートナーの機晶姫のメティス・ボルト(めてぃす・ぼると)と一緒にサンタクロースをやっていた。
近代化の進む空京には煙突のある家の方が少ないだろうと、メティスは『根回し』で事前に各家庭の大まかな見取り図を用意したが、郊外の配達を任された為、予想外に煙突のある家が多かった。
だが、情報は無駄にならない。メティスとレンは侵入と脱出の経路を把握して、煙突から家の中に入った。2人はサンタらしく子供達に見つからないようプレゼントを配り、翌朝、それを見つけた時の驚きと喜びを大切にしたいと考えていた。
しかし、気配に目を覚ましかけた子供に問答無用で『ヒプノシス』をかけて眠らせるレンに、メティスが小声で言った。
「少しくらい様子を見てもよいのではありませんか?」
だが、レンは首を横に振った。
「ひと目でもこんなサンタを見れば、子供が愛影響を受ける」
レンは、赤いサンタの衣装に白いひげをつけ、目元を黒いサングラスで覆った自身の姿に肩をすくめる。確かに、堅気のサンタには見えない。
「大人になればどうせ判る夢だ。その日まで夢ぐらい見せてやりたいと思わないか? それで、自分の子供にも夢を見せてやれる親になってくれればいいさ」
レンの言葉にメティスがほほ笑む。
「それでは、1人でも多くの子供にプレゼントを配りましょう」
今と未来の夢を守る為、2人は次の子供部屋へと向かった。
隣の区画では、同じ空京大学のラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)が自前のソリとサンタの服と髭でプレゼントを配っていた。
去年も手伝ったので、手順はわかっている。
「ただし、今年はフィールドが違うからな」
ラルクは、去年、キマクで配った時の事を思い出した。あの時は、昼間で隠れて配るには難易度が高かった。今年はそのハードルが下がった分、新たな課題を自分に与えている。
「今年は休憩はなしだ。去年より上手く、かつ要領よく配れるかを試してみるぜ!」
できれば、サンタ少女達、本業のサンタに迫る記録を叩き出したい。だからといって手抜きはしたくない。ラルクは気合を入れなおし、ヒロイックアサルトの『剛鬼』で身体を強化する。
サンタのトナカイを物陰に隠したラルクは、目的の家の石壁をロッククライミングの要領でよじ登り、2階の子供部屋の窓を『ピッキング』で開けると、巨漢とは思えぬ俊敏さで入り込む。
物音に注意しながら眠る子供に素早く近づくと、枕元にプレゼントを置き、柄ではないとちょっぴり照れながら「メリークリスマス」と小声で囁いた。去年と違い、プレゼントを見つけた時の笑顔まで見れないのが残念だ。
ラルクはそっと窓を閉めて窓から飛び降り、隠しておいたソリに向かう。
「っ!!」
反射的に飛びのいたラルクの足元を掠め、雪娘の『氷術』が地面に命中する。
「フェアって訳にはいかねぇのは、残念だ」
ラルクは『ドラゴンアーツ』で塀を駆け上り、雪娘に拳を叩きこもうとするが、雪娘達の怯えた泣き顔を見て拳を止めた。着地したラルクを、別の雪娘の放った『ブリザード』が襲う。
氷の嵐はラルクを弾き飛ばし、ひときわ大きなモミの木にしたたかに背を打ち付けた。ドサドサと木から落ちた雪がラルクを埋めた。
ラルクは、自分を包む雪ごと起き上がり、雪娘の攻撃に備える。
その時、後ろから止まれとラルクに命じる声があった。異変を感じ取ったレンとメティスが駆けつけたのだ。
「なるほど。おまえが、サンタを妨害をしている雪の精霊だな!」
(なんだと?)
ラルクは叫んだつもりが声が出ない。顔も体も雪で覆われ、偶然にも衝撃でモミから落ちた枝や葉、球果が怒ったような顔を作っていた。
愛用の拳銃を構えるレンを見て、ラルクは慌てて違うと否定するが、上手く体が動かない。とにかく雪を払おうともがき始めた怒れる雪だるまに、レンが動くなと警告する。
いっそレン達にこの雪をどうにかして貰おうと近づくラルクに、メティスがレンを守ろうと『ロケットパンチ』を打ち込んだ。
ラルクは脇道へ滑り込み、それを避ける。勢いあまった雪だるまはそのまま民家の壁に激突し、ようやく雪が割れて中からラルクが出てきた。雪がクッションになったので、彼にケガはない。やれやれと立ち上がるラルクから、レンはまだ照準を外していなかった。
それにうんざりしながらラルクが上空を指し示した。
「間違えるな。妨害してる雪の精霊はあっちだ」
見上げれば、雪娘達がくすくすと楽しそうに笑っている。
「あの娘達にやられたのか?」
レンがいぶかしげに聞くのに、ラルクはしぶしぶ頷く。
「この近くの家で試してみろよ」
レンとメティスが雪娘とラルクを警戒しながらプレゼントを手に家に近づくと、雪娘達が『氷術』で攻撃してきた。応戦してレンが威嚇射撃すると、とたんに雪娘達が怯えた顔で身を竦ませる。ひるんでレンが銃口を下げると、また雪娘達が攻撃してきた。
「……っ攻撃しにくいな」
レンの言葉に、ラルクが頷く。女の涙が武器というのは間違いではないらしい。
「強敵だ」
3人は、雪娘達を追い払えるまで協力してプレゼントを配る事にした。どうせ残りもあと少し、子供達の為に全力で頑張ればなんてことはない。
黒メガネのサンタと髭面のサンタは、不敵な笑みを交わした。
First Previous |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
12 |
13 |
14 |
15 |
16 |
17 |
Next Last