リアクション
第11章 環菜への手紙
環菜へ
きみがこの世界に戻ってきてから、1カ月と半分が過ぎようとしています。
その後、体の具合はいかがですか。もう退院されたでしょうか?
俺は今、東カナンへ来ています。
山葉校長から聞いているかもしれませんが、現在カナンではたくさんのモンスターが暴れていて人々を困らせ
ています。俺たちはそんな人々を救うために、いろいろな活動をしています。
町や村からモンスターを追い払ったり、二度とモンスターに襲われたりしないよう対策をしたり、井戸を掘ったり
――これは残念ながらあまり成功していませんが、女神イナンナが以前の力を取り戻し、カナンがよみがえっ
て水が戻ってきたときには、きっと役立つでしょう――、あと緑を植樹したり、家屋を建てたり、シャンバラ
のみんなが送ってくれた物資を配給したり……
いろいろです。
最初はそうでもなかったんですが、俺たちの動きが東カナン中に広まってからは、たくさんの町や村から
仲間に加わりたいという人たちが続々と集まってくるようになりました。
今、俺たちは結構大所帯です。おかげで毎日が飛ぶように過ぎて――
「ここにいたのか」
ばたんとドアが閉じる音がして、陽太は手を止めた。
レン・オズワルドが立っている。
「なんだ、手紙を書いていたのか」
「ええ。さっき冒険者が村に入ったんです。明日、メラムの方へ行くって言うから、渡してもらおうと思って。
レンさんはどうしたんですか?」
「俺は……ま、休憩だな。いい天気だし、日光浴もいいかと思って」
と、空を見上げる。
まるで見られるのを待っていたかのように、一羽の鳥が飛んできて、旋回し、下に下りて行った。
「――聞いたか?」
何をと訊かなくても、陽太にも分かっている。
村は、今朝方冒険者が持ち込んだそのうわさ話で持ち切りだ。
「正規軍が動き出すそうですね…」
「ま、かなり目立ち始めていたからな。ここいらで一度叩いておこうってことだろう」
正規軍は弓騎馬と重騎馬で構成された、東カナン最強の騎馬兵団だ。
だがなによりそれは、東カナンの人たちだということ…。それが重くのしかかってくる。
沈み込み、下を向く陽太と対照的に、レンは挑戦的に顎を上げた。
「シケた面するな。今だって、ネルガルがどこかで盗み見ているかもしれないんだぞ」
(そうとも。俺たちが見えるか、ネルガル。見えるなら、おまえ自身がここへ来い。来て、俺たちと戦ってみろ)
レンは不敵な笑みを浮かべて、空を仰いでいた。
同日。
アガデの都を出立する一団があった。
先頭を行くは甲冑姿のバァル・ハダド。兜を被っているため顔は見えなかったが、騎馬を象ったハダド家の紋章を刺繍した臙脂の旗が向かい風に靡いているのがはっきりと見える。
その軍の最後尾には、巨大な鎖につながれたモンスター、アジ・ダハーカがいる。そしてアンデッドを操るモンスター、エンディムを従えたメニエスの姿もあった。
《第1話 終》
こんにちは、またははじめまして、寺岡です。
東カナンメインストーリー【擾乱のトリーズン(第1回/全3回)】はいかがだったでしょうか。
わたしが思っていた以上に波乱万丈といいますか、なかなか一筋縄ではいかない展開となりました。
ビックリです。
事態は急転直下、反乱軍討伐のためバァル出陣です。
はたして反乱軍は、東西シャンバラ人たちは、セテカは、どう動くのでしょうか?
そしてネルガル、アバドンは?
近日中に2話目のガイドを公開させていただきたいと思います。
ここまでご読了いただきまして、ありがとうございました。
第2話でもお会いできたらとてもうれしいです。
もちろん、まだ一度もお会いできていない方ともお会いできたらいいなぁ、と思います。
それでは。また。