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リアクション
「君たち、よーく、見ておくのです。君たちのために、どんな男がどうやってお金を稼いでいたかをね?」
悪路が子供達ににこやかに微笑む。
危険思想の持ち主として封印されていたのを六黒により解放された悪路は、権謀術数を好み、詰将棋感覚で人を操る術に長けていた。彼は、情報通信と根回しを用い、王が世話をしている孤児院を突き止めていた。そしてここに善意を装い招待状を送り、今宵の戦いに連れてきたのだ。
勿論、王への無言の脅迫となりうる人質として……。
呆然とする王に、六黒が手を差し伸べる。
「王よ、おぬしの想う相手は既にわし達の手の中なのだよ? それでも、なりふり構わずわしを倒しに来ないのか? 正統派として、小さな満足感を得たまま、きゃつらと共に果てるか?」
「……何が言いたいんだ、てめえ?」
「おぬしもわし達も同じ穴のムジナだと言う事だ? 信じる理想や守るべきモノが違うだけでな? そして、正統派の技だけでは、このわし達は倒せないという事だッ!!」
六黒がスタンクラッシュで地表を叩き、その衝撃で王がバランスを崩す。
「クッ!!」
王が血煙爪を構えるより早く、六黒が王へと跳びかかる。
「その首、その眼をきゃつらの前に置けば、どんな顔をするのであろうなー!!」
「て、てめえッ!!」
「王! 何やってる!? どけぃッ!!」
「!!」
王の前にコウが飛び出し、女王のバックラーで六黒の剣を受け止めようとする。
「ぬぅん!!」
「!?」
――バシュゥゥ!!
永久の戦いと飽くなき力への妄執を満たすべく善悪無く拳を振るい、かつて武神とまで呼ばれた六黒の剣が女王のバックラーごとコウの腕を空中へと切り払うう。
空中を舞ったコウの腕がボトリと地面に落ちる。
「モヒカン女!!」
「……し、心配いらねえぜ、こっちはキマクの闘技場で失った代わりに移植した機晶姫の腕だ……」
離れ際にコウに数発の弾丸をお見舞いされた六黒が、リジェネレーションで回復し、身体を起こす。
「だが、勝利を掴むことは困難になったであろう?」
「王!!」
上空から拡声器を使った大きな女の声が響く。
「どこだ!?」
「こっちですわ!」
王が見上げると闘技場の最上段の貴賓席に、シー・イーを拘束したリリィとウィキチェリカが立っている。
「トカゲ!!」
リリィが勝ち誇ったような笑みで王へと呼びかける。
「わたくしたちには、彼女に危害を加えるつもりはありません。あなたが降参し、踏み倒した上納金を出さなければ、彼女がどこでどうなるかはわかりませんけれどね」
リリィの傍でウィキチェリカが、「キマクの穴に質に入れちゃうよー!」と小さく叫ぶ。
リリィ達に反論したのは意外にも悪路であった。
「あー、申し訳ありませんが、キマクの穴の同士として言います。ご協力は嬉しいのですが、余計な事はしないで頂けますか? 私たちには私たちの目的があるのです」
「目的?」
悪路が用意した拡声器をポンと叩き、一つ咳払いをして、
「ええ。ですが、王が動き出したら、その人質の首を遠慮無くはねて貰って構いません!」
ざわめく観衆達。
「……てめえら、そんなに俺様を怒らせたいのか?」
六黒の傍に来た冴王が獣のように舌なめずりをする。
「あ? 別に反撃してきても良いンだぜ? 刃向う馬鹿を完膚なきまでに打ちのめすのもまた、面白ェしな!」
魔銃カルネイジを構える冴王。放たれた弾丸は王ではなく、コウへと向かう。
「ウッ……!?」
「!」
コウが弾丸をマジックローブの胸に受け、後方へ吹き飛ぶ。
「前座は終わりだ!! てワケで、もっと俺を悦ばせなッ!」
「……いいぜ、なら見せてやる! これが本当の王大鋸だ!!」
動かなくなったコウから顔を戻す王の身体から、六黒と冴王に向けて獣のシルエットのようなドス黒いオーラが沸き起こる。
「ほう……楽しませてくれる」
「あン? 眠ぃコト言ってる暇あンならかかッてこいやッッ!」
冴王が王へと向けて走りだす。
リリィ達の貴賓席へと続く階段はウィキチェリカの氷術によって、今や氷の坂へとなっていた。
「いたぞ!! 貴賓席だ!!」
食い下がるキマクの穴の戦闘員達を一部の戦士達にまかせた、正統派の本体部隊がその坂の前で倒れていた紫音達と合流するも、再びキマクの穴の手の者達が、多くの足音と共に近づいてくるのがわかった。
「時間がない。火術で溶かすって選択肢は無しだな」
ラルクがふうと、精神統一をする。
「どうするつもり?」
ルカルカがラルクに問うと、彼は恐らくこの上がリリィ達のいる貴賓席であろう天井を見上げる。
「決まってる! 最短距離の穴をぶち開けてやるだけだぜ!!」
「成程な……では、あの追ってどもの相手は任せとけ! 風花、アルス、行くぜ!!」
紫音の呼びかけに風花とアルスが頷く。
ラルクがドラゴンアーツとヒロイックアサルトをかけた拳を、天井に振り上げる。
「鳳凰の拳!!」
すかさずミューレリアがラルクの傍にやって来て、
「私も手伝うぜ!! 機晶ロケットランチャー!!」
スキル【魔弾の射手】を使用したミューレリアのロケットランチャーの4発動時発射が完全に穴を開ける。
よもや、自分たちの直下から攻めてくるとは思わなかったリリィ達は、完全に不意をつかれた。
――ドゴォォーーンッ!!
「な、何です!?」
もうもうと煙が舞う穴からラルクとミューレリアが飛び出してくる。
「あ、あなた達!!」
「リターンマッチの時間だ! 正々堂々と戦うのがどんだけ気持ちいい事か教えてやるよ!」
「いくぜ、悪党どもめ! 勝った方が正義だぜ!!」
間髪入れずミューレリアとラルクが一斉に、リリィとウィキチェリカに跳びかかる。
「ぐぅええああぁぁー!?」
叫び声をあげる冴王。
「うおおおぉぉぉーーーッ!!」
その首をへし折らんとばかりに掴んだ鬼にような顔つきの王が、冴王のどてっ腹に拳を叩き込む。
吹き飛ばされた冴王を獣のような勢いで追走する王。
「このぉッ!? 舐めるな!!」
冴王の拳銃を唸る王の血煙爪がぶった斬る。
「!?」
真っ二つに切られた銃を見て驚嘆する冴王を、王の拳が殴り飛ばす。
「死ねぇーーッ!!」
「誰が死ぬかぁぁッ!! 奈落の鉄鎖!!」
突っ込んでくる王にそう宣言した冴王が、両腕をクロスさせるように振り上げる。
「!?」
冴王のトラッパーのスキルにより、実際に存在する鉄鎖が王の身体をまるで猛獣を束縛するかの如く捕まえる。
「お返しだッ!!」
ギリギリと鉄鎖が王の身体や首を締め上げる。
「ぐぅッ!!」
闘技場の隅に置いておいたスパイクバイクの跨った冴王がエンジンを始動させる。
「これで、終わりだぁぁ!!」
鉄鎖に拘束された王に向かって、猛スピードで突っ込んだ冴王がバイクを空へと浮かし、重力にも干渉した勢いで王へと迫る。
「がああぁぁぁーーッ!!」
身体に喰い込み血が流れるのも構わず、王が鉄鎖を引きちぎり、血煙爪でスパイクバイクを一刀両断する。
「!! ……このッ!! 化物が!!」
冴王と王との戦いを達観するように眺めていた六黒が剣を握る。
「ふむ……怒りに任せて我を忘れたか。狙うは今だな!」
すっかり冴王との戦いに夢中になっている王に、黒檀の砂時計・勇士の薬で極限に速度を上げた六黒が音もなく走りよる。
唸りをあげた拳で冴王を弾き飛ばす王が後方を見やる。
「!?」
破壊され爆散したスパイクバイクの陰から、六黒が跳びかかる。
「王、楽しませてもらったが、やはり勝つのはわし達だったようだな!!」
その時、六黒は背後にわずかな気配を感じ取り、顔を向ける。
「!? 何奴ッ!」
剣を振り、後方から飛んできた漆黒の魔弾を真っ二つにする六黒。