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リアクション
舞台は少し変わって、ここ闘技場の裏手では、レポーターのメイガスのカレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)とカメラマン役の機晶姫でフェイタルリーパーのジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)がバタバタと走り回っていた。
「もう! 解説者役で熱い実況を届けたかったのに! どうして、キマクの穴ってああも意地悪なのかしら?」
「カレン、報道とは中立を保たねばならないのであろう?」
「それはわかってるけど、無下にしずぎじゃない?」
カレンは「こんな面白そうなイベントは絶対参加するっきゃない!」と言い、この凄い戦いをよりエキサイティングにするために、ボクはリングサイドアナ的なポジションで実況、解説したいと思っていたのだが、キマクの穴サイドから「それは今回こちらが出すという取り決めになっている。最も、君がこちらに加わってくれるならまかせたいが?」という提案を呑めるはずもなく、リポーターとして、ビデオカメラを持たせたジュレールと共にバックヤードを走り回っていたのである。
ジュレールは、カレンなら真っ先に選手として出るかと思っていたのだが、彼女が何か色々と考えてはいるようなので、いつもの剣をビデオカメラに持ち替えて与えられた役目を全うしようと決めたのである。
カレンは知らない話だが、カメラのズームも露出合わせも音声の調節も若干の手ほどきを受けただけでマスターしたジュレールに大会スタッフは、闘技場での本撮影を任せようとオファーを出したが、カレンの事を考えて彼女はこれを拒否していた。
「こうなったら、少しでもキマクの穴の事を調べて、電波に載せて流してやるもん!」
「中立……」
「いい? 映像なんてのは半分くらいデマとプロパガンダで出来てるものな……って、ちょっと待って!」
廊下を曲がろうとした所で、カレンが足を止める。
「どうしました?」
「何か、争う声が聞こえるわ。テープ回して!」
角から様子を伺うカレンの先には、『キマクの穴の選手控え室コチラ』という看板を挟んで対峙する、鮪のパートナーである英霊でコンジュラーの織田 信長(おだ・のぶなが)と忍のパートナーでもう一人の信長信長の舌戦を繰り広げられていた。
「忍よ、お前は王を助けようとしているらしいがやめておけ、今回の事は王に責任があるぞ」と言いつつも、彼のためにキマクの穴に潜入しようとしていた忍のパートナーの信長(以下、信長1とする)が赤いロングの髪を揺らして激しく詰め寄っている。
「確かに私も王が子供達にランドセルを配り、そのせいでキマクの穴から悪党が送り込まれてしまった事には呆れているんじゃ。だが、これは本来の闘技場の姿ではない。キマクの穴のボスに話をつけてやる。そこをどくんじゃ!」
18歳位の少女の外見を持つ信長1の言葉に、後ろで束ねた黒髪を持ち髭を生やした40歳位の男性の姿をした信長2がふふんと笑う。
「何がおかしいのじゃ?」
「おぬしは、自分の目の前にいる相手の力量も測れぬのか? わしがこのキマクの穴が首魁、織田信長なのだよ!!」
「「何ぃぃーっ!?」」
信長1と傍で聞いていたカレンの声がハモる。
振り向いた信長1の先からマイクを持ったカレンとジュレールが出てくる。
「あ、あの! ボスというのは本当? 信長さん?」
カレンにマイクを突き出された信長2が、ジュレールのカメラを睨みつつ、がっしりと頷く。
「できる男は常に上を狙うのだ。戦国が野望を仮面に変えて掴むは天下唯一つ!」
ちなみに、この二人は元々織田信長という同一人物であるが、英霊は分霊扱いとなり、さらに『パートナーの主義・趣向が入っている』ので、本来の英霊と異なっているのだ。
「おまえ、また部下に裏切られるんじゃ……」
「何を言う。その人生50年で終わらせてやろうか!?」
「あの……キマクの穴は?」
カレンの言葉に咳払いを一つして信長2が言う。
「うむ……このわし、織田信長が誰かの配下になる訳がないであろう?」
「はぁ……」
「どちらにしろ、王が金を収めなかったというのは事実! ゆえに天誅を下すのだ、我々が、圧倒的な暴力でもってな!!」
「で、では、まだ正統派への激しい闘いを仕掛ける、と?」
「当然。こちらの幾多の屈強な戦士達が、獲物は今か今かと口を大きく開けて待ってるのだよ、ふわっははは!」
「ふ、ふん。今に私のパートナーがその一人を倒して来るのじゃ!」
プイと腕を組んだ信長1がやや拗ねた表情を見せる、その時、会場の方から歓声が響き、勝者のコールが聞こえる。それは忍とレオの敗戦を示すものであった。
「勝ったのはわしの鮪達のようだな! ふわっははは!」
ジュレールの巧みなズームが信長2の大きな口を映し出す。
信長1と信長2の話は、そのまま天下統一と家臣の運用を熱く語るものへと変わっていったので、カレンとジュレールは再び場所を移し、取材対象を求めて彷徨う羽目になっていた。
闘技場には観客達の出入口とは別の選手用の出入り口がある。そちらを通りかかった時、王のパートナーのシー・イーの姿が見えた。
「あ、今渦中の王選手のパートナー、シー・イーさんがいます。早速お話を伺ってみましょう」
カレンがシー・イーに駆け寄る。
「こんばんわ」
「こんばんワ……何ダ?」
「今回、王選手がキマクの穴への上納金を収めなかったという事で、闘技場を二分する闘いへとなっていますが?」
「ワタシも、その王の金でランドセルを貰ったからナ。複雑ダ」
「と、言いますと?」
ジュレールがカメラを即座に回りこませ、シー・イーの表情を捉える。
「果たして、6年しか使えぬ鞄であるランドセルにそこまでの価値があるのだろうカ?」
「……えーっと、使用年月の話じゃないと思うんだけど?」
「そうカ……」
沈黙するシー・イーとカレン。どこで覚えたのか、ジュレールが腕を回して「巻いて!」とカレンに指示を出す。
「で、では今ここで何をしているんです?」
「選手の到着が遅れているのでナ……迎えに来たノダ」
「正統派の増援ですね!? ……と、あの方達でしょうか?」
ジュレールのカメラが即座にパンすると、正統派の戦士であるグラップラーのラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)、ヘクススリンガーのミューレリア・ラングウェイ(みゅーれりあ・らんぐうぇい)が歩いてやってくる。
「全く、修行の途中だってのに、王め。元パラ実生というだけで呼び戻しやがって!」
巨漢のラルクの傍を歩くミューレリアがラルクを見上げるように声をかける。
「でもさ悪の選手なら思いっきりやれるぜ?」
「ああ。悪役で、しかもルールを破る奴は武道家失格だ! 正々堂々と勝負しやがれってんだ! まあな、上納金を払わない王も悪い気もするが……まったく、ロイヤルガードが上納金納めないとかちょっとした事件だぞ?」
話す二人にカレンとジュレールが近づく。
「今のお気持ちを一言ずつ!」
マイクを向けられたラルクとミューレリアが、ちょっと止まるが、すぐに気合の入った顔で、
「私はワンちゃんとはロイヤルガードの同僚だからな、全力で勝ちに行くぜ!」
ミューレリアがそう言えば、ラルクも、
「とりあえず、王はしっかり反省することだ。子供の事を考えるのもいいが自分をもっと大切にしろよ?」
と言い、テレビカメラに向かって拳を突き出す。
「もう、いいカ?」
シー・イーがラルクとミューレリアに近づく。
「お、シー・イーか! 俺の出番はまだなんだろうな? もう終わったとか言うんじゃないぜ?」
金の顎髭を撫でて笑うラルク。
「まだダ……二人の試合は……次のタッグ戦で、ルカルカと……」
シー・イーが出場者名簿を見ようとしたその時、バンッと、出入口を照らしていた照明が一斉に落ちる。
そして、どこからか、脳天気そうな少女の声が聞こえる。
「お二人の出番は今始まってそして今、終わるのです。わたくし達によってね……」
暗闇に一瞬の閃光が走る。
「ラルク! サンダーボルトだぜ!? 強襲だ!!」
「何! ……ぬぅ!?」
ドサリと大きな何かが倒れる音がする。
「ラルク!? がっ!?」
再び閃光が走り、今度は少し軽いものが倒れる。
「何!? ねぇ、何が起きてるのっ!?」
「カレン! 今サブの照明を出します!」
ジュレールが懐から予備の小さな照明を取り出し、点灯する。
「あっ!!」
小さく悲鳴をあげたカレンの前には、ぐったりと倒れたラルクとミューレリアが横たわっている。
「一体、どういう事?」
カレンのセミロングの髪に僅かな風が当たってなびく。
「カレン! あちらを!」
ジュレールの言葉にハッと振り返るカレンが見たものは、ロープで縛られた意識を失ったシー・イーを抱えたプリーストのリリィ・クロウ(りりぃ・くろう)と、傍に立つフェルブレイドのナカヤノフ ウィキチェリカ(なかやのふ・うきちぇりか)であった。
「キマクの穴? どうして!?」
「元はといえば、組織への上納金を踏み倒した王のせいでしょう? こうなっても自業自得ですわ」
黒の前髪ぱっつんロングの下にある茶色の瞳が全く笑っていないリリィが、やはり脳天気そうな声でそう宣言する。
「リリィちゃん、早く特等席に行って見物しようよ」
「ちょ、ちょっと……待てェ!」
甘えた声でリリィの腕に自分の腕を絡ませていたウィキチェリカが、ゆっくりと巨体を起こすラルクを、飽きたおもちゃを眺める目で見つめる。
「あたしのサンダーブラスト受けたのに、まだ意識あるんだ」
ミューレリアも地面から怒りに満ちた顔をあげる。
「おのれ……悪役め。ルール無用攻撃なんて卑怯な技を……こうなったら、正統派の、正義の技でお仕置きしてやるぜッ!」
「わたくしたちは、別に彼女に危害を加えるつもりはありません。……でも、あなた達が降参し、踏み倒した上納金を出さなければ、彼女がどこでどうなるかはわかりませんけれどね」
途絶えていた闘技場の照明が再点灯するのを確認したリリィがウィキチェリカを見て、
「時間ですが……もう少し静かにしておいてもらいましょうか……」
頷いたウィキチェリカが片手をあげる。
カレンが素早くマイクを投げ、術を使おうとするのをジュレールが止める。
「どうして!?」
「カレン……報道は中立なのです。今、手を出せば……」
グッとこらえたカレンの前で、ウィキチェリカの放った雷術がラルクとミューレリアの意識を完全に失わせたのであった。
この事件は、カレンに密かに温めていたとある計画の実行を密かに心に決めさせたのである
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