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リアクション
1-1
空京センター街、居酒屋『和民(かずみん)』前。
通りを行く人々が不思議そうに振り返る視線の先にはあるのは天を突く勢いで盛られた髪(全長2メートル)。
無論、そんな髪型が許されるのはカリスマだけ……神守杉 アゲハ(かみもりすぎ・あげは)である。
センター街を根城にするギャルとかチャラい人達は「アゲハさんちーっす!」と自然に挨拶をしていくが、初めてここに来たおのぼりさんのオイモさん達は、渋谷にある『ハチ公』や『モヤイ像』的待ち合わせモニュメントと勘違いして待ち合わせを始める始末……、ただそこにいるだけなのに自然と人が集まってくるとは、やはりカリスマは全然違う。
「……なにこのそびえ立つ物体? オーパーツ?」
センター街で遊んでいた茅野 菫(ちの・すみれ)は、アゲハの髪を見上げて口を空けている。
「何、その頭? すごいわね。どれくらいあるの? え? 2メートル? ふーん」
流石センター街……流行の最先端は違うわね……と唸る菫。
こんな頭をしてるのは特殊キャラ枠の皆さんだけだなので、良い子の皆は勘違いしないように。
「で、これは何の集まり?」
「集まり……って新年会に決まってんじゃん」
待ち合わせの関係ない人に紛れてわかりづらいが、各校から新年会の知らせを聞いた人が集まっている。
「へぇ、そこのわた……げふんげふん、カズミンでするのね。あたしも混ざってもいい?」
「んー、別にいんじゃね?」
「でも、好みで言ったら、ザ・カズミンとかテン〇とかの方が好きなんだけど……」
「だってやってねーんだもん」
肩をすくめるカリスマ。
そうこうしてると予約の時間となった。とりあえず集まった人たちを連れて和民に入る。
ところが、ふと入り口でアゲハは立ち止まった。
「あー、まあ、普通は入れないわよね」
菫は呆れた風に言った。
カリスマのカリスマヘアーは明らかに和民の扉より高くそびえていた。
「どうしてもここで新年会するなら切らないとだめじゃない? 鍋orカットよアゲハ、究極の選択!」
「はぁ? 切るわけねーじゃん?」
「え……、でもそれ、やっぱり盛り過ぎだし。モリガールにもほどがあると思うんだけど……」
「森だか盛りだか知らないけど、あたしの前でモリガールとか言うな。あいつらはいずれ滅ぼす敵なんだから」
そう言うとアゲハは、通常の入り口の横にある縦軸へのアプローチがアグレッシブな扉の前に立った。
どういうことかと言うと長い。通常の三倍の長さのカリスマ専用ドアだ。
「だってセンター街はあたしの庭だし」
「カリスマってどっか変……」
そう言えば大学病院の新年会がここであると聞いた。
折角だから彼女の頭を診てもらおうかしら……、と菫は思ったが、ちょっと待ってほしい。彼女は前作『ゴリラが出たぞ!』のガイドの時点で診察済みである。しかも、精神病院にぶち込まれると言う優秀な成績を残している。
『いらっしゃいませ〜!』
来店したアゲハ達団体さんに、アルバイトの琳 鳳明(りん・ほうめい)は明るく微笑んだ。
年末の出費を補填するため、所属する教導団には内緒で、パートナーと一緒にバイトをしてるのである。
アゲハ達を奥の座敷に案内すると、パートナーの南部 ヒラニィ(なんぶ・ひらにぃ)に店の裏に呼ばれた。
「あ、ヒラニィちゃん用事って何? 私まだバイト中だから手短にね。ん? 何、内緒話?」
狭苦しい路地裏に佇むヒラニィの背に話しかけた途端、目の前が真っ暗になった。
かすれた音が喉から漏れると共に、彼女はコロリと絞め落とされた。
音もなく背後からチョークスリーパーをかけたのは、もう一人の相棒藤谷 天樹(ふじたに・あまぎ)である。
「…………」
「うむ、よくやったぞ」
ヒラニィはごそごそと鳳明の胸をまさぐり、巻かれていた白い晒(さらし)を抜き取った。
基本喋らない無口な天樹はジッとそれを見つめてる。
「こんなことを手伝わせてどうする気なのか、と言いたげな顔だな?」
「…………」
「聞けばアゲハとか言う娘は最高の鍋を作ろうとしているらしい。ならば、手を貸してやろうと思ってな。む、なんだその顔は。別におもしろがってやってるわけではないぞ。あくまで和民アルバイトとしての親切心からだな……」
むにゃむにゃ言うと、今度はなんか鍋論を語り始めた。
「よいか天樹。鍋とは様々な具材からしみでたダシが奏でるハーモニーだ。だが、具材を生かすには土台となるだし汁がちゃんとした物でなければならぬ。そう、基礎工事がしっかりしていなければ、どんなに優れた美しい建築物も脆く崩れ去るのみなのだ。ならば、わしがその基礎工事を磐石の物にしてみせようではないかっ!」
ヒラニィは昆布と同じ要領で晒を切って、土鍋にプッカリプカプカ浮かべ始めた。
「見よ!! 最近ボイスがついてすっかり萌えキャラ風味になったこの鳳明の晒を! ふっ、すっかり(キャラ的に)美味しい汁を含んでおるわ……。こいつで取ったダシはさぞ(PC的に)美味なハーモニーを演出してくれる事だろうて」
くっくっくっ……と不気味な声が路地裏に跳ね返る……。
しばらくして座敷に鍋を運んできた鳳明に皆カリスマ新年会の面々は怪訝な顔を浮かべた。
白目をむいて開いた口からよだれを垂らし……両足を引きずるようにこちらに平行移動してくる様はサイコホラー。
それもそのはず、天樹がこっそりサイコキネシスで動かしているのだからしょうがない。
「おなべをお持ちしましたー」
ヒラニィの腹話術に合わせてパクパクと口を動かす。
「この店員こんなんだっけ……? つか、大丈夫? なんかちょっと顔死んでない……?」
「ぜんぜんだいじょうぶですー」
そう言って置かれた鍋に、ゴリラ似のジャングル・ジャンボヘッド(じゃんぐる・じゃんぼへっど)は小首を傾げた。
なんだか布みたいなものがスープを泳いでいたのだから、そりゃ首も横に倒れるはずである。
「あの……、この白いものはなんですか? もしかしたらですけど、これってさら……」
「白昆布でございますー」
完全なる異物混入&完全なる産地偽装。捕まる。
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