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リアクション
「まぁ、落ち着くのじゃ」
「ですがっ……く……」
ザカコの前にはアキラ二号。
ゲドーの行為につい応戦してしまったザカコだったが、さすがに教師達相手に問題を起こすつもりはなかった。
「奴ならば相応の罰が下されよう、ここはわしに免じて抑えてくれんか?」
「……わかりました……しかし、自分はこの後どうすれば……」
今のザカコには解答用紙どころか席もない……テストの続行は不可能に思えた。
「そうじゃのぅ……この有様ではリタイヤも同然、補修もいたしか……」
と、言いかけて、アキラは背後に気配を感じた……志方 綾乃だ。
(いた志方ない? いた志方ない?)
何かを期待した目でアキラを見つめている。
「いや、まだ手はあるな……解答用紙なら余りがあるはずじゃ、それでテストの続行は可能じゃろうて」
ちっ、と背後から舌打ちが聞こえたような気がしたが、気にしない。
「もっとも、そこまでして続ける価値がこのテストにあるかは疑問じゃがの……どうする?」
「続けさせてください、途中で放り出すのは好きではないので……」
あの手がまた通用するとは思えないが、やれるだけのことはやっておきたい。
「その意気やよし、では席はわしが用意しよう、待っておれ」
わざわざ机と椅子を持ってくるつもりなのか、アキラは教室の外へ出て行った、一人残されたザカコ。
「さて、どう攻めましょうか……」
回答は焼かれないようにとクロセルが氷漬けにしていた。
これで燃やされる心配はなくなったが、覗き見るにもその氷は厄介だ。
まだ勝機はあるのだろうか……周囲の状況を観察し隙を伺う。
「喧嘩はダメだよっ!」
「あン? 手前も俺様の邪魔するってのかよ!」
ゲドーを止めに入ったのはルカルカだった、今度はそのルカルカに噛み付くゲドー。
「テストの邪魔をしてるのはそっちじゃないか」
「これのどこがテストだっての!」
そう言って問題用紙をルカルカの方へばら撒く。
「う……それを言われると……」
確かにこんなテストは間違っているとは思うルカルカだけに、そこを指摘されると辛いものがあった。
「こっちはせっっかく勉強してきたのに、こんな問題じゃ〜どうしようもねぇじゃねぇかよ!」
「う……」
勉強してきたを強調され、返す言葉がない。
「なんだよ、なんとか言ってみろよぉ!」
言い返せなくなったルカルカを前に勝ち誇るゲドー、今度は問題用紙を丸め、ルカルカをペチペチ叩く。
「……でも……」
「ん? 聞こえないなぁ?」
大げさに片手を耳に当てて見せ、『聞こえな〜い』のジェスチャーをするゲドー。
もうルカルカは完全に屈したと思ったのか、隙だらけだった。
「文句なんて言えないよな? よし、じゃあ改めて……」
ゲドーが再び回答に狙いを付けた、その瞬間……
「……あ……れ……おかし……な……」
崩れ落ちるゲドー。
いったい自分の身に何が起こったのか、把握することも出来なかった。
「でも……この場を守る事がルカの仕事なんだ……ごめん……」
一瞬のうちに抜いた二刀を収めるルカルカ、その表情は暗い。
しかしそんな中、真面目に問題に挑んでいる生徒の姿がルカルカの視界によぎる……
「こんなテストでもがんばってる子がいるんだね……」
自分の仕事も無意味ではなさそうだ……その事がルカルカを勇気付けるのであった。
「これは……ボーナス問題すぎますっ!」
神代 明日香(かみしろ・あすか)は一人、鉛筆を走らせていた。
「問1、今朝見たばかりです」
エリザベートを誰よりも愛する明日香にとって、これらの問題はあまりにも簡単すぎた。
「問2、うーん、これは候補がふたつありますね〜……あ、そういえば昨日にんじん嫌いを克服してたから……ハッ……それが問5の答えね!」
他の人間にとって無茶な問題の数々をすらすらと解いていく。
「エリザベートちゃんは今朝身長を計った直後、嬉しそうにしていました……それはつまり、少し伸びたということですっ!」
これはとんだひっかけ問題でした……と誰も引っかかるまでに至れない問題に唸っていたりする。
「こんなにやりがいのあるテストは初めてですぅ」
解き進めるのが楽しくて志方ない、明日香にとってカンニングなど、もはや眼中になかった。
「このわたくしに解けない問題などありませんわ!」
解答をすらすらと書く者がここにも一人いた。
だが……
「問1、わたくしと同じに決まっています」
「問2、豚ですね、哀れな、とくれば豚に違いありません」
……ただのノートによる決め付けだった、もちろん正解にはかすりもしない。
「ふっ、自分の頭脳が恐ろしいですわ」
「ええ、本当に恐ろしいわ、馬鹿すぎて」
隣で望が頭を抱える。
やはりヴァカキリー……どこまでも馬鹿だった。
そんな両極端の二人だったが、その周囲ではまったく同じ現象が起きていた。
「おい、あの二人を見ろよ!」
「なんであんなにすらすら書けるんだ?!」
「きっと、何らかの方法でカンニングを成功させたに違いない!」
「ってことは、あの二人の答えを写せば……いける! いけるぞ!」
このテストでは、あらゆるカンニングが認められている。
カンニングをした人間からのカンニングも、手段の一つなのだ。
「溺れる者は藁をも掴む、ですか……とても正気とは思えないわね」
よりにもよって、こんな馬鹿の答案を覗こうとするなんて……
そんな望の内心とは裏腹に、周囲から視線が集まってくる。
「ふふふっ……やっとわたくしの時代が来ましたわ……」
皆が自分に注目している、正確にはその答案に……その事がわからないノートではなかった。
「そう……そんなに見たいのね……わたくしの英知を、垣間見たいのですわねっ!」
(嗚呼これこそ、わたくしが待ち焦がれた瞬間……)
ノートの鉛筆が止まった、解答欄が全て埋まったのだ。
「……できましたわ」
華麗に髪をかきあげる……このまま提出すればテストは終了するだろう。
だが、提出など後でいい、皆の期待に応えなければ。
「お待たせしましたわ、さぁ、皆様、御覧なさい!」
……ノートはその答案を高々と掲げた。
「……イオ」
「ああ、わかってるさ」
背後から耳打ちするアルゲオ・メルム(あるげお・めるむ)に振り返ることなく頷くイーオン・アルカヌム(いーおん・あるかぬむ)。
すらすらと解答欄を埋め続けるノートに群がる生徒達……もちろんその様子は教員側も注目していた。
こんなにわかりやすいターゲットはない。
「俺としてはもうちょっと頭を使ってほしかったけどな……予定変更だ、悪いが全員確保させてもらう」
「江利子先生にも、廻してあげられませんか?」
「あれだけいるんだ、一人くらい捕まるだろうさ」
と言いながら生徒達に向かって駆け出すイーオン……だが、その途中に江利子がいるのを見つける。
(まぁ、念には念を、か……)
「カンニング生徒の数が多い、江利子先生、手伝ってくれないか!」
「は、はい? きゃっ!」
江利子を掴んで生徒達の中へ……
これで手伝ってもらった、という事にして何人か江利子の手柄に出来るだろう。
「さぁ、どいつから捕まりたい?」
捕まえるべきカンニング生徒はよりどりみどり……のはずだった……
「お待たせしましたわ、さぁ、皆様、御覧なさい!」
……ノートはその答案を高々と掲げた、その直後……
「残念、全問不正解ですよ」
「へ? ふふ不正解?」
思わぬ声にノートが固まった。
「はい、全部間違ってます、でもまだ時間はあるわ、がんばって」
その声はイーオンのすぐ傍から聞こえた……江利子だった。
「な……なんてことを……」
予想外すぎる事態に愕然とするイーオン。
「はい? あ、教えちゃいけなかったかしら……」
きょとんとした顔でイーオンを見返す江利子。
自分がやったことの意味を理解していないようだ。
「なんだよ、間違ってるのか」
「あーあ、期待して損したぜ」
「ただの当てずっぽうか……まぁ、こんなの、わかるわけないよな」
あっという間にノートから離れていく生徒達……
ノートと同じと思ったのか、明日香の周りからも生徒達は離れていた……カンニングは未遂で終わったようだ。
「ぜ、全問不正解……このわたくしが……」
ノートはまだ固まっていた。
「そりゃそうでしょ……ヴァカキリーだし……」
ノートの答案は望の位置から余裕で見えていたが、もちろん望にそれを書き写す気はなかった。
(まぁ、ヒントにはなるかも知れないわね……この答えは除外できる、という……)
そう考えても、難易度はそう変わらなかった。
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