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リアクション
7
『涼司君、契約しようよー!』
カノンが叫びながら前に出る。
『ちぃっ! 強化人間部隊! カノンを守れ!』
トライブが舌打ちしながら指示を出す。
だがカノンの操縦技術の高さからくる突出力の強さがこのときは災いした。他の強化人間たちが援護できないほどにカノンは前に出すぎてしまったのである。
しかし朔のように寺院を強く憎む者以外はカノンに手出しをできなかった。そのため、戦闘単位的に空白地帯が存在することとなった。
『涼司君、契約しようよー!』
カノンはそう言いながら涼司に迫りビームマチェットを振るう。涼司はダブルビームサーベルでそれを受け止めると、
『カノン、帰ってこい!』
と叫ぶ。
『設楽さん! 涼司様を悩ませないでください!』
花音がそんなことを言うが
『あたしの涼司くんに近づくな、この淫売!』
カノンに拒絶されてしまう。
『涼司君、契約しようよー!』
『だからカノン、帰ってこい! なんだって鏖殺寺院なんかにいっちまったんだよ!』
『寺院? なにそれ? あたし知らないよ』
『……だめだ。話が通用しやがらねえ』
『山葉校長、歌いやがれ! コンマス、頼む!』
蒼也が叫ぶとS@MPの機体全部のホログラムが涼司のものへと変わる。
『カノン! この歌を聞け!』
和希が叫ぶ。ペルディータ・マイナ(ぺるでぃーた・まいな)がホログラムを遠隔操作する。
覚えてるか あの日の空
こんな空の下で
誰よりも大事なお前を
ずっと守ると俺は誓った
なぜ今俺は泣いてる?
どうしてお前はそこにいる
俺の隣ではなく……
時は流れても
変わらずに切なく胸はお前を求めている
待ってる
お前の帰りを
いつまでも信じて待ってる
待ってる
お前の帰りを
いつまでも信じて待ってる
待ってる
お前の帰りを
いつまでも信じて待ってる
待ってる
お前の帰りを
いつまでも信じて待ってる
『山葉の気持ち、受け止めてやれよ。恋愛じゃなくても大切な存在はある。カノンにも、ほかにも大事な人がいるんだろ?』
『うるさい! お前たちがいると頭痛がする!』
(知り合いでない俺が言っても効果は薄いか。レオや山葉に期待だな)
『思い出せカノン。お前にも大切にしたい思い出や仲間が居るはずだ!』
和希が叫ぶ。だが、やはり言葉は届かない。
思いを込めても、言葉は時に無力だ。
『【ブレイズ小隊】、可能なかぎり敵機の排除。カノンと山葉の交渉の場を作れ!』
ウィングが敵機を排除しながらいう。
『天御柱各機、斜線陣を敷け! S@MP、戦域支配は十分だ! 遊撃部隊として敵の側面を付くぞ!』
教導団のルースが戦術指揮を行う。
『こちら【フォローメロディ】了解! 狙撃準備……』
垂がスナイパーライフルで強化人間のイーグリットに狙いをつける。
「ターゲット確認。ファイア!」
それは戦場をまっすぐに通過し――イーグリットの頭部を破壊する。
「くっ! メインをやられた?」
イーグリットはサブカメラを使って山の中腹に着陸し、戦線から離脱する。
『みんな! カノンの説得はレオと山葉校長に任せて! 他人の私たちがいくら言葉を重ねたところで、彼女には届かないわ』
エリスがそう言いながらマジックカノンで次々と敵を狙撃していく。
しかしそれでも美羽は言葉が届くと信じて疑わない。【驚きの歌】でカノンの精神に驚愕を与え、『ちょっとしたことで精神が不安定になる』という弱点があるカノンの弱点を利用するものだった。
予想通りカノンのイーグリットは行動を停止する。
そこを狙ってカノン機のビームマチェットを持つ腕を切断する。
自分のイコンから飛び出して、バーストダッシュを使用。
カノン機に飛びついて、ハッチを怪力の籠手でこじ開け、「一緒に涼司の所に帰ろう」と言って、手を差しのべながら笑いかける。
「あ……美羽……?」
「そうだよ、カノン、一緒に行こう?」
『いけない! カノン様!』
アザゼルが手元の機械を操作する。
「あっ……ああああああああああああああああ。あたまが、頭がいたい!」
『カノン様、そいつは敵です。「涼司君」、を惑わす淫売です』
「うわあああああああ……あたしの涼司くんに近づくなこの淫売!」
カノンは護身用の拳銃を手に取ると、美羽に向けてそれを発射する。
「っ……」
美羽は肩に銃弾を受ける。だがそれを物ともせずに叫ぶ。
「痛いよ。でも、これがカノンの心の痛みなんだよね。だから我慢する。一緒に帰ろう、カノン」
しかし、美羽の健気な言葉も、二発目の銃弾によって否定される。
「美羽さん、これ以上は無茶です。イコンに戻ってください」
「だめかぁ……でもカノン、諦めないからね!」
美羽は再度バーストダッシュで自分のイコンへと戻る。パートナーのベアトリーチェだけでは、出力にも限界があった。
杵島 一哉(きしま・かずや)はパートナーのアリヤ・ユースト(ありや・ゆーすと)とともにコームラントを操縦し、遠距離からの援護を繰り返す。
機晶姫のアリヤはイコンとデータリンクし、自らの頭脳で情報を処理する。
「ミサイル発射設備確認。破壊します……!」
アリヤは精密な狙いで対空ミサイル発射設備を破壊する。
しかしその一方で教官たちの適切な戦術指揮で鏖殺寺院側は優位を保っている。撃墜される生徒も増えてきて戦況は悪化しつつあった。
『アザゼルさん、ミリオンが強化人間になって、中途半端に手術を受けて苦しむことになりました。カノンさんがどれだけ苦しんでいるか、オルフェにはきっと判らないでしょう。多分、おそらく、と予想することしかできません。ですが、カノンさんを助けたいという気持ちに嘘はありません。もしかしたらカノンさんは拒否するかもしれません。ですが、オルフェは仲間を、知り合いを、同じ学校の皆を、誰も置いて行きたくはないのです! だから、全力で行きます!カノンさんを、仲間を返して下さい!』
オルフェリア・クインレイナー(おるふぇりあ・くいんれいなー)が必死に強化人間に呼びかける。
『あなただって学院の仲間です。帰ってきてください!』
だが、アザゼルは……
『断る! カノン様は我らの女王! いかなるものにも渡しはしない。たとえそれがカノン様の想い人、山葉涼司でもだ!』
『それは困りましたね。貴方が否定しても我が神は貴方を仲間だと思ってますので、もどってきてくれませんかね? 今ならば裏切りの罪は教官たちだけに押し付けて、あなた方強化人間は保護の対象と出来るのですが……』
ミリオン・アインカノック(みりおん・あいんかのっく)がアザゼルに働きかける。
『それも断る。我々は教官のマリオネットではない。自分たちの意思で鏖殺寺院についたのだ』
『その割にはカノン様は洗脳などという方法で……それでいいのですか? あなた方は』
『そうせねばカノン様は山葉涼司のもとにいってしまう。仕方が無いのだ』
『今でも同じじゃないですか! 【リベレイト小隊】、【カムパネルラ】突貫します! 援護をお願いします』
オルフェリアは叫ぶと突出し、強化人間たちとの間合いを詰める。
『堕ちろおおお!』
『サンダルフォン!』
アザゼルが叫ぶ。【カムパネルラ】はサンダルフォンと呼ばれた強化人間の機体に近づくとビームサーベルで斬りつけ、返す刀でVの字型に抉る。
『飛燕返し!』
それは一撃で敵を葬り去る。だが、突出した結果のリスクは大きく、包囲網をしかれて集中攻撃を受け脱出を余儀なくされる。
それでも強化人間が落ちたことに対する敵の衝撃は小さくなく、ミレリアも一瞬動きを止める。
(いまです、御空)
白滝 奏音(しらたき・かのん)が射撃のタイミングを指示する。
迷彩塗装をして地上に降り、『伏兵』として備えていた天司 御空(あまつかさ・みそら)のコームラント【ホークアイ】が上空のミレリアへと向けて大形ビームキャノン+1を発射する。
両腕に装備されているものを連射。
それは緊急回避行動をとったミレリアのシュヴァルツ・フリーゲを直撃し、ミレリアとリリアは脱出する。
『ミレリア!』
鮮血副隊長もこの伏兵は予想外だった。
『全機、一斉射撃。目標地上!』
すでに【ホークアイ】の居場所は判明している。頭上から銃弾の雨が降り注ぐ。
大義名分を持って設楽カノンを撃墜出来るチャンス。であれば喜び勇んで撃墜しに行きたいのが本音だったが、奏音は彼女を倒すのは自分の優位性を証明してからでないと嫌だった。そのために御空の言葉に従ってミレリアを撃墜できるチャンスを狙っていたのだが、その代償はやはり大きすぎた。
集中砲撃を浴び【ホークアイ】は機体の各所から白煙をあげる。
(御空、ダメージ許容量限界です)
「仕方がない、脱出する!」
御空と奏音はコクピットを開いて脱出する。直後【ホークアイ】は爆発を起こした。
一方で設楽カノンの説得も続く。
『カノン、帰っておいで! 僕はここにいる!』
レオが叫ぶ。
『だまれ! 頭がいたい! 近寄るな!』
『カノン! 帰ってこい!』
涼司も叫ぶ。
だが
『お前はあたしの涼司くんじゃない!』
カノンの洗脳は悪化しているようだった。
「【リベレイト1】、絶対に譲るな。俺には設楽さんとの面識がない。そんな俺が何をいったところで無駄だ。でも、レオくんなら、山葉校長なら、設楽さんを説得できると思う。俺達は障害を排除する。行くぞ、【アペイリアー】!!!」
無限 大吾(むげん・だいご)がアサルトライフルを発射しながらシールドで敵の攻撃を防ぎ、レオをかばう。
ショートの黒髪、黒い瞳、優しそうな熱血漢が、その熱血ぶりを存分に発揮しながらイーグリットアサルトを操縦する。
パートナーの西表 アリカ(いりおもて・ありか)はショートの茶髪に金色の瞳、無邪気な子どもっぽい少女だ。サブパイロットとして大吾の操縦をサポートする。
『誰も悲しむところを見たくない! レオさん、校長! 頑張って!』
アリカが叫ぶ。
「そうだ! 俺たちが時間を稼ぐ。カノンを頼む! 道は俺達が守る! カノンを味方にするか撤退させるか、とりあえずそれだけ出来れば強化人間部隊も敵ではなくなるはずだ」
「あとカノンに一言伝言いい? こんだけ迷惑かけたんだから後でご飯でもおごりなさいっていっといて」
榊 孝明(さかき・たかあき)と益田 椿(ますだ・つばき)が交互に言う。
孝明は【リベレイト小隊】の仲間と連携をとりながらシュメッターリングを破壊し、取り巻きがいなくなった強化人間の武装を破壊し無力化していく。
(甘いと誹られるかも知れないが、昔の仲間だ……出来れば殺したくない)
『引け! 撤退するなら殺しはしない!』
孝明の言葉に、アザゼルが嘲笑う。
『ふん。そんな甘い考えでは戦場では生き残れんぞ!』
しかし孝明は連携を意識しながら突出せずに戦っているため隙がない。なかなか攻撃を受けることはなかった。逆に言えば突出するパイロットは次々と撃墜されていた。
S@MPの赤城 花音のパートナーリュート・アコーディア(りゅーと・あこーでぃあ)も連携を意識しながらイコンの操縦を行っていた。マジックカノンの出力を絞り速射性をあげることによって敵に隙を作り敵機を寄せ付けない。接近した場合スピアで色々と試したいなどとも考えていたが、リュートの戦術は妥当で敵機を寄せ付けるような危うさは一切なかった。
イスカ・アレクサンドロス(いすか・あれくさんどろす)は空母から偵察衛星と通信衛星を利用したオペレーター作業をしていた。
そして、レオがとった一つの行動。それがこの作戦のターニングポイントだった。
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