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リアクション
独自に調査をしていた本郷翔(ほんごう・かける)は、犯人がまだツァンダ市内に潜んでいることを突き止めた。
『ボクにチョコレートを渡してくれたら騒ぎを止める』という偽の犯行声明文を流した結果だ。
翔はやけに気合いの入ったソール・アンヴィル(そーる・あんう゛ぃる)と共に、犯人の通りそうな逃走経路を捜索し始めた。
一方のシャムシエル・サビク(しゃむしえる・さびく)は、マッシュから追われているという連絡を受けて逃走中だった。
先ほどから妙に視線を感じるし、そろそろ潮時の様子だ。
しかし、シャムシエルの行く手を塞いだのは怪しい二人組だった。
「やっと見つけた。提案があるんだが、聞いてはもらえないか?」
橘恭司(たちばな・きょうじ)と閃崎静麻(せんざき・しずま)だ。
「提案?」
と、首を傾げるシャムシエル。
「俺たちがその呪いのチョコを配るから、そっちにはその後の状況を楽しんでもらおうっていうことさ」
取引だった。
シャムシエルは考えた。確かに自分一人でチョコを仕掛けるのは大変だし、仕掛けるにしても下調べが必要になるから効率が悪い。自分が何もやらないでいいのなら、そっちの方が良いに決まっている。
しかし、手元に残ったチョコレートは数えるほどしかなかった。元々、そんなに多く用意してはいなかったのだ。
「悪いけど、その手には乗らないよ」
と、シャムシエルは恭司たちの横を通り過ぎていく。
そして走り出したところで、前方に別の二人組が現れた。
「キミが犯人だったのか。せっかくのかわいこちゃんが、そんな悪戯で心を汚して台無しだぜ」
ソールと翔だった。
4.しっぽをつかむ
「現在、目撃情報を元に向かってます!」
と、火村加夜(ひむら・かや)は携帯電話を片手に走っていた。すぐ近くで犯人と思しき人物の目撃情報を得たのだ。
「はい、応援お願いします」
ぷちっと通話を切ってそちらへ向かう。
好きな人の名を騙って呪いにかけるなんて許せなかった。加夜の場合もまた、喜びのあまり疑うことなくチョコを食べてしまうだろうから。
そして角を曲がった時、加夜はシャムシエルの姿を視界にとらえた。
「見つけましたっ!」
普段より愛用している銃を構える加夜。しかし、よく見ると様子がおかしかった。
「女の子をチョコにしちゃうなんて許せないな。女の子っていうのは、生身で食べるものだぜ」
と、シャムシエルの顎を取るソール。何故かシャムシエルは口説かれていた。
「そういうわけで、俺と高みの世界に行こうぜ?」
「っ!?」
戸惑っていたシャムシエルがソールを突き飛ばし、はっと後ろを振り向く。
加夜もはっとして銃の引き金を引いた。銃口から放たれるは『氷術』で固めた特製のバレンタインチョコだ。
「バレンタインのチョコです! 素直に受け取って下さい!」
シャムシエルの口めがけて飛んでいくチョコレート。当たる寸前で避けたシャムシエルは、その勢いのまま再び逃走を開始した。
「あっ、待って下さい!」
すぐに加夜も後を追うが、一発目のチョコレートはソールを直撃していた。構わずにシャムシエルを追いかけていく加夜。
地面へうずくまったソールに翔が呟く。
「せっかく捕まえるチャンスだったのに、あなたって人は……」
一連の出来事を見ていた恭司と静麻は、顔を見合わせて溜め息をついた。作戦は失敗だ。
「ボクは……うん、女の子だからOKですよね!」
と、真口悠希(まぐち・ゆき)は勝手に納得すると、近くにあったチョコレートを取り上げた。
パッフェルを見守る者以外は、みんなセイニィと共にシャムシエルを探しに行ってしまっていた。
「それにしても、相変わらず見事なぺったんこ体型なのです……」
良く言えば、とても盛りがいのある胸である。
チョコレートを盛ろうとして、悠希は手を止めた。あられもない姿のロザリンド、その表面に直接チョコを盛るにしても……やはり、抵抗がある。
悠希はロザリンドに鎧を着せると、その上からチョコを盛り始めた。
「かわいそうなので、鎧の上から胸を増量してあげますね」
と、声をかける悠希。この状態で呪いを解除しても、ロザリンドの胸に変化は期待できなかった。
匿名某(とくな・なにがし)は地図へ目を向けると、シャムシエルの目撃情報があった地点へ印を書き込んだ。それ以前に目撃された場所にも印が付けられており、某は『テクノコンピューター』を使用して移動時間や距離からシャムシエルの逃走速度を割り出そうとする。
一見、冷静に見える某だが、実際は怒りで頭がおかしくなりそうだった。彼のパートナーであり恋人でもある結崎綾耶(ゆうざき・あや)がチョコ化していたからだ。
他の被害者同様、綾耶も色っぽいポーズで固まっていた。某はそれを見つけると慌てて冷房を入れ、すぐさま犯人の捜索に加わったのだった。
「新しい目撃情報であります! シャムシエル様が猫耳の少年と合流したそうです!」
と、某と同じように『テクノコンピューター』を操作するスカサハ・オイフェウス(すかさは・おいふぇうす)。
「やはりマッシュもいたか」
と、予想が当たって苦い顔をする鬼崎朔(きざき・さく)。こんなことをするのはあの二人くらいだと思っていたが、今回は重いお仕置きが必要なようだ。
ともかく、二人が合流したということは、こちらの動きに気がついている可能性もあり得るだろう。だが、こちらには大勢の協力者がいる。逃がしはしない!
「全員にメール送信、完了しましたっ」
と、スカサハが顔を上げると、某が叫んだ。
「逃走ルートの予測、出来あがったぜ!」
「シャムぅ、これからどうするのさー?」
建物の影に身を潜め、マッシュはシャムシエルへ尋ねた。
「まずは追っ手をまかないと」
と、周囲に気を配るシャムシエル。二人が今隠れているのは、某が導き出した逃走ルートの上だった。
そうとも知らずに身を寄せ合うシャムシエルとマッシュ。
影野陽太(かげの・ようた)は走り出した。出現が予想されているところまではそう遠くない。
呪いでチョコ化してしまった人たちのためにも、愛する恋人のためにも、シャムシエルの持っているであろうエリクシルがどうしても欲しかった。
「ん、あれ……何でパッフェルが!?」
通り過ぎた人影に驚き、思わずシャムシエルは道へ出てしまった。
その直後、どこからともなく『爆炎波』が放たれる。
間一髪避けたシャムシエルはその反対方向へ逃げだした。
「待ってよ、シャム!」
と、マッシュも飛び出して後を追うが、その先には罠が仕掛けられていた。
「大人しく捕まりやがれ!」
鴉が『トラッパー』で仕掛けた網を放出し、動きを封じられてしまうシャムシエル。
はっと足を止めたマッシュは、殺気を感じて振り返った。
「抵抗したって無駄です!」
と、陽太が『ショットガン(ゴム弾)』を放つ。びくっとしたシャムシエルだが、すぐに網から抜け出して再び逃走を開始する。
すると今度は、前方から唐突に『轟雷閃』が撃たれた。ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)による『雷術』と、レオンの『サンダーブラスト』も入り交じって、とてつもない雷がシャムシエルを直撃した。
「シャムシエル、やっぱりアンタは許せない!」
と、叫びながら小鳥遊美羽(たかなし・みわ)がハイキックを繰り出す。シャムシエルは影に身を潜めていたマッシュに腕を引かれて回避したものの、すっかり隙だらけになっていた。
だだっと細い裏道へ入るシャムシエルとマッシュ。
「パパの仇です!」
と、ソフィアが『ファイアストーム』を放つも、避けられてしまった。炎の嵐は周囲を巻き込んで消え去る。
混乱する街中をひたすら走る二人に、二度目の雷が直撃した。今度はイーオンによる攻撃だ。
「ぎゃああ!」
シャムシエルのポケットからエリクシルの瓶がこぼれ出た。後を追っていた美羽とベアトリーチェがとっさに瓶へ手を伸ばし、エリクシル奪取に成功する。
「シャム、エリクシルがっ!」
マッシュに言われて初めてエリクシルを失ったことに気づくシャムシエル、立ち止まって後ろを振り返った。
「これで呪いは解除できるんでしょ?」
と、美羽。
「っ……そうだよ。あとは大切な人からのキスで呪いは解ける。これでいいでしょ、もう逃がしてよ」
無駄だった。
「そんなことで許しはしません!」
冬山小夜子(ふゆやま・さよこ)が『焔のフラワシ』で炎を出してきたのだ。
「うわっ」
慌てて逃げ出すシャムシエルとマッシュだが、そこには『しびれ粉』が撒かれてあった。
「え、うそ……!?」
「し、しびれるぅ……!」
動きが鈍くなった二人の元に、『粘体のフラワシ』を手にした小夜子が詰め寄る。
「覚悟しなさい、シャムシエル!」
こんなところで捕まるわけにはいかない。何が何でも逃げようと、マッシュが再び影へ隠れた時だった。
「逃がしはしないぞ」
「ぎゃっ!」
マッシュのしっぽを朔がぎゅっと掴んで止めさせた。完全に逃げ場を失った瞬間だった。
一部始終を眺めていたシリウスはにやっと笑う。隣にいるのはパッフェルの格好をしたサビクだった。シャムシエルは、シリウスの罠にまんまと引っかかってくれたのだ。
「良くやったな、サビク」
「ボクは何もしてないけどね」
そして抵抗をやめた二人の元に、一同が続々と集まってくる。
「覚悟は出来ているだろうな?」
と、某は言うと、シャムシエルの尻を思い切り叩き始めた。
「痛いっ! 痛いよ、やめてぇ!」
「やめるものか! 綾耶の痛み、思い知れっ!」
某は気が済むまでシャムシエルにお仕置きすると、今度はマッシュへ目を向けた。一気に顔が青ざめるマッシュ。
「お前もだっ」
ばしっと尻を叩かれてマッシュは叫んだ。
「ぎゃあ、痛いぃ!」
一同がその様子に目を奪われている間に、シャムシエルは隙を見つけて逃げ出した。マッシュには悪いが、お仕置きはもう沢山だ!
「あ、シャムシエル様がいません! スカサハからのチョコをまだお渡ししていませんのに!」
と、スカサハは手にした『テロルチョコ』を見つめる。
涙目になるマッシュと、溜め息や怒りにざわめく朔たち。
「仕方ない、お前だけでも連れて帰るぞ」
と、朔はまたマッシュのしっぽを掴むのだった。
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