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またたび花粉症

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またたび花粉症

リアクション

 ヤジロアイリ(やじろ・あいり)は公園で笑っていた。
「ヤジロ、大丈夫ですか?」
 と、彼女を気遣うネイジャス・ジャスティー(ねいじゃす・じゃすてぃー)
「あはは、だいじょーぶだいじょーぶ。っつか、ネイジャスもふらふらだぜぇ?」
「え、揺れてるのは地面ではなく私!?」
 指摘されて初めて、自分が酔っていることを自覚するネイジャス。
「は、早く避難しないと……」
「あ! セスとバンだ!」
 アイリが指さした方向から、はぐれた仲間たちがやって来るのが見えた。
「アイリ、見つけましたよー」
 と、遠くから声をかけるセス・テヴァン(せす・てう゛ぁん)
「どこいってたんだよー、ネイジャスもここにいるぜー」
 近くへ寄ったセスだが、その様子がおかしいことに気づいて言う。
「何が起きたか判りませんが、酔ってますね」
「すっかり酔っぱらっちゃってるね」
 と、バン・セテス(ばん・せてす)も頷く。
「なんかさ、きゅーにたのしくてなってわらいがとまらないんだぜ。って、あれ? セスがぼやけてみえるな!! なんでだ?」
 ずいっとセスに顔を近づけるアイリ。セスは動じることなく言った。
「見えないのは眼鏡が無いからです」
「そっかー、めがねがないんだー! きづかんかったー!! まじなんにもみえねーな! あはは!」
 と、笑い転げるアイリ。酔った勢いでどこかに眼鏡を落としてしまったらしい。
「でもまあ、セスがいるからだいじょうぶだよな! おまえがいると、おれ、あんしんするんだ」
「あ、安心ですか……!?」
 思いがけない言葉を聞いて、セスは目を丸くした。
「けーやくしたときにもやくそくしたけど、これからもずーっといっしょにいてほしいんだ!!」
「あ、はい、これからもずーっと一緒です、あの約束は絶対です!!」
「いてくれる? おれうれしいよ!! あははははは!! あー、わらってたらなんかねむくなってきたぜぇ……」
 くたっと両目を閉じて寝息を立て始めるアイリ。
 セスは彼女からの告白にドキドキしながらも、にこっと微笑んだ。そしてアイリをそっと抱き上げる。
「ネイジャスちゃんは大丈夫?」
 と、バンはもう一人の酔っぱらいへ声をかけた。
「あ、私は大丈夫です。一人で帰れます」
 そう返答するネイジャスだったが、歩き出した途端に転びそうになった。
「待ってよ、ふらふらじゃん」
 と、バンに抱き留められてはっとするネイジャス。
「いえ、しっかりしてます! しっかりしてますから平気……」
「もー、しっかりしてないったらしてないの! こんな時は頼ってほしいのに……」
 ぼやくバン。すると、ネイジャスがふらりとバンの方にもたれかかってきた。
「……セテス、助けて下さい」
「ほら、やっぱり動けないじゃん」
 と、バンは彼女をひょいっとお姫様だっこした。
「ってちょっと待てー、何で抱き抱えるんですかー! 降ろせ、恥ずかしい!」
「え、恥ずかしい? じゃ、俺の予備の仮面を貸してあげる。これ付ければ周りの目も気にならないよ」
 と、にっこり笑うバン。
「仮面で隠せば恥ずかしくないって、嫌なものは嫌です」
「ってか、この体勢じゃないと運べないから帰れないよ?」
「は? こうじゃないと帰れないだと? ……し、仕方ないですね」
 と、渡された仮面を装着するネイジャス。
「まあ、その……、送ってくれる事には感謝してますからねっ」
 ぼそっと呟くように言ったネイジャスだが、バンにはきちんと届いていた。

 酔っぱらいが急増する中、白砂司(しらすな・つかさ)は空大の研究室を借りて薬を作っていた。
「萌えパーツだとか、可愛らしいだとかってだけでネコ耳尻尾だけ付けてるネコモドキがわらわらしてますけど、ありゃ私からすりゃ手落ちですよ!」
 外から聞こえてくるのは彼のパートナーで猫の獣人、サクラコ・カーディ(さくらこ・かーでぃ)の声。
「ネコといえばこのさわり心地極上の毛皮!」
 彼女は噂のまたたび花粉にやられて酔っていた。
「肉食獣としての誇りを凝縮した美しい肢体!」
 猫であることを主張するサクラコの声は、気のせいか、徐々に大きくなっていく。
 彼女を大人しくさせるためにも、司は大急ぎで作業を進めていた。目指すは酔っぱらい症状の抑制剤である。
「そして精神を備えてこそ!!」
 と、叫ぶサクラコ。
「つまり、ネコの獣人こそが正しいネコの美しさを受け継いだ人物なのです! 要するに!」
 司は手を止めると、息をついた。薬が完成したのだ。
「私こそがプリンセス・オブ・ネコにしてクイーン・オブ・ネコ! ネコ・オブ・ネコなのですよっ!」
 わけの分からないことを叫んでいるサクラコの元へ、出来上がったばかりの薬を持っていく。
「おい、サクラコ!」
「何ですか、司君」
 ぱっと顔を向けるサクラコへ、司は手にした液体を差し出した。
「これを飲んで欲しい」
「わ、ちょうど喉が渇いたところでしたっ」
 怪しむことなく、その液体をぐびっと飲み干すサクラコ。症状を抑えることが出来ればいいのだが……。
「ありがとうございました。というわけで、私こそがネコの中のネコ!」
 効かなかった。急ごしらえで作った薬だけに、思うように効果が出ないのは仕方ない。
「……しょうがない、か」
 司はサクラコが酔い疲れて眠るのを待つことにした。
 ――薬の副作用で大変なことになるかも分からないし、それまで見守っていよう。

「ふにゃあ、力が入らないよぅ……どうしちゃったんだろ、俺?」
 と、首を傾げるマッシュ・ザ・ペトリファイアー(まっしゅ・ざぺとりふぁいあー)
 吹いてくる風は温く、不思議と気分が高揚してくる。……この気持ちは、そう。
「何か、誰かに甘えたいなぁ」
 いつものように悪いことをする気力どころか、危険な思考すら綺麗さっぱり失くしていた。
 ふらふらと甘えられる誰かを探して歩き出すマッシュ。
「にゃうー、あそこの人に絡んじゃおうかなぁ?」
 目を付けたのは、自分と同じようにふらふらしている嘉神春(かこう・はる)だった。
「にゃははははー何かよくわかんないけどたのしー」
 と、笑い続けている春。
「みんなぎゅーしてあげるー! ぎゅー!」
 ふとマッシュの視線に気づいた様子を見せた春は、互いに歩み寄っていった。
 そしてぎゅっと抱きつく二人。
「ぎゅー」
「にゃあ、しっぽは触っちゃらめぇ」
 きゃっきゃっといちゃつく愛らしい少年二人。背丈も同じくらいなので、どこか微笑ましい光景に映る。
「春! こんなところで何をしてっ」
 と、止めに入った神宮司浚(じんぐうじ・ざら)が二人を引き離す。
「やー、みんなにぎゅーするのー」
 そう言いながらも、春は浚に抱きついた。
 その一方で神和住瞬(かみわずみ・またたき)がマッシュを見下ろす。
「うふふ、可愛い子発見」
「ふにゃ?」
「君、お名前は?」
 問われて人懐こく答えを返すマッシュ。
「俺はマッシュだよぉ」
「マッシュ君ね、可愛いなぁ。食べちゃいたい」
「にゃあ、食べられるのは嫌だけど、甘えさせてくれるならぁ……」
 ぎゅっと瞬に抱きつくマッシュ。
「まったく、春は俺だけ見てればいいのに。他の人のところに行かなくても、俺が好きなだけ甘えさせてあげるよ?」
 と、浚が春を抱き上げようとすると、するりかわされてしまった。
「瞬しゃん、だっこしてー」
「おっと、両手に花状態だねぇ」
 にやにやと春を抱き上げつつ、マッシュも抱きしめる瞬。
 行き場のなくなった浚を見て、瞬は言う。
「ざらりんは甘いねぇ。そんなんじゃ何時まで経っても保護者よぉ?」
「……大きなお世話だ、クソ羊」
 そして春は瞬から解放された途端、再びどこかへと歩き出す。
「あ、春!」
「にゃはははー、もっとみんなとぎゅーするのだー」