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古来の訓練の遺跡

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古来の訓練の遺跡

リアクション

 如月 正悟(きさらぎ・しょうご)と影の正悟との戦いは、手持ちの武器で接近戦となる。
 全く同じような攻撃展開に、容易にダメージは与えられず、また受けることもない。延々と近接攻撃が繰り返されていた。
『ここらでわざと隙を作って誘い込んでみるか』と思うと、影の正悟も似たような行動をとる。
「当たり前か、あっちも俺なんだから……」
 今更ながらに、自分の影へに対する予測の甘さが思い知らされた。
 しかし均衡はスキルの一撃で、あっけなく消え去った。
 互いに疲労が見えてきたところで、温存していたサイドワインダーを放つ。影も撃ってくると覚悟していたが反撃はなかった。
「もしかして……」
 サイドワインダーを連発すると、避けそこねた一発が影正悟の急所を貫いた。途端に消える影。
「なんとか勝ったか……」
 安堵のため息をついたが、ふと戦う前のことを思い出す。
「しまった! 怪我をして美緒さんに心配される計画がぁ!」 

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「私って、こんなに目つきが悪かったのでしょうか」
 影の朔を目の前にして、鬼崎 朔(きざき・さく)は不安になる。
 元々、容姿にはあまり自信がない。しかし刺青のある顔で真正面から睨まれると、鏡を見る以上に『こんなものだったか』と思ってしまう。
 そこで部屋のferoceを思い出す。
「そうか! feroceの荒々しくは、この意味だったのか」
 元からあった凶暴な面が強く現れるのだと考えた朔は、いくらか心の平静を取り戻す。その反面、影への強烈な強さを警戒する。
「影は私と同程度、もしくはそれ以上の強さを有しているかもしれない。……確かに、今の私はあの頃の私ほどの復讐への執念が薄れているかもしれない。幸せに溺れきっているのかもしれない」
 三日月と蝶のイヤリングに触れる。愛する紗月、たくさんの友達、そして雪だるま王国の面々が思い浮かぶ。
「……だが、私は決して弱くなったわけではない。復讐の代わりに護りたいモノがたくさん出来た!……その想いは私を強くしてくれる!」
 朔が走り出すと同時に、影の朔も走り出す。巴の方向にいくらか回転したところで、中心に向かって突撃した。
 体捌きは全くの互角だったが、則天去私ライトブリンガーで、一気に決着する。
「どうして……?」
 疑問は消えなかったが、とっさに消え行く影を抱きしめる。
『闇も私の一部だろう。それを見捨てたりはしない。清濁併せ持っての私なのだから』
 気のせいか、影の表情がいくらか安らいだように見えた。

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「ねぇ、見て見て! あそこにミス空京がいるよ!」
 葉月 可憐(はづき・かれん)の言葉にアリス・テスタイン(ありす・てすたいん)は、視線を向けるがそれらしい人物は見当たらない。
「えー、どこにー、私と可憐の影がいるだけだよねぇ」
 きょろきょろ見回すが、ようやくその意味に気付く。
「あーそっかぁ、ありがとう、私ってそんなに美人だったかなぁ。テレちゃうよー」
「違います!」
 自分の影をほっといて他人にちょっかいだそう作戦が失敗していただけに、軽い冗談を完全に外され、可憐の機嫌が更に悪くなる。
『でも自分を相手にするのは、やっぱり気が引けます』
 これはアリスも同じだったが、そんな気持ちはお構いなしに影の2人は飛び掛ってくる。
「と、と、とりあえず、こうだ!」
 しびれ粉を撒くと、逃げ回りながらトラッパーでトラバサミ(刃のない足止め用)や足引っ掛けなどの罠を仕掛けまくる。と、あっさり引っかかる。

 アリスは眠りこける影アリスの前に座ると、ほっぺたを突っついたり、鼻を引っ張ったりしている。
「もしかしてぇ、みつ編みが似合うかも」と、いそいそと編みこみを始める。
 アリス同士の戦いは、もっとあっけないものだった。アリスがスキルヒプノシスを使うと、影アリスはその場で眠りについた。アリスは戦いを忘れて自分の影に夢中になる。
「うーん、もうちょっとダイエットした方が良いですかねぇ、でも可憐のお料理って美味しいんですよね」と、脇腹をつまむ。
「眉の形を変えてみましょうかぁ」と、毛抜きとかみそりで勝手にピンピンジョリジョリ。
「アリス、何してるんですの?」
 そこに可憐が登場。しっかり縛った影可憐を連れている。
「そ、そんな趣味が可憐にあったなんて、私ぜーんぜん知らなかったぁ」
「違います! ところでそれは何なんですの?」
「これね。ヒプノシスを使ったら寝ちゃったの」
 結局、影可憐も同じように眠らせた。
「ホント、そっくりです」
「どうするのぉ」
「可哀想ですが、倒すことになるのでしょう」
「えー、私、やだよー」
「私だって嫌ですわ。でもこのままじゃ訓練が終わりません」
 互いに押し付けあった後、ジャンケンで負けたアリスが鬼払いの弓で止めをさすことに決まる。
「ごめんねぇ」
 なるべく見ないように距離をとって、ゆっくり矢を放った。

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「千百合ちゃん、違う、あれ、私じゃないですぅ」
「そう? そっくりよね」
「違うよぉ」
 如月 日奈々(きさらぎ・ひなな)は、パートナーの冬蔦 千百合(ふゆつた・ちゆり)の言葉を、強く否定する。
「千百合ちゃんはそっくりだけど、私は違うよ。あんなに胸が小さくないもん」
「いや……」あんなものだよ、と言いかけて、千百合は口をつぐむ。
「そ、そうかもね。ふるーい遺跡なだけに、完全に表現しきれてないんじゃないかな。それともferoceだから、変になっちゃうのかも」
 なんとか日奈々を守ろうと懸命だった。それは奏功したようだ。
「だよね。千百合ちゃんや傘ねぇはそっくりなのに、私だけなんてずるいよねぇ」
 空飛ぶ魔法で飛び上がるとシューティングスター☆彡で攻撃する。影日奈々はたちまち消え去った。
「あれ? そんなものなの?」
 千百合のライトブリンガーに、影千百合は成す術もなかった。
 瞬く間に終わってしまった訓練に物足りなさを感じる。そこに2人の名前を呼ぶ声があった。

 赤羽 傘(あかばね・さん)と影の傘の戦いは、ある意味では、この部屋の、いや遺跡全体の中で、最高に熾烈を極めたと表現しても良かった。
 スキル隠れ身で身を潜めて、影に攻撃しようとした傘は、影が麻雀牌を持っているのに気付く。そこでスキルを解いて、堂々と姿を現した。
「空京の鬼雀が2人、雌雄を決する時がきたようじゃのう」
 影の傘もうなずいた。
 日奈々と千百合をメンツに加えた東風の短期決戦。互いに和了りもなければ、和了らせることもない。東4局を終えて同点で終了。
 自動的に出親となった赤羽傘の勝ちとなる。精神にダメージを負った影の傘は、姿を消した。
「あたいがサイを振ったときに勝負は決まってたってことか。あんたが振ってたら、あんたの勝ちだったかもしれんのう」 
 遠い目をする赤羽傘を、日奈々と千百合が尊敬の眼差しで見つめた。

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 リュース・ティアーレ(りゅーす・てぃあーれ)と影とのは、相打ちで始まった。
 自分の性格から不意打ちは予想していた。だからこそ警戒しようと思った瞬間の攻撃だった。同時に反撃できたのは『自分を越える戦いがしてみたい』と考える向上心ゆえだったかもしれない。
 現れた影は、まさに自分そっくりだった。
「瓜二つ、の言葉がありますが、ここまで同じだと気味が悪いですね」
 バーストダッシュで間合いを取るものの、影は動かない。
 そんな自分もいたかとイナンナの加護禁猟区で警戒レベルを上げても、影は一向に行動しようとしなかった。
「もしや……」
 リュースが普通に撃ち込むと、影も応じてくる。しかしスキルには追随する様子がなかった。
「それが限界と言うわけですか」
 リュースは全ての警戒を解除すると、影の近づくままにさせる。もちろん影のリュースは遠慮なく攻撃を加える。
 まるで自分ならそうするであろう動きを、影のリュースは再現していた。
「なるほど、オレはそんな風に動くのか。さすがに容赦ない……荒々しいご歓迎ですね」
 やがてゆっくりと構えを取る。バーストダッシュで背後を取ると、振り返った影に鳳凰の拳を打ち込んだ。
「自己を客観的に見られて助かった。深く感謝する」
 消え行く影に静かに花を手向けた。

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 全員が戻った時には、普通の明かりの点った部屋になっていた。一通り部屋を調べるものの、これと言った発見はなかった。
 唯一、天井付近のおかしなところに空気穴が開いていたものの、それについては報告をするに止めた。