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貴女に贈る白き花 ~日常と戦いと~

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貴女に贈る白き花 ~日常と戦いと~
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第8章「狩る守護者、狩られる略奪者」
 
 
 街道で戦いを繰り広げている者達。その中心となっている御凪 真人(みなぎ・まこと)の所に、ペガサスに乗ったイルマ・レスト(いるま・れすと)が降りてきた。
「真人さん、相手の増援が現れましたわ。規模も神殿に向かわれた方々からの報告と同じです」
「ようやく来ましたか。では第二段階に移行しましょう。セルファ、グリムさん、アトゥさん、お願いしますよ」
「これで手加減は終わりって訳ね。さぁ、ここからは本気で行くわよ!」
「そうね、私達の前に立ちはだかった事、後悔させてあげるわ!」
「若い子は元気だねぇ。さて、おばさんも頑張ろうかね」
 真人からの呼びかけを受けてセルファ・オルドリン(せるふぁ・おるどりん)グリムゲーテ・ブラックワンス(ぐりむげーて・ぶらっくわんす)が元気良く、アトゥ・ブランノワール(あとぅ・ぶらんのわーる)が飄々とした感じで答える。ちなみに若い子と言っているが、見た目としてはセルファ達よりもむしろアトゥの方が幼い。
「まずは突破するわ、皆ついて来て!」
「さぁ行くわよ……突撃!」
 セルファとグリムゲーテが武器を構え、新たに展開した敵の後方目掛けて突進する。それに気付いた数人の盗賊達が襲い掛かって来るが、二人と後方に控えるアトゥが素早く蹴散らして行った。
「力の見極めは重要だよ。特に、勢いのついている相手にはね」
 アトゥは夫婦手と呼ばれる攻防一体の構えで相手の予測を外す攻撃を行う。そうして三人が道を作った所に後続が続き、盗賊達がやって来た道を塞いだ。更に上空から朝倉 千歳(あさくら・ちとせ)とイルマが回り込み、脇道にも逃げられないようにする。
「これで退路は全て断ったか。花を狙うとは良く分からない盗賊達だが……無法者を野放しにしておく訳にはいかない。ここで全て捕らえてしまおう」
「再び出て来た事を考慮すると、恐らく無差別に狙っているのでしょう。花が奪われたのは偶然だと思いますわ。それはともかく、私達は皆様の支援と参りましょう」
 主力も含め、三方から盗賊達を取り囲む。そこに至って、盗賊達はようやく相手の思惑を悟った。
「なんだ、聞いてた状況と違うじゃねぇか……まさか、こいつらの罠か!?」
「くそっ、戻るぞ! せっかく分捕った奴を取り返される訳にゃいかねぇ!」
「……残念ですけど、それは出来ませんよ」
 退路を塞いだ者達の最終ラインを護る真人がこれまで使用を抑えていたサンダーブラストで進路を邪魔する。それを始まりの合図とし、セルファとグリムゲーテ、そして茅野瀬 朱里(ちのせ・あかり)が敵陣へと切り込んでいった。
 
「雷は真人だけじゃないのよ。これで痺れなさい!」
 セルファの雷を伴った連撃が二人の盗賊を次々と薙ぎ倒す。その前方ではグリムゲーテと朱里が揃って剣を振り回していた。
「大助がいなくたって、この黒印の前に敵はいないわ! 朱里さん、あそこを切り崩すわよ!」
「任せて! ホームパーティーの邪魔をした盗賊達はとにかくぶっ飛ばす!」
 その勢いはさながら小型台風一号二号。そんな二人を見ながら、一歩引いたラインを護っている白麻 戌子(しろま・いぬこ)は小さくため息をついていた。
「やれやれ……相変わらずなのだよ、あのお嬢様は。大助はよくコレを制御できるものだね〜」
「エネルギッシュな若人達で結構じゃないか。ああいう元気さは大切な物だよ」
 戌子と同じく中衛として立つアトゥが静かに微笑む。そして接近してくる盗賊に視線を向けると、再び構えをとった。
「もっとも、こういう元気さは頂けないけどね。こっちにはちょっとキツめのお灸が必要かな」
 あっさりと敵を吹き飛ばす。追加で戌子が銃で周囲の盗賊達を次々と狙っていった。
「ここを通ろうと思っても無駄なのだよ。ボク達が立つ以上、キミ達の目的を果たす事は不可能だと思いたまえ〜」
「……まぁ、立ち止まった所でお仕置きは免れないのだけどね」
 銃撃に怯み、隙が出来た相手目掛けてアトゥが素早く駆け寄る。そしてダッシュの勢いに右手にのみ更に速度を上げる効果を加えた掌打『真穿(まがつ)』を繰り出した。
「げふっ!?」
「今はゆっくりとお休み。これに懲りたら子供達が楽しみにしてる花を取り上げるなんて野暮な真似をするんじゃないよ」
 
 そんな――最終ラインを護っている真人を除けば――女性達が戦う中、一人奮闘する男がいた。誰であろう、鈴木 周(すずき・しゅう)の事だ。
「おっと、その攻撃はやらせねぇぜ!」
 盗賊の攻撃を大剣で防ぎ、そのままカウンターで薙ぎ倒す。そんな事を幾度と無く繰り返していた。ただし、真人と違って最終ラインに立っている訳では無く、あちらこちらへと移動している。
 
 理由は単純。女の子に格好良い所を見せたいからだ。
 
「危ないっ! お嬢さん、君の事は俺が護るぜ!」
 周はとにかく『女の子への攻撃』を防ぐ事に全てを賭けていた。そうして自分が頼れる所を見せて惚れさせようという魂胆である。
「全く……君はいつも通りですね」
 この場で唯一庇って貰えていない真人が盗賊に雷を落としながら言う。対する周はこれが自分とばかりに自慢げな表情だ。
「花を取り返す手助けも出来て、女の子にもアピール出来て一石二鳥だろ? それに、女の子を護る男ってのは絵になるしな!」
「その意気込みは結構ですけどね、残念ながら余り効果は無さそうですよ?」
 そう言って自分のパートナーを含めた戦乙女達を指差す。彼女達の勢いは凄まじく、護ってやる必要などどこにも無い感じだ。実際の所、周が先ほどまで防いでいた攻撃も通していた所で全員軽くいなしていた事だろう。
 ちなみに、周のアピールは気付いてすらいない者が多数だった。特に突撃組は。
「いやー、そうなんだよなぁ。皆強ぇからびっくりだぜ。ま、強いお姉さんも好みだけどな!」
「そういう所もいつも通りですね……確か、花を取り返す理由も女の人にプレゼントしたいからでしたっけ?」
「おぅ! せっかくこの前の騒ぎで新しく知り合えた女の子がいたからな。花を用意したらその子にアタックするつもりだぜ」
「この前というと本の世界に巻き込まれた時ですか?」
「そそ、あの時にロングの髪が綺麗なおねーさんがいただろ? ようやく名前が花梨ちゃんって分かったんだよ」
「ロングの花梨さん……篁 花梨さんですか?」
「ありゃ、真人も知ってたのか。だったら真人に聞けば早かったぜ……まぁいいや、その花梨ちゃんと愛を育むつもりなのさ。年上のおねーさんも大好きだからな!」
 むしろ好みで無い女性がいるのか聞きたい所だが、口には出さないでおく。代わりに小さくため息をつくと、真人は改めて戦場を見据えた。
「まぁそういう事でしたら早めに片を付けてしまいましょうか。ここで時間を浪費しても良い事はありませんからね」
「だな。待ってろよ花梨ちゃん。俺が愛を込めた花を持って行くからな〜!」
 意気揚々と戦いに戻る周。そんな彼の背中を見て、真人はもう一度ため息をつくのだった。
 
 
「よしっ、これで……どうだぁっ!」
 正面から敵を引き付けている主力部隊。そちらでは緋桜 霞憐(ひざくら・かれん)が錘と呼ばれる先端に球状の打撃部が付いている光条兵器を振り回していた。攻撃対象と非攻撃対象を自在に設定出来る光条兵器である事を利用し、乱戦の中で敵だけを殴り飛ばしていく。
「霞憐ちゃんすごいの〜、悪い人がどーんなの〜」
「だから瑠璃、ちゃん付けで呼ぶなっていつも……」
「なんでなの? 霞憐ちゃんは霞憐ちゃんだよね〜?」
 近くの岩陰でロケットランチャーを構えながら応援している紫桜 瑠璃(しざくら・るり)が純真な表情で首を傾げる。霞憐は瑠璃がちゃん付けで呼んでくる度にそれを止めさせようと注意をしているのだが、この通り一向に直る気配は無かった。
「あぁもう……まぁいいや、とにかく今はここで頑張らないと。皆はやらせないぞ!」
 再び光条兵器を振るっていく。霞憐の後ろには瑠璃の他、アレクサンダー・ブレイロック(あれくさんだー・ぶれいろっく)メイ・アドネラ(めい・あどねら)もいる。三人を護るように戦っている中、アレクサンダーが別方向から近づく敵の存在を感知した。
「メ、メイちゃん。誰か来たよ」
「来たか……霞憐! こっちにも敵だ!」
「分かった!」
 三人が霞憐の方へと走り、霞憐もそちらへと急ぐ。そんな子供達を見下ろすように、岩の上に火天 アグニ(かてん・あぐに)が現れた。
「おっと、中々勘の良い奴がいるみたいだな。でも別に俺は何もする気は無いぜぇ?」
「嘘だ! 凄く胡散臭いぞ!」
「霞憐の言うとーりなの〜、うさんくさいの〜」
「おいおい、胡散臭いってよく言われるけどさ、ただのナイスガイよ? 俺ってば」
「うぅ……怖いよぉメイちゃん」
「泣くなって。ボク達であいつをやっつけるぞ」
「……あ〜らら、全然信用されないねぇ。ま、仕方ねぇか。そっちにとっちゃ、される事に変わりはねぇからな……紅蓮道!」
「…………」
 アグニの呼びかけに応えて那迦柱悪火 紅煉道(なかちゅうあっか・ぐれんどう)が隣に姿を現した。瞳を閉じた和装の少女は無言のまま子供達の方を向くと、その身から鋭い気配を漂わせる。
「メ、メイちゃん、皆、逃げようよ〜」
 アレクサンダーが涙目となってメイの袖を引っ張る。その二人に向けて紅蓮道が大剣を構え、大きく跳躍した。
 
 ――次の瞬間、一発の銃弾が空中の紅蓮道へと襲い掛かる。それを大剣で防いだ為にバランスを崩して着地すると、紅蓮道と子供達の間に一人の男が立ちはだかった。
「霜月!」
「大丈夫ですか、二人共……良く頑張りましたね」
 間に入った男、赤嶺 霜月(あかみね・そうげつ)は銃を納めるとアレクサンダーとメイの頭を優しく撫でた。実は彼はこっそり家を出て行く二人に気付いていて、念の為に離れてついて来ていたのだった。これまでは二人の父親として子供達の奮闘を見守っていたのだが、実際に危険が差し迫った時には手助けすると決めていて、それが今というタイミングであった。
「あ、あの……霜月、気付いてたの……?」
 自分達の思惑がバレた事を心配するアレクサンダー。それに対し、霜月は微笑も加える。
「大丈夫ですよ。クコはまだ気付いていません。勿論、花を渡すまでは自分も喋るつもりはありませんよ」
 最後にもう一度優しく撫で、紅蓮道の方へと振り返る。
(気を張っていたとはいえ、付け入る隙はあったはず。にも関わらずこちらを待ったという事は、相手の狙いは子供達という訳では無さそうですね)
(なるほど、この子らの親か。子を護ろうとする親の心……この者も主が求める『正義』の相手と言えるな)
 両者が対峙し、静かに武器を構える。片やただ戦う為に、片や大切な者を護る為に。二人の間に言葉は無く、剣が向き合ったというそれだけを会話代わりとして戦いを始めるのだった――