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脳内恋人バトルロワイヤル!

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脳内恋人バトルロワイヤル!

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ノウナイ恋人バトルロワイヤル、略してノウ恋。

 元々は、ネット上の匿名掲示板にアップロードされていた作者不明の携帯ゲーム機であったが、自分の作成した脳内恋人を使って相手と戦うという特異なゲームシステムと、
AR(拡張現実)技術を使った美麗なグラフィックが評判を呼び、瞬く間にシャンバラ内で大ブームとなっていた。
 ここ、蒼空学園でもノウ恋は当然のように人気なっており、ついにはゲーム研究会がシャンバラ中から参加者を募り、大会を開催することになった。しかも、これがただの大会ではない。
 ノウ恋では試合に勝利すると、非常に低い確率で特別な称号が得られることが知られている。
 それがどれくらい低い確率であるかというと、今までに出現した称号はたった一つ、「萌えマスター」だけである。
 そして、この「萌えマスター」という称号は一度でも試合に負けてしまうとロスト――対戦者に奪われてしまうのだ。
 いつしかノウ恋のプレイヤーの間では萌えマスターの称号を持つものこそノウ恋チャンピオンであるという認識が広まり、多くの人間が奪い合うようになっていった。
 そう、今回の大会で優勝した人間には、空位になっていた萌えマスターの称号が授与されるのだ。

ルーク・カーマイン(るーく・かーまいん)は、端的に言って迷っていた。
「あれ・・・・・・会場は蒼空学園の正門を出て、右に行けばすぐだって書いてあったのですが、ここはどこでしょう?!」
 カーマインの周囲には、見渡す限り鬱蒼とした森が広がっていた。太陽光は木たちによって阻まれ、辺りはとても薄暗く、彼の足元からはギザギザとした大きなシダ植物がにょきにょきと生え、今にもひょっこりと恐竜が出てきそうな雰囲気だ。
 こ、こええとカーマインは呟きながら、会場までの道のりを記した地図を見ていた。
「うーん、地図の通りならもうすぐ会場のはずなのですけどね。しまった、こんなことならソフィアを連れてくるべきでしたね・・・・・・」
 カーマインのパートナーであるソフィア・レビー(そふぃあ・れびー)には、ノウ恋に参加することを知らせていないため傍にいない。
 カーマインが立ち止まって念入りに地図を確かめていると、彼はわずかな違和感を覚えた。
「音がしている?」 
 注意深く耳をすませると、木々が擦れ合うようなガサガサという音が聞こえた。そして、その音はどんどんとこちらに近付いてくるのだ。
「な、何ですか?!」
 ゾワっという悪寒が走り、カーマインは反射的に近くにある大きな木の陰に身を隠した。
 そして、恐る恐る音がした方向へと視線を向ける。
 しかし、そこには植物以外何もいない。
「お、驚かさないでくださいよ・・・・・・」
 カーマインはほっと肩を撫で下ろし、再び地図に視線を戻そうとした。
「あ、地図が無い」
 さきほど慌てて隠れたせいで、彼は持っていた地図を近くに落としてしまったのだ。

「はは、いくら何でも俺も驚きすぎですね」
 カーマインはそう言って、軽い足取りで地図を取りに行った。
 そして、再び地図を見始めようとした時、木々の奥にいた何かと目が合った。
 顔面が白く塗りつぶされた猿――カーマインにはそう見えた。
 だが、それは二本足で立ち、ドス黒い鮮血が両眼から流れていた。
 そして、その目はしっかりとカーマインの姿を捉えていた。
「う、うわぁああああアアアアアアアアアアアア」
 一も二もなくカーマインは駆け出した。とにかく少しでもアイツから離れたい――彼の中の本能がそう叫んでいた。
 斜面を駆け下り、何度か石や木の根っこに足を取られそうになりながら、無我夢中で走り続けた。
「は、はあ・・・・・・」
 気付くとカーマインはすっかり森を抜けていた。
 目の前にあったのは大きなドーム状の白い建物。もしや、と思ってカーマインが周囲を見渡してみると「第一回ノウナイ恋人バトルロワイヤル!」の垂れ幕がドームの天井からかかっていた。
「た、助かった」 
 カーマインはその場にへたり込んだ。
 体からは熱い汗が噴出し、息も絶え絶えだ。
「もう今日は絶対に走りません・・・・・・」
 カーマインがそう呟くと、会場のスピーカーからアナウンスが聞こえてきた。
「開会式まであと五分です。トーナメントに参加する選手でまだエントリーが済んでいない方は、すみやかに受付で参加申請をしてください」
「嘘ですよね・・・・・・」
 この後、カーマインが再び全力疾走で受付に駆け込んだのは言うまでもない。

「ぜ、ぜは。なんとか間に合いました」
 カーマインが息を切らして観客席に入ると、会場の真ん中には一辺が10メートルはありそうな正方形の地面がぽっかりと出現し、その淵からすっぽりと地面を覆うように透明のフィールドが伸びて巨大なサイコロのように包んでいる。
 そして、正方形のちょうど真ん中が白線によって右コーナーと左コーナーに分けられていた。
 ノウ恋の大会用特設バトルフィールドだ。ノウ恋はプレイヤーの妄想=脳波を読み取って、通常は携帯ゲーム機のディスプレイに映し出すが、ここではフィールド内に複数設置されたホログラムからキャラクターが投射され、まさにその場に存在しているかのようなリアリティが味わえるという訳だ。
 大会に集まった観客たちも、そのグラフィックに関心しているようで、選手たちのノウナイ恋人が出現すると大きな歓声があがった。
 そして、今まさにちょうど一回戦の第一試合が始まるところであった。