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『嘘』を貫き通すRPG

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第十二章 ムームーレース

「ねえ、今日の成果はどうだった?」
 日が暮れ始めたムガンド草原で呪詛子は英彦に尋ねるが、彼は黙って首を振った。
「駄目です。仕掛けに引っかかっていたのは、ノロイノシシやパウパオガメなどどれもレースに使えないモンスターばかりでした」
「はああ……こっちも大体同じよ。こうなったら、どこかの商人からホース系のモンスターを買いましょうか」
 呪詛子の提案に英彦はウーンと考え込んでしまう。
「最終的にはそうなりますが、それだとレースに勝つのは難しくなりますね。ホース系モンスターを日頃から移動の手段としている人間には、歯が立たないでしょうから」
 呪詛子たちはため息をついて近くの宿へと帰り始めた。
 そんな二人の様子を遠くから眺めている人間がいた。

「……見つけたぞ、伊集院呪詛子。君をこのゲームから解放してあげよう」
 和泉猛(いずみ・たける)空の上から呪詛子を見つめて、ボソリと呟いた。
「だ、大丈夫なんですか? ファイナル・クエストの真実を教えたら呪詛子さんたちスタート地点に戻っちゃうんじゃ……」
 心配そうな表情でルネ・トワイライト(るね・とわいらいと)が、和泉の方を見る。
「まあ、失敗してもこのだんごをあげればきっと許してくれますよ」
 ベネトナーシュ・マイティバイン(べねとなーしゅ・まいてぃばいん)が呑気そうに、だんごをパクつく。
「あ! 食べちゃだめですって!」
 ルネがベネトーナシュに注意するが、彼女は一向に慌てる様子を見せない。
「別に、僕が一個くらい食べたってなくなりはしないさ。ほら、ルネも一つどうだい?」
「い、いりません!」
 ルネはぷんぷんと怒り始めたが、相変わらずベネトーナシュは気にする様子もなく、美味しそうにだんごを頬張った。
「……いくぞ」
 和泉が合図を送ると、彼らが乗っていたred}レッサーワイバーン/red}は地上の小さな点に向かって急降下していく。
とぼとぼと草原を歩いていた呪詛子も、どこからかゴゴゴ! という音を耳にして、立ち止まった。
 そして隣を歩いていた英彦と同じようなタイミングで空中に目を向ける。
「あれ何かしら?」
「うーん、鳥にしてはやや大きいような」
 最初はただぼんやりと眺めていた二人だったが、徐々に空中にいるモンスターの大きさとそのスピードが尋常ではないことに気付き始めた。
 そして、バフゥウウっと砂埃が巻き上がり、レッサーワイバーンが地上に降り立つ。
「……呪詛子さま!」
「あれさえ手に入ればムームーレースに勝てるわ!」
 二人は千載一遇のチャンスとばかりに喜んだ。そのせいか、レッサーワイバーンの背中から人間が降りてきたことにまだ気付いていないようだ。
「……伊集院呪詛子、君は実は真実に気付いている。クライシスによって発生したこのループ現象は、単なる不具合ではない。考えるのだ、魔王の正体を。君は一番最初にどこで魔王を見た?」
「…………」
 和泉は呪詛子に問いかける。が、彼女は今ワイバーンに夢中で彼の話をきちんと聞いていないようだった。
「ふぇ? ……魔王をどこで見たって、たしかアーバン砂漠だったと思うけど」
「そこではない。もっと前に君は魔王を知っているのだ」
「和泉さん、それ以上はあの人自身が気付かないと駄目ですよ」
 ベネトナーシュが二人の会話を遮る。そして、何やら自分たちだけで相談事を始めてしまった。
 その様子を見ていた呪詛子と英彦はお互いに目配せをする。
「みなさんごめんなさい!」
 そっと後ろに回った英彦は、申し訳なさそうにしながらブライトシャムシールの柄の部分を使って和泉たちを気絶させる。
 呪詛子の方はワイバーンの背中に飛び乗り、鞍に座って命令した。
「今日からあんたのご主人は呪詛子ちゃんなんだからね!」