空京大学へ

天御柱学院

校長室

蒼空学園へ

イコン最終改造計画

リアクション公開中!

イコン最終改造計画

リアクション


第5章 品評会――その2

「熱い魂が見たいとおっしゃいましたね!? ならば見せて差し上げましょう! これが世界最高の改造イコンですわ!! 皆さんもこれを見て驚きなさいませ!!」
 そう宣言して、改造した【センチネル】を持ってきたのは、この暑い時期に全身パワードスーツ姿でやってきたロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)である――いつかも書いたかもしれないが、彼女がパワードスーツを着るのは「乙女のたしなみ」なのだという……。
 さて彼女が持ち込んだセンチネルだが、品評会に出すということは当然何らかの魔改造が施されているということである。
 ロザリンドのセンチネルは、おおよそその外見からはセンチネルであると判断できない程度に改造されていた。
 なぜか、百合園女学院の校長、桜井 静香(さくらい・しずか)の姿を模していたのである!
「髪は鋼線を1本ずつ色を塗ったもの」
 静香の茶色の髪の毛を再現するために、ワイヤーロープ1本1本に色を塗ってある。かなりの念の入れようだ。
「ティアラも鋼板をくり抜いたりしての自作」
 普段から静香が頭に乗せているティアラが、センチネルの頭に乗っている。非常に細かい出来である。
「そして装甲板を折り曲げたりと苦心して作ったドレス!」
 静香が普段着も同然に纏っているドレスがセンチネルに着せられている。基本的に甲冑を纏った騎士という外見のセンチネルにこれを着せるという、その根性がものすごい。
「そう、まさに、こ・れ・ぞ・美!!」
 桜井静香の姿を再現させたディテール。これこそがロザリンド最大のアピールポイントだった。
「あ、それからきちんと武装もあります。背中の部分をご覧ください」
 ロザリンドの指示に従って、センチネルの背中部分を見てみると、そこにはどうやらイコン用のソードらしきものが2本、中央の部分で交差して取り付けられていた。
「ソードを2本、これを中央でちょっとくくってみればハサミのようになります」
 つまりこれで、他の連中のイコンの「大事な部分」をチョッキンと切り落とすことができるという。
「そう、これぞ……! これぞッ、静香様型イコン! その名もッ! 『宦官ダム』ッ!」
 この瞬間、ロザリンド、及び「宦官ダム」と命名されたセンチネルの背後で大爆発が起きた――ように見えた。
「まさに究・極!! これを至高のイコンといわずして、何がイコンでしょうか。そこらのただのイコンとは魂の籠り方が違うのですよッ! さあ、皆さんッ、これがまさにサロゲート・エイコーン。すなわち『代理の聖像』ですッ! 静香様イコール神! これは間違いないのですッ! 皆さんひれ伏すのですよッ!!」
 宦官ダムの肩のところに乗ったまま、ロザリンドはパワードスーツ姿で高笑いした。

 そんな彼女を待っていたのは、審査員と他2名、及びギャラリー全員による「絶句」だった。
 センチネルに女物の衣装を着せるというだけでも相当なインパクトがあるが、何よりもそのモデルとなったのが、彼女が愛する百合園女学院の校長であるのが強烈過ぎた。普段から小動物のように大人しく、自ら陣頭に立って戦う姿など想像すらできない、あの超気弱な男の娘――その姿をした、しかも「宦官ダム」という色んな意味で危険な名前をした鋼鉄のロボットが、巨大なハサミを構えて敵の大事な部分を切り落とす。その光景を想像してしまった全員は、沈黙をもってそれに応えるしかできなかった。
「確かに熱い……、いやむしろ、熱すぎる……ッ」
 タライの水に浸かりながら、ようやく和希が声を絞り出した。
「確かに熱いぜ……。あの熱さには、そんじょそこらのパラ実生でも勝てないかもしれないな……。だが……」
 いかんせん、モデルの人選が悪すぎる。和希はめまいを起こしそうになるのをこらえるのに苦労した。
「……ゴメン、さすがにアレは私も参考にしたくない……。アレはダメだよ……」
「ネタに走るのは別にいいんだが、アレが他のイコンと戦うとなると、それこそ校長本人に精神的ダメージが行くんじゃないか……?」
 静香の姿を模したもの、というのは他にも存在するが、それらは基本的にお祭り騒ぎで使うような、いわば「一過性の代物」であるのがほとんどである。だがイコンは一過性のものではなく、基本的には戦闘兵器である。気弱な校長が最前線でハサミを振り回すという光景を、モデルとなった本人が知ったら、さてどのようなリアクションが帰ってくることか……。
 彼女の人間性をフォローすると、ロザリンド・セリナは普段は非常に真面目で、基本的に温和、だが戦うべき時には前に出て戦うという、【白百合団】のテンプレートともいえるかもしれない女性である。本来ならば「おふざけ」などするとは思い難い人柄であるため、今回のようにハイテンションに暴走するというのは稀なことである――これはやはり愛する静香が絡んだ結果なのだろうか……。

 ついでに彼女が捜し求めるパワードスーツ仲間はこの場にはいなかった。