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盗まれた機晶爆弾

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盗まれた機晶爆弾

リアクション

   5

 佐野 和輝(さの・かずき)のパートナー、アニス・パラス(あにす・ぱらす)スノー・クライム(すのー・くらいむ)は、駅にいた。
「つまんなーい! どーして和輝じゃなくて、スノーと一緒なの!?」
「それは私だって一緒よ。私の役目は和輝を守ることだというのに……」
 そもそもはアニスがいけない、とスノーは思い出していた。
 先日の行軍で知り合ったラルク・クローディスが空京学生と知ったアニスが、「空京ってどんなとこ?」と訊いたのだ。一度来るといい、というラルクの社交辞令――本人は本気だったかもしれないが――を真面目に受け取り、手足をバタつかせながら「行く行く〜! 空京行く〜!」とそれは見事な駄々を捏ねたもので、後学のためにと見学にやってきた。
 ただし勉強嫌いのアニスは、講義開始五分後には熟睡し、已む無く全員で退室する羽目になった。
 そして今回の事件を知った。
 和輝は二手に別れることを提案し、自分はデパートへ、アニスとスノーを駅へ向かわせた。
 しかし、とにかく和輝にべったりのアニスは、傍に彼がいないことが納得できない。自分の代わりに連れて行ったパラミタセントバーナードにすら、ヤキモチを焼く始末だ。後であの犬を「お風呂へ入浴」の刑にしてやると息巻き、嫌がる様子を想像して悦に入っている。
 そしてスノーもまた、和輝の単独行動に納得がいかなかった。彼女の場合は、とにかく和輝が心配でならない。
 それに正直、自分たちだけで爆弾を見つけられるか、という問題がある。
 和輝と同じパラミタセントバーナードに、【適者生存】を使って、爆弾らしい臭いを嗅いだら確実に知らせるよう命じたが、それもどこまで信頼が置けるか。それは和輝も同様だ。もし近くで爆発したら……。
 スノーの心配は、いつまで経っても尽きないのだった。


 ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)の趣味の一つに、空京や海京での休日ドライブがある。彼女の愛車はM1――欧州の老舗大衆車メーカーが手掛けたクラシカルなスーパーカーである。何と言っても古い車種なので部品が手に入らず、修理が難しい。
 だからローザマリアは、壊さないよう、舗装のきちんとされたところで、しかもスピードは出さないようにしている。
 今日も今日とて、のんびり車を走らせるつもりだった。それが、空京大学へ行っているルカルカ・ルーから電話があり、「どうせ走り回っているなら」とテロリスト探しを頼まれた。
 そう言われたところで、一体どうやって探せというのか。一応、形は聞いた。どうやらアメリカのM26手榴弾(通称レモン)に酷似しているらしい。しかし機晶爆弾である。その威力がどれほどのものか、大きく見積もっても過ぎることはないだろう。
 ローザマリアは、いちいち車を停めてはマンホールの蓋を見ていった。おかげでほとんど進まない。これは人手がいるな、とライトグリーンのボンネットに腰掛けて水分補給をしていた彼女は、二人の男性に目を留めた。
 大学生のようだ。ノートパソコンを開き、何か見ながら話している。そこまでなら、どうということもない光景だった。
 だが次の瞬間、片方が右手をパッと広げた。
 それがローザマリアに爆発を連想させた。
 二人が歩き出したのを見て、ローザマリアは逡巡した。が、すぐに車を置いて、その後を追った。


 天城 一輝(あまぎ・いっき)と佐野 和輝は、開店と同時に駅ビルのデパートを見回っていた。服装はデパート御用達の電気会社のものだ。
 どこに何の爆弾があるかは分からないが、大勢の被害者を出すというなら、たとえば昼時の地下が怪しい。照明を取り替えるふりをして、あちこち見て回った。無論、トイレもだ。そこで問題が浮上した。
「女子トイレはどうします?」
 和輝の問いに、一輝は相手を指差した。
「俺ぇ!?」
「他にいない」
「自分でやればいいだろっ!」
「似合うと?」
 和輝は返事に詰まった。確かに一輝の精悍そうな顔では――しかし――。
「おまえは似合うと聞いた」
「誰から!?」
「俺は【博識】なんだ」
 一輝は大真面目に答えた。
 確かに和輝は女装が似合う。似合いすぎて困るほどだ。だが、だが――。
「――分かった」
 アニスやスノーと別行動を取ったことを深く後悔する和輝であった。


 同じ頃、一輝のパートナー、コレット・パームラズ(これっと・ぱーむらず)は、デパートのすぐ外の屋外カフェテリアで臨時のアルバイトをしていた。少しでも中に人を入れないよう、何かあれば避難できるようにとの判断である。ここも既に点検済みだ。
 彼女の【至れり尽くせり】は客に喜ばれ、店長から本格的に就職しないか、と誘われた。それは丁重にお断りした。
「おい、ウェイトレスちゃん」
 そんな呼び方は初めてだったが、コレットは素直にその客の元へ駆け寄った。嫌な客だ。さっきから、あれこれ注文しては、熱いだのぬるいだの味が薄いだの濃いだの文句をつけてきて、他のウェイトレスから敬遠されている。
 しかしコレットは、笑みを絶やさず接客した。
「ご注文を承ります」
「あんたの不幸」
「は?」
「冗談だよ。会計頼む」
「はい、レジへどうぞ」
 どうやら帰ってくれるらしい。コレットはホッとした。
 その客――ゲドー・ジャドウは言った。
「あんた幸せそうだね?」
「は?」
「何でも」
 ゲドーはデパートへと入っていった。止めるわけにもいかず――というより、どうせならこの男が爆発に巻き込まれればいいのにと思いかけ、コレットはかぶりを振った。
 ――駄目駄目、そんなこと考えちゃ!
 ゲドーはちらりと振り返った。
 あのウェイトレス、ちやほやされやがって気に食わねえ。――だが、それも長いことねえか。
 ゲドーの視線の更に先では、着ぐるみが風船を配っていた。子供たちは喜んで受け取っていく。
 その着ぐるみは、ゲドーのパートナー、ローゼ・シアメール(ろーぜ・しあめーる)であった。