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乙女の聖域 ―ラナロック・サンクチュアリ―

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乙女の聖域 ―ラナロック・サンクチュアリ―

リアクション

     ◆

 時間はそこから僅かばかり遡り、雅羅達が部屋に戻る前になる。
通りすがりの空大生と名乗る青年からウォウル宅の場所を聞き、やってきた美羽、ベアトリーチェ、衿栖、レキ、カムイはマンションの前で雅羅達の姿を見かける事となる。
「ねぇ、あれって」
「雅羅さん……ですね」
 大きなプレゼントを担いでいる二人、美羽とベアトリーチェが呟く。
「本当ですね。どこに行くのかしら」
「もしかしてウォウルさんの部屋じゃない? あたしたちと一緒でラナロックさんのパーティやるのかも」
「それなら彼等が手にする飲み物の量も頷けますよね」
 二人の言葉を聞いた衿栖、レキ、カムイがその様子を見ながら声を放つ。雅羅の後に続く面々が持っているビニール袋と、そしてその中に詰め込まれたたくさんの飲み物が気になったのだろう。
「それは好都合だよね! やっぱ誕生日のお祝いなら人数多い方がいいと思うしさ」
「ですよね、私のプレゼント……ちょっと小さかったかな…」
 自分の手にする箱に目をやり、思わず苦笑を浮かべる衿栖に、一同が再びその箱へと目をやった。
「結局、それ何が入ってるの?」
 レキが尋ねる。
「内緒ですよ。まだ内緒。お楽しみ、って事にしておいてください」
「なんだろう……さっきからちょっとあったのは、なんだかおいしそうな匂いがするかなって感じなんだけど」
 美羽は首を傾げながらにそんな事を呟く。
「さぁ、なんでしょうね。でも、雅羅さん達がウォウルさんのお部屋の方に行ったなら、私たちもさっそくお邪魔しちゃいましょうよ」
「さんせー! 暑いしね、このまま外って言うのもさ」
「たくさん集まっていたら良いですね」
 心なしカムイの顔が綻んでいる。
五人は互いに互いの顔を見合わせると、笑顔で頷いてウォウルの部屋の前へと向かった。
数回ノックをして、美羽がドアのぶに手を掛ける。
「おっ邪魔っしまーす!」
 元気よく扉を開くと、しかしそこでは深刻そうな顔をしている面々の姿しかない。とても彼女たちが考えている様な、楽しいパーティとは思えない光景。故に美羽はしばし固まる。
「あれ? 美羽さん、どうしたんです?」
「後が閊えてるから早く入ってくれるとありがたいんだけど……ん?」
 ベアトリーチェ、レキが美羽の行動を不思議に思い、彼女の横から顔を覗かせ部屋の中を見た。やはり、神妙な面持ちの面々の姿。予期せぬ訪問者に、かろうじて彼女たちの方へ顔を向けているが、それも明るい、と言う類のそれではない。
「もしかして……お邪魔、でした?」
 ちゃっかり覗き込んでいたカムイが思わず尋ねる。
「あら、いらっしゃい」
 何とも元気がなさそうな声で、五人に声を掛けるラナロック。
「あ、ど……どうも」
 恐る恐る部屋に入る五人。美羽たちはその荷物の所為で部屋に入るのに手間取ったのは、この際置いておくとして――。
事態が掴めず彼女たちがたじろぎながら部屋に入る。
「皆さん、どうしたんですか? そんな神妙な面持ちで」
 未だ、美羽と二人がかりでプレゼントを担いだまま、座るに座れないベアトリーチェが一同に向かい、不思議そうに声を掛けた。
「それがな――」
 冷房が効いているであろう部屋。しかしその人数の所為で一行に涼しくならない部屋の中、数名が若干疲れ始めているのを見た静麻が今やってきた五人に説明を始めた。
「え、ウォウルさん……誘拐されちゃったの?」
「……変わった方、ですね」
 レキとカムイが驚きながら、しかしすぐさまラナロックの方を向いた。
「まぁ、まだ……先輩の身に危険があった訳じゃないと思うから、そんなに落ち込まないでよ、先輩」
「そうですよ。何とか見つかりますって」
「……ありがとう」
 心ここに非ず、などと言う言葉がぴったりな様子で返事を返すラナロックを、二人は心配そうに見つめている。
「それで、何か犯人に関する情報とかは集まったのかな?」
 一同に美羽が尋ねると、カイが口を開いた。
「そこの蛙のお嬢ちゃん……林田のコタローちゃんって子が今、情報を集めてくれてるみたいだぜ」
「けいじびゃん、かいれ、よびかけてうろ! ちょっろまっれ、くらしゃい」
「頑張ってね! コタローちゃん!」
「あい! こた、がんばう、ろ!」
 渚のエールに対し、コタローは何とも力強く拳を固め、気合いを入れて再び掲示板に書き込みをする為にキーボードを叩き始めた。
「コタロー、あんたが気合い入れても何だか力強く見えないなぁ……しっかし」
「いいじゃない、可愛いしねぇ」
「わたくしも応援致しますわ」
 樹の苦笑に対し、託とアデリーヌがコタローの両側を固め、笑顔でコタローを見やっている。
「では、情報が入り次第捜査を開始、と言う事になりますね」
 ベアトリーチェが少し考えながら呟くが、しかし途端、ヴァル、孝高、勇刃とアキュートが立ち上がった。何やら異変を感じたらしい。
「駄目なのよ……それじゃあ全然、駄目なのよぉぉぉっ!」
 今まで落ち着いていたラナロックが、再び立ち上がり大声を上げる。思わず言葉を失う一同と、慌ててラナロックを抑え込む四人。
「落ち着けよ、ねーちゃん」
「そうだぞ。此処で暴れても何の意味もない!」
「全くだ。しかも此処にはあんたの為に協力してくれるって人、たくさんいるんだぜ!」
「いい加減落ち着けよ……ってか止めるこっちの身にもなってくれ、チクショー……」
 アキュート、ヴァル、勇刃、孝高とでラナロックをなだめ、動きを止めた為に何とか彼女は暴れずに済んでいる。
「せ、先輩!?」
「………ラナロックさん、怖っ!」
 思わず彼女の近くに座っていたリオン、北都が驚いて彼女から少し距離を開けた。
「そうだ――」と、声が聞こえたのは、北都が思わず本音を呟いた時である。
「あの――ラナロックさん、今日お誕生日でしたよね」
「………………」
 衿栖の一言に対し、ラナロックをはじめとするその場全員がきょとんとした顔で彼女を見る。
「私、今日ケーキ焼いてきたんです。良かったら皆さんで食べませんか? ちょっと……人数の割に小さいかもしれませんけど」
 香ばしい香りが部屋に漂い、思わず全員が彼女の手にする箱へと目をやった。
「美味しそうな匂い、やっぱりケーキだったんだ!」
 美羽が目をキラキラさせながら箱を見る。
「だったら、私たちも……ちょっとタイミング間違えちゃってるかもしれませんが、ラナロックさん、お誕生日、おめでとうございます」
 ベアトリーチェに手を引かれ、美羽も「そうだね」と、担いでいた箱を自分たちの前に持ってくる。
「随分と……でかいな」
「ですねぇ」
 静麻は、自分の身長程あるプレゼントを見て呟く。隣にいた柚もそれにならって箱を見上げながらに言った。
「じゃあ、僕たちのプレゼントも渡しましょうか。レキ、あれを」
「ああ、うん。ラナロックさん、これ」
 カムイがレキを促し、レキは取り押さえられているラナロックに近付いて小さな箱を手渡した。
「これを――私に?」
「そうだよ。気に入って貰えるかは、まぁわからないんだけどさ」
 苦笑を浮かべるレキから箱を受け取ったラナロック。当然それを受け取らせる為に四人は彼女を取り押さえるのをやめている。
「開けても――良いかしら?」
 いつもの笑顔に戻ったラナロックが、レキとカムイに向かって尋ねる。
「どうぞ」
「えっへへ、なんか、恥ずかしいけどね」
 ゆっくりとした手つきで彼女が箱の包装を綺麗にはがし、箱を開ける。すると中には、淡い蒼色に可愛らしい金魚の絵があしらわれた涼しげな音色を響かせる風鈴が――。
「あら……可愛らしい」
「暑いとさ、余計に苛々するじゃない。だから“涼しくなる物を”ってね」
 思った以上の反応を見せるラナロックを前に、レキは若干照れながらそう言った。